志熊との一件があってから、俺は自分の貞操を守るのに日々必死だった。少し油断すれば食われそうになる。
 周りからは、瀬田の記事と志熊の発言が原因で、俺と志熊は付き合っていると思われているし、志熊と付き合っている男というのは、近寄りたくないらしい。
 それはわかる。俺だって俺じゃなければ近寄りたくない。関わり合いたくない。皆の気持ちもすごくわかる。
 だけど、別に付き合っていない、と説明しても信じて貰えないのはなんなんだ。俺が弁明しようとすれば、横から志熊が付き合ってるよ、と横やりを入れてくるし、負けじと言葉を続けようとしたところで、クラスメイトは話を聞かずに逃げていく。
 志熊が俺にべたべたとくっついてきても、体を触られて助けを求めても、誰もがそれを当たり前のように受け入れ、遠目に見て逃げていく。まるで全員、志熊に関わることを拒否するみたいに。
 拒否する気持ちはわかるけど、ちょっと冷たくないか? 助けてっていう言葉、なんで誰も聞いてくんないの?
 今の所、俺の言葉通り助けてくれるのは甲斐しか居ない。
 けれど、甲斐も星は五つしかないので、星絶対主義のこの学校において志熊の発言には逆らえないから、注意はしてくれるけれど、それで志熊が止まることもない。
 だから、なるべく二人きりにならないようにと心がけてはいるけれど……。


「し…………、しんどい……っ!」

 俺は、唯一安全地帯である自室の中で、自分のベッドを叩いた。
 瀬田が、そんな俺を見て、カメラを弄りながらケラケラと笑っている。何笑ってんだよ、笑い事じゃねえんだよ、お前のせいで死活問題なんだ、こっちにとっては!
 
 先日、半ば脅迫のような掛け合いの末に、キスはオッケーという約束をしてしまった。
 いや、させられてしまった。そのせいで、少し油断すればキスされる。例えそれが他の奴らに目撃されたとしても志熊は気にしない。
 でも俺は気にする。ていうか、気にしない志熊がどうかしている。学校側も少しは注意しろ。あの破天荒な行動は星を取る理由としては十分だろと思うのに、志熊の星は減らないままだ。
 そもそもどうして、あの悪魔にキスされなきゃいけないんだ? 俺のファーストキスを返してくれよ!
 拒否ろうとすればじゃあ、代わりにセックスする? とかいう絶望の選択肢を突きつけてくるし。しねえよ。なんなんだよその絶望の二択は! ストレスでちょっと痩せた。
 日に日にクラスメイトとの距離も離れていく。物理的にも心理的にも……。

「はぁ〜〜〜〜……っ」

 深い息を吐いて項垂れる。
 どうしてこうなった? 俺はただ、普通に友達を作って、一般的な高校生活を送りたかっただけだ。小学校や中学校の時とは違う、普通の、一般的な友達が欲しかっただけなのに、今のこの環境は、普通からはかなり逸脱している。
 このままじゃ犯されるのも時間の問題なのでは、と項垂れていると、瀬田が俺の近くで、カメラを弄りながら言った。

「せっかくだから、一度試してみたらいいんじゃない?」
「お前……他人事だと思って……!」

 レンズを取り付けて細々とした設定をしながら告げられた内容に絶句する。したくないから悩んでいるのに、試してみたらとは何事だよ。本末転倒って言葉知ってるか?
 けれど瀬田は大したでもなさそうな口ぶりで、カメラにレンズを取り付けて、ファインダーを俺へとあわせた。

「だって、したことないんでしょ? やってみたら案外ハマるかもよ」
「は……?」

 カシャ、と音がして、シャッターが切られた。俺の間抜け面が、瀬田のカメラの中に保存される。
 しかし、俺は一瞬で青ざめて首を横に振った。

「ふ、ふざけんな! 無理に決まってるだろ!」
「えー? そう? やったことないのに無理とかわかんなくない? やったらいけるかもしれないじゃないか」
「無理だからやりたくないの!」
「失敗を恐れちゃ成長しないよデルタくん」

 楽観的というか、奇想天外というか、瀬田の考えはいまいち読めない。所詮人ごとだとでも思っているのかも知れない。それなら、と俺は言葉を切り返す。

「失敗するってわかりきってることに、誰が挑戦するか! ……ってか、お前は出来んのかよ! ひ、人に言うくらいならお前がやれば?」
「オレ? 志熊くん相手なら、いいネタになりそうだから、一度くらいならありかもしれないけど、オレ志熊くんに嫌われてんだよね」
「マ、マジ……?」
「うん。近寄んなキモ眼鏡って言われる。ひどいよねぇ?」
「いやそっちじゃなくて、志熊とできんの? ほんとに? 悪魔だぞ?」
あっはっは! 嫌そうな顔!」
「そりゃそうだろお……」

 志熊も大分頭がおかしい奴だけど、瀬田も相当イカレてると思う。丸い眼鏡の奥で、糸目を下げて笑う瀬田を見ながら、俺はため息を吐いた。だって、あの志熊だぞ? 
 志熊のこの学園内での評価は、真っ二つに分かれている。一つは、近づきたくない、関わり合いになりたくない、できる限り触れないように、という俺と同じ感性の人種。
 もう一つは、すごい、天才、素晴らしい! という信奉者。常人から逸脱していることを好意的に解釈している人種。けれど、そいつらが志熊に近づくと言うこともなく、結果的に、志熊は大抵一人で過ごしている。
 七つ星持ちの志熊は、大抵の自由を保証されているし、一人部屋で、志熊にとって過ごしやすい学校ではあるのかもしれない。俺という玩具も手に入ったし…………。

「はぁ〜〜〜……」

 そこまで考えて、俺は布団に突っ伏した。
 だめだだめだ、また思考がネガティブなあの頃に戻っている。変わるって決めたのに。
 俺はもう志熊の玩具でもなければ、恋人でもない。恋人なんて、勝手に志熊が決めて言いふらしているだけだ。
 俺たちは赤の他人で、出来ればもう二度と、話したくないし関わり合いになりたくもない。のに、気がつけば志熊の事を考えている。これじゃ、あいつの思うつぼだ。
 誰かに相談しようにも、皆俺を避けるし、唯一話してくれる瀬田はコレ。甲斐は部活も他の事も色々忙しそうだし……。あ、やば、なんか悲しくなってきた。
 俺って全然友達いないんだな。高校こそは出来ると思ったのにな……。

「おーい、デルタくーん」
「…………っ……」
「え、泣いてんの?」
「泣いてない……」
「あっはっは! ウソウソ泣いてるよぉ! え〜〜、大丈夫? オレが相談に乗ろうか? 話して話して! なんでもオレに話してよぉ〜!」
「お前には二度と相談しない……」

 キラキラしたいい笑顔で嬉しそうにしている瀬田から顔を背けた。
 別に、泣いてなんてない。
 ただちょっと、今後の高校生活のことを考えて、死にたくなっただけだ。
 ず、と鼻を鳴らして瀬田を睨む。
 こいつと同室になって一緒に過ごすようになってからわかったけど、瀬田は、基本的に人の気持ちを考えない。察することができないのか、わかっていてもあえて無視しているのかわからないが、結果は同じだ。
 相手がどう思おうが、自分の気持ち最優先。俺が泣こうが悲しもうが、自分の記事のネタになればそれでいい、そういう男だ。
 相部屋になった同室者が次々に出て行くという話も頷ける。こいつと一緒に住んでいたら、プライバシーもなければ、あることないこと記事にされるんだから、そりゃストレスも溜まるよな。

「いやいや、オレも、ちょっとは悪かったと思ってるからさあ」
「お前の言うこと全体的に嘘くさいんだよ」
「え〜〜、そう? オレ、自分の性格は素直だと思うんだけど」
「破天荒の間違いだろ」
「まあまあオレ達友達じゃん?」
「友達は普通友達を売らないんだよ……」
「いやいや、それは違うって、人間なんだから売る時もあるよ」
「否定しろ」

 とはいえ、瀬田がいなければ、志熊に目をつけられた現状じゃ、この学校で喋ってくれる奴なんていなかった歩く公害スピーカーなんて呼ばれているけど、志熊もまた、公害と同じくらいの害悪だ。同室の奴にまで無視され続けるのはキツすぎるし、そういう面に限れば、少し救われている所もある。
 原因の一端を担ってるのは確実に瀬田なんだけど。
 俺がむくれていると、瀬田が提案する。

