攻略対象



 オタクなら誰もが夢見ることがある。

 それは、この薄くも破れない画面の壁を突き抜けて、早く俺の嫁が画面から出てこないかなー、ということ。あるいは、その画面を突き抜けて、俺自身が二次元に行きたい。かわいいあの子とキャッキャウフフしたい。まぁ、それは実際に妄想するから楽しいのであって、そんなことは本当にできるわけがないし、わかっているからこそ「俺の嫁は今日も画面から出てこない」と冗談混じりに嘆く事ができるんだけど。
 そして今日も、画面の向こうの彼女たちに思いを馳せながらしこしこと自慰にふけるのだ。
 だけど、もし仮に、本当に画面の中から二次元のキャラクターが出てきたとして、そのキャラが俺に話しかけてきたとしよう。
 でも、それが自分の敬愛するキャラクターじゃなければ、単に鬱陶しいだけだと思うんだ。


「淘汰、お茶」
「…………ちょっと待てよ」
「何モタモタしてんだよ、さっさとお茶持ってきてよね。喉乾いたんだよ、こっちはさ」
「こっちだって喉カラカラだよ! 敢えて言おう、どうしてこうなった!? と!」

 目の前の、前髪で目が隠れがちな少年に向かって、俺は叫んだ。

「可哀想なキモオタに夢を持たせてやろうとしただけだよ」

 楽しげに笑うその少年に、俺は歯を噛みしめた。
 その日、俺はいつも通り学校が終わってから、マッハでバイトから帰ってきた。同じバイト仲間に、カラオケに行こうと誘われたが断った。
 カラオケに現を抜かしている暇はない。俺にはやらなければいけないことがある。それは、今ハマッっている恋愛シミュレーションゲーム、『言の葉が散る季節』をプレイすることだ。通称ことちる。

「夢を持たせるならお前が来ちゃ駄目だろ! 俺の夢はむしろ砕け散ってるよ! せめてお前が女なら……俺は……!」
「俺は来たい時に来るんだ」

 このゲームは主人公である少年が、攻略対象である女の子達を落としていくほかに、鈍器で他のライバルを殴り殺したり、世界征服を目論む悪の組織を壊滅させたり、突然原始時代にタイムスリップしたりする不思議なゲームだ。ちなみに世界観は現代である。だけどこのゲームには萌えがり、浪漫があり、なにより夢があった。

 俺はこのゲームに出てくる攻略対象の女の子の一人、春日春(かすが はる)にゃんに夢中だった。春にゃんのキャラクターは、一言で言うならばデレデレ。そして妹属性だ。主人公である"俺”に一目惚れし、事あるごとに目の前に現れ、応援しながら付きまとう、ネット界隈ではストーカーキャラ春にゃんとか呼ばれている。

 しかし春にゃんには悲しい過去があった。春にゃんには昔大好きなお兄ちゃんがいて、何処へ行くにも一緒にいた。けれどある日、買い物に行く時、お人形遊びに夢中で、ついていくのを忘れてしまったのだ。

 そして、不幸にもお兄ちゃんは買い物の帰り道事故にあって死んでしまった。春にゃんは深く悲しみ、これからはお兄ちゃんから絶対に離れないようにする、守ってみせると誓ったのだ。ちなみに、作中で「お兄ちゃん」と呼ばれるのが主人公こと俺だ。ピンク髪ツインテールな春にゃんはいつも俺に「お兄ちゃん!」と笑いかけてくる。ああ萌え。本当萌え。信じられない。こんな可愛い子が現実にいないことも信じられない。
 俺は常々この可愛い女の子が、画面から出てこないかなと願っていた。そして今日、ついに画面から飛び出したのだ!
 …………主人公(男)が…………。

「なんで……、なんでお前が出てくるんだよ!? そこは違うだろ!? 春にゃんが出てくるところだろ!?」
「とりあえず、俺が画面から出てきたってところには驚かないのな」
「なめんな、俺は春にゃんがいつ画面から出てきてもいいように、常にシミュレートしてんだよ。具体的に言うなら一日三回は妄想してんだよ」
「へえ、痛いし気持ち悪いな」
「うるっせえ! バカ!」

