デートの話A


「…………」
「弟くん、一人で帰っちゃったねー」
「…………」

 その後、化野と服屋に行った。
 案の定、周りの人からはじろじろと変な目で見られるし、子供からは狐さんだ! と言われ笑われた。店員さんからは笑いながらお祭りですか? とか聞かれた。化野がうまく答えてくれたけど、きっと僕一人だとただ狼狽えるだけだっただろうし、実際その度に、僕は自分が炎上するんじゃないかってくらい顔が熱くなった。
 狐面をしてて、よかったと思うのはそこだけだ。顔色がバレないから。
 色々あったけど、そこまではまだいい。全く知らない人だし、素顔もバレてないし、二度と会わないと考えればまだ我慢できる。
 でも、身内に見られるのは流石に恥ずかしい。
 幸い、佐々木たちとはその後遭遇することはなかったけど、化野の服を選んでいる途中、勇気にばったり会ってしまった。
 勇気もやっぱり服屋を見ていたらしく、手には紙袋をぶら下げていた。
 流石に身内だとお面をしていてもわかるのか、僕を見た瞬間二度見された。あの時の勇気の「マジかよ」って顔、未だに忘れられない。

『正義ちゃん、この服どう? 似合う?』

 しかも、タイミング悪く化野が僕に話を振ってきたせいで、完全にバレた。あれがなければ、まだ似た背格好の他人ですと貫くことが出来たかもしれないのに。
 勇気は狐面姿で佇む僕を一瞥すると、侮蔑と呆れを含んだ目で僕を見て、馬鹿みたいだと言い放った。
 確かにそうだ。馬鹿みたいだ。なにも否定できない。勇気が正しい。
 言い返すことも出来ず、無言でいると、近くにいた化野が「じゃあ一人で帰れば?」とか言ってしまったものだから、勇気は本当に一人で帰ってしまった。

『勇気……』
『馬鹿高校行くと、本当に馬鹿になるんだな、恥ずかしくないのアンタ。俺もう一人で帰るから、寄るなよ』
『ま……』
『ばいばーい』

 勇気は、全く振り返らず、そのまま去って行ってしまった。せっかく一緒に出かけたのに、話した会話なんて片手で事足りる。
 追いかけようとした腕を化野に掴まれ、放して貰ってから追いかけたら、もう雑踏に紛れてわからなくなってしまった。
 メールもしたけど、いつの間にかアドレスが変わっていたのか、エラーメッセージしか返ってこない。新しいアドレス、知らされてないんだ……。
 その時点でもかなりショックだったけど、とうとう本格的に嫌われてしまったと思うと、さらにへこんだ。
 電話もしたけど出ない。結局、僕はその後化野にもう帰るとも言えず、それどころか、化野に連れられて、化野の家までやってきてしまった。

「お茶とジュースどっちがいい?」
「…………化野、僕やっぱり」
「ん?」
「…………な、なんでも……お茶で……お願いします」
「オッケーお茶ね! 緑茶と烏龍なら、あー、緑茶にしとこっか」

 なんて言いながら、コップに緑茶を注いで、僕の前に出してくれた。化野の家に来るのは、これが初めてじゃないけど、なんだかそわそわしてしまう。前に来たときは、金魚の骨が入った箱を見せられてちょっと怖かった。
 今回は、そういうこともないらしく、ショッピングモールで買った服を着てみせたりしてくる。
 化野の服は、なんというかエキセントリックというか、僕じゃ絶対に着こなせないようなデザインのものが多い。化野だから似合うし着こなせるんだろう。同じ服を僕が着た所できっと嘲笑の対象だ。
 フードコートで佐々木達が話していたことは本当だったんだなと思う。
 僕が化野に選んだ服は、無難というか、化野らしくないものだったかもしれないけど、化野は嬉しそうにしてそれを買っていた。
 僕の服も、化野が選んでくれたから、着てみた。
 僕だったら買いそうにないデザインのシャツだったけど、着てみたらそれほど違和感を感じない。まあ、狐面がどんな服を着ても洋服だったら違和感しか感じないかもしれないけど。
 シャツを着た僕を、化野は手を叩いて喜んだ。

「あっ、いいね、似合う似合う! 正義ちゃんに似合いそうだと思ってたけど、買ってよかったー、今度遊ぶときにそれ着てよ」
「…………」

 人から服を褒められることなんて滅多にないから、嬉しくて頷くと、化野も嬉しそうに笑った。こうやっていると、普通の友達みたいだ。
 友達が化野以外にいないから、比較対象がないけど、こういうのが普通なんだと思う。
 本当は。





 だから、これは普通じゃないことなんだろうなっていうのは、頭のどこかで、何となくわかっている。

「……っ……っ! ……っ」
「あっ、は……! 正義ちゃん、もっとこっち……っ」
「っ…………!」

 生ぬるく、湿気ばんだ部屋の中、ぎっちりと咥え込んだ化野のものが、僕の中でまた大きくなった。部屋の中には、化野が僕に話しかける声と、揺れるベッドの音だけが響いてる。
 今日は化野の家は誰もいないらしいから、こんなことをしてるんだ。
 狐面をしたままこんなことをしているせいで、お面の中が蒸れて息苦しくてたまらない。でも、顔を見られるよりはマシだから、僕はお面をつけたままこの行為をしている。
 化野に選んで貰った服はそのまま身につけて、下だけ脱いで、繋がっている。準備だなんだと色々あったけど、結局いつもこうなる。
 ベッドの上に座る化野の上に跨って、化野の首にやんわりと腕を回すと、お面越しに化野がキスしてきた。
 こんなの、普通の友達がやるようなことじゃない。絶対ない、いくら僕だって、もうそのくらい、本当は気づいてる。
 でも、今更やめられないんだ。やめられるなら、とっくにやめてる。

「……っ……ふ……っ」
「正義ちゃんも、動いて」

 顔が熱い、体も、中も、全部熱い。
 化野とこれをする時はいつもこうだ。僕がゆっくり体を持ち上げると、まるで元の位置に戻すかのように、化野が僕の腰を掴んで僕の体を下へと動かした。衝撃と共に、一気にナカを貫かれる。お、奥、にっ、入ってくるっ……。
 ローションでどろどろになった排泄器官に、化野のが奥まで一気に入ってきた。初めてこれをやられた時は流石に泣いたけど、今ではもう中まで入ってしまうということが恐ろしい。
 いや、入ってしまうどころか。

「っ〜〜〜〜……!」
「あはっ、ここ、気持ちいい?」
「……っ、っ……〜〜!」

 ぶんぶんと首を縦に振ると、化野は気を良くしたのか、そこばかり狙って突いてくる。ぐちゃぐちゃと粘着質な音が部屋の中で音を立てている。やめてくれ、そこばっかりやられると、気が変になるから。
 化野の陰茎が僕の中を擦る度に、言葉にするのも憚られる様な快感がじわじわと襲ってきて、体の中の熱が昂っていく。
 声も、出来れば押さえたいのに、そこを擦られると、聞き苦しい声が漏れてしまう。普段ですら聞き苦しいから、今の声なんて、さぞ気持ち悪いはずなのに、化野は僕の声を聞くと嬉しそうにする。

「っ……あっ、ぅっ……!」
「……はー、ははっ、お面、つけてたら息しづらくない? とっていい?」
「っ……」

 首を振ったけど、そんなもの関係ない。化野の言うことは、大体にして疑問じゃなくて確認だからだ。
 狐面を外され、汗に塗れて赤くなった僕の顔が露わになると、それを見た瞬間、化野は繋がったまま僕を押し倒して、ベッドに沈め嬉しそう僕の唇に吸いついてきた。
 ちゅっとリップ音がして、化野の唇が離れる。

「顔真っ赤」
「……っ……」
「暑かったなら、早くとればよかったのに」
「ん、……っ」

 そうして、またキスされた。
 こういうの、なんていう関係なんだろう。多分、友達ではないんだろうな。だって、こういうこと、きっと化野は佐々木とか西園とか、井上とかとはやらない。聞いたことはないけど、やってないと思う。
 こんなことするのは、僕だけなんだろう。
 そう思うと、なんだか胸の中がもやもやというか、ドキドキしてくる。
 僕は、一体化野とどうなりたいんだろう。

「正義ちゃん、気持ちいい?」
「あっ……!」

 ぐり、と中の一点を擦られて、上擦った声が喉奥から漏れた。きっと今の僕は、普段にも増して赤い顔をしている。いやだな。こんな顔、見られるのが恥ずかしい。だから狐面で隠していたのに。
 手のひらで顔を覆い隠すと、僕が答えるまでやめてくれないのか、化野が更に中を突いてきて、背中がのけぞった。

「ん、っひ……!」
「俺、正義ちゃんには気持ちよーくなってほしいから、さっ……」
「ぅあっ!」

 気持ちいい、気持ちいいから。こくこくと何度も頷くと、口で言ってと言われた。普段は、頷くか首を振るだけでいいって言うのに、二人の時だと、それを嫌う。
 僕にはもう、化野大志という人間が、よくわからない。
 は、と浅く息を吐きながら、顔を覆った手の、指の隙間から化野を見る。化野は笑っていた。いつもみたいに、笑って僕を見下ろしている。その目に欲望めいたものを感じて、ゾクゾクした。中に埋められた肉が引き抜かれ、一気に深く入ってくる。肌のぶつかる音がして、僕は震えながら声を上げた。

「き、……もち、いっ……」
「うんっ、もっと、っ……!」
「あ、だしのに、こう、さ……っの、きもちい……!」
「…………あはっ!」

 それを聞いた瞬間、化野は満足げに奥へと突いて、起立した僕の陰茎を手のひらで扱いた。
 指で輪を作って先を絞る様に上下に扱かれると、ぞくぞくとした快感が背中を走った。

「っ……〜〜!!」
「俺も、ちょーっ……気持ちいっ……!」

 ローションでぬるいついた手で扱かれると、元々限界だった僕のものはあっと言う間に達してしまった。化野が腰の動きを早くして、ピストンしてくる。僕の中に埋められていた化野のものが、膨らんだ気がした。

「好きだよ、正義ちゃん」

 好き、好きってなんだっけ。
 それを深く考えるには、僕の頭は朦朧としていて、ただ心臓の音だけが頭の中に響いていた。

****




「……ただいま……」

 家に帰ると、もう夕方で、親も家に帰って料理をしていた。僕は化野に選んで貰った服がちょっと汚れてしまったので、洗濯籠に入れると、台所から母親がおかえり、と声をかけてくれた。

「正義、あんた勇気と一緒に出かけたんじゃないの?」
「え? あ、勇気、途中で帰っちゃった……」
「あんた達仲いいのか悪いのかわかんないねー、喧嘩したの? 勇気、プレゼントゴミ箱に捨ててたよ?」
「プレゼント?」
「あんたもうすぐ誕生日じゃない」
「…………」

 言われて、そういえばと思い出す。誕生日なんて、高校生にもなると、特別家でお祝いはしないし、ご飯がちょっと豪華になるくらいで、大したことはしない。プレゼント交換も、勇気は受験生だし、やらないと思ってたから、忘れてた。
 学校で誕生日を祝うなんて、もちろんないし。というか、誰も知らないし。
 だから、勇気が僕宛てのプレゼントを買っていたと聞いて、動揺した。

「え、勇気のプレゼントって僕宛て……? 違う人じゃないの?」
「アンタ宛てでしょ? 勇気、毎年アンタにプレゼント渡してたじゃない」
「そうだけど……今年はないと思ってた……勇気受験で忙しいし、僕のこと、……嫌ってるし……」
「……ゴミ箱に入ってたの、お母さん拾ってアンタの机の上に置いといたから、後で勇気にありがとうって言いなね」
「……うん、ありがとう」

 僕はそう言うと、急いで自分の部屋に駆け込んだ。机の上には、青いラッピング用紙で包装されたプレゼントが置いてあった。梱包を解くと、中にはシックな色合いのシャツが入っている。広げると、ちょうど僕のサイズに合いそうだ。
 これも、僕だと選ばない様なおしゃれなデザインのもので、どちらかというと、勇気が好みそうな服だ。
 これ、勇気が、僕に似合うと思って買ってくれたのかな。そう考えると嬉しくなって、その場で勇気が買ってくれたシャツを身につけた。サイズはぴったりあってる。
 その足で、隣にある、勇気の部屋のドアを叩いた。

「……勇気、いる?」
「……何」
「あの、入ってもいいかな」
「…………」

 何も言わなかったので、僕は可ととることにして、ドアを開けた。
 勇気は机に向かって勉強しているみたいだ。

「勇気、今日ごめん、あの……ちょっと、ふざけてて……」
「ドア閉めて。寒い」
「…………」

 僕は部屋の中に入ると、ドアを閉めた。あまり近づいたら怒られるかもしれないから、手短に話そう。勉強の邪魔になるかもしれないし。

「勇気、これ、服……」
「何、ゴミ箱から漁ったの」
「お母さんが、出しておいてくれた。あの、ありがとう、僕すごく嬉しいよ」
「……別に、正義に買ったわけじゃないし。自分で着ようかと思ったけどやっぱ微妙だったから捨てたの」
「え、でもサイズ」
「うるせえなぁ! いいから出てけよ!」
「……ごめん……」

 また怒らせてしまった。服、やっぱり僕宛てじゃなかったのか、だったら返した方がいいかな。

「これ、返す……?」
「いらねーし、それもう捨てたから着たいなら着れば」
「…………うん、ありがとう。これ大切に着るよ」

 ふい、と顔を逸らしてしまった勇気に、改めてお礼を言う。僕宛てじゃなくても、僕宛てって思うことにしよう。あまり長居するのもどうかと思って、そのまま部屋を出ようとすると、勇気が声をかけてきた。

「正義」
「……?」
「あいつと、何で仲いいの」
「…………化野?」
「いじめられてんじゃないの? 正義とろいし」
「そ、んなことは……」

 ない、と思うけど。

「それとも正義、あいつのこと好きなの? あいつ性格クソ悪そうじゃん」
「…………そうでもないよ、化野、いい奴だよ」
「あっそ。……もういい、勉強の邪魔だからさっさと出てって」
「あ、うん、邪魔してごめん。これ、ありがとう」

 言いながら、僕は勇気の部屋から出ていった。
 自分の部屋に戻って、ベッドに座って考える。
 いじめられては、いないと思う。それどころか、クラスの中で唯一話しかけてくれる、いい人だと思う。化野がいなかったら、僕は多分今頃あのクラスでパシられてたかもしれない。
 でも、友達という関係とも、違うんじゃないかと思う。だって、友達はあんなことしない。あんな。

 思い返すと、また顔が熱くなってきた。落ち着ける様に、鞄に入ったままの狐面を被った。
 これをつけると、やっぱり落ち着くし、集中できる。

『あいつのこと好きなの?』
『好きだよ、正義ちゃん』

 頭の中で、勇気や化野の声が蘇った。
 好き、か。
 僕は化野のことは好きだと思う。だって、友達でいてくれるし、一緒に遊んでくれる。化野がいなくなったら、きっと僕はあの高校で一人ぼっちだ。
 だから、化野に見捨てられたくない。でもこれって、好きっていうんだろうか。化野のことを思い出すと、胸がドキドキして、ぞわぞわするし、体が動かなくなる。
 これ、怖いからなのかと思っていたけど、もしかしたら、僕は化野のことをそういう意味で好きなのかもしれない。
 そもそも、友達を怖いと思うのもおかしな話だし。
 僕が、化野を好き? 友達とか、そういう意味じゃなくて? 同じ男なのに、おかしい。
 でも、男であんなことは、普通はしない。
 ただ、化野は変わってるから、男同士でもやるのかもしれない。……なんか、よくわかんなくなってきた。
 仮に、僕が化野のことを好きだとして、じゃあ、化野は? 僕を好きだって言ったけど、友達として好きってことなのか、それとも。

「…………」

 なんだかもう、頭の中でぐちゃぐちゃになってきた。
 化野とああいうことをすると、いつもこういうことを考える。結局答えなんて出ないのに、明日、顔会わせづらいな。
 狐面しててよかった。顔を見られることがないから。

 このままじゃ、ますます僕の狐面の高校生活から離れるのは難しそうだ。




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