一方通行通知


※攻め視点



【お腹空いたー】【もう帰りたい】【あ〜〜、眠い、次の授業は寝るか……】【もう最悪! 生理なのにナプキン忘れて来ちゃった!】【だっりぃ……】【動画でも見よっと】【次どこの教室移動だっけ】【あとで謝りに行こうかな……】【死ねよあいつマジで】【あ〜、萎える……】【今日は帰りに本屋よってこっと】【うわ、ネイル取れてる】【はぁ〜、今日も東くん恰好いい】【頭痛い……帰ろうかな】【げっ、あいつからラインきてるじゃん。無視しとこ】

 今日も今日とて、俺の世界は騒がしい。
 がんがん響く人の声。ああ、うるっせえな、全員死んでくれないかな。今すぐ隕石でも落ちてきて、俺以外全員いなくなりゃいいのに。
 教室の中、頭に響く人の声に、俺は少しだけ目を閉じる。すると、後ろから誰かが近づいてきた。

「東くん」
「ん?」
「あのね、進路相談の用紙、今日までなんだけど……ほら、私クラス委員だから集めてて」
「ああ、ごめんね。はいこれ」
「あ、うん。ありがとう」

 俺が進路希望の用紙を手渡すと、それを受け取った子は笑顔を向ける。
 【ラッキー、東くんと話しちゃった。こっそり進路希望先見ちゃおうっと】
 同時に頭に響いてくる声。あーあ、念のため用紙コピーしておいてよかった。あとで本当のやつ書いて、直接担任に出しにいかなきゃ。頭に響いてくる声の音量を絞りながら、俺は小さく息を吐いた。

 テレパシー、精神感応。
 超感覚能力、有り体に言えば超能力。人の考えていることが、直接頭に入ってくる。昔に比べると、今は大分調節できるようになったけど、油断していると人の声が勝手に頭に流れ込んでくるから、最悪だ。
 そう、最悪。
 子供の頃から聞こえてきた声に、俺の頭も精神もよく壊れなかったと思うよ。人の汚い部分がダイレクトに見えるんだから、そりゃ荒みもするっての。
 しかもこれは、超能力的に言えば多分、不完全なものだ。向こうからの声は聞こえるけど、こっちの声を届けることはでいないし、ただ垂れ流される声にうんざりするだけ。何個もテレビを置いた部屋の中心にいるみたいだ。
 一時期この超能力を使って何か大きなことでもやれないだろうかと考えたこともあるけど、面倒だったからやめた。
 それよりも、俺は自分の世界を構築していく方が重要だ。この体質じゃあ、人の評価がイヤでも耳に入ってくる。評価なんて気にしなけりゃいいって? でも、気になるものは気になるだろ。
 一日中気を張っている訳にも行かないし、気を緩めると、俺に対する「評価」が俺を品定めしてくる。俺はその評価を下げないように必死だった。
 でも、そんな中、一人だけ声が聞こえない奴がいた。
 教室に入ってきた男に、俺は笑いかけた。

「あ、榮太郎、おはよう」
「ああ、おはよう東……」
 
 小さく手を挙げた男に、俺も笑顔を向ける。
 そう、こいつ。倉重 榮太郎(くらしげ えいたろう)だけは、俺が声を聞こうと試みても、聞くことが出来ない唯一の人間だった。
 なんで聞こえないのかはわからないし、同じクラスになった時から聞こえなかったから、探る為に何度か話しかけたりもしたけど、結局声は聞こえなくて、それ以来ずっと気になっている。
 黒い髪に、釣り目がちの瞳、顔は男にしてはちょっと小さいだろうか。薄い唇に、どちらかと言えば印象の薄い顔。背は俺と同じくらいか、ちょい下って感じ? まあ、言うなれば平均的。困ったときに、笑う癖があるらしく、焦ってるときでも笑ってへらへらすんなって怒られたりしてるのを見たことがある。
 榮太郎は、まあいわゆる普通の男子高校生で、多分だけど……。

「あ、おはよー榮太郎」
「かん奈、おはよう」
「ちょっとー、なんで今日起こしてくんなかったの? 朝練遅刻するところだったじゃん!」
「俺の方が朝遅いのに?」
「やー、でも榮太郎なら起こしてくれるかなって」
「あはは……なんだそれ」

 多分、幼なじみであるかん奈のことが好き。
 そんなの心を読まなくてもわかる。普段、俺にいやというほど好意を向けてくる目は、見慣れているから。視線の意味くらい、わかってる。
 ただ、そのかん奈ちゃんは俺の方が好きらしいけど。

「あ、お、おはよ東くんっ!」
「かん奈ちゃん、おはよー」

 俺が手を振ると、かん奈ちゃんは顔を赤くして、榮太郎の背中をばしばしと叩いてた。
 【あ〜、もう、東君今日もやばいくらいかっこいい! 好き! 超好き!】
 ストレートな好意は嫌いじゃない。いや、むしろこれを向けられるのが好きだからこそ、こういうキャラを作っているのかもしれない。
 作り上げられたキャラクターってのは、維持するのもなかなか大変だ。俺が少しでも意に添わない行為をすれば、心の中でがんがん叩いてくるからな。そういう奴を悔しがらせたいから、こうやって頑張っているといっても、過言じゃない。

「…………」

 榮太郎は、そんな俺に対して、少しだけ視線を投げかけてきた。一瞬目があったけど、すぐに視線は外される。
 あいつ、なに考えてるんだろうなあ。俺に対して、どう思っているんだろう。

 別に、この能力なんてあってもなくてもよかった。どっちかといえば、ない方がいい。
 こんな能力なければ、他人の評価に左右されないし、もうちょっと自分の意見を堂々と言えたかもしれない。でも俺は、こういう他人の声に囲まれて育ってきた。だから、今ではその声が気になって仕方ないんだ。
 ある日突然この能力がなくなったら、喜ぶよりも先に怖くなるかもしれない。相手が俺をどう思っているか、って気になってしまって。
 そもそも、人間ってのは隠されれば見たくなる、暴きたくなる生き物だ。
 俺が榮太郎に興味を持つまでに、そんなに時間はかからなかった。

 なんであいつの声だけ、聞こえないのかって。

****

 転機が訪れたのは、本当に突然だった。
 その日は、部活があって、部室へと向かう途中だった。最大限に他の声をシャットアウトしている中、その声は突然頭に響いてきた。
 それは、廊下を歩いている最中のことだった。
 【東に告白されたらどうしよう……】
 聞き覚えのある声に、俺は足を止めた。廊下の先に立っているのは、榮太郎だった。狼狽えたような顔で、でも俺には気づいていない。
 今の声、榮太郎?

 俺と榮太郎は、教室でたまに会話をするくらいで、そこまで仲がいいわけでもない。だから、なんで榮太郎が俺に告白されるかも、なんて考えに至ったのかはわからない。けど、面白いと思ってしまった。
 初めて聞こえた榮太郎の声。
 その通りに行動してみたら、あいつはどんな反応を示すんだろう。その時の、あいつの声は俺に聞こえるだろうか。気になって気になって、結局すぐに行動に移した。
 一度は逃げられてしまったけど、誰かを追いかけるのも初めてで、面白かった。
 声が聞こえないから、どういう反応を示すのかすらわからなくて。ほかの奴らは声が聞こえるから、俺がこう言えば、こういう風に思うだろうってのはわかる。なんだって、聞こうと思えば聞こえる。だから、誰かに気に入られるのはたやすい。

 でも、榮太郎は聞こえない。
 楽しい。そう思って、追いかけた。

「ちょうどよかった、ちょっと話したいことがあったんだよね」

 それからは、もう坂道を転がる石ころみたいに、コロコロと。

*****

「……ははっ、榮太郎」
「んっ、い、……っ」
「体、熱くなってきた」

 それから時間は流れて流れて。
 今は、俺の下で、榮太郎が泣いていた。いや、泣いているのかはわからない。枕に顔を押しつけて、見えないようにしているから。ただ、すすり泣きみたいな声だけが漏れている。抵抗とか、全然しないからなんかいけそうと思って脱がせてみたはいいものの、初めてじゃあキツくて入らないし、ただ擦りあわせる程度くらいしか出来ない。でも、それだって榮太郎にすれば初めてだろうし、もちろん、俺も初めてだ。榮太郎とは、初めてばかりを繰り返している。
 【東、なんでこんなこと】【東に触られてる】【東】【俺、どうして抵抗しないんだろう】【もうどうでもよくなったのかも】
 響いてくるのは、俺についてのことばかり。そのことが嬉しくて、俺は口元を歪めた。無抵抗なのは無気力故かもしれないけどさ。でも、こうやって俺のことを考えてくれるのは気分がいい。