 気分的には血の涙を流したいくらいだ。
 家に帰ってきて、画面をつけたら、中から少年が出てきた。パソコンが突然光ったかと思えば、画面から手が伸びてきて、そして貞子みたいにずるっと現れたのだ。俺はキター! と叫びそうになったものの、その現れたキャラクターを見て、著しくテンションを下げた。露骨に下げた。
 そこは! 女の子が! 出てくる所だろ! と。
 何出てきてんだよ、空気読めよ。春にゃんとまではいかないまでも、他の女の子ならまだよかったのに……どうして出てくるのが主人公なんだよ……! 画面から二次元の男の子が! とか女プレイヤーかホモ以外は喜べないだろ。

『やぁ、草薙淘汰くん』

 第一声で俺の名前を呼ばれたことにはかなり驚いた。
 画面から現れたのは、顔を前髪で隠した、よくある無個性的なビジュアルの主人公だった。ちなみに公式で設定されているデフォルト名は津奈木 七色(つなぎ ななしき)だ。変な名前と思うかもしれないが、これには訳がある。
 ことちるに出てくるキャラクターは、皆どこか色を連想させるキャラクターなのだ。たとえば春にゃんは桜色のピンク。
 他にも学校の先生である赤色の北条茜先生や、青色の幼なじみ葵 美亜、白色の先輩の雪原みことなど、様々だ。だけど、今そのこと自体はどうでもいい。問題は、どうしてこいつがこの場所いいるかってことだ!

「とりあえずチェンジ!」
「そんなデリヘルじゃないんだから」
「デリヘルとか言うな! ことちるのキャラはそういう汚れた世界知らないの! 春にゃんは天使なの!」
「バカじゃねーの。知ってるよそんくらい。どれだけ俺らがお前らの世界見てると思ってるんだ。つーか皆あれ割と演技はいってるから」
「やめろー! 俺の夢を壊すのはやめろー! っていうか春にゃんを下敷きにすんな!」

 ハン、と鼻で笑うように七色は俺のベッドに腰掛けた。ちなみに俺の布団は春にゃんの抱き枕とシーツの痛布団使用。誰かに見られたら確実にダメージを被るいわゆる痛部屋だけど、誰も招待しないから別に平気。親にはいつも悲しそうな目で見られるけど。

「春にゃんって……春日? 春日は結構あれだぜ? 俺が風呂入ってると盗撮してくるガチストーカーだぞ」
「それでもいいんだよ! 俺は春にゃんの全てを愛してる!」
「選択肢間違えると鈍器で殴りかかってくるキャラだぞ」
「それでもいいっ、むしろヤンデレ萌え! 春にゃんに殴り殺されるなら本望!」
「なるほど、わかった。やっぱりお前は結構重傷な類の奴だ」

 何故かため息をつくと、七色は着ていた学ランを脱いだ。そして、おもむろに俺の腕を引っ張ると、そのままベッドに押しつけてきた。顔を布団に押しつけられたかと思うと、そのまま七色が背中にのってくる。俺は七色の下でじたばたともがいた。

「な、何、何!?」
「なぁ淘汰、俺がなんの為にここに来たと思う……?」
「えっ、春にゃんもやがては画面から出てくるっていう希望を俺に持たせるためじゃ……」
「んなわけねーだろ。つーか春日キモオタ嫌いだから」
「うぐっ!」
「お前がハァハァしながら画面みてくるのが生理的に無理とか言ってた」
「嘘だ! 春にゃんはそんなこと言わない!」
「グッズ集めてるキモオタうぜーって笑ってたわそういえば」
「もうやめて! 俺のライフはとっくにゼロ!」

 七色の言葉はまるで億千の針のように俺の胸へ突き刺さった。こいつは俺の心を折に来たのか? 春にゃんが望むならなんにでもなろうと思っていた俺だけど、春にゃんを愛する以上、オタクはやめられない。だって春にゃん、君が住む世界は次元が違うから…。三次元な俺が近づくにはオタクになるしか術がないもの……。しくしくと布団を涙で濡らしていると、後ろから笑い声が聞こえてきた。
 七色はどうやらこの状況を楽しんでいるらしい。最低だ。しかし、言の葉を操れるのだから、仕方ないのか。