「じゃあさあ、逆にデルタくんが手玉に取ればいいんじゃない?」
「は?」

 持っていたカメラを自分の机の上に置いて、俺のベッドに腰掛けてきた。二人分の重みで、ベッドが少し軋む。一般生徒の部屋は、星持ちの部屋のベッドに比べて安っぽい。志熊の部屋のベッドは、ふわふわだった。
 星持ちが憎い。

「……手玉に取るってなに」
「ほら、よく言うだろ、恋愛なんて惚れた方が負けって。志熊くんはデルタくんが好きなんだから、それを逆手に取って、君が主導権を握ればいいじゃん」
「はぁ…………?」

 志熊が俺を好き?
 いや、確かに好きだとは言われた。
 可愛いねとか、大好きとか、普通に考えれば恋愛ごとが絡むような言葉を、面と向かって吐かれ続けてはいる。けど、それが俺の中で恋愛という単語に結びつかない。
 だって、恋愛ってもっと甘酸っぱいようなものだと思いたい。俺の中で、恋愛といえば、初めて付き合うならもっと控えめに始めたいというか、出来れば女子がいいというか、そもそもあの志熊が絡むと、恋愛という字面よりは、捕食という字面の方が似合うと思ってしまうのだ。
 好き、と言ったその口で肉を食い千切られそうな、そんな忌避感が本能となって体を駆け巡る。
 志熊を前にするといつも俺は、蛇を前にした蛙のように動けなくなる。果たしてコレが恋愛と言えるか?
 どっちかっていうといじめだろ。

「あっはっは、理解できないって顔してる〜」
「そりゃ、そうだろ……」

 そもそも俺は、男のことを好きじゃない。そういう対象として見てもいない。女の子と付き合ったこともないけど、初めて付き合うなら女子が良かった。ここは男子校だから、そもそも彼女は望めないと思っていたけど、だからといって男でいい、とは普通ならないだろ。
 じとりと瀬田を睨めつけると、瀬田はいつもの笑顔を俺に向けてくる。
「志熊くうん、酷いことしないでぇって甘えてすり寄ってみたらいいんじゃない? 案外言うこと聞いてくれるかもよ」
「ない……」

 あの志熊だぞ。俺が泣こうが喚こうが自分の我を押し通す。そういう男だ、あいつは。

「それに、甘えるとかどうやって……」
「あ。じゃあさ、練習してみる? オレと」
「練習?」
「そうそう、志熊くんをたらし込む練習」
「たっ……」
「だって、このままじゃ嫌なんでしょ?」
「〜〜そりゃ、そうだけど……」

 こうなった原因は瀬田にもある。
 だからこそ、お前のことは地獄の底まで道連れにしてやるからな、と宣言して瀬田もそれに同意したからにはとことん付き合ってもらう気持ちでいた。
 とはいえ、瀬田は基本的に教室に居ないし、話すのなんて、この部屋に帰ってきた時くらいだ。
 そうなると泥船と一緒に沈むのは俺だけだし、瀬田と志熊は基本的に話さない。休み時間に追いかけ回されるのも、昼の時間に個室に連れ込まれるのも、放課後捕まりそうになるのも俺だけだ。
 今のところは逃げきれてはいるものの、捕まるのだって時間の問題……いや、もしかしたら志熊は捕まえられるけど逃げまどう俺を見て楽しんでいるのかもしれない。蜘蛛の巣に自分で蟻を突き落としておいて、蜘蛛に食べられるその寸前に蟻を助け出すことを楽しむような奴だ。ただ単純に俺が怯えるのを見るのが好きなのかもしれない。
 死ぬほど悪趣味だけど、志熊がそれに飽きたとき対処法は用意しておきたいところだ。
 瀬田の言葉を鵜呑みにする訳じゃないけど、カードは多い方が良い。
 志熊が俺の事を本当に好きだというのなら、俺の言うことを聞いてくれる可能性だって、ゼロじゃないのかもしれない。

