番外編:女装の話(家)A

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 メイド服に、チャイナ服、ナースにチアガール……、近所で有名なお嬢様学校の制服まである。化野はコレを一体どこから手に入れたんだろう。バイトしたって言ってたけど、自分で買ったのかな。これの為に頑張ってバイトしたのかと思うと、なんだか辛くなってくる。もっと別のことに使ってほしい。少なくとも、同級生を女装させる為に使わないで欲しい、と思うのは間違ってないよな。
 非常に複雑な僕の心情を知ってか知らずか、化野はベッドの上に洋服を広げ、嬉しそうに指さしている。

「ここにあるのは全部正義ちゃんのサイズにあわせたから。どれにする? 全部でもいいけど」
「いやっ………………全部はちょっと……。あのこれ、化野が買ったの?」
「そうだよ。あ、でも大体ネットで買ったけど、これは借りた」

 そう言って聖華女子の制服を指さして化野が笑う。

「ここの制服かわいーって有名だったから」
「そう……」

 僕達の学校のセーラー服とは違う、一体型のワンピースタイプで、ちょっと変わったデザインの制服だ。胸に薔薇の刺繍が施されていて、胸には緑のリボンがある。

「これも一応サイズはあうと思うんだけど」
「…………なんて言って借りたの?」
「え? 普通に使うから貸してって」
「そうなんだ……」

 何に使うの、とか聞かれなかったのかな。
 そもそもあのお嬢様学校の子とよく知り合いになれたな。聖華女子っていえば、ここらで言えば偏差値も高いし、金持ちなお嬢様学校のイメージが強い。小学校からエスカレーター式って聞くし。僕らの学校で知り合いの人間なんていないと思っていたけど、化野は人脈が広いからな。けど正直、その人脈をこんなことに使わないで欲しい。
 ベッドの上にあぐらをかいて服を広げているせいで、短いナース服のスカートは上へ捲れて下着が見えている。下着が男性物だったことは、一応僕にとっては救いだ。
 ボクサータイプの下着から目線を逸らし、一応指摘する。

「化野、スカート捲れてるしパンツ見えてる……」
「見せてんの。なーんつって! アハハ!」
「……はは……」
「ま、それはそうとして、とりあえず全部服脱いで」
「えっ?」
「一応あわせたいから」

 と、メイド服を僕の体に押しつけて、化野はにこりと笑った。いや、急に。急にっていうか、まあ脱ぐことにはなると思っていたけど、着替えるだけなら別の場所でも……。
 僕が黙り込むと、化野はさらに言葉を続ける。

「それとも俺に脱がして欲しい?」
「………………」

 僕は着ていた私服のシャツのボタンに手をかけた。は、裸なんて何回も見せたことあるし。僕だって化野の裸くらい見たことある。
 正直、裸になるのが恥ずかしいという気持ちはあるけど、もっと恥ずかしいことだってしたことはあるし、これから女の子の服を着るのかと思うと、裸の方がマシとすら思えてくる。
 シャツを脱ぎ、着ていたタンクトップも、ジーンズも脱ぐと、トランクスに狐面だけの姿になった。なんだこれは。と思わないでもないけれど、それよりも早く終わらせたい。
 化野はどれがいいか聞いていたっけ。チャイナは、やたらスリットがはいっているタイプで、ナースは化野と同じミニスカート、チアガールはそもそも布面積が少ないし、聖華女子の制服はそもそも着ること自体躊躇われる。だったら、この中だとメイド服が一番マシかな。そのままメイド服に手を伸ばすと、伸ばしかけていた手を化野に掴まれた。

