番外編:女装の話A

 それはつまり、このまま、外に出ろっていうこと? 考えた後、浮かんできた化野のに回答に僕はぶわりと汗をかいた。
 勢いよく首を横に振り、反射的に無理と声に出した。

「むり、むりっ、それは……っ」

 こんな格好、誰かに見られたら死ねる。
 佐々木も井上も西園もやっていたから、問題ないと思うかもしれないけど、こういうのは、やって許される人と許されない人がいる。
 僕は許されない側の人間だ。
 普段狐面で何考えているわからないみたいなキャラになってる僕が、こんなことしてたら、次はどんなイメージがつくんだろう。化野みたいに振り切れて可愛くなっているわけでもないし、ただ女装した僕がいるだけなのに。
 青ざめながらむり、と何度も溢すと、化野が笑う。

「そんなにイヤ? かわいーよ」
「本当にそう思うなら、そう感じてるの化野だけだよ……」

 化野は、ちょっと好みがおかしいところがあるから。脱力しながら呟くと、化野はそうかなーと不満げに口を尖らせる。

「そんなことないと思うけどね。ま、いーや、俺も正義ちゃんが嫌がることはしたくないし! クラスの女子にメイク落としのシート持ってないか聞いてくるか〜」
「…………!」
 
 まるで救いの言葉のように思えた。意地悪なことばかりしてくると思っていたけれど、ちゃんとこういうこともしてくれるのか、とキラキラした瞳で化野を見つめた。

「あ、化野……っ」
「で、正義ちゃんは俺になにしてくれんの?」
「え……」
「俺は正義ちゃんが望むことを叶えるから、正義ちゃんも俺の望むこと一個叶えて」
「…………」

 その言葉に、僕はすっと冷静になった。……そうだよな、化野だもんね。簡単に何かしてくれるはずがなかった……。けれど、ここで屈したら、またいつもの僕に戻ってしまうような気がして、僕はキッと化野を睨む。僕も、いつも、ナアナアに流されるだけじゃなくて、たまには思ったことを言ってもいいと思う。

「そ、それはっ、おかしいと、お、思うっ……!」
「ん?」

 少し意外そうに目を丸くすると、化野が少しだけ首を傾げた。

「おかしいって、何が?」
「だっ、だって、僕は別に、じょ、女装とか、しなくてもよかったのに、化野がしたんだから、その化粧をお、落とすのは、化野がするべきことで……っ、だから、……」
「ん? 落とすよ。落としに行こうって言ってるだけじゃん。それをイヤだって言ったのは正義ちゃんだよね?」
「ぼ、僕は人に見られたくないし……」
「それは正義ちゃんが言ってるだけでしょ」
「でも、化野が化粧しなければ……っ」
「イヤなら俺を殴ってでもやめろって言えばよかったんじゃね? 大人しく化粧されてた癖に、なんで今更?」
「…………っ…………それは……っ」
 
 それは、抵抗しない方が、早く終わると思ったから。
 そっちの方が楽だと思ってしまったから。
 うまく抵抗する自信がなかったから。
 ……つまり、僕は楽な方に逃げたのだ。文句を言うのが理解できないという顔をされて、僕は言葉を失った。意気消沈し、おかしいと思って言おうとした言葉が、どんどん胸の奥に沈んでいく。
 黙り込んでしまった僕の肩を化野が優しく叩いた。

「つまり、正義ちゃんは、化粧は落としたい。けど、人には見られたくない。俺に化粧落とし誰かから借りてきてこっそり落としてほしいけど、俺の言うことは聞きたくない、そういうことね。わがままだな〜」
「………………」

 なんで、そんな棘のある言い方するんだ。
 ていうか、化粧落としのシートとか、借りてきてくれてもいいだろ。化野ならきっとすぐ借りてこれるし、そもそも、こっそり化粧をしたのなら、こっそり落とすのが普通だ。
 なんで、僕がちょっと責められるんだろう。でも、そのことを口に出すことは出来なかった。だって、化野が借りてきてくれなくて、そのままこの教室から出て行ってしまったら、僕はどうやってこれを落とせば良いんだろう。