「……たらし込むって、どうやって」
「おっ、興味出てきた? いいねいいね、成功したら教えてよ」
「お前には言わない」
「ええ? なんで? ってか、たらし込むのなんて、普通に男心擽れば良いじゃない。デルタくんは好きな可愛い子になんて言われたら嬉しい? どうされたら嬉しい? ちょっとやってみなよ」
「は? お前相手に」
「だってここにはオレしかいないじゃん。志熊くん相手にぶっつけ本番する?」
「………………」

 失敗したら地獄を見るやつだろ、それ。
 たらし込むって、言い方もちょっとどうかと思う。俺はただもうちょっと、いや、大分、志熊が俺の話を聞いてくれて、理解して、変なことしてこないでくれればもうそれでいいんだ。
 けど、志熊は俺の話なんて聞いちゃいないし、俺の体は自分のものと、言わんばかりに好き勝手に触ってくる。あいつのパーソナルスペースどうなってんだ。
 このまま好きにされるくらいなら、瀬田の案に乗るのもありな気すらしてくる。というか、やれることはなんでもしてやる、という気持ち。

「わかった」
「お、じゃあオレを口説いてみてよ」
「…………え……」
「ほら、早く」

 口説く。俺が瀬田を?
 俺、女子と手を握ったこともないのに!?
 硬直する俺を見て、瀬田が続ける。

「デルタくんが、彼女にされたら嬉しいな〜ってことをしてみなよ。妄想彼女でいいからさ」
「…………妄想って」
「デルタくん、好きなタイプは?」
「え? そりゃ、まあ……大人しくて、優しくて、色白で、彼女にするならちょっとぽちゃっとしてる子の方がいいかな、俺の話をちゃんと聞いてくれて、控えめな子が」
「志熊くんと真逆だね」
「当たり前だろ!」

 俺の根幹が、本能が、あいつを否定してんだよ!
 ぞわ、と全身総毛立つと、じゃあその子にされたら嬉しいことやってみなよ、と続けて言われた。
 俺は瀬田の言うとおり、少し想像力を働かせてみる。
 俺の彼女(仮)は控えめな性格でおっとりしていて、巨乳で、間違っても志熊みたいに暴走したりしない。俺の隣に座ってにこにこしながら話を聞いてくれる。休日は一緒に映画を見に行ったり、実はホラーが好きという以外な趣味があるのもギャップってやつ。でも、共通の話題ってなんだろ、俺最近の趣味筋トレくらいしかないんだけど、あ……、美味しいものの話とかならしたいな。彼女(仮)も美味しいものには目がなくて、映画を見たあとは二人で美味しい店を梯子したり……。
 ってか、女子とほとんど会話すらしたことないのに、この妄想空しくないか? 実際にそんな可愛い子が俺の彼女なら、ちょっと距離詰めて座られるだけで大分ドキドキするな。
 そう思って、俺は瀬田との距離をちょっと詰めて座ってみた。ちら、と瀬田を見ると、何故か瀬田は冷めた表情だった。

「………………で?」
「え? や、だって女子にこんな近くに座られたらちょっとドキってしねえ?」
「デルタくん童貞でしょ」
「…………」
「いや、オレとしては距離詰めて座ったな、っていう感想しかないんだけど、もっとこうさー、色仕掛けとかしないの? 手を握ってきたり、キスしてきたり、服脱いで抱いて! とか」
「お前は俺をなんだと思ってんの……? ってか、するわけないだろそんなの!」

 第一、そんなこと練習だってされたら瀬田も嫌だろし、志熊にだってしたくない。もし言葉通り抱かれたらどうすんだよ。
 けれど、瀬田は落胆したように肩を落とした。

「な〜〜〜んだ、つまんない」
「つっ……!?」
「あ、ウソウソ。面白みがないなって」
「嘘じゃねえじゃん! 言い方変えただけじゃん!」

 人が真剣に悩んでいるのに、面白がりやがって。
 もういい、やっぱりこいつに相談したのが間違いだった。いやいっそのこと、俺は瀬田のことを恋愛的な意味で好きなんだって、志熊に言ってやろうかな。
 志熊が俺のことを好きだと言うなら、瀬田も巻き込めるし。志熊が瀬田と争っている間に俺は逃げればいいわけだし、うん。なんかもうそれがいい気がしてきた。
 最早どうやって瀬田を引きずり下ろすかに考える方向を変更していると、瀬田はすでに飽きてきたのか、カメラの方へ手を伸ばし始めていた。その光景に苛立ちが募る。
 お前が発端でお前の提案に乗ってやってんのにすぐ飽きてんじゃねえよ。むっとしながら瀬田の肩を掴んだ。