「ああ、待って」
「……?」
「その前に、前回出来なかったこともしよーよ」
「え……」

 振動する電子音と共に、化野がシェーバーを手の内で振った。

「とりあえず足と腕は剃ろっか。正義ちゃん毛ぇ薄い方だけど、ないわけじゃないし、生足だとやっぱ目立つじゃん?」
「えっ、いや、いやいや、それは」

 それは、もう今日だけで済むことじゃないよな? 腕と足の毛を剃ると、体育の時間とか困るし、お母さんとか勇気になんで剃ってるの? って聞かれた時も困る。僕もなんて答えればいいかわからない。まさか女装の為に剃りましたって言ったら、きっと心配される。
 何よりその為に剃るっていうのが、本気っぽくて嫌だ。

「剃らなくても、ほら……前みたいにストッキングとか穿けばいいし……!」
「うん。でも生足の方がいい格好もあるからさ〜。これとかストッキング穿いてたら変でしょ」
「あだっ、化野は剃ってないじゃん? 僕もやだよ! か、家族にも変な目で見られるし……!」
「俺も剃って欲しいなら剃るよ? 家族はじゃー、文化祭の練習とか言っとけばいいって。んじゃ正義ちゃんから剃ろっか」
「え、わっ、ま……っ」

 待って、という言葉は通じず、すでに下着だけ残して全裸になっている僕の足を掴んで、化野がシェーバーを押し当ててきた。
 ヴィイイ、という振動と共に、足の毛が綺麗に除毛されていく。

「あー……」
「すぐ伸びるよ」
「…………」

 ……この瞬間、体育でハーフパンツを履く選択肢が無くなった。……今が暑い季節じゃなくて本当に良かった。それまでには、きっと毛も伸びている。足と腕だけなら、隠すことが出来ないわけでもない。長袖を着ればいいだけだし。うん。
 ポジティブに考えよう。これで早く終わるし、化野が満足すればもうしなくていいって!
 ………………いや、やっぱりちょっと悲しい。

「ツルツル〜」
「……化野も剃ってね」

 せめてもの腹いせに、僕は口を尖らせて恨めしそうに化野を睨んだ。僕だけツルツルなのは、やっぱり嫌だ。
 その言葉に、化野は笑みを浮かべながら、勿論、と頷いた。
 そうして、二人揃って脱毛を終えると、僕は一番布面積がが多くて体が隠れるメイド服を手に取った。
 この服なら、毛を剃らなくてもよかったんじゃないかと思うけど……。毛が無くなってつるつるになった長い足を伸ばしながら、化野はにやにやと笑ってベッドに寝そべっている。

「ほら、早く着てみて」
「…………」

 お面をしていると服を被りづらくて、一度狐面を近くの棚に置いて、僕はメイド服へと袖を通す。下着は、何も言われなかったから、上はそのままで、下はトランクスだ。これで女性用の下着も準備されていたらどうしようかと思ったから、少し安心した。
 それにしても、どうやって着るんだろうコレ。化野が用意したワンピースは、丈の長い、クラシックなタイプのメイド服だった。シックなデザインだけど、所々にフリルが誂えてある。頭につけるブリムは結構大きい。
 えーっと……、黒いワンピースと、上に白いエプロンがついているみたいだけど、エプロンが後ろで交差して、前が……これ、どんな構造なんだ?
 着るのに悪戦苦闘していても、化野は特別手伝うことはせず、ただ嬉しそうに眺めている。

「…………化野、これ、着方がよく……、手伝って」
「しょうがないな〜、うん、まず後ろのその黒いワンピースの後ろのボタン外して、下から被って」
「こう?」
「そうそう」

 僕が助けを請うと、ようやく化野はベッドの上から起き上がり、ニコニコしながら服を僕に被せてきた。この服は、後ろでジッパーを上げて留める服らしい。こんなの、一人で着れるのか? 後ろで留める服なんて今まで一度も着たことがないせいか、止めようと思っても、背中に手が回らない。
 すると、化野が留めてあげる、と下がっていたジッパーを上げてくれた。肌に密着する形で、ワンピースの上半部分がくっついた。黒いワンピースだけど、袖口だけは白い襟のようになっている。この服は、元々男性用の服なんだろうか。怖いくらいぴったりだ。

