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 翌日。瀬田は用事があるからと早めに部屋を出て行った。昨日、飯を食べて部屋を片付けて、俺が日課の筋トレをしている時も、必死に部屋でパソコンに打ち込みの作業していた。
 何をしているのかと問いかければ、部活の一環だとか。
 真剣に書いていたし、夜も遅かったので、その時は何部かまで聞けなかったけど、あんなにパソコンに向かい合ってるって事は、文化系の部活なのかな。この学校、結構部活動多いからな。文章書いてるっぽかったし、文芸部とか?
 あとで聞いてみるかな。
 なんて、暢気な事を考えながら、教室へ向かった。
 すると、教室の前にある掲示板に、生徒が群がっているのが見えた。何を見てるんだろう。
 そう思ったけれど、俺にはそれよりも大事なことがある。
 遠目からガン見してみたが、生徒の群れの中に、志熊の姿はない。志熊は星7つ持ちで、出席さえすれば、遅れて出ても遅刻にはならない特典があるらしいので、いつも来るのが遅いと瀬田に聞いた。しばらくは来ないだろう。
 よし。行くなら今だな!

「お、おはよー! 何見てるんだ?」

 俺は、一番近くに居たクラスメイトの肩を叩いて、明るい笑みを見せた。
 この現状で大事なのは、やっぱり味方を多く作ることだと思う。
 それと、普通に俺が欲しいから、友達を沢山作ろうと思ったんだ。昨日瀬田と話していて、ひしひしと感じた。
 人間、ずっと孤独だと腐ってしまうから、友達は居た方がいいなって。そう思って、なるたけ不快感を持たせないように、練習した笑顔で声をかけたつもり、だったんだけど……。

「あ…………!」

 何故か、俺を見た生徒は青ざめた顔で硬直した。
 えっ、何。俺キモかった?
 転入生で、星1の分際で朝っぱらから話しかけてくんなよとか思われてる?

「お、おはよ……それじゃ……」

 浮かべた笑顔を凍らせると、そいつは、そそくさと逃げるように教室へ入っていった。
 そいつだけじゃない。俺の声が聞こえると、掲示板に群がっていた奴らもこぞって俺を見て、ざわめき、ひそひそと何かを話ながら、蜘蛛の子を散らすようにばらけて逃げていった。
 ………………何で? 転入生に対する当たり強くね?
 昨日は、皆割といい感じに話しかけてくれたのに……、と半ばしょんぼりしながら、目線を上げると、とんでもないものが目に飛び込んできた。

「………………は……?」

 さっきまで皆が群がっていた掲示板。
 そこには、一枚の新聞記事が貼ってあった。校内新聞っていうんだろうか。校内速報Zの文字に、大きな写真に、でかでかとした見出し。
『転入生との熱愛発覚!志熊の恋!幼馴染みの初恋実る』
 という見出し文と共に、俺と志熊が手を繋いでる写真が貼ってあった。

「……はあぁあぁああぁあぁああああああああああ!?」

 思わず掲示板からその新聞を破り、記事を見つめた。よく見たら、この記事他のクラスの掲示板にも貼ってあるじゃん! 
 いや、そもそもコレ何!? ってかこの写真いつ、誰が撮ったんだよ!? 昨日、志熊に学園内を案内して貰ってる時の写真だよな……!? 恐る恐る新聞の記事に目を通すと、昨日俺が瀬田に喋ったことを500倍くらい脚色して書いてあった。
 子供の頃、俺の事をいじめていた志熊は、いつしかそれが歪んだ恋心ということに気がついてしまった。いつか大人になったら結婚しようねと約束し、俺もそれに頷いた。そうして、二人は禁断の恋をした。けれど、志熊の転勤と俺の転校により、二人の仲は引き裂かれた。必ず迎えに来るから!
 いつか俺と会う日を心の支えにして、志熊は生きてきた。大きくなったら俺を迎えに行くのだと。けれど、ある日俺の両親が失踪。そうして、行くあてのなくなった俺はこの学校へ身を寄せることとなった。そこで出会ったのは、かつて愛を誓い合った志熊。どうしてお前がここに?
 運命だよ……。けれど、身分違いの恋に悩む俺は志熊の手を取れず……って。

「死ねええええええええ!!!」

 それ以上読むのがきつくてビリビリに破いた。なんだこのクソ記事!? 本当のこと全然書いてねえし! 俺の両親失踪してねえよ! 志熊が子供の頃俺にしたのは陰湿ないじめだよ! 結婚の約束もしてない! 恋なんてもっての外だよ殺すぞ! 瀬田ぁあああああ! っていうかこれ書いたの瀬田だな!? 瀬田だろ! ゴミみたいな創作のなかにちらほら本当のことも紛れてるんだよ!
 破いてくしゃくしゃに丸めていると、耳元で声が響いた。

「瀬田は新聞部の歩く公害スピーカーって呼ばれる奴だよ〜、喋ったらあることないこと学校中に広まるに決まってるじゃあん」
「ぎゃああああああああっ!」

 ねっとりとした声が響いて、耳がべろりとなめられた。全身に怖気が走り、背中を仰け反らせると、背後から伸びてきた手が俺の体を抱きしめた。

「おはよー、デルタぁ、今日もかわいーね。俺、デルタに会いたくて久しぶりに時間通りに教室来ちゃったっ」
「ひっ、ひぃいっ」
「あ〜〜〜、あったかぁい」

 べたあ〜っと擬音でも出そうな程に、俺の背後からべったりと俺にくっつくと、志熊は俺のブレザーの中に手を突っ込み、腹当たりを撫でてきた。ふぅ、と生暖かい吐息が耳を掠める。手のひらが俺の腹筋を撫で、もう片方の手が乳首を引っ掻いた。
 鳥肌が立ち、涙目で横を振り返る。こんなことするの、誰かなんて見なくてもわかるけど……!

