エイプリルフール番外

エイプリルフールに書いた番外編です。
西園視点です。


 四月一日はエイプリルフール。四月馬鹿の日。
 嘘をついてもいい日だってことは、俺らみたいなバカ校のバカでも知ってるくらいの常識だ。いやむしろ、こんな学校だからこそ、そういう馬鹿げた行事に全力で乗るのかもしれない。
 何しろ、俺らのクラスの王様は、全力で馬鹿だからだ。

「今日はエイプリルフールだから、全員嘘つこうよ」

 と、大志が学校に来て、開口一番に言い放った言葉がそれだ。
 けれど、皆、その言葉よりも、大志の容姿ばかりを気にしていたせいか、大して耳に入っていなかった。

「た、大志……?」
「なんだい、佐々木くん」
「おま、そのカッコどーした〜!?」
「やべー!」
「普段のお面より逆にやばい!」

 そして襲ってくる爆笑の渦。
 普段の大志は、髪の毛は染めてるしピアスもしてるし、制服も着崩して机はぐちゃぐちゃ。チャラッチャラした馬鹿を見た目から体現しているのに、今日はどうだ。
 髪の毛は黒くきちんと整えられ、普段着崩している制服も、きっちり詰め襟までボタンを閉じている。なんなら眼鏡とかしてる。お前視力2.0だろ。その腕の「風紀」って腕章どっから取ってきた。見た目だけは、普段の馬鹿っぽさからはかけ離れた優等生となっていた。
 クラス全員で大志が狂ったと笑う中、大志はキリリとした表情を崩さず、眼鏡の位置を整えながら言った。

「いいだろう。せっかくのエイプリルフールだし、どうせなら普段しないことしてみようと思ったんだ。でも俺一人だとつまんねーし? だからみんなでしよーよ、楽しそうだし」

 と、途中からキャラぶれしつつも、その姿格好は傍から見れば優等生そのものだ。きちんとした身のこなしに、背筋の伸びた、姿勢のいい立ち振る舞い。意外と黒髪も似合っている。
 皆、最初は笑っていたけど、大志のその姿に心動かされるものがあったらしい。結局のところ、大志には、ある種のカリスマがあって、大志がやりたいと言えば、クラスの意向はそっちの方へと流れていってしまう。
 かくして、俺らのクラスは本日限定で、普段とは逆バージョンでお送りします、となってしまった。

「うーわ、にっしー似合わねっ」
「うるせー、お前も似合ってねえよ」
「井上は普段より逆にちょっとチャラくなってんのウケるな」
「若干真面目な方がモテんだよね」
「別に頭よくねーのに、俺のがテストとか点数上じゃん?」
「うるせーな余計なお世話だよ」
「なんか中途半端ー」

 普段は赤だの金だの茶だの青だの緑だの、校則を無視した髪色の奴ばっかの教室が、今日ばかりは黒一色に染まっていた。まるで普通の学校みたいだ。大志が持ってきた毛染めスプレーのせいらしい。
 皆、着崩したり改造していた制服をできるだけ整え、真面目っぽい格好をして、筆記用具や教科書を準備し、かつ席に着席する姿は、担任の動揺を誘った。なんなら一度教室を出て行った。それが面白かったからか、クラス一丸となって、今日は一日このスタイルでいようという話になってしまった。
 俺も大志に言われて、普段は開けてる第二ボタンも、今日は第一まできっちりしめていた。正直堅苦しくて仕方がないが、ここで乗らないほど空気が読めない訳でもない。なんだかんだ、大志のやることは面白いってのもある。まあ、めんどくなったらやめればいいだけだし。だからこそ、クラスの奴らも大志の言葉に乗ったんだろう。
 普段パンツが見えてるギャルも、第二どころか第四くらいまでボタン開けてる馬鹿も、今日ばかりはこぞって真面目スタイルだ。大志が先導を切ったんだから、半端なふざけ方はつまらない。
 それはもちろん、このクラスにいる全員に適応される。つまり……。

「小波くん、おはよう」
「………………」

 もちろん、小波だって例外では無いわけだ。爽やかな学級委員長ばりの笑顔を向けられた小波は、大志を一瞥して視線を逸らした。
 大志お気に入りの小波だが、ここで小波だけこの逆転ブームに乗らないという考えは無かったようで、小波は普段きっちり着込んでいる制服を着崩していた。生憎、狐面を外してしゃべり倒すキャラに転身とまでは行かなかったようだけど、普段真面目な小波とは逆に、ちょっと不真面目な格好になっていた。
 というか、大志に着崩されていた。はっきり言って全然似合ってなかったが、小波は特に逆らうこともせず、今日はこうだからね、という大志の言葉に、こくこくと頷いていた。
 小波は髪の毛を染めていないので、女子が持っていたヘアアクセサリーで遊ばれ、ヘアピンで髪の毛を留められていた。着崩された制服のまま、机に脚を乗せたスタイルで腕を組んでいる。ごちゃごちゃしすぎてわけわかんなくなってね?
 ってか耳真っ赤だな。正直恥ずかしいだろあれ。

