矢倉くんとリボン


「魔法」「泣き顔」「リボン」に関わる、「バッドエンド」のお話







 矢倉君はとても酷い人だと思う。僕の泣いている顔が大好きという、気持ち悪い人だ。

 人の事を泣かせてはあはあ言って、あまつさえ勃起する変態だ。
 僕が泣く為ならなんだってすると豪語してくる最低の人間だ。
 僕はそんな矢倉君と日々戦っている、自分の貞操とか、自尊心とか、色々守る為に。
 そんな矢倉君は、自称魔法使いである。別に、30歳以上の童貞男性という意味ではない。
 僕も矢倉君も、まだ16歳だから。夢も未来も将来も、なんだって出来る年齢だ。だけど、矢倉君は将来大魔法使いになると言って憚らない。
 頭がおかしいと思うので、さっさと何にでもなって僕の目の前から消えてくれないかなと思うのは、ここだけの話だ。矢倉君は面倒くさい男なので、僕がそんなことを言うと1日中恨み言を言ってくる。本当に迷惑な人だ。

「小出くん、魔法かけてあげよっか」

 矢倉君が嬉しそうに僕に言う。

「僕、矢倉君の家が火事になる魔法見たいな」

「小出君はバカなの? そんなの、魔法使わなくてもマッチ一本で出来るだろ」

 心底馬鹿にした目で僕を見てくる矢倉君。馬鹿は君だ。君に馬鹿と言われるくらいなら象の鼻に絞殺された方がマシなくらいだ。睨みつけて言葉を溢す。

「矢倉君、僕矢倉君と話したくないから話しかけないでほしいな」
「またそっけないことを言う。そんな所も可愛いんだけどね。魔法の粉をふりかけちゃう」
「はっくしゅ!はっくしゅ! 矢倉この野郎!」

 魔法の粉と称した湖沼を振りかけられて、僕の目と鼻はぐずぐずになった。涙目で何度もくしゃみをする。その様子を、矢倉君はマスクをしながら眺めていた。

自爆魔法とかかけてくれないかな。怒りを露わにすると、流石に悪いと思ったのか、矢倉君は懐からリボンを取り出し、僕に手渡してきた。ピンク色の可愛いリボンだった。

「ごめん小出くん。君の可愛らしい泣き顔に興奮してつい」

 いい加減にしろ。

「謝って許されるような事じゃないから燃えてくれないかな。写メしてSNSとかにアップするから出来るだけ派手に」
「小出君にはいつも萌えてるしそれ色んな意味で炎上必至だよ。だから、はい」
「何これ、いらないよこんなゴミ」

 僕は矢倉君から貰ったリボンをくしゃくしゃに丸め、ついでに近くに鋏があったから刻んで、さらにシュレッダーにかけた。
 必要以上にぼろぼろにされたリボンの慣れの果てをシュレッダーケースから取り出して、矢倉君が声を絞り出す。

「……小出くんは酷いことするね。血が通ってないんじゃない?」
「だって僕男だし、そんなリボン貰っても困っちゃうよ」
「困るだけならここまですることないのに……」

 それもそうだけど、矢倉君がドヤ顔で渡してくるから腹が立ってしまったのだ。
 仕方ない。すると、矢倉君は溜息を吐きながら、ケースの中に手を突っ込み、リボンの残骸を僕に渡してきた。

「何? ゴミはゴミ箱に捨ててくれよ」
「君に渡したプレゼントだったのに。小出くんは本当に酷いな。そんなところも好きだけど、ツンツンしすぎるのも考え物だ。だから、もうちょっと優しくなる魔法をかけよう。俺は魔法使いだからね」

 そう言って、矢倉君がリボンの残骸を僕に振りかけてきた。

「何を……」

 言いかけた瞬間、体が動かなくなってしまった。まるで石像にでもなったみたいに、指一本動かせない。目の前で、矢倉くんが笑っている。いつの間にか、ぼろぼろになった筈のリボンが、元の姿に戻っている。彼の手が僕の首元に伸びてきて、しゅるりと音を立てて僕の首に巻いつける。

「僕に優しくなりますように」
「っ……」

 ふざけるな死ねよ。そう思うのに、何故か言葉は出なかった。代わりに、真っ黒な矢倉君の瞳の中に映る僕の顔は、何故か慈悲深く笑っていた。


 終わり



- 424 -
PREV | BACK | NEXT

×
「#甘々」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -