エイプリルフール番外その後



→その後(小波視点)

 どうして、こんなことになったんだろう。
 最初は、確かに楽しいと思っていたはずなのに。

「フンフンフ〜ン」

 化野が、鼻歌を口ずさみながら僕の耳を摩る。
 耳たぶは他の部位に比べて感覚が鈍いとは言うけれど、それでも人に触れればくすぐったい。
 耳たぶ部分を親指と人差し指で掴み、やわやわと挟む。嬉しそうな化野とは反対に、僕は体の震えが止まらなかった。

「あ、あだ、しの……」

 すっかり乾いてしまった口から漏れるのは、自分でも掠れていると思うほど小さな声だった。もしかしたら聞こえないかもしれないと思ったけど、化野はすぐに「なに?」と反応する。

「その、や、……じょ、冗談……」
「ん〜?」
「冗談、だよね……」
「あはっ」

 化野は笑いながら手に持っている安全ピンを僕に見せつけた。

「大丈夫、優しくするから」

 その言葉に、僕はお面の奥で顔を引き攣らせた。

***

 朝、エイプリルフールだから今日は一つ嘘をつこうね、という化野の提案は、あっという間にクラス内へと浸透した。皆、普段とは真逆の格好になり、性格まで普段とは逆に振る舞おうという遊び。
 驚く教師を見て笑い、普段とは真逆の友達に笑う。
 僕もそれに参加はしたけれど、流石に狐面までは外せなくて、結果いつもより輪をかけておかしなキャラになってしまった。
 途中、西園や化野の変化っぷりに耐えきれなくなって、教室を出てきてしまったけど、化野が追いかけてくるまでは、確かに面白かったんだ。
 普段とちょっと違ったりするのもだけど、クラス全員でやってる行事に参加できたことが嬉しかった。あまりクラスに馴染めていなかったから、こういうのに参加できるだけでよかった。
 だから、恥ずかしかったけど、変なキャラになっても頑張ろうと思った。
 けれど、追いかけてきた化野は、僕の予想の斜め上の事を言い出したのだ。
 いつもの科学準備室へと連れ込まれ、普段はかけていない黒縁の眼鏡の位置を正しながら、おかしな口調で化野は言った。

「小波くん、君、もうすぐ授業が始まるのに、サボるとは何事だね! 校則違反だよね!」
「…………」

 もうとっくにチャイムは鳴ってしまった。柔らかい口調の西園や、真面目な佐々木や化野のことを見ると笑ってしまいそうだったので、落ち着いたら教室に戻ろうと思っていたのに、化野があとから追いかけてきて、あっという間にここに連れてこられた。そうこうしている内に、チャイムが鳴ってしまったのだ。もう間に合わない。
 中学の時は、授業をサボったりなんてしたことがなかったのに、この学校に入ってからこうしてサボる増えてしまった。
 なんて答えればいいかわからず、狼狽えていると、化野が口パクで伝えてきた。
 う・そ・を・つ・け。
 そう言っているように思えた。
 そう。今日はエイプリルフールだから、普段とは逆のキャラを演じなければ。化野が決めたことだ。そして、僕もそれに乗った。なら、続けないと。
 普段無口な僕のキャラなら、当然雄弁になるだろうけど、そうするには演技力もなかった。そうして、苦肉の策のこのキャラだ。

「う、うるせえなぁ……、俺についてくるんじゃねえよ……!」
「くっ」

 化野が吹き出した。言ったあとで後悔する。かぁ、と顔が赤くなり、自分でも恥ずかしかった。ちょっと西園を真似たつもりだったけど、僕が言うと我ながら間抜けだ。
 瞬間、視界が明るくなる。化野にお面を取り上げられたのだ。

「あっ……」
「ほら、お面は校則違反だよ」

 化野は、楽しそうににまにま笑っていた。校則なんてあってないような学校なのに、今の化野はやたら校則を重視してくる。
 実際、校則違反なのかもしれないけど、僕はもうお面をつけて送る生活に慣れてしまっているので、こうして突然外されると、否応なしに顔が赤くなった。
 でも、ここで黙り込むのはいつもの僕なので、僕は反論をしなければいけない。