「…………ちなみに、化野のお願いって……?」
「え? その格好でデートしたい」
「無理!」

 人に見られるのがイヤだって言ってるのに! 化野、実は僕の話何も聞いて無くない!?
 悲鳴のように、はっきりと口に出した瞬間、笑顔の化野と目が合った。

「オッケー。んじゃ交渉決裂ってことでっ」
「えっ」

 そのまま腰を掴まれ、担ぎ上げるように肩に乗せられた。

「えっ、えっ?」
「はい、お面」
「えっ?」

 持っててね、と狐面に押しつけられたと思えば、そのまま化野は科学準備室の出入り口へと向かっていく。

「ま、待って化野っ……!」

 僕の言葉を待つ前に、化野は鍵を開けて、さっさと準備室を出て行った。科学室のドアを開けると、暴れてバランスを崩した僕は、廊下へと落ちた。お面だけが落ちないように抑えると、人のざわめきが聞こえてくる。

「あれ? 大志、お前まだその格好でいんの?」
「そうそう、気に入っちゃって、似合うでしょ」
「びみょ〜〜、顔だけならまあ見れっけど」
「てか西園が早く化粧落とせや! ってキレてたぞ〜」
「ははは、ウケんね」

 お、同じクラスの男子……。聞いたことのある声に、お面の奥で、僕は顔を青くする。

「大志、顔はマジで好みだな。なー、今度その格好でヤらしてよ」
「え〜タイ子のこと狙ってんの? どうしよっかなぁ〜」
「クネクネすんな!」
「ギャハハハハ! てか、その足下に転がってるの狐君?」

 指さされ、僕はお面で顔を押さえたまま、びくりと肩を揺らした。化野はなんてこと無いように、しゃがみ込み、僕の頭を撫でてくる。

「そうそう。顔は俺だけの特権だから見せてあげないけど、中身もかわいーよ」
「ふーん。てか大志パンツ見えてる」
「見せてんの。サービスね」

 いやん、と笑いながら、化野はスカートをひらつかせた。

「きめ〜、どうでもいいわ」
「ってか大志お前、せめてすね毛剃れや。その顔でその体だとなんか脳がバグんだよ。まだ狐君の方が小さくて女子っぽく見えるわ」
「あー、かわいいでしょー」

 言いながら、化野が僕の腕を引く。

「ほら、正義ちゃん立って」
「…………」

 引かれるままに立ち上がると、クラスメイトの前で、化野が僕のスカートを少しだけたくし上げてきた。太もも辺りまで露出され、僕は身を縮こまらせる。

「……っ!?」
「お〜、美脚」
「大志足結構筋肉ついてっしな」
「エロイっしょ。俺のだけどね〜」
「…………っ」

 狐面の奥で顔が熱くなる。なんで、こんなことするんだ。僕はお面を抑えたまま、化野の胸を押して走り出した。

「あ、逃げた」
「大志めちゃくちゃ嫌われてんじゃん」
「は? 嫌われてねえよ。照れてるだけだから、ね〜マサ子ちゃーん!」
「うわストーカーの心理こえー」
「狐君がんばって逃げてね〜」

 ゲラゲラと笑う声を遠くに聞きながら、僕は足早に人目の付かないところを目指した。どこだ。この時間はどこも人が居る。教室も、廊下も、トイレも、ああ、なんか皆こっちを見ている気がする……! むしろ、お面が無い方が僕だと気付かれにくかったのか……!? でも、今更外す事なんて。
 どうしよう、どうしよう……っ。お面を手で抑えたまま、キョロキョロと辺りを見渡した。最早、ただ話しながら笑ってる人すら、僕を笑っているのではと思えてしまう。被害妄想だ、と思うけれど、段々と怖くなってくる。狼狽えながらどこに行こうか迷っていると、ぬっと化野が顔を覗き込んできた。
 
「正義ちゃん、廊下走るなってまた言われるよ〜」
「っ」

 腕を掴まれ、化野が目の前で微笑んでいる。僕は震えながら、その場で硬直した。

「助けてほしい?」
「………………」

 しばしの逡巡の後、僕は小さく頷いた。情けない。自分でなんとかできないのか、と思うのに、周りの目が怖かった。笑われている気がした。
 頭の中が混乱して、どうすればいいのか、わからなかった。化野の腕が腰に巻き付き、嬉しそうに鼻歌を歌いながら僕の体を引き寄せる。

