烏泣く


「カラス」「車」「職員室」に関わる、「バッドエンド」のお話





 大嫌いな教師がいる。葛谷(くずや)という男は、その名の通り本当にクズみたいなやつで、いつも俺に嫌がらせをしてくる。
 授業中、指名して来て、答えられなければその時間はずっと立ちっぱなし。宿題の間違った答えを他の生徒の前で読み上げる。字が汚い、敬語がなっていないと罵る。他の奴にはそんなことしないくせに。大体、俺より字が下手な奴なんてたくさんいる。

 この間だって、俺一人だけ呼び出してさして使われてもいない教室の掃除を、罰という名目で押し付けられた。宿題を忘れたときなんて鬼の首を取ったように放課後何時間も説教された。
 仕事しろよクソ教師。他の生徒にもそうなのだとしたら、平等に厳しい教師で済むけれど、俺一人ならそれは単なるいじめと変わらないじゃないか。あいつのストレス発散のはけ口な俺。本当に、大嫌いだ。こんな風に荒んでいるせいか、友達も出来なくて、クラスで孤立して、相談できる奴なんて誰もいない。

 それが、あいつにいじめられる原因なのだろうか。
 おまけに、あいつは俺以外には優しいからか、人当たり良く面白い教師なんて言われてる。ふざけんな。死んじまえよあんな奴。いつもそう思っているけど、思っているだけでは中々死なない。そんなもんだ。今日もまた、俺の机に書かれていた落書きが気に食わないとかいうよくわからない理由で、職員室に呼び出された。

「内海ぃ、お前さ、授業中あんな落書きばっかりしてるから、成績も上がらないんだぞ」
「……あれは、俺が書いた訳じゃないです。合同授業で俺の机に座った人が」
「言い訳すんな、あと目上の人と話すときは俺じゃなくて僕、だろ。お前そんなんじゃ社会に出たとき通用しねーぞ」
「…………」

 何でお前にそんなこと言われなくちゃいけないんだ。
 大体俺じゃないって言ってるのに。こういう時はもう何を言っても無駄だ。こいつは単に、なんでもいいから俺に嫌味を言いたいだけなんだから。俺は葛谷の小言なんてこの際聞き流すことにして、外でも見ながらやり過ごすことにした。
 葛谷に説教される時は、大体こうしている。聞いていてもキリがない。もう他の教師もほとんど帰っているか、部活の顧問で出ているかで、職員室には誰もおらず、葛谷の背後、職員室の窓から差す夕日が、黒く大きな影を作っている。

 ふと、俺は外の木の枝に止まっている烏と目があった。鳴くこともせず、動くこともせず、じっと此方を見つめている。漆黒の瞳に俺が映っているかはわからないが、その嘴でこの男を突き殺してくれないかなと思った。

「……おい、聞いてるのか内海」
「……はい」
「はぁ〜、もうこんな時間じゃねえか……お前、もう落書きすんなよ」
「……はい」

 葛谷は舌打ちでもしそうな勢いで俺を睨むと、鞄に書類などを詰め込み始めた。だから俺じゃねえよクズ谷が。けど、どうやら説教は終わったらしい。俺はようやく終わったと安堵すると、自分の鞄を持ち直して、立ち上がる。

「……失礼しました」

 やっと帰れると、一礼してから外へ向かうが、扉を出る寸前で呼び止められた。

「おい、何処いくんだ」
「えっ……」
「こんな遅くなったんだ。送ってやるから、来い」
「え、でも」
「何してんだ。早くしろ」

 面倒くさそうに言われ、俺が答えに窮していると、無理やり手を掴まれた。人気のない廊下を進んで、あっという間に車へと押し込まれる。
 いやいやいや、変だろ、これ。普段はこんなことしない癖に。どういうつもりだ、と葛谷を見ると、いつも厭味ったらしい顔が、俺を見て薄く笑った。何故かぶわりと鳥肌が立つ。よくわからないけど、逃げろ言う言葉が頭の中に響いていた。逃げなきゃ、そう思って、車のドアに手をかけた。

「あの、俺、一人で帰れます!」
「ガキが遠慮なんかするなよ。なあ内海ぃ」

 しかし、俺の言葉は取り合えってもらえず、鍵が開くことはなかった。にぃと笑った葛谷は、そのままエンジン音を響かせて、車を発進させる。どこかで烏が一声、鳴いた気がした。



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