「し、志熊……っ」
「十四時間ぶりだねデルタ、会いたかったよぉ」

 不気味な笑みを見せる志熊に、離れようとしたけれど、磁石みたいに張りついて剥がれない。吐きそう。もうしんどい、もう帰りたい。やっぱり地獄じゃん!
 登校してきた他の生徒が、遠巻きに俺たちのことを見ている。興味深そうに、というか、娯楽に飢えた奴らが楽しむように、野次馬が集まってきた。やめろ! 離れろ!
 けれど、そんなもの微塵も気にせず、俺を抱きしめたまま、志熊は続ける。

「瀬田はそうやって、なんでもかんでも記事にするから、相部屋の奴ってプライバシー皆無なんだよね〜、それで何人も相部屋解消されてんの。だから昨日言ったじゃん? どんまいって」
「そん、そんな……」

 だって、昨日親身に話を聞いてくれただろ。ちょっとわくわくしてないかこいつ? って思ったこともあったけど、良い奴だって思ったのに。友達だって思ったのに。こんな仕打ちあるかよ……! せめて真実を書けよ! 巫山戯た記事書きやがって!
 俺が怒りに震えているのとは裏腹に、志熊はご機嫌だった。

「でも瀬田が書くのって、いつも脚色三文ゴシップ記事ばっかだけど、今回は珍しくまともなこと書いてるねえ」
「どこが!?」
「ほら、ここ」

 来る途中、掲示板から剥がしてきたのか、俺が丸めて捨てたのとは別に志熊が真新しい新聞を取り出した。
 そこには、現在二人は恋人同士として歩み始めたという一文がある。勝手なことを書くな。歩んでない。今後も歩む気はない。ふざけんなよ瀬田! あいつ絶対許さないからな!
 昨日瀬田のことを良い奴だなんて思った自分を殴ってやりたいと思った。

「はい、ちゅーーーーもーーーーく」

 その時、突然、志熊が声を張り上げる。
 同時に、ようやく俺から離れて隣に並ぶと、響くように手を一度だけ打ち鳴らした。
 野次馬で集まっていた生徒達は勿論、別のクラスの奴らまで、なんだなんだと顔を出し始めた。…………なんか、めちゃくちゃ嫌な予感がする……。けど、ここでの行動は慎重にしないと、下手したらさらに暗黒時代が始まる。
 青くなりながら、どうするべきか迷っていると、志熊響き渡るような声で言った。

「えーー、この記事の通り、ここに居る山本デルタは、俺の恋人でぇーーす! かわいーかわいー俺のハニーだからぁ、絶対手出ししないでねー!」
「………………っ、な、なに、言っ……」

 愕然とする俺の肩を抱き、志熊が俺を自分側へと引き寄せる。違う、と否定しようとしたが、その前にスマホで、昨日の写真をちらつかせてきた。そこには、局部が見えてる射精したばかりの俺が映っていた。

「…………――っ!」

 ざわめく人の波が大きくなっていく。マジかよ、とか、騒ぎ立てるような声が、どよめきに混じって耳に届く。
 マジかよ、はこっちの台詞だよ。何で? なんでこんなことになってんの? 神様、俺、何か悪いことした?
 掴まれた肩に力を込められ、俺の体はさらに志熊の方へと引き寄せられた。

「だから、もし万が一、デルタに手を出す奴がいたりなんかしたらーーーーーーあ、そいつは勿論!」

 志熊が、その端正な顔立ちに陰惨な笑みを浮かべた。

「コ」

 視線を動かし、全員を舐めるような目で見つめ、

「ロ」

 口元を歪めれば、口の中から赤い舌が覗く。

「ス」

 うっとりとした、恍惚とも呼べる表情で、頬を赤らめ。

「ぞ

 そうして最後に、小首を傾げた。
 ぞわぞわぞわ、と全身に鳥肌が立った。
 志熊の口調はあくまで明るいものだったけれど、言葉の中には、計り知れない凄みを感じた。ほの暗いドスと、圧力を感じ、俺は黙り込んだ。
 周りに居る生徒達もそれは同じだったのか、全員表情を凍らせ、顔を青くして、そそくさと逃げていく。中にはおめでとう、とか、手なんて出さないよ、なんて声も聞こえた。おい、待て。ちょっと待ってくれ、全部誤解なんだ。

「あ…………」

 けれど、俺が声をかける前に、皆教室へと戻っていった。
 そうして、廊下に誰も居なくなると、志熊が、まるで晴天のような晴れやかな笑顔を俺に向けてくる。

「よし! ゴミ掃除完了〜、じゃあデルタ、教室入ろっかぁ」
「………………」
「あー、デルタとの学校生活楽しみぃ」

 終わった。マジで終わった。
 教室に入っても、誰一人として俺に近づかない。
 こうして、友達を沢山作ろうとした俺の計画は、朝の段階で脆くも崩れ去ってしまった。

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