「? 何……わっ」

 俺は力任せに、瀬田の体を押し倒す。
 考えたんだけど、控えめな女子に押し倒されるのとか、結構よくない? というのはこじつけで、いつも飄々としているこいつを一泡吹かせてやりたいという気持ちがあった。だって俺、いつも瀬田に振り回されている気がする。
 瀬田はある意味感情がないんじゃないかってくらい、考えが読めないし、志熊とは違う意味で怖いやつだけど、人間なんだから、少しくらいは動揺するだろ。
 瀬田より俺の方が鍛えているので、案外あっさり瀬田の体を押し倒せた。仰向けにベッドの上に転がる瀬田の上に、四つん這いで見下ろすと、瀬田が少しだけ目を見開く。

「瀬田、好きだよ、愛してる」

 にこ、と笑って伝えた。
 笑える。こんなのギャグだろ。
 実際、好きな女子にされたらちょっと興奮するかもしれないけど、俺は女子じゃないし、可愛くもないし、多分瀬田より強い。
 瀬田はひょろいから、体を鍛えている俺の方が負けないだろう。
 俺に押し倒された状態で、瀬田は一度だけ瞬きすると、あっけに取られていた口元に笑みを取り戻した。

「おい、なんか言え……」

 また、いつものようにあの馬鹿みたいな明るい声で笑っていいねえこれ! ネタにしよう! とでも言うのかと思ったら、瀬田が仰向けになっていたその身を少し起こして俺に近づいた。

「え」

 ちゅ、と音がして、一瞬唇が触れる。
 ほんの一瞬だ。触れた瞬間、俺は立ち上がり、盛大に二段ベッドの上の段に頭をぶつけたから。

「い゛……っ!」
「あ、ごめんごめん、つい」
「つい、って……っ!」

 突然何すんの、とか。
 ついですることじゃないだろ、とか、言いたいことは色々あるんだけど、それよりもぶつけた後頭部が痛すぎた。布団の上でもんどりを打っていると、瀬田がケラケラ笑いながら背中を叩いてきた。

「あらま、デルタくん、大丈夫?」
「大丈夫じゃねっ……っい〜〜〜〜……」
「アイスノンでも持ってこようか」
「いいっ! てかお前、なに、なんでキス……っ」

 後頭部を押さえた状態で瀬田を見上げると、瀬田はきょとんとした表情で首を傾げた。

「え? でもデルタくん、別に志熊くんとキスしてるんでしょ? 初めてでもないなら別によくない?」
「いいわけないだろ! なんでいいんだよ!」
「減るものじゃないし」
「そういう問題じゃ……、ってかなに、お前はあの、あれなの、志熊と同類? 男が好きなの……?」

 青ざめながら問いかける。
 ふざけんなよ。ホモなんて志熊一人でも厄介なのに同室までそうならどうなるんだよ。いや、この学校には多いんだっけ? それもどうかしてると思うけど。と思ったら瀬田は首を横に振った。

「いやいやいや、オレは博愛主義者だから! 人類皆大好きだよ!」
「そういう話はしてない!」
「そっちが聞いてきたくせに。でもまあ、あれだね。オレってほら、こういう性格だからさ、今まで嫌いとか、死ねとか、失せろとか、二度と話しかけるなとか、一生その面見せんなこのクソ野郎とか言われることは結構あるんだけど」
「自覚はあるのか……」

 そもそも、そこまで言われてんのに直そうとしないパパラッチ行動と人の気持ちを慮らない発言が問題なんじゃないのか?
 志熊とは別の我が道を行くタイプの男は、楽しそうに笑みを浮かべた。

「でも、好きって言われることって中々ないからさあ、――なんか興奮しちゃった。いやぁ、志熊くんの気持ちちょっとわかったよ、あ、これ次の新聞のネタにするね!」
「死んでくれ!」
「あっはっはっは! ちなみにそれ、今までで一番言われた言葉!」
「人の気持ちを考えろ!」
「あっはっはっは〜〜!」



- 252 -
PREV | BACK | NEXT

×
「#甘々」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -