大福猫




「大福、邪魔だよ」
「んなぁ〜〜」
「ほら、見えないからどけ」
「んんにゃっ」
「イテッ」

 雑誌の中央にどどんとでかい尻をこちらに向けて箱座りする大福の尻を押すと、煩わしそうに俺の手を叩いてきた。爪は出てない猫パンチ。
 柔らかい肉球が手の甲に当たる。恨めしく睨む俺を無視してのんきに欠伸をすると、そのままごろんと横になった。見たかった雑誌の項目はまったく見えない。
 代わりに、ふくよかな腹と真っ白な毛が目の前にある。腹の中に手を埋めてその柔らかさを堪能していると、あっと言う間に噛みつかれた。
 といっても、甘噛みだから、それほど痛くはないけれど。

「大福〜、見えないって」

 短毛の真っ白い猫、俺の飼い猫、大福。
 名前の由来は、座ったときの後ろ姿が大福そっくりだから、大福。子猫の時はあった愛嬌も今は消え失せ、とってもクールな猫になってしまった。
 餌が欲しい時と撫でてほしい時に甘えてくる、自由気ままな女王様猫。今は俺が雑誌に集中していたのが気に食わなかったらしい。コーヒーを飲みながら食事を終えて、食後のブレイクタイムとしゃれ込んでいたのに、すぐに大福が邪魔しにきた。

「おーりーろって」
「んんにゃ〜〜!」
「いたたた、こら、やめろ」

 じゃれついている内はまだいいけど、その内本気になって齧りついてくるから、怖い。
 雑誌の上に寝そべった大福を降ろすと、家のチャイムが鳴った。大福は耳をぴんと立てると、尻尾を下げて警戒しながら玄関の方に走っていく。

「はーい」
「大介? 俺おれー」
「おー、鍵開いてっから入っていいよー」
「お邪魔します。おー、大福! 元気か? 今日もデブだなっててててて」
「お前、相変わらず大福に嫌われてるな」

 やってきたのは、友人である夏樹だった。相変わらず縦にひょろりと長く、それがまた、大福にとっては嫌なのかもしれない。
 大福は夏樹を見ると噛みついて高い位置にジャンプして登って行った。夏樹が自腹で俺に買ってくれた猫タワーのてっぺんで、うざそうに見下ろしている。

「ああ〜、行っちゃった」
「うける、嫌われすぎだろ」
「俺は好きなのにな〜、おいで大福」
「んなーお! ニャー!」

 はい、威嚇。
 さっさと出てけと言わんばかりの態度に、夏樹が肩を落とす。
 そもそも、俺が大福を飼うきっかけを作ったのは、夏樹だった。

 その頃俺は、ゼミの先輩が好きで、その先輩が大の猫好きと聞いて、話すきっかけが欲しかったのだ。中途半端な気持ちで飼うつもりはなかったので、ただ猫に詳しくなろうとしただけだったけど、夏樹が大福を連れて来た。
 雨の中捨てられていて、病院に連れて行って回復したけれど、夏樹自身は家族が猫アレルギーで飼えないので、飼ってほしいと言われたのだ。夏樹は、昔から猫が好きだった。

 俺は迷ったけれど、夏樹が何度も頭を下げて、餌代も協力するし、面倒見れないときは自分が見ると言ってきたので、結局、大福を飼うことに決めた。まあ、猫は嫌いじゃないし、一緒に居ると癒されるしな。
 大福が死ぬまで、夏樹と何十年も一緒にいるか? と聞かれればそれはないだろうと思うけど、結局俺は情に負けた。夏樹は絶対大福が死ぬまで一緒にいるとか言ってるけど、まあ無理だろ。
 俺も夏樹も大学生で、今後就職とか結婚をすると、どうやったって状況は変わる。俺は自分の意思で飼うことを決めたので、ちゃんと最後まで面倒は見るつもりだ。

 しかし、当の大福は、恩人である夏樹のことはあまり好きではないらしい。背が高くて見下ろされるのが嫌なのだろうか。夏樹は今日も自腹で買ってきた猫じゃらしを、猫タワーの下で動かしている。
 ちなみに大福は完全に無視だ。

「お前、大福になんかした?」
「いや、してないよ! 俺猫大好きだし! ただちょっときっか……いやっ、なんでもない」
「ふーん……? まあ大福も人見知りだからな」

 基本的に、あまり人に懐かない女王様だ。
 夏樹何て特にへこへこしているから、馬鹿にされているのかもしれない。犬ですら順位を下にしてしまいそうだ。
 俺は大福がいなくなってようやく読めると雑誌を拾うと、突然上から大福が俺の膝上に降ってきた。

「うわっ」
「あ、いいな大福!」
「もー、お前すぐ邪魔すんだから」

 膝の上に乗ってきた大福は、そのまま俺の上でぐるんと丸くなって目を瞑った。

「あっ、あー、ずるい」

 夏樹が羨ましそうに大福を見ている。大福はそんな夏樹を見て、ふん、と鼻を鳴らした。

「やろうか?」
「えっ、いいの?」
「引っかかれるかもだけど」
「いいよいいよ、ありがとう」
「んー。……っておい」
「え?」

 そのまま夏樹が俺を抱きかかえた。やろうか? ってそっちの意味じゃないからな。

「大福だよ、大福」
「あ、あーー! そっちか!」
「そっちかっていうか、なんで俺を抱っこするという選択肢があるんだよ」
「あはは、ダメか〜」

 俺を抱いてどうする。
 膝の上で、大福が気持ちよさそうに両手を開いたり閉じたりして、俺のズボンを揉んでいる。

「いいな……」

 夏樹が、羨ましそうに呟いた。

「だから、やるって」
「そっちじゃなくて」
「ん?」
「いや……、なんでもない」

 その後、夏樹に渡そうと抱き上げた瞬間、大福は歯をむき出しにして、夏樹の手を振り払った。

「いたっ」
「お前、本当嫌われてるな」
「協力してくれるかと思ったのに」
「何が? 飼うのなら協力してるだろ」
「うん……」

 釈然としない様子で、夏樹は大福を見下ろした。



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