「かっ、かえ……、っ返せよ!」
「だめだめ、これは生徒会長であるこの僕が預かっておきます」

 いつの間にか委員長から生徒会長というキャラクターにしたらしい。さっきよりも妙ちきりんなキャラになり、一周して元の化野に戻りつつある。いつもとは違う七三の黒髪も、すでに崩れてきていた。くすくすと笑う化野にお面を取り上げられ、途方に暮れる。このままだと、この準備室を出ることも叶わない。
 僕は震える声で化野に言った。

「……あ、化野さぁー、調子のんなよ……」
「へえ、調子に乗るとどうなるんだい? 教えてくれよ」
「…………こ、困ることになるんだからな……」
「なるほどー、ふ、ふふっ……」

 実際、困ることになっているのは僕だった。そんな僕が滑稽なんだろう。化野はさっきから笑いを隠し切れていない。
 そりゃ、化野に比べれば僕は背丈もないし、力もないけど……。たじろいでしまった僕に、化野は追い打ちをかけるように笑いかける。

「そもそも君、不良として中途半端なんだよね、そんな格好で不良を名乗らないで欲しいよマッタク」

 別に不良を名乗ったつもりはないけど、真逆となるとそうなってしまうのかもしれない。
 でも、そんなことを言われても無茶な話だと思う。所詮僕は、小心者で、このお面以外は枠からはみ出ないように振る舞っている小物なのだから。
 これは一日だからなんとか頑張れるけど、化野だって、ずっとそのキャラでいけって言われたら無理があるだろう。
 黙り込んでしまった僕に、化野はポケットから何かを取り出した。

「そんな君に、じゃじゃーん」

 妙な効果音を肉声で放ち、手の内にあるそれを僕の前に突きつけた。それはよくあるちょっと大きめの安全ピンだった。急に何だろう、と思うと、化野は自らの耳たぶを掴んで、今はピアスを外してあるその耳に、その安全ピンをぶっ刺した。

「…………っ!」

 他人の耳なのに、痛そうで体が震えた。

「あ、大丈夫大丈夫、もう穴開いてるから」
「そ、そういう問題じゃ……!」

 一瞬エイプリルフールの嘘も忘れて、僕はその場から後ずさった。化野は笑いながら、今刺した安全ピンを引き抜いた。
 ……なんだかとても嫌な予感がして、出来るならこの場から逃げてしまいたいと思ったくらいだ。
 そんな僕を見透かしたように、僕の肩を強く掴む。

「どうせなら、ピアスの一つでも開けようよ」
「え……?」
「な?」

 そう笑った顔は、最早真面目な生徒会長でもなんでもなくて、ただのいつもの化野だった。

****

 それから、化野は向かい合って僕を自分の膝に座らせた。化野の指が、さっきから僕の耳を触ってくる。まるで、どこに穴を開けようか見定めているみたいに。いや、みたい、じゃなくて、実際見定めているんだろう。耳たぶから軟骨部分までまんべんなく触られ、僕は内心びくびくする。
 嘘だと思った。いくらなんでも冗談だと思った。
 だって、エイプリルフールは一日なのに、ピアスなんて開けたら、一日じゃすまない。それに、僕はピアスを開けたいと思ったこともない。

「あ、あの、化野……」

 もう、エイプリルフールの嘘も何もない。僕はできるだけ穏便にやめて貰うよう、化野に語りかけた。

「ん? なに?」
「僕、ピアスはし、したくないんだ……」
「へー。ところでコレ俺のピアスなんだけどどれがいい?」
「…………」

 どうしよう、全然聞いてくれない……。それどころか、つけるピアスが化野の物で決定している。
 最早化野も、エイプリルフールのキャラのことなんて忘れているらしく、ただ、僕にピアスを付ける方が面白そうだから、という理由でいつもの化野に戻っていた。箱に詰められた色とりどりのピアスはどれもトリッキーな形をしていて、どれを選んでも目立ちそうだ。せめてもう少し地味なのがあれば……いや、そもそも僕はピアスは付けたくない。
 僕は勇気を出して、少し声を大きくした。

「化野、ごめん! あ、化野のピアスは格好良いけど、あの、……ぼ、僕にはちょっと派手っていうか……!」

 苦し紛れの言い訳をすると化野は確かに、と同意してくれる。光明が見えた。

「まあ、ちょっと正義ちゃんのキャラには合ってないかもな〜」
「! う、うん、だから……」
「じゃあ今日は穴開けてとりあえず適当なのつけて、今度一緒に似合うやつ買いにいこっか」

 にこりと言い笑顔で返されて、僕は硬直した。ど、どうしてそうなるんだ……。そもそも、体に穴をあけて何がいいんだろう。化野なんかは、オシャレとしてつけているのかもしれないけど、僕がつけたところで、きっと釣り合わない。
 狐面をつけるような男がピアスしたところでどうなるっていうんだ。黙り込んでしまった僕に、化野は僕の耳を摩る指を止めた。

「もしかして正義ちゃん、ピアスつけんの嫌なの?」
「え? う、うん……」

 さっきからそう言ってたつもりだったんだけど……。でもこれはチャンスかもしれない。化野から持ちかけてくれたのなら、反論のしようもある。 
 僕がそうだと言いつのろうとした瞬間、化野は不思議そうに首を傾げた。

「なんで?」
「え……」
「なんで嫌なの?」
「……そ、それは……その、い、痛そうだし……」
「ああ、大丈夫、そんな痛くないって。俺何度も開けてるから慣れてるし」
「か、家族も驚くから……!」
「別に、高校生になったらフツーじゃん? 俺中学の時からつけてたよ。友達に貰ったっていっとけばいいよ」
「あ、あの、それに、僕は似合わないと思うし……」
「だーいじょうぶ、俺がちゃんと似合うピアス見つけてあげるから」

 ね、と笑われて、僕は再び口を閉ざしてしまった。
 僕の理由がことごとく却下され、化野の指が再び僕の耳へと触れた。と思ったら、その指が下へと落ちていく。

「まあでも、正義ちゃんちはウチと違って真面目そーだし、確かにピアス付けて帰ってきたらお母さんもあの弟くんも驚いちゃうかもね〜」
「…………!」

 僕は勢いよく首を縦に振った。そう、そうなんだ。きっとお母さんも勇気もお父さんも驚く。だから、やめよう、と思ったのに、次の言葉に今度こそ僕は言葉をなくした。

「じゃあ、見えない所につける?」
「…………え」
「こことか」

 上から振ってきた指先は、鎖骨を通って僕の乳首に触れた。サァ、と青くなる僕を見て、化野はケラケラと笑う。

「うっそうそ、じょーだんよ、流石に」
「あ、うん……」
「臍にしよっか?」
「……!?」
「それともここいっちゃうー? えっちー」

 胸にあった指は臍を通り、最終的に股間を指さした。
 え、ここのどこに……? どうやって……? グロテスクな想像をしてしまい、更に青ざめる僕を見て、化野はにんまり笑った。黒い瞳に映る僕の顔には、恐怖が滲んでいる。
 カタカタと震える体を宥めるように、化野が僕の背中を撫でた。優しくあやすような手つきが、逆に恐ろしかった。
 どっどっど、と心臓の鼓動が早くなっていく。不思議な物で、さっきはあんなにピアスを開けること自体が嫌だったのに、股間にピアスを開けられるくらいなら、耳の方がマシなんじゃないかとすら思えてくる。実際は、ピアスはピアスなのに。
 でも、化野の中で僕にピアスを開ける事は決定しているらしいし、それならもういっそのこと、目立たないピアスを耳に開けてもらった方が被害は少ないのかも……。自分でもおかしいとは思うけど、それが一番良い方法に思えてくるから不思議だ。

「あの、化野……」
「ん? どこにするか決めた? 口? 舌にする?」
「そ、そうじゃなくて、やっぱり耳がいい……」
「そっか、んじゃ俺とお揃いの所に開けようよ」
「…………」
「どれがいい?」

 ああ、やってしまった。頷いちゃった。
 いつの間にか、ピアスを開けることになってしまった。家に帰ったらなんて言おう。勇気はきっと軽蔑するだろうな。お母さんも、怒るかな。お父さんは、あんまり会わないけど、お母さんが言うだろうし……。
不良になったって思われるかな。化野のピアスが詰められた箱を見ながら、少しだけ憂鬱な気分になる。
 そんな僕を不憫に思ったのか、化野が優しい瞳で僕の頭を撫でる。

「大丈夫だよ正義ちゃん。痛くないようにするから。あ、これなんてどう?」

 最早痛みだけが原因じゃないんだけど、化野は化野なりに気を遣ってくれているらしい。でもそうそんな化野が選んだのは、蛇の模様がモチーフのピアスだった。ど、どう見ても目立つし怖い……。

「こっ…………これじゃ、ないのがいい……」
「え〜、じゃあこれとか?」
「髑髏も……ちょっと……」
「んじゃこれ、正義ちゃんと同じ狐柄〜、可愛くてこの間買っちゃった」

 女子高生みたいなことを言って掲げられた狐面のピアスは、確かに僕の狐面とよく似ていた。でも、それも結構目立つよね。僕が無言で首を横に振ると、化野は拗ねたように口を尖らせた。

「ちぇー、いいと思ったんだけどなー」
「あ、……これがいい……」
「え、これ? これなんの模様もないよ?」
「…………うん」
「ちょ〜〜、地味なやつだけど」

 全体的に奇抜なデザインが多い化野のピアスだったけど、その中に一つだけ地味な物があった。シルバーの、小さなピアスで、なんのデザインも施されてはいないけど、一番シンプルでまだ目立たなそうだった。化野は不服そうだったけど、僕が付けるなら、とそれで許可してくれた。

「んじゃ、貫通式しよっか」
「…………」
「ほら、もっとこっち来て」

 ピアスも決まったところで、とどこから取り出したのか、化野は消毒液を取り出した。わざわざ持ってきてくれたらしい。

「正義ちゃんの耳にばい菌入ったら困るからね〜」

 それなら穴を開けなければいい気がするんだけど、化野の優しさの基準がわからない。当たり前の様にライターを取り出して、安全ピンの先端を炎で炙る。……何でライターを持っているんだろう……。
 僕は、化野に指示されたとおり、消毒液で自分の耳たぶを消毒した。穴を開けるところは、すでに化野が決めてあるらしく、印を付けられた。消しゴムも使うらしく、一緒に消毒すると、化野は嬉しそうに僕に笑いかける。その笑みが、なんだか少しだけ怖かった。

「はーい、んじゃちょっとだけチクっとしますよ〜」
「…………っ」

 看護師さんみたいなことを言って、化野の安全ピンが近づいてくる。僕は、注射の時も、体に穴が空く瞬間っていうのは見たくないタイプで、ピアスの時も同様だった。
 実際は目を開けてても、空く瞬間なんて見えないんだけど、それでも硬く目を瞑った。耳裏に消しゴムが押し当てられ、ピンの先端が耳たぶへと押し当てられる。

「……っ……! ふ……っ」
「はは、なんか興奮する……処女奪った時みたい」

 嬉しそうな化野の声に耳を傾けた瞬間。
 ブツッ、と嫌な音がした。

「い゛っ〜〜〜〜〜……!」
「おー、開いた開いた、正義ちゃん貫通おめでと〜、はい非処女〜」
「い…………っ、っ、いっ、たくしないって、い、っ……たのに……っ!」
「まあ一瞬は痛いよね! でもすぐ治まるよ。はい、消毒してー」
「あっ、あっ……!」
「あはは、やらしー声あげんなってー」

 耳たぶを貫いていた針が引き抜かれ、同時に科学準備室に置いてあった脱脂綿に消毒液を染みこませて耳を抑えた。それから、さっき選んだピアスを付けられる。
 ……い、痛くないって言ったのに結構痛い。普段よりも真っ赤になって居るであろう右耳を抑えながら、じんじんと疼く痛みに耐える。
 耳だけじゃない、きっと今の僕は、顔も全身も、全部真っ赤だ。
 ぐ、と歯を食いしばり耐えていると、こともなげに化野が続けた。

「そんじゃ、次は左ねー」
「……! い、いい、もういい……!」
「え? でも右しか開いてないよ?」
「…………ひ、左は、……また、今度で……」
「………………ふーん、まぁ、正義ちゃんが右耳だけのピアスでいいってんなら、俺はいいけどぉ? あ、そのピアス俺が開けたって言いふらしていーからね」

 両耳きちんと開けろと言われるかと思ったけど、化野は悪戯っぽく笑いはしたけど、それ以上穴を開けてこようとはしなかった。それどころか、少し面白そうな表情で笑っていた。
 何故かはわからないけど、よかった……。とてもじゃないけど、やっぱり僕にピアスは向いて無いんじゃないかと思う。未だに痛む耳を押さえていると、突然顎を掴まれた。

「……? んっ……んぐっ……!」

 目の前が翳ったと思えば、唇に、化野の口が重なり、腔内に舌が割り込んでくる。僕が目を見開き、化野の名前を呼ぶ前に、にゅる、と舌が僕の腔内をまさぐった。ぬるついた舌に自分の舌を引っ込めると、噛む様に深く食いつかれた。

「ふ……っ」
「ふはっ……やべー、なんか興奮しちゃった……、生徒会長のいけない性癖出ちゃったかも」

 まだその設定生きてたんだ……。
 唇が離れ、はぁ、と浅い息を吐きながら、僕は化野を見上げた。普段の化野とは違う、黒い髪の毛に、見慣れない眼鏡。ピアスは全部外しているけど、その穴の痕は見るだけでわかる。
 僕はゆっくり化野の耳へと手を伸ばした。

「……ん? なに?」
「…………これ、塞がる……?」
「あー、しばらく付けてなかったら塞がると思うよ。まぁでも」

 そこで一端言葉を句切って、化野は僕の耳へと触れた。

「跡はずっと残しておけるよね」
「…………」

 その言葉に、引っかかりを感じた。残るじゃなくて、残しておける? まるで、残ることを望んでいるような物言いだ。
 僕が何か問いかける前に、化野の手が、僕の制服を脱がしていく。ああ、またこうなるのか……。エイプリルフールっていっても、結局いつもと変わらない。ここに来た時点で、そうなるってわかっておくべきだったのかもしれない。
 貫通した耳を愛おしそうに見つめる化野の目から逃れるように、僕は目を瞑った。

****

「お前それ、……」
「…………」

 それから、教室に戻ると、もうすでにエイプリルフールにも飽きていたらしく、クラスの人たちも中途半端な格好になっていた。
 黒髪だったり、そのくせ制服は改造制服だったりと。そんな中じゃ、僕のピアスなんて些細な変化すぎて誰も気づかないと思ったけど、隣の席に居た西園には流石に見咎められた。

「……大志か……あのアホ……」

 呆れたような眼差しに、僕は少しだけ緊張する。西園は、きっと呆れているんだろう。だって、僕が自分でピアスを開けるような奴じゃないって事は、きっともう西園にはバレている。
 だったら、このピアスに関しては、さっさと外せと言われるかもしれない。その方が、もしかしたらいいのかも、と思ったところで、西園が化野を呼んだ。

「おい大志!」
「なに〜、セイ〜」
「お前、開けんならせめてちゃんと両耳開けてやれ!」
「!?」
「えー、だって正義ちゃんが右耳だけでいいって言うからさー、俺は両耳開けようとしたよ?」

 まさか両耳開けろと言われるのは予想外だった。耳の痛みは確かにもう引いていたけど、あれをもう一度やれ、と言われると、ちょっと……。ドキドキしながら西園の動向を見守っていると、胡乱な目つきで西園に睨まれた。

「……っ!?」
「小波、お前さあ、ピアスの意味くらい調べろ、マジで」
「…………? ……?」
「……あとで俺が左開けてやる」
「うわっ、セイやらし〜、俺が貫通してやるぜって、引くわー」
「んな言い方してねえだろが!」
「つーか、開けるんだったら俺がやるし、引っ込んでろアホ」
「は? アホはおめーだ」
「お、にっしーと大志喧嘩? マ?」
「俺大志に百円〜」
「んじゃ俺にっしーに百円」
「ざけんなお前ら!」
「やるぜよセイ!」
「やんねーよ馬鹿!」

 そんなことを話している内に、再びチャイムが鳴ってしまった。呆れ顔の西園に怒られて、家に帰るとお母さんにも怒られた。そして勇気には軽蔑したような目で見られてしまった。
 心が折れたから、やっぱり僕にピアスは似合わないんだと思う。化野には悪いけど、ピアスはそのうち外そうと思った。

終わり

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