モノノケ家族とカラクリ生活



 妄想というのは実に便利だ。

それは、人類が生み出した奇跡といっても過言ではない。

「んぅう〜」

 現実では俺をゴミのような目で見てくる女も、頭の中では思い通りに動いてくれる。

 例えば、幼馴染が、朝ベッドの上に乗っかって「起っきろー錬太郎! 朝だぞ!」とか言ってきたり。
 部屋を開けたら義理の妹が着替えていて「やっ……! な、何開けてるのおにいちゃん!」なんて涙目で訴えて来たり。
 大企業のご令嬢に顔を赤らめながら「私があなた程度の男と付き合って差し上げるのですから感謝なさい!……こ、断らないでよね」なんて告白されたり。
 無表情だけど可愛い同級生にきゅっと制服の裾を掴まれ「……待って」とか言われたり、スタイル抜群のエロ女教師に「君にだけトクベツだぞ?」とか言われ個人的な授業を受けたり。たりたりたり、妄想万歳、唸れ俺の前頭葉!
 気持ち悪いもてない男の妄想だと言ってくれてかまわないさ。実際気持ち悪いからな。でも楽しければいいじゃないか。

「ぬへへ……」

 布団の中で寝返りをうつ。今の俺は夢うつつ、この時間が一番楽しい。
 まぁ、実際には俺に幼馴染なんていないし、義理の妹もいない。それ以前に兄弟がいない。ご令嬢なんてお目にかかったこともなければ、男子校なので女子の同級生もいない。教師もまたしかりだ。
 しかし、妄想の中での俺はハーレム状態、皆が俺のことを我こそがと取り合い、錬太郎くんは私のものよ! とばかりに争いを繰り広げる。たまらんじゃないか。それと同時に涙も出てくる。
 妄想、空想を操る毎日を過ごしつつも、実際にはただの冴えない男だと言う現実に、本当涙が沸いて来る。
 布団の中でいつものように妄想を繰り広げていると、ずんっと胸の辺りが重くなった。同時に息苦しくなり、俺はゆっくりと目を開ける。

「れんたろ、おはよ。れんたろ、泣いてる?」
「……泣いてません、どけよ、水童(みずわらし)、重いだろ……」
「水童おもくないもん! おもくないもん! れんたろひどい! 水童でぶって言う!」
「いやデブとは言ってな……ってうおっ!」

 目の前でぷかぷかと浮いていた水の玉が小さく弾けた。泣いていないはずの俺の顔は水に濡れ、ついでに枕と布団もびしょ濡れになってしまった。水風船を眼前で割られたと想像して欲しい。

 起き抜けにぶっかけられた水が俺の髪の端からぽたぽたと滴った。それを見て上に乗っていた童女がけらけらと笑う。

「おはよ、れんたろ、目が覚めた? おはよ。れんたろおはよ」
「……この起こし方はやめろって、前に言っただろ……」
「水童起こした。普通に起こした。でもれんたろ起きなかった。わるくないよ。水童わるくない」

 小さい頬を膨らませて、童女は言う。淡い水色の髪。蒼の浴衣に透明の羽衣を羽織った小さな子供は、宙にいくつもの水の玉を浮かせると、俺目掛けてぶつけようとしてきたので、慌ててとめた。

「スト、ストップ! わかった、お前は悪くない。起きなかった俺が悪い!」
「ほんと? 水童わるくない? れんたろ、水童嫌いにならない?」
「ならない!」

 大きな瞳を瞬かせ、小さく小首を傾げる姿は可愛らしいが、何度か窒息させられそうになったこともあるので油断ならない。俺は必死に首を縦に振ると、水童はきゃらきゃらと声をあげて喜んだ。

「よかった! 水童よかった! あのね、朝ごはんできてるよ。トルコが言ってた。水童れんたろ起こしにきた」
「わかった、今起きる……」
「鳥獣犬がね、ばうばうって鳴いてたよ。れんたろ起こすって言ってたけど、水童が起こしたかったの。だから譲ってもらったの」
「そうか……」

 つまり今日の俺は、涎でべとべとになって起こされるか、水を浴びせられて起こされるかの二択だったわけだな。どちらにしても水難の相が出ているがまぁ、鉈で頭をカチ割られなかっただけマシと思うことにしよう。
 あれは命の危機だから。

「着替えたら下に降りるから、先に行っててくれ」
「手伝う? 水童、着替え手伝う?」
「いい。大丈夫だよ」
「わかった。待ってるね。早くね。早くしないとトルコの頭が伸びちゃうよ」
「わかったわかった」

 布団の周りをくるくる回ったかと思えば、俺の返事を聞くや否や、満面の笑みを浮かべて、水童は下へ降りていった。無論、空を飛んで。

 例えば今、俺の心を読むエスパーが存在したとしたら、「こいつねーわ」みたいな顔で俺を見ることだろう。しかし、今までの表現は誇大妄想でも、俺の空想でもなんでもない。
 正真正銘、空飛ぶ童女が俺の周りではしゃいでいたのだ。
 これは俺の妄想大好きな俺の妄想じゃない、現実だ。

「ふぁ……」

 欠伸をしてから、着ていたパジャマを脱ぎ、ハンガーにかかっている制服に手をかけた。白いワイシャツに袖を通し、紺色のズボンに足を入れると、階下で犬の鳴き声が響いた。

「ワン! ワンワン!」
「いーま行くよー」

 下にいるかと思ったら、窓の外から、背中に翼の生えた犬が覗いていた。まあ、犬のくせに、鶏冠も羽も生えているので厳密には犬じゃないんだけど。
 しかし犬っぽいので犬と呼ぼう、そいつは俺に早く来いと促しているように見える。いや、実際早く来いと急かしているのだ。俺は制服に着替え終えると、犬に導かれるように、階段を下りて行った。





 俺の家には妖怪が住み着いてる。

「お〜〜〜はようございます! 錬太郎坊ちゃん!」
「……おはよ、トルコ、なんで水童に起こさせたんだよ」
「それがですねぇ、ワタクシ、朝食の準備をしておりました。そこに愛らしい水童様と鳥獣犬様が参られまして、我が我がとせがむものですので、ついつい坊ちゃんを起こすという大層な使命をお譲りしてしまいましたのです! たぁあ〜〜いへん申し訳ないと思っております!」

 針金のような体をクネクネと動かしながら、目の前の男はそう言い放った。頭にはえんじ色の円筒形の帽子を被っていて、彼が発言する度に、その帽子は上へと伸びていく。のっぺりとした顔に、目は猫のように細く、口はいつでも三日月みたいに弧を描いている。
 トルコ帽と呼ばれる帽子をかぶっているので、トルコと呼んでいるが、本名なんてものは知らない。そもそも、こいつらに本名があるのかどうかすら不明だ。
 細長い手足で器用に食事をテーブルへ運ぶ姿は、昔何かの漫画で呼んだ「フスマ」という妖怪に似ている気がした。

「さぁさ錬太郎坊ちゃん! どうぞこちらへ、ズズイと、ズズイと!」
「わふっ」

 犬が俺の周りをぐるぐると回る。

「おい、落ち着け」
「わふわふっ!」

 パタパタと嬉しそうに尻尾を振る犬。こいつは鳥獣犬(とけいぬ)といって、鳥に獣に犬というその名の通り、鳥と犬のハーフのような外見をしている。
 厳密に言うと妖怪なのかどうか解らないが、妖精とかお化けという言葉よりも、妖怪というのが一番しっくり来るのでそう呼んでいるのだ。まぁ、妖怪モドキってところだろう。

「ワンワン! ワンッ!」
「やーめーろー、鳥獣犬!」
「鳥獣犬、ずるい、水童もれんたろの横に座るよ、座るよ」
「いいからお前ら黙って食え!」

 茶碗を持っている俺の腕の間から頭を出して、じゃれ付いてくる犬とその周りで水の球を浮かせながら首にしがみ付いてくる童女。
 そしてそんな俺たちを微笑ましそうに見る針金男。こいつらだけならまだよかったが、残念ながら我が家に住み着く妖怪モドキは他にも何人かいるから洒落にならない。

「なぁトルコ、そういえば父さんは?」
「旦那様なら昨日アマゾンに旅立たれましてございます! ワタクシに坊ちゃんのことを頼むと言って下さいました! あぁぁ〜〜このトルコ、坊ちゃんのことを任され光栄! 光栄! 恐悦至極にございますぅ〜〜!」
「いや、その前に俺に伝えてくれよ、父さんがどこかに行くならさ」

 漬物をつまみながら、正直またか、と肩を落とした。
 俺の父親は、俺が産まれたときから放浪癖がある男だった。元々、俺の家は代々続く人形師の家系だったのに、父さんの代になってから、その続く歴史は暴落した。そもそも父親は、家でちまちまと人形を作るよりも、外で子供を作る方が得意というちゃらんぽらんな輩だった。そんなんだから母さんにも逃げられるんだよ。
 結局、人形師としての仕事はほとんど周ってこなくなり、僅かに周ってくる仕事も俺がこなすことになった。
 どういう訳か、このトルコ帽の男は、俺が生まれる前からこの家に仕えているらしい。
 炊事洗濯その他家事諸々をこなしてくれるので、正直楽だし、この妖怪モドキ達が家族となりつつあるので寂しくない。寂しくないんだけど……。

「たま〜に、自分がやばいと感じるんだよなぁ……」
「れんたろ、やばい? やばい? 水童もやばい?」
「ワンワンワンワン!」
「や、なんでもねーよ。ほら、水童、ご飯こぼれてるぞ。鳥獣犬、足の周りでばたばた周るな」

 非日常が日常と化していると、日常のが変に思えてくるから不思議だ。
 俺が産まれた頃からまったく変わらない姿の童女と犬を諌めながらも、じっと見つめる。

「なあに? れんたろ、水童可愛いから見るの? 見るの?」
「あー、可愛い可愛い」
「ワンワンワン!」
「はいはい、お前も可愛いよ」

 こいつらも、本当は何歳なんだろう。少なくとも十六歳以上ということは確実だ。いや、もっと……って、そんなこと考えている時間じゃない。はっと時計を見ると、すでに時計は八時を差していた。

「うお、もうこんな時間!」

 飯を口の中にかっ込むと、「ご馳走様」と言って立ち上がる。

「おや、坊ちゃま、もうよろしいのですか? 男子たるもの朝から三杯おかわりは常識でございますよぉ」
「捨てろ、そんな常識は。朝からそんなに食べれないって」
「れんたろ、もやしだ! もやしはひんじゃく! ひんじゃくは駄目男!」
「……どこで覚えたそんな言葉」

 外見も中身も童女な水童にしては、らしくない罵り言葉に、俺は眉を顰めた。

「あちきが教えたんだよぉ」
「ひっ……!」

 つつつ、と背中を撫でられ鳥肌が立った。勢い良く後ろを振り返ると、壁一面に目玉が張り付いていた。
 ぎょろりとした目玉が一斉に細められ、俺を見つめると、何処からか笑い声が響く。笑われたことに腹が立ち、壁から伸びていた黒い影を振り払い、睨みつけた。

「……壁女(かべおんな)いきなり人の背中触るなよ」
「嫌だねぇ、塗姫(ぬりひめ)と呼んでくれって言ったじゃないのサ、坊ちゃん」

 ホホホ、とまた笑い声。甲高い声は確かに女性の声だが、そもそも壁に性別があるのだろうか。俺はその声を無視すると、洗面台へと向かった。

「おやま、ちょいと坊ちゃん無視なのかい? あちきを無視するたぁ、偉くなったもんだね」
「早くしないと、学校遅刻するだろ」
「アッハハ、やめちまいなよぉ、あんたは此処で人形作ってる方が性に合ってるサ」
「それも嫌いじゃないけど、今の時代そういうわけにはいかないんだよ」

 俺が進むと同時に、壁に蔓延る目も移動する。見張られているみたいで気分が悪いが、実態を持たないのだから仕方ないし、もう慣れたことだ。
 洗面台で顔を洗い、歯を磨くと、居間に戻ってトルコから鞄を受け取り玄関を出た。
 太陽が眩しい。目を細めて、家へと声を張り上げる。

「それじゃ、行って来ます!」
「れんたろ、行ってらっしゃい! 行ってらっしゃい!」
「ワンワンワン!」
「行ってらっしゃいませ坊ちゃま〜」
「やれやれ、人の話を聞かない坊ちゃんだねぇ〜」

 今日も住人に見送られ、玄関を出ると、そのまま庭にある沼の中へも声をかけた。風もないのにゆらゆらと蠢く沼だ。

「沼主(ぬまぬし)様、俺、学校行ってきます!」
「ぉおぉぉぉお〜、錬太郎ぉおおぉ、行ってらっしゃいだぁぁあ〜」

 沼の中から響く声は、太く妙に間延びしていたが、怖いものじゃない。あの中に住んでいるのは、昔からこの辺を守ってくれる沼の神、沼主様。誰に聞いたかは覚えていないけれど、妖怪じゃなくて神様、だと聞いた。
 濁った沼がゆらりと揺れて、手にも似た形が浮き上がり左右に振れた。送り出してくれているんだろう。

「うあ、もう八時半じゃん、間に合うかなー」

 俺の家は、辺鄙な森の中にある。周りには木ばっかりで、というか木しかない。電気と水道は通っているが、この辺りには一切建物もなくて、唯一あるといえば、目的地の学校だけだ。
 俺が通うのは、金持ちばっかり入る全寮制の男子校……なわけだけど、俺はご覧の通り家が近いのと、まぁ諸々の理由があって、家から学校に通っている。
 そんな生徒は俺だけで、だけど特別視されているのかと言えばそうでもない。
 まあ、自分で思っているほど、周りは注目してないということだ。

 それに、家から通うと食費やら生活費が浮く。金持ち学校の費用は半端ない、俺はそう頭が良いわけではないので奨学金は見込めないし、人形師としての仕事が廃れてからというもの、我が家の家計は火の車なので、浮かせるところは浮かせたい。

 別に他の公立校に行けばいい話なんだけど、今更家を離れたりすると。

「泣くんだもんなぁ……」

 結局のところ、その理由が此処にいる全てだ。
 全寮制に通うのも、家を離れないのも、俺が他の学校に行けばあいつらは泣くし、俺が家から離れても泣く。そりゃあ、子供の頃から暮らしているんだ。情が移るのも仕方ないだろう。
 親父がいつも突然いなくなるもんだから、尚更。あいつらは俺の家族なのだ。
 
 なんて、物思いに耽っていたら、チャイムが聞こえてきた。このままじゃ本格的に遅刻だ。

「やばっ!」

 走り出そうと思った瞬間、木の上からどさりと何かが落ちてきた。

「うおっ!?」

 一瞬、身構えるが、落ちてきたその人物が見覚えのある男だったので、俺は警戒を解く。しかし、手に持っているその凶器を見て、また顔を強張らせた。

「な、鉈助(なたすけ)……」
「………………」

 少し冷や汗を流しながら、相手の名を呼ぶ。

 この平成の時代には不釣合いな、侍姿の男。頭は丁髷で、顔は隠すように包帯で巻いている。包帯の間から覗く口元だけはにまにまと笑っていて、見るものが見たらその姿に嫌悪を覚えるかもしれない。特徴的なのは、手に持った鉈。ギラギラと鈍い輝きを放つ刃に、俺の焦った顔が映し出されていた。
 
 こいつも妖怪。人に近い姿はしているけれど、少なくともその姿は俺が子供の頃から変わっていない。
 ついでに言えば、俺はこいつのことが少し苦手だった。あまり喋らないし、何を考えているかもわからないからだ。

「ひ、久しぶり……最近何処行ってたんだ? 見なかったけど……」
「………………」
「あの、ちょっと前通してくれる? 俺学校行くんだけ……どぉ!?」

 ぶんっ、と振り下ろされた鉈が俺の隣に落ちた。鈍い音が響き、草花が散る。間一髪のところで避けると、鉈助がくくく、と喉を鳴らした。

「ちょ、あ、危ないだろ! 俺遅刻するから前どけって!」
「…………」
「うわっ、何!?」

 言い終える前に腹をつかまれ、肩の上に担がれていた。暴れる俺を無視して、そのまま鉈助は走り出す。あまり体格は変わらない筈なのに、その速さといったらない。正直木の枝とかが頬に当たってめちゃめちゃ痛いが、速さだけは半端なかった。木の上を猿のように飛び跳ね、俺の重さなんてものともせずに進んでいく。

「ちょっ! 怖っ、何!? 鉈助、下ろして、いややっぱり降ろさないでくれ! 怖い怖い怖い! ってうわーー! 死ぬ!」

 ほんの一瞬の出来事にも思えた。気づけば俺の体は宙に放り投げられていて、俺を投げた鉈助は満足そうな顔をすると、また森へと帰っていく。

「おい! 鉈助!」
「………………」

 朝っぱらから擦り傷と打撲が出来た。

「いや、……遅刻はしなかったけどさ」

 唯一の救いは、鉈助が学校まで担いで送ってくれたことくらいだ。滅多に言葉は発さないが、悪い奴じゃあ、ないんだよな……。
 そして再び鳴るチャイム。予鈴だ。

「あ、やばっ!」

 俺は慌てて鞄をかけ直し、教室へと走っていった。





「おうおう、今日もボロボロですなぁ、錬太郎くん〜」
「梅原……」

 どうやらぎりぎり間に合ったみたいだ。教室に着くと、悪友の梅原が笑いながら話しかけてきた。俺は鞄を自分の席に置きながら、口を尖らせる。
 
「いいだろ、やーん遅刻遅刻〜! みたいな感じで」
「いや、そんなボロボロなのは羨ましくねえよ。全然羨ましくねえ」
「二回も言うなよ、本気度が増して悲しくなるだろ……」
「それより錬太郎、知ってるか? 大ニュース!」
「ん?」
「転入生が来るんだって! 今日!」
「えっ、女? 女子? 巨乳?」
「女だったら学園総出でパニックだろうが! 男だよ、男!」
「なーんだ」

 だったら、別に興味もない。
 そもそも此処は男子校なので、女子が転入してくることは有り得ないのだけど。少しくらい夢見たっていいじゃないか。そう、男装した女子が転入してくる展開とかさ。そして俺にだけ秘密がばれてしまい「いいよ……錬太郎にだけ見せてやる……と、特別だからなっ」なんて顔を赤くして言われちゃったりしてさ!俺は男は嫌いだけど、男装した女の子は大好き。
 しかしそれは俺の妄想であり、実際には有り得ない。梅原は俺がそんな夢を見ているとは露知らず、話を続ける。

「せっかくのニュースなのに、お前本当つまんね」
「ご期待に副えなくてすみませんねえ」
「本当だよ、なぁ錬太郎、イケメンと可愛い系、どっちだと思う?」
「なんでその二択なんだよ、超デブかもしれねーじゃん」
「馬鹿、転入生はかっけえってセオリーが決まってんだよ。ましてやこの学校だぜ? ある程度の容姿はありそうじゃん、金の力で」
「転入生にいらんプレッシャーかけてやんな。どうすんだよ、超普通で特にコメントのしようもない容姿だったら」
「お前……、あんまり自分のこと悪く言うなよ」
「えっ、俺の話だった!? いつから!?」

 ぽん、と物憂げに肩を叩かれ、仰天したような顔をする。いつもの悪ふざけだ。

「まぁ、顔がいいに越したことはないと思わん?」
「そうか? 此処だと変に目立たない方がいい気もするけどなあ」

 閉鎖された学園っていうのは、それなりにストレスが溜まるものだ。そのはけ口が何処に向かうのか、あまり口にしたくはないが、目立つ容姿の者に集まるのだけは確かだった。
 しばらくそんな会話をしていると、教室の扉が開いた。

「おい、皆席つけー、授業始めるぞ」

 担任が日誌を持ちながら参上する。さっきまで騒いでいた生徒も各々席に着く。気のせいか期待に満ちた瞳をしている。
 どうやら、転入生が来るというニュースはすでに知られているらしい。担任もそんな空気を読み取ったのか、朝の挨拶もそこそこに扉へと声をかけた。

「なんかもう皆知ってるみたいだけど、今日から転入生が来る。皆仲良くしてくれ。おい、入って来い」
「はい」

 扉が開く。
 その少年が入ってきた瞬間、教室の空気がざわついた。隣の席の梅原が俺の袖をくいと引っ張る。

「錬太郎、錬太郎! なっ!?」
「何がなっだよ」
「やっぱかっこいい系じゃん。賭けは俺の勝ちだ」
「いや、そもそも何も賭けてないだろ!」

 しかし、ひそひそとした声で話しながらも、もし本当に賭けをしていたら、カッコイイ系に賭けなかったら負けていたなと思える容姿であることだけは間違いなかった。

「水鶏 舞人です。よろしくお願いします」

 水鶏 舞人、クイナマイト、変な名前。ダイナマイトみたいだ。だけど誰もそんなこと気にしていなかった。ある者はカッコイイと妙にテンションを上げ、またある者は妬ましそうに見ている。
 中世ヨーロッパを思わせる、綺麗な顔立ちの転入生は、まるで王子様のようだった。これは騒がれるだろうな、と学園の事情を知っている身としては、少し同情しながら思った。



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