「林道さん、これ、お土産です」
「なにこれ」
「スタッフの方がくれました。温めて食べるといいそうです」
「冷凍肉まんね、……お前、そのまま食って美味いか?」
「林道さんも食べます?」
「俺は温めてから食うよ。………………って、レンジが凍ってる!?」
「すみません、昨日やっちゃいました」
「何度目だバカヤロー!」

 雪が読者モデルに選ばれてから、結構日が経った。未だに物を壊されたり凍らされたりすることはあるけれど、最初よりかは大分慣れたと思う。雪に収入が出来たので、前より生活がきつくないというのも理由の一つかもしれないが、一日に俺が説教する回数が減った。常識はずれな雪を窘める回数は、多分……前よりかは少なくなったと思う。不思議に思っていた履歴書とか経歴も、よくわからないけど、なんとかなったらしい。どうやったかは知らん。妖怪パワーかな。
「凍っていても食べれますよ。美味しいです。どうぞ、あーん」
「するか馬鹿、美味くないだろ、あーあ……」
 俺は凍っているレンジをタオルで拭きながら、冷たい肉まんを頬張っている雪を見た。モデルにしては乏しい表情、何処を見ているんだかわからない目。顔は確かにいいけれど、はっきり言って、扱いにくい奴だ。こりゃあ持て余されて、職場でいじめられるだろと思っていた。なった当初は。しかし、雑誌では今結構人気があるらしい。今度はCMにチョイ役として出るとかなんとか。この不審な態度ですぐにおかしな奴だとクビにされるんじゃないかと思ったのに、意外にもその不思議キャラが受けたらしい。
 熱い物が苦手、冷たい物が大好きと公言してはばからない雪は氷系男性モデルとして、女子に絶大な人気を誇っているらしい。それを聞いた瞬間、俺はアホかと吐き捨てた。なんでも有りだなこの世の中。なんだよ氷系男性モデルって。クールな雰囲気が素敵とか世の中の女たちは言っているらしいが、こいつはクールじゃなくて何も考えていないだけだ。未だに凍ったままの肉まんを食っている雪を見て、俺は舌打ちする。
「どうしたんですか? 林道さん」
「いや別に……溶けろよお前」
「またそういうことを言う」
「嬉しそうにすんな」
 こいつに罵倒は逆効果だ。 俺は仕方なく凍っているレンジに手をあてる。
「はあ……、これ、また動いてくれるかなあ」
「蒸し器で蒸すという方法もありますよ」
「完全に他人ごとかよ。つーか蒸し器なんて持ってねーよ」
 けど、こいつは確実に、此処に来た当初よりも常識を学びつつある。最初に来た時は、解凍や温めたりするレンジのことを親の仇のような目で見ていたけど、今じゃ冷たい物を俺に渡して「チンして食べてください」とまで言うようになった。まあ今ぶっ壊したけど。それでも最初は蒸し器だって、知らなかったんだ。人間の世界では当たり前にあるものを、全然知らなかった。だけど、今は大抵のことはわかるようになっている。ゲームだって上達した。コントローラーを凍らすことはなくなったし、むしろ、カーアクションや格闘ゲーなんかは、俺よりもうまいくらいだ。
つまり、前に比べたらこいつはかなり人間の世界に馴染んでいるんじゃないかと思う。
「林道さん、食べれないなら僕食べてもいいですか」
「なあ雪」
「はい?」
「お前、ここから出ていかねえの?」
「えっ」
 そういうと、雪は普段は眠たげな瞳を若干大きくして、俺を見た。元々、こいつが俺の部屋にいるのは、人間の世界のことを学ぶため、とかよくわかんねえ理由で通りすがりの俺を師匠として勝手に居着いたからだ。まあ、俺はこいつに大して何もしてないし、していたと言えばせいぜい一緒にゲームして飯食って、だらだらしてたくらいだけど。でも、もう雪もこの人間界の大抵の事はわかっているように見える。少なくとも、、モデルなんてやってるんだから、うまく世間に馴染んでいるんだろう。だったら、もうここにいる必要はないのかもしれない。そもそも、ここにいること自体がおかしいんだ。
「林道さん……」
「…………ん」
「そんなに肉まん食べたかったんですか? わかりました。ちょっと買ってくるので待っていてください」
「いやいやいや、そうじゃねえよ! つーかお前が買って来たら俺の所着くまでにまた凍って意味ねーから!」