 ことちる……、言の葉の散る季節とは、舞台は現代だが、内容は極めてファンタジー色の強いものだった。
 主人公、七色が通う学園には、校庭の隅に言の木という大きな記念樹がある。
 授業が終わってから、校内をうろついていた七色は、ある日その言の木から、妙な妖精が飛び出してくるのを見つけた。慌てて外に飛び出し、木に近づいてみると、なんとそこには一人の女の子が横たわっており、その子は言の木の精霊なのだという。精霊を助け起こすと、七色は精霊に見初められ、どうか助けてほしいと頼まれるのだ。

 頼まれた内容はこうだ、言の木は、昔はよく告白される場所として使われていたらしい。人々の恋や愛を見守り、そのころは言の木も幸せだった。しかし時代が進むにつれ、言の木は段々使われなくなっていった。そりゃあ、校庭の隅にいたりしたら目立つからな。
 言の木はまた昔のように人の愛を欲しがっているらしい。そして、七色はまたここで、言の木の下で愛の告白が見たいと頼まれたのだ。もちろん断ろうとする七色だったが、もうすぐ自分は散ってしまうといわれ、同情心もあり、仕方なくOKするのだった。
 そして言の木は七色に一つの力を授けてくれた。それは、言葉を操ることができる言の葉だ。自らの枝にくっついていたそれを七色に渡して、言の木は言うのだった。

『それは言の葉……それがあれば、君の"言葉"は人々を癒し、また傷つけることも出きる。くれぐれも使い方を間違えないで。そしてお願い、私を助けて……言の葉が散る季節まで……』

 そして始まるオープニング!
 一体七色は誰に告白されるのか! 言の葉をどう使うのか! もちろんストーリーはこれだけには止まらない。無駄に名前が色分けされているのにも意味はあるのだけど、今はいいだろう。
 公式での七色の性格は、本来面倒くさがり屋で、少し無気力な感じの少年だけど、プレイヤー次第でいろいろな性格に変わる。これもまた選択肢次第ということだ。

「なにぼんやりしてんだよ」
「いっ……痛いいたったったた!」

 俺が脳内で親切にことちるの大まかなストーリーを説明していると、無視されていることが気に障ったのか腕をひねりあげられた。人生の中で腕を捻りあげられたことなんて今までなかった俺はその場で呻く。ものっすごい痛い。力加減というものを知らないんじゃないだろうか。
 プレイヤーによって性格が変わると言っても、今の七色は割と俺様系なキャラになっている気がする。首を捻って、恐る恐る七色を見た。……すごく楽しそうに笑っていた。なにこいつ、怖い。

「あの……」
「なに?」
「どうして此処に来られたのでしょうか……」
「いきなり敬語になったな。怖くなった?」
「すみません、春にゃんとか言ってすみません。これからは妄想は一日一回に減らすので許してください……」
「やだ」
「いだーっ……!」

 再び腕をねじられ、反射的に悲鳴が漏れた。やばい、こいつ主人公の癖に好感度が下がるようなことばっかりしやがる! まぁ元々ギャルゲの主人公なんて男からは好感度下がる一方だけどってそんなこと考えてる場合じゃない!

「なぁ、淘汰……」
「は、はい?」

 すぐ近くに笑顔の七色の顔があった。前髪が揺れて、隠れていた目が見える。こうやって見ると結構な美形だ。主人公は普通感情移入をしやすくするために、無個性な外見にするみたいだけど、考えてみたら不細工を自分の分身として操りたくないもんな。それに、ギャルゲの主人公って何故か大抵美形かショタ顔だし。なんてことを考えているうちに、どんどん顔が近づいてきた。
あれ? ちょっと、待って、なんでこんなに近――――

「ん、んん!? ん〜〜〜!」

 むにゅりと柔らかいものが唇に触れた。その唇は暖かく、相手が二次元の存在だとわかっていても、今は三次元にいるのだと実感させられた。腕を動かそうにも未だ拘束されたままで、思うように動かせない。それをいいことに、七色はどんどん深く口付けてくる。

「ふぅ、ぐっ、……ちょ、やだって……! マジっ……」

 地味に抵抗のできない俺に対し、七色は何度もキスをする。つけては離して、離してはつけて。しかも舌とか入れ……いやあああああ! マジで! マジでやめてほしい! 勘弁してください! 最後にかぷ、と小さく唇を噛まれ、俺は涙を堪えた。

