番外編:女装の話@

攻め→受けへのフェラ描写あり






 運が悪かった。
 その日は、たまたまバスが遅延していて、たまたま、一限目の授業に間に合わなかった。
 こんなことになるなら、バスじゃなくて早めに自転車で来るか、二限目まで休めばよかったかな、と思ったけれど、今更考えてももう遅い。
 あの高校は、誰かの遅刻なんて日常茶飯事。
 僕の遅刻なんて、おそらく誰も気にすることはないだろうけど、一応足早に教室へと向かうと、異様な光景が僕を待ち受けていた。

「あ、オハヨー正義ちゃん。今日二限目まで自習だって〜」

 もう授業も始まっている時間だし、教室のドアをこっそり開けると、ドア付近に居た化野が僕に気づいて挨拶してきた。それはいい。僕に挨拶するのなんて、基本的には化野しかいない。いつものことだ。
 けれど、挨拶してきた化野の姿はいつもの姿じゃなかった。
 その格好を見た瞬間、僕は体を氷のように硬直させ、お面の奥で、ぱくぱくと口を開く。

「…………っ!?」
「あ、これ? せっかく自習ならメイクの練習とかする〜? って話になって。ほら、美術だし、作成物提出っつーからさ。なー似合う?」

 ウフン、としなを作り、とケラケラ笑いながら化野が言うと、周りの女子が同意した。いや……だ、誰?
 目の前に居るのは化野だ。化野のはずだ。
 声も、口調も化野。そのはずなのに、視界に飛び込んでくる姿は、普段の化野じゃない。揺れる長い髪に、近くの女子が楽しそうに写真を撮っている。

「ねーっ、てか大志ちょー似合う! かわいー」
「ヤバくない? 女として負けそうなんだけど」
「タイコちゃん、マジ顔だけはタイプ!」
「はあ? なによ、アタシの顔だけが目当てだったの? サイテー!」

 ぷん、と化野が口を尖らせた。
 皆笑っている。
 けど、僕は空気を読んで笑うことは出来なかった。
 化野の今の格好は、普段着ている学ランじゃ無くて、女子用のものだった。紺色のセーラー服に赤いタイ。
 けれど、サイズがキツいためか、若干生地がパツパツになっているし、スカートから覗く足からは、男らしくすね毛が生えている。体つきは完全に男子のものだから、ソレは仕方ないと思うけど、なにこれ?
 なまじ顔だけは綺麗にメイクされているのと、元々顔立ちがいいので、ぱっと見は美女に見えるから、違和感が拭えない。髪の毛も、どこから持ってきたんだろう。クラスメイトの一人が、加工アプリで女子と顔を入れ替えたりして遊んでいた。
 狐面の奥でじわりと汗をかくと、化野は僕を手招きしてくる。

「ほら、正義ちゃんもこっちおいでー、正義ちゃん用の制服も準備してあるから! あ、スカートの下はジャージ穿いてるから安心してね」

 ぴらりといとも容易くスカートを捲り、中のハーフパンツを見せつけてきた。なんだこれ。僕にどうしろっていうんだ。

「…………っ」

 呼ばれたものの、僕は全力で首を横に振った。
 美術の自習といっても、普段は自習なんて誰もしないくせに、なんで今日に限ってそれらしい理由を……。これなら、いつもみたいに携帯いじって遊んでいるか、寝ているかしていて貰った方がマシだ。
 それに、僕はそういう格好はしたくない。化野みたいな人だったら、そういう格好をしても面白い冗談で済まされるんだろうけど、僕がしたところで、ただ恥をかくだけなのは目に見えている。
 第一、顔を隠している僕が女子用の制服を着たところで、ただの変態にしか見えない。
 必死に首を横に振る僕の腕を掴むと、化野は体を引き寄せてくる。

「はーい、一名様ご案内! ミーちゃん、制服ありがとね〜、借りるわ!」
「んーん、アタシも大志の制服着れてうれしー! ってか見てこれヅカメイク。やばない?」
「やべー、超似合う!」
「…………っ! ……っ」
「ほらほら、正義ちゃんは早くこっち座って」
「っ〜〜〜〜!」