 部屋を出る雪を寸前で止める。掴んだ手は、相変わらず冷たい。何でここで俺が肉まんを食いたくて怒ってるってことになるんだ。それならレンジでも買ってくれ。いや、そうじゃなくて。
「肉まんはいいんだよ。別にどうでも。そうじゃなくて、お前、もう俺の所出ていっても問題ないんじゃねえの?」
 握ったままの冷たい手を見る。こいつって、ちょっとやそっとの体温じゃ平気だけど、俺以外の奴に触られて「冷たい」と驚かれることってないのかな。しばらく掴んでいると、珍しいことに雪が俺の手の上に手を重ねてきた。重ねた瞬間、雪の手の温度が下がって一瞬で俺の手が凍りそうになった。この感覚、久しぶり。最近体温調節のコツを覚えていたから、尚更だ。
「いってえええええ! つ、冷たっ、痛っ冷た痛いっ」
「林道さん」
「悪い! お前からすると俺の手って熱いんだっけ! 触って悪かったから、で早く温度下げてくれ、凍る!」
「はい」
 そういって、握っていた手を放すと、雪が俺の方をじっと見た。俺はすっかり冷え切った手を水道から流れるお湯に浸した。マジいってえ。俺が手をお湯に浸している間も、雪はその表情の読み取りにくい目を俺に向けていた。日本人にはありえない色の瞳に射抜かれて、少しドギマギする。
「な、なんだよ……」
「……林道さんは、そんなに僕が嫌いなんですか?」
「はあ?」
「だから、出ていってほしいんですね」
「別に……そういうわけじゃないっつの」
 最初こそどうやって溶かすか、追い出すか考えていたけど、最近は、こいつと過ごすのも結構楽しい。まあ、悪くない。コントローラー凍らすこともなくなったし、一緒に遊んだり、帰ってきたら家で話したり、テレビ見て素っ頓狂なこと言う雪に突っ込んだりするのは、友達の少ない俺としちゃ楽しかった。家賃も折半だし。家具を凍らされるのは勘弁だけど、 一緒に暮らすのも悪くないとまで思ってた。でも、だからと言ってこのまま俺の所にいてもどうしようもないんじゃないか。ずっとこの生活が続くわけでもないし。
「嫌いじゃないなら、どうしてですか」
「いや、だってお前、俺を人間界に馴染む為の師匠にするとか言ってたじゃん。もうお前十分馴染んでるし……必要ないかなって」
「…………僕が、人間に馴染むと、林道さんから離れなくちゃいけないんですか」
「あー……まあ……いや、レンジ凍らせてる時点で馴染んでるか微妙だけどでも仕事もきちんとできてるみてえだし……」
「わかりました」
「え」
 何が、と問いかける前に、雪は玄関の方へと歩き出す。
「出ていきますね。今までありがとうございました、林道さん」
「は」
「それでは」
 俺が何かを言う前に、雪は部屋を出ていった。伸ばした手が空を掴む。そりゃもう、あっさりと出ていった。ためらいもなく。閉じる玄関の無機質な音が、部屋の中へと鳴り響く。
がしゃん、と。まるで今までの生活や環境全てを断ち切るように。
「…………マジかよ」
 こんなに簡単に出ていくなんて、正直思っていなかった。実際、何かよくわからないこといかにもっぽく言って居座ると思っていたのに。俺はショックを受けている自分に対して、さらにショックを受けた。 いや、別にショックを受ける必要性はないんだ。だってあいつただの居候だし。気が付けばいただけだし。むしろ氷漬けにされたり部屋のもの凍らされたりする可能性がなくなったことを喜べばいい。
 もう俺の好きなゲームのキャラ馬鹿にされたり、苛つかされることはないんだ。喜べ俺、よろこべ。
「……結構簡単に出てったなあいつ」
 割と仲良くなったような気がしていたけど、それは俺の勘違いだったようだ。そもそもあいつは、冷たかったりする俺の方が好きなんだから、変に友情感じてたら気持ち悪いのかもしれないな。それに、あいつだってもう働いてるんだ。顔いいから、最悪あいつの母ちゃんの言うとおり、どこかの女のヒモにでもなって住むところだって確保できるだろう。そういえばあつらって年とか取るのかな。いや、今更なんでこんなこと考えてんだもう、関係ないんだから、考える必要なんてないだろ。
「……寝よ」
 バイトまで時間がある。だから、それまで寝よう。寝て起きたら忘れるだろ。


 目が覚めても、雪は戻っていなかった。