「はぁっ…………はぁっ…………」

 ようやく離されたかと思ったら、呼吸も乱れ、もうすっかり息も絶え絶えに、布団の上に倒れこむ。元々倒れてたけど。今はもう七色も俺の上から退いており、隣で楽しそうにニヤニヤと笑っていた。今の状況がわからないし、キスされた意味もわからない。ていうかこいつが一番わからない。なにがしたいんだよ一体……。横目で七色を見ると、目が合ってしまったので慌てて逸らした。

「なぁ淘汰、お前俺がどうしてここにきたと思う?」
「………………」

 今ではもう、春にゃんと俺を会わせる為とか、言えなかった。とりあえずやばい奴だってのはわかっていたからだ。

「わかんないです……」
「それはねー、暇つぶしだよ。ひーまーつーぶーしっ。ほら、俺モテるでしょ? 主人公だし、もう全員攻略しつくしちゃったから、今度は俺を操ってる奴でも攻略してやろうかと思って!」
「…………!」

 その言葉に俺は即座に起きあがり、毛布をバリアーのように持って部屋の隅へと逃げ出した。

「お、おお、俺の嫁は春にゃんだけだ! 野郎はお断りします!」
「……なぁ淘汰、お前もゲームやってるならわかると思うけど……」
「…………?」

 怯える俺に対して、七色はどんどん俺に近づいてくる。その顔は相変わらず笑顔だが、非常に怖かった。見えないオーラのようなものを感じる。

「自分に靡かないキャラクターを落として、自分しか見ないようにさせるのって、超楽しいよな?」
「…………っ!!」

 全身が総毛立って、弾かれたように逃げ出そうとしたところを、再び捕まった。持っていた毛布の上に組み敷かれ、両手首を捕まれる。足をばたつかせたが、無駄だった。華奢な外見に似合わず、結構な怪力の持ち主だ。こんな設定、原作にはなかったぞ!

「はいだめー、遅い遅い」
「や、あの、俺、男には興味ないんで……離してー! 春にゃーん! 犯されるー!」
「まぁそういわないで、気持ちよくしてあげるよ……」

 耳元で囁かれ、体がぞくぞくとした。いつからBLゲームの主人公になったんだこいつは! しかしどうしてだろう。なんだか熱い。なんだ? と思って見てみると、七色の懐からは言の葉が覗いていた。言の木が主人公に授ける言の葉、その効力は、どうやら現実世界でも有効らしい。主人公が言の葉を操れば、どんな言葉も力を持つ。七色は言葉を操りつつ、俺の首筋をべろりと舐めた。

「ひぅっ……や」
「淘汰」

 体中が熱い。どくんどくんと心臓が波打ち、体そのものが熱を持っているみたいだった。なんだこれ。こんなのってない。体中の力が抜けていく。ひどい、俺ゲームの中でこんなチートキャラ使ってたのか。これで落ちない女とかいないだろ。無条件に降伏してしまう、こんなのって、ずるい。
 名前を呼ばれて、ぞくぞくと体が震える。

「可愛い。もっとないてみて」
「いや、だ……」

 全身から力が抜け、その場にくたっとしていると、七色の手が俺のシャツの中に延びてきた。細く白い指が乳首に指が触れる。

「ひっ!」
「大丈夫、怖がらないで」
「あ、あ……」

 七色の声はどこまでも甘い。言葉は俺を丸め込み、抵抗する気をなくさせる。だけど、頭の中で誰かが叫んだ。
 「お兄ちゃん、負けないで」と……。

「ほら、足開いて……」
「っ…………だ―――!」
「!?」
「おお、お、お、俺は春にゃんが好きです! 春にゃんこそ俺の嫁! お前は呼んでない!」

 体に力を入れ、蹴りを繰り出した。その蹴りは当たらずとも、七色を驚かせるには充分だったみたいだ。拘束が解けたので、腕の中から抜け出した。

「…………ふぅん」
「お前なんかに、お前なんかに春にゃんをやるもんか! あと俺もやらん!」

 こんな主人公を使っていた自分が馬鹿みたいだ。だけどこいつを使わなくちゃ春にゃんに会えない。究極の二者択一だ。 対する七色は、どこか冷めた表情で俺を見ていた。正直その冷淡な表情がめちゃめちゃ怖いが、今ここで退くわけにはいかない。しばらく動かずその場に立っていると、突然扉がノックされた。