「次はこっちのエプロンね〜」
「うん……」

 被せられるままに袖を通すと、よくわからない交差したエプロンを、化野が後ろで留めてくれる。こんな着るのに手間取る服を、よく給仕の吹くとして採用していたと思う。それともこれはコスプレ用で、本物とは関係ないのかな。
 化野の力を借りて、なんとかメイド服を着ることが出来た。頭にホワイトブリムを取り付けられ、ようやく完成かと思えば、化野がこれも履いて、と持ち出してきた。
 ベッドの下の引き出しを開けて目の前に突きつけられたそれに、僕は顔を熱くして目を逸らした。

「…………っあの、それは流石に」
「だってほら、せっかく服はちゃんとしてんのに、下着は男物とか萎えるじゃん」
「化野も男物だろ……!」
「いや、正義ちゃん思ったより早く来るからさあ、変える暇なかったんだよね、俺の分もあったよ」
「…………っ」

 化野の手にあったものは、女性用の下着に、股丈くらいまである黒い靴下だった。靴下はいいとして、流石に女性用の下着を身につけるのは躊躇う。っていうか、普通に嫌だ……。
 ここまででも十分変態みたいだけど、下着まで変えるといよいよ怪しい気がする。

「ごめん、化野。それは本当に勘弁してほしいんだけど……」
「ダメ?」
「うん……ほら、あの、穿き方わかんないし……」
「んじゃ、俺が穿かせてあげるね」
「なんでっ、い、いいっ、っていうか穿かない……っ!」

 全力で首を横に振って後ずさると、化野は何か考えこむように黙り込んだ。それから、携帯を取り出して操作する。

「………………」
「化野?」
「あーー、やっぱこのセーラー服の正義ちゃんうまく撮れてんなあ。この二人で撮ったやつラインのアイコンにしていい?」
「わかった穿くよ! 穿けばいいんだろ!」

 半ばやけくそになりながらも、僕は化野の手から下着と靴下を奪い取った。そもそも、この遊びは僕が断ろうが首を横に振ろうが、きっと化野が満足するまで続くのだ。だったらもう早く済ませてしまった方が良い。

「穿いてくれるの? うれしー」
「………………」

 なんかベルトみたいなのも出てるんだけど、どうやって履くんだこれ……。
 長いスカートを捲って、現在履いているトランクスを脱ぎ、靴下を履いた。どうせなら、この服を着る前に言ってほしかった。そうすれば、ダメージを後から負うこともなかったのに。
 黒いレースのあしらわれた紐みたいな下着は、正直、女性が穿くにしても派手なデザインだと思う。布部分なんてあんまりないし。

「…………化野、これ」
「ああ、それガーターベルト。まずそれ穿いて」
「…………本当に穿くのこれ?」
「あ、股間の毛も剃る? 下着からはみ出すのやだもんね。まあちんぽははみ出るだろうけど」
「…………」

 僕は何も言わず、渡された下着を穿いた。この上陰毛まで剃られてたまるか。
 掃き終えたけれど、全然隠れている気がしない。なんか、お尻部分が出ている気がする。これ、下着としての意味あるんだろうか。
 女子はこんなの穿いてるのか? いや、これがおかしいだけだよな、多分。穿いても男性用じゃないんだからもちろん収まりは悪く、落ち着かない。こんなの何も守れないじゃん……。

「…………もう脱いでいい?」
「だめー」

 女性物の下着を身につけると、男としての何かが終わった感じがして、妙に脱力する。けれど、これだけでは終わらないらしい。化野はガーターというらしい謎の布のクリップを外すと、僕にスカートを上げるよう指示してくる。この服、スカートが長いから一々面倒なんだよ。どうして服を着る前に言わなかったんだろう。
 化野の指示通りにスカートを上げると、スカートの中にすっぽりと化野の顔が入って隠れる。腰のあたりにそれを巻いて留めると、太ももまできていたソックスの裾にそのクリップをとりつけたらしい。ぱちん、と音がして、太もものサイドに少しだけ違和感が残る。
 ばさりとスカートから顔を出すと、化野は満足げに笑った。