「もっと、俺のこと考えて、榮太郎」
「っ、う」

 陰茎を擦りあわせて、お互いの吐息をかき消すように雨の音が窓外から聞こえてくる。竿を二つ併せて、手で擦りあげると、息を飲むような声が部屋に小さく響いた。くちゅくちゅと水音を鳴らして、指先に汁がまとわりつく。榮太郎は、ただ黙って成すがままになっていた。
 【東】【■■■】【東、もうやめろ】【これ以上嫌いになりたくない】【でも、元から嫌いだったのか】【わかんない】【なんで東ばっかり】
 響いてくる声。
 榮太郎と一緒にいて、わかったことがある。
 一つは、榮太郎の声が聞こえるのは、俺に関して考えている時だけだいうこと。それ以外の声は、自動的にノイズがかかったように聞こえない。
 そしてもう一つは、榮太郎は俺と同じ、超能力の持ち主だってこと。
 初めてそれを知ったとき、俺がどれだけ感動したことか。心の声を聞かなければ気づかないことだけど、あの日、超能力の本を読んでいる榮太郎を見つけて、少しだけ懐かしく思った。
 俺も、昔自分のこの力なんとかしたくて、読みあさったりしたから。まあ、もうそんな時期はとっくにすぎちゃったんだけどさ。
 榮太郎は、俺が未来予知の力を知っていることを、かん奈ちゃんに聞いたと勘違いしてるみたいだけど、実際は違う。俺が勝手に榮太郎の声を聞いただけだ。かん奈ちゃんは、榮太郎が想像する通りの「いい子」だったよ。
 今まで付き合ってきた奴らの中でも、性格がいい方だと思う。榮太郎と約束してたんなら、かん奈ちゃんは俺に言ったりしないって。
 まあ、そんなこと、榮太郎には言わないけど。

「なんでっ……」
「ん?」
「なんで、こんなこと、すんだよぉっ……」

 ぐす、とはなをすすりながら、榮太郎が枕から顔をずらして、俺を見た。目は、散々泣いたせいか赤くなっている。どうすればいいのかわからない。逃げればいいのに、逃げもしない。逃げたところで、どうすればいいのかわかんないって感じか。可哀想に、ずっと好きだったのに、失恋しちゃったんだもんな。それは、辛いよなあ、ずっと忘れられないよなあ。
 そうなる様にし向けたのは俺だけど。
 伸ばした手で、そっと榮太郎の頭を撫でる。

「榮太郎のことが好きだから」

 甘い声で囁くと、榮太郎は一瞬目を細めた。
 【まただ】【また見えた】【今度は東とセックスするって?】【最悪な未来だ】
 よくわかってんじゃん。聞こえた声に、俺は笑みを漏らす。榮太郎が見える未来がどんだけ先のことかはわからないけど、そういう未来が見えたってことは、少なくとも、俺とかん奈ちゃんよりは進んでるってことかな。
 ぐち、と音を立てて、再び手を上下に動かした。

 結局のところ、榮太郎の声が聞こえるのは、俺に関して考えている時だけ。
 だから、榮太郎に好かれれば、もっと榮太郎の声が聞こえるようになるかと思った。榮太郎が応援するとか、協力するとか言うから、かん奈ちゃんと付き合ってもみた。
 好きでもないくせに付き合う悪い奴、なんて罵られたって別にいい。世の中悪い奴だらけだし。それに、かん奈ちゃんはいい子だったから、俺も嫌いじゃなかったよ。
 でも、結局そうしたところで、榮太郎が考えるのはかん奈ちゃんのことばかりだった。かん奈ちゃんといるとき、榮太郎の声は全く聞こえなくなる。
 熱に浮かされたような顔してかん奈ちゃんばっか見てんだよ。自分で気づいてなかった? かん奈ちゃんが俺を見るときの目と同じ目で、お前はかん奈ちゃんを見てるんだって。