「淘汰! あんたさっきから何騒いでるの!」
「お、お母さん……!」

 扉が開かれ、外から母親が顔を出した。エプロン姿の母親は、菜箸を片手にご立腹だ。俺は七色を現実世界の警察に突き出してやろうと、指差した。

「やべーよお母さん! 俺こいつにやられる所だった! 早く警察に!」
「……あんた何言ってるの?」
「え?」
「こいつってその人形?」

 母さんが示した先にあったのは、春にゃんのフィギュアだった。制服姿の春にゃんが、旗を持って主人公のあとをつけている可愛らしいシーンの……ってあれ?あいつどこ行ったんだ!?七色の姿は、綺麗サッパリいなくなっていたのだ。俺は慌てて首を振る。

「違うって! 今画面から男が出てきて俺を攻略するとか言い出したの! 主人公だったけどすげーイメージ違ったんだよ! あとこれぬいぐるみじゃなくてフィギュアだから!」

 そういうと、母親は可哀想なものを見る目で俺を見た。

「あんた……、ゲームのやりすぎで頭おかしくなったんじゃないの? お母さん、やめろとは言わないけど、少しは控えた方がいいと思うわ。本音はやめてほしいけど」
「本音漏らすなよ! いや、やめないけど!」
「じゃあ、続けてもいいけど勉強しなさい。ゲームばっかりやって成績落とさないようにしなさいよ! この間のテスト、やばかったんでしょ!」
「うっ……」
「もうすぐご飯だから、馬鹿なこと言ってないで早く降りてきなさい」

 バタン! と勢いよく扉を閉められ、俺はその場に膝をついた。一体どういうことなんだ。さっきまで確かに七色はここにいたのに。それとも俺の妄想だったんだろうか? 毎日妄想しすぎて、ついに白昼夢まで見るレベルに達してしまったのか? ていうかこの間のテストのこと、黙ってたのになんでバレてんだよ……。
 思い悩んでいると、後ろでクスクスと笑い声が聞こえてきた。

「…………っ!」
『残念でした』

 振り返ると、画面の中で七色が笑っている。ゲーム画面みたいに、下にはウィンドウが現れていた。どうやらゲームの中に戻ったらしい。

「お前ぇええ! ちくしょー! テメーなんざ捨ててやる!」
『おっと俺にそんなこと言っていいのかな?』
「はぁ?」

 ひょいっと、隣に映る影。それは……

『やだよぉ、淘汰お兄ちゃん、春のこと捨てないで?』
「はははははは、春にゃぁあん!? やだな、捨てるわけないじゃーん!」

 なんと、画面の中では、七色の横で春にゃんが潤んだ瞳で俺を見ていたのだ。夢にまで見た春にゃんとの会話!俺はすっかり舞い上がり、だらしない顔で画面にほお擦りした。それを見ていた七色がどん引きしながら言う。

『きもっ』
「うるせーよ!」

 くそ、こいつだけなら間違いなくゲーム捨てるのに、春にゃんがいるなら俺は捨てられない。しかしこいつがまた画面から出てきたら、俺は犯されるんじゃないのか? 今度こそ。正直言葉の能力はやばいからな。でもこいつが出てこれたっていうことは、春にゃんが出てくる可能性も捨てきれないわけで……。うんうん悩んでいると、再び背後から声をかけられた。

『お兄ちゃん』
「なっ、何? 春にゃん!」
『これからもよろしくね!』
「…………はーい!」

 決めた。捨てない。絶対捨てない。七色がなんだよ。こんな奴出てきたら口ふさいじゃえばいーじゃん。ていうか出てきたらこいつだけ捨てればいーじゃん。春にゃんの神的な可愛さには全然敵わない。もうね、俺春にゃんと会話できたって事実だけで死ねる。本当可愛い。マジ天使。ほんわかした顔で画面を見つめていると、その横で七色が笑った。

『俺もよろしくねお兄ちゃん。攻略するまで頑張るから』
「うるせえ! 誰がお兄ちゃんだ!」

 攻略対象が俺だなんて、認めない。ギャルゲオタ舐めんな、逆にこっちがお前攻略してやるわ! 等と息巻きながらも、俺は春にゃんの可愛さに酔いしれるのだった。



終わり

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