俺の名前は林道(りんどう) 時雨(しぐれ)ある日道端を歩いていたら可愛い女の子が倒れていた! その子はなんと雪女で、さらに俺のことを気にいって、一緒に住むと言い出した。人間界のことを色々教えてほしいって……い、一体これから俺はどうなるんだ〜!?
「とかだったらまだよかったのに……」
 部屋の中で、盛大なため息を吐いた。現実はそう甘くないのだ。ハードモードなんだ。いや、むしろこれ現実か? ゲームばっかりしていたせいか、現実がもうかすんで見えてきた。現実とゲームの区別がつかないって、大分やばいレベルまで来ているぞ、俺。しっかりしろ。
「どうかしましたか、林道さん」
「あんたが女の子だったら、俺はまだこの状態を歓迎できていたかもしれないと思ってさ」
「見ます? ついてますけど」
「見ねえよ……」
 そうですか、と、至極どうでも良さそうに呟く男は雪女。男の癖に雪女とはどういう了見だと突っ込みたいが、言うところによると、雪男は全身が毛に覆われているらしく決して人里へ降りてこないらしい。この男は母親似で、雪女族の血を色濃く受け継いでいる為、雪女と名乗っているのだという。紛らわしいよ。そしてどうしてお前は父親に似なかったんだ。父親に似ていたならば、人里に降りてくることもなく、俺は平和に暮らせていたというのに。
「ところで林道さん、僕には雪(せつ)というれっきとした名前があるので、出来ればその名で呼んで下さい」
「お前の親、名前つけるの面倒くさかったの? 安直すぎるだろ」
「親がつけた名前を馬鹿にするなんてあなたは本当に冷たい人ですね」
「なんで笑顔なんだよ怖えーな、やめろよ」
 雪が俺の部屋に住み着いて三日程経つが、最近こいつは少しMッ気があるんじゃないかと思い始めた。普通、冷たくされて嬉しいと感じる人間はいない。いや、こいつは人間ではなく雪女なのだから、その定義は当てはまらないのかもしれないが。冷たさというものに快感と言うか喜びを覚えているように見える。俺が冷たい態度を取る度に嬉しそうにする。正直きもい。若干の距離を取りつつ、コントローラーを操作した。
「はぁ〜、本当はもっと集中してやりたいのに……」
「林道さん、この間からずっとその絡繰りで遊んでますね。面白いんですか?」
「絡繰りってお前……レトロか。ゲームって言えよ」
 現在、俺は新作のゲームをプレイ中だ。基本的に新作を買ったら寝る間も惜しんで没頭してしまう為、普段は食べることすらおろそかになってしまいがちだが、雪は料理が出来るので、餓死することはない。ただし冷たい料理しか作れないので、風邪を引く確率が高いのが難点だ。今やっているのは恋愛シュミレーションゲーム、好みの子を落としていくものなのだが、一通りのエンディングは見たいので何週もする。しかしやってる最中何度も話しかけられるものだから、まるで集中出来ない。雪が後ろから俺のパソコン画面をのぞきこんでくる。俺は視線を逸らさず答えた。
「ああ、面白いよ」
「そうなんですか。ところでどうして彼女達はこんなに目が大きいんですか?」
「そういうもんなんだよ」
「髪の色もカラフルですね。こんな人間いませんよ」
「……いいだろ別に」
「『あ、あんた……今パンツ見たでしょ!?』 こういう短いスカートを穿いているからだと思います」
「うるせえよ! ていうか声色変えんなきめぇ!」
「好きじゃないなら一緒にいなければいいのに、どうして彼女はついてくるんですか?」
「いや、だから……」
「っていうか、林道さんはこれの何が楽しいんですか?」
「くっ……!」
 駄目だ。こいつとはまるで解り合えない! 解り合える気がしない! むしろ敵だ! もう根本的に考え方が違う。
「ふ、ふん……これが解らないようじゃお前は絶対に人間界に馴染めないな!」
 悔し紛れにそう叫んだ。どうせお前みたいなイケメンはこんな恋愛ゲームしなくても現実の女入れ食い状態だろうよ。やる必要なんてないんだろうよ。でもな、こういうのは理屈じゃないんだ。 俺はゲームと名のつくものはなんでも好きだけど、こういう恋愛アドベンチャー的なものは特に好きだ。だから、それを馬鹿にされるのは少し腹が立つ。腹が立つっていうか腸が煮えくり返るよ。燃えて死ね。
「そうなんですか?」
 すると雪が驚いたように聞いて来た。こいつは人間世界に馴染むという言葉に妙に食いついてくる。それから、興味深そうにまた画面を覗き込んだ。ひんやりとした空気が流れてはくるけれど、初めて会った時ほどじゃない。どうやらある程度体温の調節は出来るらしい。じゃないとこの部屋で生きていくことなんて出来ないだろう。最初は部屋の外で暮らすといっていたけれど
 『この家の外にかまくらを作って、そこで暮らしても大丈夫です』
 『やめろよ! 俺がご近所に変な目で見られるだろ!? あとそんな人間いねーよ!』
 というやり取りの元取止めになった。
 いっそストーブの熱で溶けないだろうか、とか考えたけど、雪女って結構頑丈。残念。
「なるほど、これを理解すれば僕は人間になれるんですね」
「いや、人間にはなれないだろ」
「まぁ別に人間になりたいと思ってないのでそれはいいのですが」
「思ってねーのかよ! じゃあ言うなよ!」
「でも人間社会には溶け込みたいと思ってます。林道さん、僕にもそのげーむ、やらせてください」
「えぇー……まだコンプしてないのに……しかもあんた壊しそうだし」
「大丈夫です、壊したら幻で壊れてないように見せますから」
「何も大丈夫じゃないだろそれ、全然駄目だよ」
「やらせてくれないんですか、林道さん。僕、とても悲しいです……」
 その瞬間、部屋の中に冷気が漂い、隅からどんどん凍り始めた。観葉植物が氷漬けになって、足元がいつの間にか凍り付いている。パキパキ、と冷たい音を聞いて、俺の顔も青ざめた。こ、凍らされる!
「いや嘘、嘘! 好きなだけやれよ!」
「ありがとうございます。林道さんならそういってくれるって、僕信じてました」
「あんた絶対人間界に馴染めない……」
 まず人を氷漬けにするって脅している時点で信頼関係とか築けないしな。溝は深まるばっかりだ。しかし雪はそんな俺の言葉など、最早聞いていないらしい。コントローラーを握り締め、真剣な眼差しでプレイし始めた。ピンク髪のヒロインに向かって操作する。しかしゲーム初心者のためか、選択肢は死亡フラグたちまくりなものしか選択していない。こりゃ駄目だ。
「……俺バイト行って来るから」
「わかりました」
 わき目も振らずに言い放ったが、ニートかてめえは。お前も働けと言いたいが、俺も親から仕送りを貰っている現状なのでそう強いこともいえない。早いところ出て行ってほしいなあ、なんて考えながら、俺は家を出た。