「じゃ、行こっか」
「…………」

 どこに、とは聞けなかった。といよりも、どこでもいいから、早くなんとかしてほしかったのかもしれない。
 女装してデートは困るけど、それ以外のお願いなら聞いてもいいとすら思っていた。

****

「失礼しまーす」
「うおっ、なんで女子……って大志かよ!」
「お前まぎらわしいな!」
「タイ子でーす。化粧落としにきたから、お前ら出てって」
「俺ら今使用中なんだけど」
「ちんこ見んなよ」
「じゃあ出し切るまで見ててやるから」
「だっから見んな! わかったって今出てくよ!」

 それから、近くのトイレに来たらしく、他のクラスの男子が、化野の顔を見て驚いた声を上げていた。僕は知らない生徒だったけど、化野とは面識があるらしい。化野は、友達が多いからな。
 彼は化野と少し話した後、すぐに出て行った。
 途中、ちらりと僕のことを見る。

「なあ大志、そいつ……」
「あ、これ? 今レズプレイ中だから、邪魔しないでね〜」

 化野の笑顔に、彼は引き攣った笑みを見せると、そそくさとトイレから出て行った。誤解だ、と言いたかったけれど、僕は喋らないし、そもそも言う前に居なくなってしまった。どこの誰かもわからない男子に、変態だと思われたかもしれない……。
 同時に、授業の予鈴がなる。廊下でのざわめきも、徐々に減っていった。
 化野は掃除用具が詰められた個室から、清掃中の札を勝手に出すと、表に出して、トイレのドアを閉めた。
 ポケットから小さめの袋を取り出すと、笑顔を見せる。

「ほらこれ、クレンジングオイル。化粧落としね。一回用」
「……一回?」
「うん、一回用。試供品だし。だから、俺か正義ちゃんの、どっちかの分しか落とせないんだけど、俺は後で女子から借りるから正義ちゃんに使うよ」
「……ありがとう」
「いいよ〜」

 僕はそこで、ずっと抑えていたお面をようやく外した。押しつけていたせいか、狐面の裏側には、ファンデーションやら、口紅やらが色づいて、すこしべたついていた。後で拭いておかないと……。
 静かになって、周りの目もなくなると、少しだけ落ち着いてくる。

「正義ちゃん涙目になってる。怖かったの? 別に、誰も気にしてないよ」
「…………っ、こんなの、人に見られるのは、イヤだって……」
「えー? でも、可愛いのに」

 肩にかかった髪の毛を掴み、少し強めに引っ張られると、ウィッグを止めてあったピンが外れそうになった。

「いっ……」

 眉間に皺を寄せ、唇を噛み化野を見ると、化野が喉の奥から息を漏らした。

「…………そんな顔しないでよ」

 言いながら、化野は少しだけ口元を歪め、僕の顎を掴むと、そのまま強引に唇を噛んできた。

「ん゛っ、う゛……っ?!」

 べろりと唇を舐められ、化野の舌が、口の中に入ってくる。唇からは、普段より甘い香りと味がした。口に塗っているやつのせいだろうか。そういえば、これ味つきの匂いつきなんだ〜、とか言ってた気がする。いつもより甘い香りに、落ち着かず逃げようとしたけれど、唇を外しても再び深く口づけられた。
 固定されたまま唇を貪られ、ぢゅる、という水音が室内に響く。こんなトイレなんて不衛生な場所で、何をしてるんだろう。化野の片方の手が、僕のスカートの中へと伸びてきた。ストッキング越しに、尻肉を掴まれ、ゆっくりと指が割れ目をなぞっていく。

「っ……ふ、ぁ……っ」

 唇は離さないまま、化野の手が僕の股間へと触れた。情けないことに、少しだけ反応している僕の陰茎を、ぐりぐりと撫でてくる。

「は、ぅ……っ、あ゛っ……!」
「……はは、あ〜〜……っ、口紅取れちゃった」

 ちゅぱ、と音を立てて、ようやく唇が離れると、唇に塗ってあった赤色が少しだけ滲んでいた。目の前で笑う化野は、女の子みたいな顔をしているのに、その瞳は獣のようにギラギラしていた。化野の指が、僕の唇に親指で触れ、強く押した。化野の指に、僕の口紅が色づいた。

「…………っ……」
「…………はーーー、おいで」
「え、ちょ……!」

 そのままトイレの個室に連れて行かれた。落書きだらけの個室の中、鍵をかけられ、僕は化野を振り返った。まさか、ここで?

「あ、化野、待って、せめて」

 せめて、するならここじゃないところにしてほしい。服だって、もう脱いでいつもの制服に戻したいし、トイレなんて汚いし。
 そんなに、我が儘は言ってない。そう思うのに、個室に押し込まれると、化野は、その辺の女子よりも可愛いその顔に笑みを象り、僕の制服のタイを解いた。

「さっきも言ったけどこの制服、借り物だから。あんまり暴れると汚れるかも」
「…………っ」
「自分の精液つけてユリに返す?」
「………………」

 その言葉に、僕は小刻みに首を横に振った。ユリ、というのは、きっと同じクラスの小山さんのことだ。少しキツそうな容姿ではあるけど、美人で、化野とよく話している。そんな彼女に、制服を汚して返すような真似、出来るはずもない。

「…………よ、汚したくない」

 すると、まるで良い子、とでも言うように、化野の手のひらが僕の頭を撫でてくる。

「かしこい正義ちゃんは、どうすればいいかわかるよね」
「…………」

 あんまり無駄なことしないでね。
 言外に、そう言われている気がした。目の前のプレッシャーに押しつぶされるように青ざめると、言葉を噤んだ。それから、僕は震える声で化野へと問いかける。

「……ど、……」
「ん?」
「どうすれば、いいの」

 どうすれば、早く終わらせてくれる。僕の問いに、化野は嬉しそうに言った。

「スカートもち上げて、自分で見せて」
「…………」

 化野の言うとおり、僕は自分のスカートをたくし上げた。黒の薄いストッキングの中に覗く男子用の下着は、なんだかアンバランスで、滑稽に見える。

「ちょっと勃ってる、キスして興奮しちゃった?」
「…………っ」
「そのまま、制服に変な汁飛ばないように、ちゃーんと抑えててね」
「え、あ……っ?」

 化野が、僕のストッキングを太もも付近まで下着ごとずり下げた。立ったままの僕の股間が眼前に来るように便座に腰掛け、少し身を屈める、僕の陰茎を掴んで口に咥えた。
 化野に、こういうことをされるのは初めてじゃない。したことも、されたこともある。でも、この格好だと化野だとわかっているのに、茶色い髪の女子が、僕の股に近づいているように見えて、落ち着かなかった。

「……っ!」
「あ、正義ちゃんから見たら、女子にフェラされてるみたいに見える?」
「な、なに……」
「はは、ちょっとおっきくなった。ま〜、正義ちゃん童貞っぽいし、仕方ないか」
「…………っ」
「正義くん、やらし〜、女子にこういうことされたいの?」
「ち、違う」
「正義ちゃんって童貞?」
「…………」
「はは、だよね」

 クスクスと笑われるが、本当のことなので、反論も出来ず黙り込む。指で僕の陰茎を扱きながら、化野が悪戯っぽく口を歪めた。少しだけ舌なめずりをして、僕のちんぽにちゅ、と口づける。

「んじゃ、タイ子がおっきくしてあげるね」

 語尾にハートマークでもつきそうなちょっと高い声色で、指腹でぐりぐりと僕の亀頭を撫でてくる。

「ストッキングは別に汚してもいーけど、制服にはつかないようにしとけよ〜」
「あ、化野っ、まっ、あっ」

 ちゅぷ、と口に咥えられ、そのまま奥まで陰茎を唇でくわえ込まれた。飲み込まれていく感覚に、腰を引くが、化野の手がソレを阻むように僕の腰を押さえつける。
 そのまま唇で輪を作って、陰茎をしこしこと扱かれる。柔らかな唇があたり、舌が肉棒の上を這う度に、気持ちよくて、泣きそうになる。にゅる、と舌腹で竿を舐められると、ゾクゾクとした感覚が背中を走る。頬に当たる自分のウィッグがくすぐったくて、くっつかないように首を横に振った。

「あ、ぅっ、っ」
「あんあこえらすと、そろにきこえひゃうはも」
「…………っ」

 咥えたまま、化野が喋ると、僕は唇を噛んだ。スカートが下がらないように、必死に上へと持ち上げる。へこへこと揺れる腰を押さると、ちゅぷちゅぷと音を立てながら、化野の唇が僕の陰茎を吸う。カリの部分を舌で丁寧に擽られる、尿道を舌先でぐりっと穿られる。

「…………っ〜〜〜〜……!」

 女装して、学校でこんなことして、変態以外の何物でも無い。
 ふぅふぅと声が漏れないように、必死に声を抑えていると、化野が僕を見上げてきた。

「きもちい? マサ子ちゃん」
「あ、しゃべっ、なっ……でっ……」

 ふぅ、と息を吹きかけられて、危うく達しそうになった。ぴくぴくと反応する体を愉しむように、ゆっくりとしたストロークで様子を見ていた化野だったが、油断した瞬間、喉奥まで咥えて、そのまま吸い付いてきた。

「っ〜〜〜〜〜〜……っ!?」
「んっ」

 びくっ、と体が震えて、頭の奥が真っ白になる。はっと気がついた時には、もう射精したあとだった。
 口の中に、出してしまった。

「っ! ごめっ……!」
「きもちかった?」

 真っ青になって慌てて化野の顔を見る。
 すると、にぃ、と口の前で親指と人差し指で輪を作り、舌を出して化野が笑った。唇の端からは、僕の精液が溢れている。あれ、精液……。気付くと同時に、顔が真っ赤になる。

「化野、まさか、の、飲ん……」
「あ〜〜、やっぱザーメンゴックンとか、AVだけだって思うわー。正義ちゃんのでも精液はクソマズ」
「………は、吐いた方が」
「いやもう飲んだし。それより後ろ向いて」
「え?」
「え? じゃなくて。思う存分オスイキさせてやったんだから、次は俺の番っしょ。その格好に相応しいくらい、メスイキさせたげる」

 ほら、と化野が目を細めて自分のスカートを持ち上げると、下着にうっすら染みを作った化野の陰茎がはっきりと主張を果たしていた。女子の格好には不釣り合いな雄の象徴に、ごくりと生唾を飲み込むと、再び化野が告げる。

「マサ子ちゃん、早くお尻こっちに向けて。これから本当の女の子にしてあげるから」

 さっきまでの女子っぽい仕草をかなぐり捨てて、化野が向けた笑みは、男そのものだった。

****

「はっ、あっ、あっ、ぅっ、あ゛っ、ひっ」

 ぱちゅ、ぱちゅ、とトイレの個室に音が響く。
 僕はトイレのドアに上体を預け、後ろから化野に何度も突かれていた。汚れてしまうので、スカートは流石に脱がせて貰ったけど、上はまだ借りてるセーラー服のままだし、タイはほどけて、胸元が開けていた。化粧も落としてなければ、ウィッグだってとっていない。
 こんな格好、誰かに見られたら、退学になってもおかしくない。いや、退学どころか、社会的に死んでしまう。
 この時間は、誰もトイレには来ないけど、それでも、大きい声を出せば、もしかしたら聞こえてしまうかもしれない。必死に声を抑えて、拳を握る。

「マサ子ちゃん、相変わらず腰ほっそいね」
「……ッア、あ゛っそこっ……!」
「Gスポ気持ちいい? ここ好きでしょ」

 どちゅっ、と突かれた所を、ぐりぐりと押しつぶすように、を責められる。かと思えば、そのまま内壁を滑り、奥を穿ってくる。慣れた動きに、僕はドアへと爪を立てた。ひ、とか細い声を喉奥から出して、濡れた音に目を瞑った。足下には、さっきから僕の陰茎から溢れた体液が床に溜まりを作っている。
 ぐちゃぐちゃに蕩けた穴を突かれる度に、体の力が抜けていく気がした。震える足を必死に立たせ、体をドアに預けて、なんとか体裁を保っている。