 それから何日か経ったけれど、やっぱり雪は戻ってこなかった。
 俺はすっかり、雪が来る前の生活サイクルに戻りつつあった。日々のバイトをこなし、生活費稼いで、楽しみにしているゲームを買って、家でやりつくす、その繰り返し。前まではそれが当たり前だし楽しかった。いや、今だって十分楽しい。邪魔されないで出来るんだから。今日だって、前から楽しみにしていたゲームを鞄に入れて、家に帰る途中だ。もうすぐ冬も終わるなあ、と灰色な空を見て思った。
 道路脇に積まれていた雪の塊もすっかり小さくなってきている。あいつがいた時はこれよりももうちょっと大きかったな。
「…………って、えっ!?」
 なんて思っていたら、人が倒れていた。倒れていたというよりも、埋まっていた。此処は人通りの少ない路地裏だ。変質者の通りだ。帰り道には近道だけど、薄暗いし、女の子はあまり近寄らない。けれど、埋まっているその手は、どう見ても女の子の物に見える。さ、殺人? ていうかこのシチュエーション、前にもあった気がするぞ。
 恐る恐る近寄って雪を除いてみると、色白の美少女が、雪の中に埋もれていた。普通に見たら、死んでいる。あるいは、死ぬ寸前だけど……。
「……あのー、寒くないんですか」
 前例があるだけに、俺はとりあえず普通に声をかけてみた。
 すると、その子は長い睫に積もった雪を払うように、目を開く。雪と同じ、アイスブルーの瞳。髪の色は雪とは違う黒色だけど、この娘も日本人には見えない。年のころは14、5と言ったところだろうか。下手したら話しているだけで通報されそうな年頃だ。
「……寒くない」
「はあ……そうすか……。じゃあ……頑張って」
 俺はそのまま通り過ぎた。寒くないというなら、多分雪と同じ雪女かなんかなのだろう。違うにしても変な子なことは間違いない。そういう奴には関わらない方がいい。下手に話して通報されたら厄介だ。それにしても、雪女だったら流行ってるのか? 雪の中に埋まっているところを発見されるの。普通に人間が見たらびっくりすると思うんだけど、雪女の中では常識なのかな。
「ちょっと」
「は?」
 しかし、歩き出そうとする雪の中から出てきた白くて長い手が、俺の裾を掴んだ。今回は転ばせられなかっただけまだマシだけど、岐路を邪魔されたという点では同じだ。俺は面倒そうに振り返る。
「何?」
「何じゃなーい!」
「え」
「何でそのまま素通りしようとするの? こんな可愛い子が雪山に倒れてるんだよ、おかしいでしょ! 普通は駆け寄るでしょ! 大丈夫ですか? って言うでしょ! ボクが息も絶え絶えの瀕死状態だったらどうすんだよ、この人でなし!! 冷血漢!」
「いや、超元気じゃん!?」
 大体、寒くないと雪の中に入りながら言う時点で倒れてないし、大丈夫だろ。普通の人間なら「なんだこいつ怖っ」て感じで関わりたくないに決まっている。それが例え美少女であっても。少なくとも俺は惑わされない。雪の前例があるからな。顔を顰めて相手を見る。雪とは違って、季節に合った格好をしているけど、やはり埋まっている時点で駄目だ。それがすべてを台無しにした。
 客観的に見れば少女は、めっちゃ可愛い。ボーイッシュなショートカットの黒髪に、ボクっ娘。釣り目がちな瞳をさらに吊り上げて俺を睨みつけてくるところは、マニアが見れば垂涎モノだろう。でも俺、ツンデレ萌えとかないし。今はただ逃げたかった。
「もー、雪兄がお世話になってるっていうからどんな奴かと思ったのに!」
「雪兄? あー……君あいつの妹か」
 道理で、なんか似てると思った。性格は正反対のようだけど。もしかしたら、兄を訪ねてきたのだろうか。だとしたら少し可哀想なことをした。せっかく来てもらって悪いけど、お前の兄ちゃんもう俺のところいないんだわ。
「……なんで俺の所にいるって?」
「雑誌で見かけて、ようやく突き止めたの! 此処にいるって聞いたの! だけどあんた冷たい! それでも人間なの?」
「悪いけど、あいつもう俺の所いないよ」
「人間はあったかい生き物だってお母さん言ってた。それなのに埋もれてる人をスルーだなんて……ええええええ!? いないのー!?」
「この間出ていった」
「馬鹿ー!」