***

 バイトを終えて、家に帰ると、扉を開けた瞬間雪に抱きつかれた。体が凄い勢いで凍った。
「ぎゃあああああああ! 痛いいいいいいい!!」
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
「誰がお兄ちゃんだ! ちょ、お湯! 死ぬ!」
「あ、すみません。体温調節忘れてました。そーれ」
 うっかりしたように発言すると、雪が俺を風呂場に放り投げた。大きな音を立てて湯船に落とされる俺。しかも服着たまま。……こいつ、実は俺を殺そうとしているんじゃないだろうか。よしんば殺すつもりがなくてもいずれ殺されるんじゃないだろうか。そんな不安が胸を過ぎる。お湯が張ってある風呂の中で、走馬灯を見ながら早くなんとかしなくてはと真剣に考えた。

 湯船から這い上がると、俺は全濡れになってしまった服を脱ぎながら、雪を睨みつけた。
「……雪……てめー」
「ご飯にする? お風呂にする? それとも僕? って聞きたかったんですけど、林道さんもうお風呂に入ってしまったんですね」
「お前が放り込んだんだろ!」
「お湯って言うものですから……」
「凍らされたら死ぬからね! 俺!」
「人間って不便ですねえ」
 何故かやれやれとでも言いたげな顔をする雪。ふっ、ふざけんな。別に日常生活において氷漬けになることはないから不便でもなんでもねーんだよ! 大体さっきの薄ら寒い演技はなんのつもりだ。心まで凍りそうになってしまった。
「なんなんだよ、お兄ちゃんって」
「人間はお兄ちゃんと呼ばれると無条件に従うのだと、あのげーむで学びました」
「あんた何も学んでないな、あれは妹だから許されるんだよ!」
「いもうと」
「そう、妹!」
「僕はどうすれば林道さんの妹になれますか?」
「なれねーよ、お前男だろ」
 それ以前に身長190cm超の妹なんて欲しくない。しょんぼりと俯く雪を見て、こいつは影響を受けやすい奴だということを確信した。そして、出来るだけゲームに触れさせないようにしようと決意もする。 恋愛ゲームならまだいい。命に関わることはないだろうから(今死にそうだったけど)だけどこれで格ゲーでもやらせてみろ、確実に俺は殺される。具体的に言うと、凍らされて砕かれる。そんな最期ごめんだ。
 服を着終えると、未だにがっかりしている雪の体に触れないように、俺はにっこり笑いかけた。
「まあそう気を落とすなよ、お前はゲームなんてしなくてもかっこいいだろ?」
「林道さん……」
「だから二度と俺のゲームに手を触れるな。な?」
 よく見たらコントローラーが凍っている。なんてことしやがる。
「すみません、うっかりしてました」
「ははは……」
「こういうときはそっとキスをすればいいのでしょうか?」
「は、は、は。絶対やめろよ?」
 いやマジで。
「はぁ……しかしなんだか、優しい林道さんは気持ち悪いですね」
「うるっせえよ」
 もう二度とこいつに遊ばせるもんか。目につかない所にしまっておこう。


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