「小波くん、君、ちゃんと宿題はやってきたかい?」
「…………」

 大志に問われ、頷いてノートを取り出そうとした小波が、はっとしたように首を振った。そんな小波に大志はやれやれ、とでも言うように息を吐く。

「きちんとやってこいと昨日先生に言われただろう。貸したまえ。僕が教えてあげよう」
「………………」

 小波は大志の発言に若干引いてはいるものの、一応提示した設定は覚えているらしく、普段は女子より小さい字を書いている癖に、ノートに大きく殴り書いて、大志に提示した。
 ノートにはこう書いてある。
 【俺に気安く話しかけるな】

「ぷっ……」
「おい、笑うなって」
「だってさぁ……」

 大志が吹き出したことによって、さっきまで赤かった小波の耳が更に赤くなる。いや、でも正直俺もやばい。クラスの奴らは、小波のことを謎のキャラだと思ってるから知らないかもしれないけど、こいつは普段こんなことを言うような奴じゃない。
 字も小さいし、気も小さいし、このクラスで唯一真面目に宿題とかしてきちゃうような奴だぞ。大志なんて高校に入ってから宿題なんて一度もしたことがないのに。
 そんな奴がこんなこと……あ、やべ、俺も笑いそ……。笑いを堪えていると、大志が頬をピクピクさせながら俺の席を陣取った。取るなよ俺の席を。

「こ、小波くん。君、そんな尖ってていいのかね」
「…………」
「そんなんじゃ不良になってしまいますよ!」
「つーか大志お前何なのそのしゃべり方」
「佐々木くん! 口の利き方に気をつけたまえ!」
「はぁい、すみませーん委員長ー」

 げらげらと笑う佐々木の声に、俺は小さく息を吐いた。気弱そうに、できるだけおどおどして。

「化野くん、もうやめなよ、小波くんが嫌がってる、僕そういうのよくないと思う」
「……っ! ふっ……!」

 あ、小波お前今ちょっと笑ったろ。つーか笑い堪えてんのか? 肩震えてんぞ。お面被ってるから表情はわからないとか思ってるのかもしんねえけど、お前結構わかりやすいからな。
 つーか大志は隠しもせず爆笑してた。

「ぎゃはははははは!! セイが僕て! よくないよって! ひゃははははは、超きめー! やばっ」
「お前キャラブレんの早すぎんだろ」
「ん? なんのことだい?」
「こえーよ最早」

 下品にあげていた笑い声を引っ込め、顔をすぐにきりりとしたものに戻すと、大志は七三の髪の毛を整えながら眼鏡を押し上げた。後ろでは佐々木と井上が爆笑している。あいつらも大して変わんねえだろ。
 けどまあ、こっちの方が小波の気が楽になるっつんなら、別にいいけど。俺は小波に向き直り、普段凶悪犯っぽい顔をしているよね、と揶揄されがちな眉を八の字にして、眉間に深く刻み込まれた皺をできるだけ排除し、穏やかに笑いかけた。
 うっ、頬が引き攣る……!

「小波くん、化野くんがごめんね。彼ちょっと空気が読めてないから」
「はぁ? どういう意味だね西園くん」
「そのままの意味だよ」
「失礼だぞ君!」
「お気に障ったなら謝るよ」
「……っ〜〜〜!!」

 あ、小波が肩を震わせて出ていった。でもノートには律儀に【うるせえぞ!】ってちゃんと書いて出てった。そういうところが真面目なんだよ。
 別に面白かったんならここで声上げて笑っても良いけど、あいつはそういうこと出来なそうだもんな。
 教室から駆けていった小波の背中を目で追いながら、大志が口を尖らせた。

「あーあ、正義ちゃん逃げちゃった。でも面白いからいっか〜、あーかわい」
「……お前、実は小波が見たかっただけだろ」
「バレた? 新鮮だったよね〜、どうせなら俺のピアス開けてやればよかったかな」
「やめてやれ」
「うわっ、なんか口に出したらすっげーいい案に思えてきた。ちょー、誰かピアッサーか安ピン持ってね!?」
「だっからやーめろって! それ今日一日じゃすまねえだろ!」
「そうだけど?」
「あ?」
「この遊びは一日限定だけど、俺のピアスを正義ちゃんがつけてるのは一日限定よりずっとの方がいいじゃん。やべっ、アガるわ〜! お揃いのピアス買っちゃおっかな〜」
「………………そういう不真面目なのは、どうかと思うな化野君」

 俺が真面目ぶってそう言うと、大志は冗談なのか本気なのかわからない目で笑った。お気に入りなのか、くいっと眼鏡を押し上げて笑う。

「そろそろ授業が始まりますね。クラス委員長として、出て行った不良を呼び戻しにいかなければ。それでは西園君! 僕は彼を呼び戻しに行って来ますから、あとはよろしくお願いしますよ! アディオス!」

 そう言って、大志は教室を出て行った。
 チャイムが鳴り、一日限定のエイプリルフール教室は、真面目な授業風景が繰り広げられる。教師は若干怯えていたが、物珍しさはあった。

「にっしー、大志は?」
「あー、化野君は小波くんを呼び戻しにいきました」
「ぶはっ、だからそれやめろって」

 笑う佐々木を横目で見ながら、俺は教室のドアを見る。走り去っていった大志と小波の姿は、もうどこにもない。

 勿論、大志は小波を連れて教室に戻ってなんてこなかった。
 

 

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