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「瀬田ぁ!」
「ただいまー、あれ、デルタくんどうしたのそんな怖い顔して」

 放課後、俺はなんとか志熊の目をかいくぐり、部屋に戻って瀬田を待った。瀬田は、少しはしおらしい様子を見せるかと思いきや、あっけらかんとした雰囲気で部屋に入ってくる。
 俺は、ポケットにしまってあった朝の新聞記事をテーブルの上に叩きつけた。いたたまれなかったので、掲示板に貼ってあった奴は全て剥がして回収したのだ。

「お前、なんだよこの記事は!」
「ああそれね! 今日は売れ行き好調だよ〜! ありがとね!」
「お前人の心がないの!?」

 何笑ってんだよ! 昨日の力になるからね、とか言ってたのはなんだったんだ!
 ……いや、力になれるかもとは言ってたけど、力になるとは言ってなかったか? それにしたって、この仕打ちはあんまりだ。
 俺が睨みつけると、瀬田はきょとんとした顔で首を傾げた。

「なんかダメだった?」
「逆にどこがいいと思った」
「ええ〜、オレとしては、志熊くんとデルタくん、双方の意見を取り入れて記事を書いたつもりだったんだけどなあ」
「どこが!? あの記事で俺の意見どっかにあったか!?」
「流れ的には同じでしょ」
「おなっ…………じなところもあったけどぉ……!」

 確かに、幼馴染みで、転校を機に離れたとか、志熊が俺をいじめていたとか、ほんとのところも合ったけど、流れが全て違うだろ!

「お、俺の両親そもそも失踪してないし……!」
「まあ、そこはご愛敬だよね。言っただろ? ここは娯楽のない男子校。みーんな飢えてるんですよ、娯楽という名の、ゴシップに! オレはそんな干からびた砂漠のような環境にオアシスを作りたいと思ってるんだ……!」

 キラキラと輝きを放ちながら言ってるけど、書いてることは最低だった。

「人の話をねつ造して作ろうとすんな」
「多少話を盛るのは誰でもやるでしょ?」
「あれは盛るって言わない、ねつ造って言うんだよ! そもそも、人の話をネタにすんな!」
「今度から気をつけるよ。ところで今日は志熊くんとなんかあった? 二人で特別学食に行ったっぽいけど、色々聞かせて欲しいな〜」

 楽しそうに言う瀬田は、何も懲りてないのだと思い知らされた。懲りてないっていうか、そもそも悪いとすら思っていない。悪びれない様子に、肩を落とす。

「お前にはもう二度と何も喋らない……」
「え〜? ルームメイトのよしみでさあ〜、友達だろ?」
「うるさいうるさいうるさい! もう絶交だ!」
「あっはっはっはっは! 嫌われちゃったー!」

 何一つ堪えていない顔で、瀬田はケラケラと笑う。
 俺の周りって、なんでこういうやべえ奴ばっかりなの? どういう感情で笑ってんだよ。
 涙目で拳を握ると、何故か瀬田が宥めるように背中を叩いた。

「まあまあ、元気出して。いずれいい事もあるよ」
「なんでお前が慰めるんだよ、お前が原因だからな!?」
「いや、オレは原因の一端を担っただけで原因ではないよね。責任転嫁はよしてくれよ」
「おまえ、お前っ……!」
「あはははは! 苦しい苦しい! あ! でもこれも記事に出来るかも!?」

 思わず襟元を締め上げると、あっけらかんとした様子で瀬田は笑う。……なんなのこいつ。なんかもう悲しくなってきた。どっと力が抜けて締め上げる手を緩めると、軽く咳払いしながら瀬田が言う。

「けほっ……、でもほんとにさ、久しぶりにルームメイトが出来たし、仲良くしたいと思ってるんだよ? だから、オレに協力出来ることがあったらなんでも言ってよ!」
「お前のその、人畜無害そうな顔しておいて、速攻裏切るところ、人としてどうかと思う……」
「ええ〜? オレ裏切ったりしないよ! 記事を書くだけ。このリビドーだけは止められないからね!」
「もういい……」

 何を話してものれんに腕押し。全く意味が無い。
 肩を落として、ベッドに潜り込むと、瀬田が丸眼鏡を押し上げてベッドを覗き込んでくる。

「おーいデルタくん、怒ってるの?」
「怒ってない。お前、何言っても意味ないし」
「うんうん! デルタくんいいね! オレそういう奴好きだよ!」
「ただし」
「ん?」
「お前も道連れにする」
「道連れ?」

 俺の言葉を復唱して、瀬田が首を傾げる。
 そうだよ、俺だけこんな理不尽な目に遭うなんて、どう考えても許せない。俺はただ普通に、平穏な高校生活を送りたいだけなのに。普通に友達作って、勉強したり部活したりして、バイトはここじゃ無理かもだけど、楽しい青春を送りたいだけなのに!
 転校初日から悪魔に目をつけられてお先真っ暗なんてあんまりだ。だから巻き込んでやる。
 親しい人間を巻き込むのには抵抗があるけど、幸い瀬田は俺が思っていたよりクズだったので、特に抵抗がない。むしろ、多少痛い目に遭った方がいいとすら思う。
 布団から顔を出し、恨みがましい目で瀬田を睨んだ。

「今度はお前の秘密も全部暴いて、地獄に引きずりこんでやるからな……! それが嫌なら、今後はマジで俺に協力しろ……!」

 志熊の弱みを握るなり、星を奪うなり、どんな方法でもいい。俺は、もうあの頃の俺に戻るなんてまっぴらごめんだ。
 だから、利用できるものはなんでも利用してやる。申し訳ないとか思ってる場合じゃない。俺にとっては死活問題だ。星が少ない今の俺じゃ、志熊から星を剥ぎ取って引きずり下ろすくらいしか方法がない。
 俺が低い声で唸ると、瀬田は一拍おいたあと盛大に噴き出した。

「あっはっはっはっは! めちゃくちゃ怒ってる! いーよいーよ! 協力するよぉ! 面白そうだし、退屈は人を殺すからね。退屈なくらいなら死んだ方がいい! あ〜〜〜いい記事が書けそう!」

 若干サイコパスなルームメイトに、完全にぶっ飛んでる元幼馴染み。
前途は多難だが、やれるとこまでやってやる。



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