 いやいい! 僕はしなくていい!
 首がもげるのではないかと思うくらい横に振り、焦って抵抗する僕に対して、化野が笑顔で言った。

「あ、もしかして似合わないかも……とか思ってる? 大丈夫大丈夫! セイより似合わねーやつは、いねーから! 見てあれ、バケモノ! あはは」
「うるっせーわ! 大志てめー覚えてろよ!」
「……っ!」

 瞬間、西園の姿を見て、僕は思わず声をあげそうになってしまった。ビクリと身を強ばらせ、彼女を見た。
 ……に、西園? そこに居たのは、控えめに言っても、強そう、というか体格のいい女性だった。女性っていうか、西園だ。
 クラスの中でも骨格がしっかりしているせいか、制服も合うものがなかったらしく、一番大柄な女子の制服を中途半端に着こなし、メイクもやたら濃かった。スカートのホックは締まっておらず、下着が若干見えている。やけくそ状態で、西園は恨めしそうに化野の胸ぐらを掴み上げていた。

「お前なあ、俺はいいっつったろ」
「いや〜〜ん、セイ子こわ〜い! ゴリラじゃ〜ん」
「るっせえ、誰がセイ子だ!」
「落ち着きなさいよう、ねぇイノ子?」
「……ソウネェ」
「ギャハハハハハ! イノ子もセイ子もクッソ似合わね〜〜!」
「そういうササ子も似合ってねえからな」
「は〜? 俺は結構可愛いでしょ。ねっ」

 そう言って隣で笑っているのは、化野とよく一緒にいる、同じグループの佐々木と井上だ。佐々木はともかく、井上は背が高いせいか、スカートが短くて下着が見えている。何で誰も気にしないんだろう。
 井上は、西園と違って骨格はそこまでガッシリしていないので、西園ほど違和感はない。化粧が濃いせいでおかまっぽく見えるけど、もうちょっと化粧を薄くしたら違和感がなくなるような……気もする。
 佐々木は、ピアスがじゃらじゃらしていて怖いけど、顔立ち自体はそこまで違和感がなかった。身長も二人に比べると高くはないし、後ろ姿だけなら気がつかないかもしれない。睫の量が倍に増えた目を指さしながら、佐々木が笑う。

「てか、アイプチすごくね? 俺一重なのに見てこれ、ぱっちり二重」
「女子やべー」
「詐欺だろこんなん」
「見てコレ俺、超盛れてる」
「ギャハハハハハ!」

 撮った写真を見せ合って爆笑している中、僕はこっそりと教室から抜け出そうとしていた。皆、楽しそうにしているけど、生憎僕は狐のお面をつけているし、未だに素顔すら晒していない。
 化粧が出来ないなら、せいぜい制服を取り替えて、鬘をかぶる位だろうけど、そんなことしてどうなるっていうんだ……。
 そっとドアに手をかけたところで、「あ!」と声があがった。

「正義ちゃん、何逃げようとしてんの!」
「……っ!」

 ばれた。僕は慌てて教室を飛び出した。後ろから化野が追いかけてくる。途中すれ違った先生から、「廊下を走るな!」と注意されたけど、そんなことより注意すべき点がいくつもあると思う。
 授業中だし、化野の格好にも突っ込むべきだ。なんで突っ込まないんだ? あまりにもゆるいし、無法地帯すぎる。
 廊下を走り抜け、近くの物陰に身を隠した。化野には悪いけど、一限目が終わるまでは、こっそり隠れていよう……。