「いってーー! 何すんだコラ!」
 パーンと頬を叩かれた。まあそれはあんまり痛くないからいいんだけど、その手が冷たすぎて頬が凍った。慌てて手の熱で氷を落とす。こいつら雪女ってなんですぐ人を凍らせようとするの? 性なの?  どうにかしろよその厄介な性。
「可哀想な雪兄! きっとこの冷血男にボコボコにされて身も心もずたずたにされて出ていったんだ!」
「おい、いきなり殴ってきて何言ってんだ! 言いがかりにも程があるぞ!」
 むしろボコボコにされていたのは俺の方だ。氷漬け的な意味で。つーかこいつうぜえ! 雪も初めて会った瞬間から鬱陶しかったけど、それとはまた違ったタイプのうざさだ。人の話を聞かないところはよく似ているが。
「じゃあなんで雪兄が出ていったの!」
「知るか! もう俺に用が無くなったから出てったんだろ!」
「嘘だー! 絶対家に隠してるでしょ!」
「隠してねえよ!」
「隠してる!」
「隠してない!」
 そう言い合ってるうちに、俺はハッと辺りを見回した。いくら人通りの少ない裏路地とはいえ、こんな所で年下の少女と兄は何処だとか、隠してるとか言い合ってたら怪しさマックスで通報される。ただでさえここ不審者多い道って噂されてるのに。俺自身が不審者として通報されたら笑えない。
「……わかったよ。じゃあ俺の部屋見て、帰れ。それでいいだろ」
「つ、連れ込む気!? ボクが可愛いから!」
「お前マジぶっ飛ばすぞ!」
 初対面でここまで暴言を吐きたくなる女は初めてだ。雪女という種族は、基本的に俺を苛つかせるようにできているのかもしれない。もう付き合ってられないとばかりに踵を返して歩き出す。そもそも、俺は今日発売の新作ゲームをやろうと思ってたんだ。あんな奴らのこと忘れて、楽しくやろう。やっぱり一人が一番だよな、うん。だからあんな女に構ってるヒマはない。そう思ってたのに。なのに。
「…………なんでついてくるんだよ……」
「ついてきてないですうー、同じ方向なだけですうー」
「お兄さん、君のこと一発叩きたいよ……」
 いくら可愛くても性格がアレすぎる。ロリコンならこれでも喜ぶんだろうか。とことこと俺の後ろを着いてくる少女に、溜息を吐いた。この様子だと、多分、なんやかんや言いながら俺の部屋までついてくるんだろうな。来てもあいついないのに。けど、いなかったら諦めて帰るだろうし、もうどうでもいいや。
 そう思って、ついてくる少女に何も言わず、俺は歩を進めた。

 部屋に到着し扉を開ける。当然のように、少女は俺の後ろをぴったりマークしていた。もはや方向が同じとかいう言い訳もない。じろじろと睨みつけるように俺を観察している。好きにしろ。
「……ただいま……」
 ぼそりと、帰りの合図を口にする。前はこれに返答があったけど、今はない。静かな部屋の中に俺の声がむなしく響……
「お帰りなさい、林道さん」
 かなかった! 返ってきた声の向こう側に、雪が立っている。当たり前のような顔をして。
「……せ…………っ!?」
「あーーー! 雪兄!」
 俺が雪の名前を呼ぶよりも一歩早く、少女が俺のことを押しのけて部屋に入り、雪に向かって飛びついた。雪はそれをするりと避けた。そのまま少女は床に落ちる。完全に無視して、雪は玄関に立ち尽くしている俺の前まで来ると、手を引いた。相変わらず、冷たい手。氷みたいだ。つーかお前、今結構ひどいことしたけど大丈夫か。
「遅かったですね。林道さん、外寒かったでしょう。レンジ買ったんで、ココア温めて飲むといいですよ」
「うん……や、お前の手の方が冷てえよ……いや、じゃなくて!」
「はい、レンジは僕の働いたお金で買ったので大丈夫ですよ」
「いやいやいや……、そこじゃねえよ、お前出ていったんじゃないの!?」
「出ていきましたよ」
 ケロリとした表情で、雪は答える。出ていきましたよ。じゃねえよ、ならどうして、当たり前のように此処にいるんだ。つーかそこに転がってる女の子お前の妹なんだろ。名前を呼びながら抱き着いてきた妹避けてしかもスルーってお前。言いたいことがあり過ぎて、逆に何も言えなかった。すると、雪は何かを察したようにまごついている俺の手を引っ張って、テレビをつけた。現われた画面の中では、ニュース番組が報道されている。特番だろうか、キャスターがやけに慌てた様子で中継と話していた。