 俺は最初から気づいてたけど、あまりにも鈍いから、意地が悪いことをした。色んな声が聞こえるもんだから、誰が誰を好きか、だなんて筒抜けだ。
 だから、かん奈ちゃんのことが好きな奴が、榮太郎以外にもいるなんてこと、全部知ってた。
 俺がしたのは、そいつに聞こえるように、別れることを告げただけ。あとは全部榮太郎次第だ。
 榮太郎が、かん奈ちゃんに声をかけていれば、もしかしたら未来は違ったのかも。あるいは、最初から榮太郎がかん奈ちゃんを好きだと俺に言っていれば。
 ……いや、まあ同じか。
 だって俺は結局、榮太郎が欲しくなっちゃったんだから。

「はぁっ……はっ……」

 息を殺すようにして、榮太郎がシーツを握った。硬くなり始めた俺らの息子は、そりゃ健全ではないかもしれないけど、男子高校生なら性に対してはどん欲だ。
 【やばい】【なんでこんな】【気持ちいいなんて】【俺、ばかみたい】
 榮太郎の声が、頭の中に響いてくる。いやいや、気持ちいいもんは、気持ちいいよ。それに、榮太郎だって、忘れたいでしょ。だから、こうやって抵抗もしないで、俺の成すがままになっている。
 幼い頃からの想い人を知らない奴に取られて、自暴自棄になってる。俺としては、別にかまわない。だって俺は、欲しいだけだから。貪るようにして、快楽を求めて、榮太郎の方が先に射精する。

「っ…………っ!」
「あー……俺もいきそ……」

 榮太郎の精液が、手にまとわりついている。榮太郎は、顔を真っ赤にして、首を横に振りながら、何か呟いていたけど、それよりも頭に響く声の方が大きくて、なにも聞こえなかった。
 【東】【東、なんで】【好きな訳ない】【違う】【こんなの間違ってる】
 なにが間違っていたとしても、やってることは事実だろ。びゅる、と精を吐き出して、少しだけ榮太郎の腹の上に精液が垂れた。

「あっつ……」
「…………」

 雨で冷えていたはずの体は、すっかり熱くなっていた。
 榮太郎は、唇を結んでじっと俺を睨みつけていた。

「榮太郎、俺たち付き合わない?」
「付き合うわけない……」
「そっか。まあそうだよな」

 榮太郎は、俺のこと嫌いだもんな。
 そう思う度に、ゾクゾクとした感情が沸き上がってきた。
 最初は、好きになってもらえれば、榮太郎の心も読めるかなって思った。でも、どんなに待っても榮太郎が考えるのはかん奈かん奈とそればっか。だったら、いっそ嫌われてしまえばいい。個人的な考えだけど、好意よりも憎悪の方が根が深い。
 それは俺が一番知ってる。誰かを好きだと思うことなんて一瞬だけど、憎悪だけは心の奥にずっと残っている。
 だったら、俺はそっちでいい。そっちの方が声が聞こえるなら、そっちでいい。
 だって、俺のこれは別に恋じゃない。そもそも、恋なんてしたことない。相手の本音がすべて見えてるんだから、恋なんてできるわけもない。
 だから、これはただのゲームみたいなもので、終着がどこかなんて、俺だって知らないけど、ただ、もっと榮太郎の声が聞ければいいと思ったんだ。他人の声なんて、煩わしいって思ってたのに、変なの。
 ぼんやりと空を眺めている榮太郎に近づいて、キスをした。

「……っ」
「逃げないの?」
「……逃げても、多分、同じだから」

 その目は、何となく見覚えがあった。
 【結局、なにしたって変わらない】【未来なんて、みえたところで、どうにもならない】【だったら、何もしなくてもいい】
 ああ、なるほど、そういうこと。全部諦めた様な目。でもそういう目も嫌いじゃないよ。そうやって全部諦めて、榮太郎の中が俺に対する憎しみでいっぱいになればいい。お前も逃げれるし、俺も聞こえる。
 だから、もっとたくさん俺のこと考えてくれよ、榮太郎。

「逃げないなら、いい?」
「…………」
「これは、練習じゃないけどね」

 お前の見た未来が実現するまで、あとどのくらいだと思う?
 俺は、多分、もうすぐのことだと思うよ。

終わり

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