「まーさよーしちゃーん」
「…………っ!」

 突然、背後に気配を感じて、振り返る前に肩を叩かれた。

「………………」
「逃げるなっつってんのに、なんで逃げるかな〜。まっ、いーや、どうせメイクは俺が二人っきりでする予定だったし!」

 いつものところ行こ、と手を握られ、笑顔で腕を引っ張られた。いつものところ、というのは、おそらく科学準備室のことだろう。あの、薄暗く狭い空間を思いだし、僕は唇を噛んだ。引っ張られる腕に、足を踏ん張り拒絶する。
 すると、化野が意外そうになに? と問いかけてくる。
 何、じゃない。逆になんで意外そうにしてるんだ。

「もしかして、セイみたいに変なメイクされると思ってる? 大丈夫だよ、俺うまいから、ちゃんと可愛くするし」
「…………っ!」

 違う違う違う、そうじゃない。そこじゃない。別にちゃんと可愛くなりたいとか思ってない! そもそも女装自体が嫌なんだ! ぶんぶんと首を横に振ると、化野がふぅん、と鼻を鳴らした。

「いや?」
「…………っ」

 その言葉に、僕は何度も頷く。すると、化野はにこりと笑みを浮かべた。

「そっか〜、いやか〜」
「…………っ! ……っ!」

 こくこくと頷くと、化野は何かを考えるようににまりと笑った。

「んじゃ、これから女装した俺に犯されんのと、このまま素直に女装するんだったら、どっちがいい?」
「………………」

 何だ、その絶望の二択。
 笑顔で言い放たれた言葉に、僕は冷や汗を浮かべた。どっちも嫌だ……。僕は首を横に振ると、化野は言う。

「どっちもいや〜とか抜かす我が儘な正義ちゃんは、両方のコースが待ってますけども」
「……っ! じっ」
「ん?」
「じょ、……そう……で」
「オッケー! そうこなくっちゃ! じゃ、早くいこ〜、ちゃんと道具借りてきたから」

 早く早く、と嬉しそうに化野が僕の手を引く。……ああ、やってしまった。どうして僕はこう……。
 でも、どちらかを選択しないと、本当に両方やられそうな雰囲気があったし、服を着替えて化粧をして終わりなら、そっちの方がきっと楽で良い。自分の優柔不断さに言い訳をしつつ、内心悲しくなる。
 もう少し、はっきり言えればいいのに。どっちもしないって、きっぱり言えればよかったのに。どうして僕はこうなんだろう。

「ほら、おいで」
「…………」

 頷き、そのまま歩き出す。大丈夫、女装なんて服を戻して、顔を洗えばいいんだから、すぐ終わる。自分を納得させると、化野についていく。それにしても、化野は、なんでこんなに嬉しそうなんだろう。
 そうして僕たちは「いつもの」科学準備室へ。

****

「お面取るね」

 頷くと、視界が明るくなる。

「…………」
「……あはっ、顔真っ赤。まだメイクしてないのに!」

 お面を外されると、これからされることを想像して、少しだけ頬が熱くなっていく。そんな僕の頬を撫でると、化野は女子から借りたという制服を見せてきた。この学校のセーラー服だ。紺色のセーラーに、タイは赤く、胸には校章が刻まれている。

「じゃーん! 正義ちゃんにあいそうなサイズ、ちゃんと借りといたよ〜」
「…………」
「先に着替えよっか、いや、化粧してから着替える方がいいのか? まいーや。脱いで」

 早く早く、と急かされるままに、僕は着ていたシャツを脱ぐ。セーラー服なんて、産まれて初めて着る。紺色のセーラーに袖を通すと、いけないことをしているような気持ちになる。スカートのホックを外し、するりと上にもちあげる。すかすかの足下は、きっとズボンが無ければ心許なかったと思う。……下は、はいたままでもいいよね? さっき化野も下はいてたし。
 と思ったら、スカートを持ち上げられた。

「ほら、下も脱いで」
「え…………でも、さっき化野は……」
「ん? 俺は教室だったし。でもここには俺しかいねえから、正義ちゃんは脱いで大丈夫!」
「………………?」

 どういう理屈?
 謎理論に硬直していると、無言でズボンのベルトを外された。焦ってその手を抑えると、化野が目の前で笑う。

「ほら、これ脱がないと、ストッキングはけねーじゃん」
「…………スト……?」

 ストッキングって、なんだっけ。あの、女子が穿いてる黒い奴のこと? 女子が穿いてるのって、色々と名称がありすぎてよくわからなくなる。僕が穿くことは一生ないと思ってたし。掴んでいた手を外され、すとん、とズボンが床に落ちると、用意してきたという道具の中から、化野がストッキングを取り出した。

「あ、これは借りたやつじゃなくてちゃんと買ったやつ!」
「な、なんで買ったの……?」
「え? 正義ちゃんに穿かせようとおもって」

 どうしてそんなことを。いや、ひょっとすると化野は……。

「…………化野、もしかして、今日自習ってわかってたの?」
「うん、昨日センセーから聞いた。だからウィッグとかも友達に持ってきて貰ったの。ほら」

 と、黒いカツラを見せて化野が笑う。……普通、自習だからって、女装させようとか、しようってならないと思うんだけど。しかも、こんな用意周到に。どうしても逃げられない雰囲気を感じ、僕は諦めてズボンを脱いだ。……やっぱり、なんか変な感じだ。下に何も穿いてないみたいな……。スカートの裾を掴み、浮かないように抑えていると、化野がストッキングのパッケージを破り、僕に近くの椅子に座るよう命じてくる。

「穿かせてあげる」
「…………い、いい」
「まあまあ、はい、片足こっちね」

 と、事も無げにストッキングの先端を僕の足に押し当て、半分くらいまで上げると、もう片方側も僕の足へと嵌めてくる。ツルツルしているのに、そのくせ密着してくるような感覚に、なんだか背中がぞわっとする。

「……こ、これ穿かないとダメ?」
「ダメだよ」

 そのまま立たせられ、化野と向き合った状態で、中途半端なストッキングに手を回された。

「……っ」

 密着した状態で、太もも付近までストッキングがあげられると、化野はその上から手を這わせ、下着ごしにむにゅりと尻を掴んできた。僕は背中を仰け反らせる。

「ひっ」
「なんかエッチなことしてるみたいだね」
「………………っ」

 むにゅ、むにゅ、と手のひらが薄い尻を揉んだあと、ぱちん、と音を立ててストッキングが上まで持ち上げられた。下着に密着して、なんか気持ち悪い……。そしてこの状態だとただセーラー服を着ただけの僕だ。女装するなもう早く化粧でもなんでもして、終わらせほしい。

「はい着れましたー、と。あー、これはこれで」

 いいねー、と、何がいいのかわからないままに化野が笑う。携帯のカメラを向けられたので、僕は慌てて手で隠し、顔を背けた。

「と、撮らないで……」
「大丈夫、俺しか見ないから」
「それも嫌なんだって……っ」
「え、なんで?」
「なんでって、は、恥ずかしいし」

 当たり前だ。誰であろうと、こんな格好を見られるのは恥ずかしい。僕は化野とは違う。

「うん、でも俺も同じ格好してるよ」
「そうだけど」
「あ、下にジャージはいてっから? んじゃはい、脱ーいだーっと。これでおそろいだから恥ずかしくないね」
「え、え……」

 スカートの下に穿いていたジャージを下げて、化野が笑う。いや、化野は恥ずかしくなくても、僕が恥ずかしいことに変わりはないと思うんだけど。かしゃり、とシャッターを切られ、僕はできる限り顔を手で覆った。目元だけは隠れたけれど、流石に全ては覆えない。

「なんか逆にエロいけど」
「……っ」
「ま、いーや。それよりそこ座って。俺がメイクしたげるね〜、やり方も知ってるし」
「………………」

 今更この格好で逃げようと思わないし、終われば、きっと満足してくれるんだろう。僕は大人しくさっきの椅子に座ると、化野が僕の前髪をピンで固定してくる。にこにこと嬉しそうに笑いながら、多分化粧道具であろう謎の液体を手に取り、僕の顔へポイントでいくつか押しつけていく。そして、それを薄く手のひらで伸ばしてきた。

「正義ちゃんは肌綺麗だから、ファンデーションとかあんまいらねーかもね」
「…………化野は、なんでこういうの出来るの」
「え? だって、出来た方が面白いじゃん。女子とかメイク好きだし、話してると俺でも出来そうだったから」
「……そうなんだ」

 僕は女子と話すこと無いからな。でも、化野だったら、きっとなんでも聞けるし、そうやって話を発展させていくのかもしれない。
 顔の上に色々と塗りたくられながら、じっと硬直していると、思いのほか化野の顔が近くにあった。瞳を逸らすと、化野の指が、僕の頬に触れる。皮膚の表面を柔らかいクッションが僕の頬へと押し当てられ、目の付近に近づいてきたので、目を瞑った。瞬間、ちゅ、と口がくっついてきた。

「アイシャドウの色何色がいいかな〜、正義ちゃん好きな色ある?」
「…………? ……?」

 今、なんでキスされたんだろう。……キスだよね? 目を瞑ってたけど、多分そうだ。
 いや、僕ももう少し何か言って抵抗するべきなのかもしれないんだけど、何を言ってもうまくはぐらかされてしまいそうだ。今だってよく分からないことを聞かれて、一瞬思考が停止してしまった。

「化野あの、今なんで……」
「好きな色は?」
「え、あ、緑……?」
「緑か〜、緑はまあー、ポイントで使えばいいんだろうけど……うーん、どうしよっかな」
「あの、化野」
「やっぱ俺決めて良い?」
「う、うん」
「じゃ、ナチュラル系にしよ〜っと」

 どうせ、化粧に関しては何を聞かれても僕にはわからない。うまくはぐらかされてしまった感はあるけれど、別にキスも初めてなわけじゃないし。それより早く終わって欲しかった。
 その後は黙々と、無言で化野が選んだ化粧を顔に施され、最後に唇にぬるついた物を塗られると、化野の手が止まった
 完成したのかな。

「………………終わり?」
「……あ〜、……なんかセイが好きそうな感じになっちゃった……」
「……?」
「ん〜、もうちょっとやらせて、やっぱここの色変えた方がいいかなー、いっそマジで緑にしときゃよかったかぁ、でもあんまやってもくどくなるし……」
「も、もういい。これでいい」

 また時間がかかりそうで、僕は慌てて声をあげる。今自分の顔がどうなっているのかは分からないけど、

「そ? まあ、俺がやったから似合ってるよ! 可愛い可愛い〜」

 あとは、と鞄から黒髪のウィッグを取り出して、僕の髪の毛をまとめると、それを頭から被された。肩より少し長めの、黒髪のカツラを付けられ少しだけ形を整えると、化野はできた、と呟いた。

「おっけ〜、出来た! いいじゃん、一緒に写真撮ろ」
「えっ……」

 断る前に、携帯を自撮りモードにして、化野がカシャリとシャッターを切った。加工アプリでも入れているのか、やけに可愛らしくなった僕と化野の顔が映っている。目が変におっきいし、誰だこれ……。

「ハハハハハ! めっちゃ可愛くなっててウケる! アイコンにしたら結構釣れそ〜やってみよっかな」
「化野、け、消して……」

 こんなの、誰にも見られたくない。けれど、化野は誰にも見せないから、と言って写真を消してはくれなかった。その時、授業終了のチャイムが鳴る。

「あ……」

 そのチャイムに、正直な話、心底胸を撫で下ろした。これで、終わる口実が出来る。このままだと、なんだかんだ言いながらずっと続きそうだったから、終わってよかった。

「あ、化野、授業終わった」
「そだね、終わっちゃった」
「じゃあ僕、もうこれとっても……」
「いいよ! よし、じゃ、行こっか」
「え?」
「化粧落としにいくんでしょ? 俺メイク落としのシート持ってくるの忘れてきちゃったから、クレンジングかりにいかなきゃ。トイレで顔洗ってこよっか」
「………………」



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