「僕が人間の世界に馴染むと、林道さんの家を出ていかなければいけないようなので」
「……っ……!?」
「僕が、まだまだ常識を知らないということを、林道さんに教えておこうと思って、しばらく留守にしていました」

 『大変です! これは一体何事でしょう!』『電波塔や、高い建物が軒並み凍り付いております!』『幸い被害者は出ておりませんが……』『突然の異常気象! これは一体……!?』『住民の皆様はすぐに避難してください!』

 ニュースで報道されている事件は、およそ人間に出来るようなことじゃない。ビルや電信柱、電波塔、高い建造物が軒並み氷漬けになっている、非常に不思議な光景を報道するニュースだった。バラバラと飛ぶヘリコプター。野次馬が集まる中、異常気象か、という煽りと共に、学者やらがテレビの中で議論を始めている。俺が目だけを動かして雪を見ると、雪にしては珍しく、にこりと微笑んだ。
「林道さん、僕、こんなことしちゃうんですけど、これでもまだ、人間世界に馴染んでると思います?」
「…………いや、……思わない……かな……」
「じゃあ、これからもよろしくお願いします」
 そういって、雪は俺を抱きしめた。体はやっぱり冷たいんだけど、何故か顔だけは赤い。こいつでも赤面とかしたりするんだろうか。雪女にとって人間の体温って熱いんじゃなったっけ? しかし、雪が俺を離す気配はない。つーか、あんな高い建造物氷漬けにするとかどんだけだよ。今まで雪女という種族のこと、人を呪ったり氷漬けにしたりするくらいしか出来ないと思っていたけど、あんなことまで出来るのか。
 俺はこれから一体どうすれば……。そう思っていると、突然間に少女が割り込んできた。
「無視すんなー!」
「うおっ」
「あ」
「雪兄! なんで無視すんのー! せっかく会えたのに!」
 抱き着いたと思ったら避けられてその後放置されていた可哀想な少女が、若干涙目で雪を睨みつけた。雪は改めて少女を見る。
「六花、いたんですか」
「最初に抱き着いたよ!?」
「そうですか、邪魔しないでください」
「邪魔って何!? ボクはこんなに可愛いのに、雪兄には可愛くないの!?」
「はい」
 正直すぎるだろ。せめてもう少しオブラートに包んでやれよ。
「馬鹿ー! うわああああん!」
 ほら、案の定泣き出した。
「……雪、お前、ちょっとひどいんじゃ……せっかく会いに来た妹なんだろ」
 内心散々うざがった俺が言えた義理じゃないかもしれないけど、実の妹ならもう少し優しくしてやってもいいんじゃないだろうか。そう思って言うと、雪はしれっとした顔で答えた。
「六花は妹じゃありませんよ」
「えっ?」
「女性ではないので、弟と呼ぶべきかと」
「え、えっ?」
「もーっ、雪兄! そういうこと言わないでっ こっちの方が馬鹿な人間は騙されやすいんだよ?」
 六花という少女、そう、完璧に少女に見えるが……少年? は、照れたように雪の肩を叩いた。が、全部避けられていた。実は仲悪いのかこいつら。いや、雪が一方的に避けているだけかもしれない。つーか……お、男? これで? 確かに華奢だけど胸はないし、でも、服も一人称も完璧に女の子に見えるんだけど……。俺がまじまじと見つめていると、六花は俺をうざそうに見てきた。
「ちょっと、ボクが可愛いからってあんまり見ないでっ、ボクを見ていいのは雪兄だけなんだからね!」
「なっ……」
「六花、うるさいです」
「うわあああん! 雪兄が怒ったーー!」
「それに林道さん、仮に六花が妹でも、僕妹属性ないんで、態度は変わりません」
 泣いている六花をガン無視しながら言い放った雪の向こう側のパソコンには、普段俺がやっているギャルゲのキャラクターが表示されていた。色々言いたいことはあるけど、なんだか力が抜けてしまった。じゃあ、仕方ないということにしておこう。
 そう思うと同時に、やっぱりお前やっぱり人間社会に結構馴染んでるんじゃ、とも思ったけど、また氷漬けにされる訳にもいかないので、それは言わないことにした。



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