「ふっ……ふっぅ……っ〜〜〜〜〜!」
「あ、またイった。中すんげー、びくびくしてるし、締まってる。マサ子ちゃんわかる? イくたび、俺のちんぽきもちーってきゅうきゅう締め付けてくんの」
「…………っちが」
「わないっしょ」
「あ゛っ……――――!!」

 ずん、と勢いよく中に入り込んできた肉棒に、僕は背中を仰け反らせた。こんな、女の子みたいに、中を擦られて達してしまうなんて、心底恥ずかしいと思うのに、どうしても止まらない。止められなかった。化野は最早僕よりも僕の体に詳しいんじゃないだろうかって位、的確に気持ちいいところを抉ってきて、その度に僕は、ぼくは。

「ふっ、うっ、はっ、はぁっ、っ、っ」
「マサ子ちゃんのまんこさー、俺のちんぽ好きすぎて離してくんないよ。ちゅうちゅう吸い付いてくるもん」
「ひ、ちがっ、ちがうぅっ……!」
「でもほら、またイってる」
「……っ〜〜〜〜……っ」

 ぴく、ぴく、と体が小刻みに痙攣する。息も絶え絶えに、歯を食いしばると、化野の手が、僕のウィッグを掴んだ。
 強く掴まれたせいで、緩くなっていたピンが外れ、つけていたウィッグがずれてしまった。

「マサ子ちゃん、こっち向いて」
「…………っ……!」
「あは、……かわいー」
「あ゛っ、や、や、ぁ〜〜〜〜〜……っ」

 ぱちゅ、ぱちゅっ、ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅっ! ピストンが早められ、何度も何度も奥を突かれ、僕は喉元を晒し、トイレのドアに縋り付いた。ドアに書かれた落書きには「まんこに中出しして〜」なんて、下品な落書きが綴られている。僕はぐすぐすと鼻を鳴らして、そのドアに爪立てる。こんな、不衛生なところで、女の子の格好をした男に、女の子みたいに抱かれて、馬鹿みたいだ。
 馬鹿みたいなのに、どうしてこんなに感じてるんだ。馬鹿なのは僕だ。情けなくて、気持ちよくて、ぽろぽろと涙をこぼすと、化野が腰を振りながら、僕の顔を見て笑う。どちゅ、と前立腺を強く擦られ、中が痙攣する。びくびくと体を震わせながら、僕はまた達してしまった。

「は、ぁ――――――っ……!」
「やば、これハマりそー……、次は下着も用意しとく? エッチなやつ」

 興奮したような面持ちで、化野が笑う。僕の腹を撫でながら、繋がったまま背中に覆い被さってきた。獣のような形で覆い被さられ、化野の陰茎が僕の中へと深く押し込まれる。ローションと精液のせいでぐちゃぐちゃに蕩けたそこは滑り、小さな泡を作っていた。密着したまま、化野が僕の薄い腹を押す。

「…………っ!」
「ここにさー、俺のいっぱい出してえな」
「っ……〜〜〜〜!」
「なんて、そんなことしたらマサ子ちゃん妊娠しちゃうね!」

 冗談なのか本気なのかわからないその物言いに、僕は首を横に振った。僕は男だから、妊娠なんてしないし、ゴムをつけてるから、中出ししても意味は無い。意味は無いのに、その言葉が怖くて、僕は首を横に振った。

「……ぼ、僕、男だから……っ」
「そう? この格好で言っても全然説得力無いけど」
「っあ゛っ!」

 つん、と化野の手のひらがセーラーの中に潜り込み、僕の乳首を爪で引っ掻いた。ぶるぶると震える体の奥で、化野のが大きくなった。

「あ〜〜〜〜……っ……っべ……」

 びゅるるるるる、と中に出されている。体の奥で、放出されているような感覚。目の前のドアに書かれている卑猥な落書きが、目の前で実現されているような気がして、信じられなかった。信じたくなかった。けど、どうしようもなく現実で、注がれる精液に目を瞑りながら、僕は女の子じゃない、女の子じゃない、と何度も何度も頭の中で唱えていた。






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