「オッケー! これで完璧!」
「…………」
「あれ、正義ちゃん全然楽しそうじゃないね」
「これを楽しんでたら変態みたいだよ……」
「そう? でも俺は楽しいよ!」
「じゃあ、化野は変態だと思う……」
「ハハハ! すげーウケる!」

 何がウケるのか全然わからないけど、化野はゲラゲラ笑って、僕の体をベッド側へと引き込んだ。前回みたいに化粧をしているわけじゃないので、ただメイド服を着ているだけの僕なんだけど、こんなの傍から見ても変だとしか思えない。っていうか、気持ち悪いだけだ。僕は別に女顔というわけでも、美人でも可愛いわけでもない。
 化野は、顔立ちが整っているから化粧をすれば顔は美人になると思うけど。
 じっと顔を見つめていると、化野がにんまり笑った。

「どうしましたかぁ、小波さーん、診察ですかあ?」
「は……?」

 僕の方へと身を寄せて、ベッドの上に座る僕のスカートを、化野がたくし上げてくる。にやにやと笑いながら、短いスカートから覗かせる足の片膝をつき、パンツが見える状態で僕の腕を掴む。

「……な、何……」
「今日はどうしましたかあ〜」
「どういう設定!?」
「お医者さんと患者?」
「なんだそれ……」

 化野の格好はあくまでナースで医者ではないし、今僕はメイド服だ。ナースにメイドの患者って変だと思う。何しにきたんだメイド。
 だから急にそんなごっこ遊びを始められても困る。急にじゃなくても困るけど。こんなんだからノリが悪いとか言われてしまうのかもしれない。けど、僕の性格じゃうまく乗って冗談にすることもできない。
 それともここでこの茶番に乗ってしまえばいっそ振り切れて楽になるんだろうか。化野は相も変わらずナースの役になって、僕に問いかけてくる。

「どこか痛いところはありますか?」
「ええと、あ、頭……?」
「じゃあ注射するのでお尻出して〜」
「なんでっ」
「まあまあ、いいからいいから」

 全然よくない。けれど、僕の言葉は流され、スカートを捲られた。ロングスカートを捲れば、さっき着せられた下着がすぐに顔を出す。

「うわー、メイドさんエッチな下着つけてますねー」
「…………おかしなナースにつけられたので……」
「へー! その人センスいいですねえ!」

 自画自賛しながら化野が笑う。そりゃ、僕も同じ男として、こういう下着を女子がつけてたらちょっとドキっとする気持ちはわかる。でもこれを穿いてるのは僕だ。全然ドキっとしない。
 化野はその気になればこういう下着を女子に穿いて貰うことだって出来そうなのに、なんで僕にするんだろう。困った顔を見るのが好きって言っていたから、やっぱり嫌がらせなのかもしれない。

「そのままうつ伏せになってくださいね〜」
「…………」

 今日は、もしかしたら着せ替えで遊ぶだけなのかもと思ったけど、やっぱりそういう訳ではないらしい。
 化野のナース服のスカートの股間部分が、少しだけ持ち上がって膨らんでいる。スカートを捲られると、風が当たってスースーする。やっぱりこの下着、何も守れていない。

「…………するの?」
「何が?」
「…………いや、その、いつもの……」

 ごにょごにょと口の中で呟いていると、化野はにこりと笑って言った。

「ね、すげえおっさんみてえな事言っていい?」
「…………? うん……」
「正義ちゃん、ここにお注射しましょうね〜」

 ぐっ、と尻肉を掴まれ、ナースが目の前で笑った。

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