その後の話3



 俺の家に着くと、森は少し怒ったように、俺をベッドへと倒した。布団の上とはいえ、一応怪我人なのに、なんてことするんだ。文句を言おうと思ったけれど、顔を上げた瞬間、ゾッとする。
 森の顔が、すこぶる笑顔だったからだ。怒っているなら、まだ解る。森は林と仲が悪いので、気に食わないから、機嫌が悪くなるのも。
 だけど、どうして笑っているのだろう。にこにこと邪気のない笑顔が、俺に迫ってきて、後ずさった。こういうことが、前にもあった気がする。

「も、森?」
「……樹ぅ、俺言ったよな? 俺が大学行ってる時は、家で大人しくしてろよって」
「い、言ったっけ?」
「言ったよ。樹もわかったって返事しただろ?」

 そんなこと言われても、俺だって人間だ。森がいない間、ずっと部屋にいるなんて退屈でどうにかなってしまう。そもそも、どうして森の許可を貰って外出しなければいけないのか。そんな不満が漏れたのか、森が俺の足を掴んだ。
 強い力ではなかったものの、痛みが足に走る。

「ひっ、い」
「樹は何が不満なんだ?」

 足を金槌で叩いたような鈍い痛みが、広がっていく。

「ぅあっ、い、いたっ、やめろっ! 痛いって、森!」
「樹が悪いんじゃん、俺の言うこと無視して、外でて、……あんな奴と話すから」
「はっ……っ、い……なぁ、森、ごめ……謝る、頼むから離してくれよ、痛いんだっ……っ」
「駄目だよ、樹、だってお前また俺に黙ってどっか行きそうだしさー」

 ぎし、という音がして、森の体が俺の上へと覆いかぶさってきた。端正な顔が、俺の目の前にくる、ギプスしたままの足の上に体重をかけられ、俺の顔は更に苦痛に歪んだ。

「いっ―――!」
「いっそこっちも折るか?」

 そう言って、折れていない方の足を撫でた。いくらなんでもやりすぎだ。こんなの、許されることじゃない。林と森が仲悪いのは知っているけど、会ったのは本当にただの偶然だ。まさかこんなに怒るなんて思わなかった。
 このままだと本当に折られてしまいそうで、俺は必死で謝った。

「も、森、ごめん」
「何が?」
「林と話して、悪かった。ごめ……っ、い、謝るから……頼むからどけてくれよ……はっ、痛いんだ」
「もう話さない? 誰とも?」
「あぁ……」

 こくりと頷くと、森は満足そうに笑った。それから、足の上から避けると、そのまま唇に噛みつくようにキスしてきた

「でも、これはお仕置き」
「っ!? う、っん? やめっ、ふ、うううー」

 弾力のある何かが口の中に入り込んでくる。なんだよこれ、なんなんだよこれ。

「…………驚いた? 面白ぇなー樹は、そういうとこ可愛いよ」

 べろり、と唇を舐めると、悪戯っぽく笑う森。おかしい、こんな奴じゃなかったのに。俺は目の前にいる男が全く知らない輩に思えてきて、怯えた。

「お……お前、誰だよ」
「何言ってんの?」
「俺が知ってる森は、こんなことする奴じゃ、ない。お前、誰……」

 そういうと、森が呆れたように嘲笑した。それから、カリカリと首元を掻く。そういえば、林はさっき首元を差していた。自分の首元はよく見えなかったけど、じゃあ森は?
 じっと目を凝らして見てみると、うっすらと赤い後が見える。まるで、誰かに締められたような……。

「何考えてるの?」
「っ」
「樹は本当、俺といる時に他のこと考えるくせ、やめてほしいわ」
「も、森……!」
「ん?」
「その首、どうしたんだよ」
「首ぃ?」

 それから少し笑って、森は言った。

「何言ってんの樹、自分の首なんて、見えるわけねーじゃん」

 そうして、再び俺に被さってくる。
 きっと、林が言うことは間違ってなかったんだ。馬鹿なのは確かに俺だったのかもしれない。森はやっぱりとりつかれてて、だからこんな狂ったような真似をしてくる。
 早いところ、なんとかしてあげなくちゃ。きっと森だって、こんなことしたくないはずなんだ。
 カチャカチャとズボンのベルトが外される音がする。首元に、森が何度も吸い付いてきた。

「もうちょっと我慢する予定だったけど、やめた」
「森……大丈夫だからな、俺が、なんとかするから」
「樹、何いってんの? 馬鹿だなあ」

 林と同じようなことを言って、森が俺の服を脱がせてくる。あの時、公園で別れる時、林はなんていいたかったんだろう。きをつけて? がんばれ?
 どちらにせよ、口に出して言ってくれればよかったのに。そうすれば、何か変わったかも……いや、結局何も変わらないのかもしれない。だって俺は、いつだって林の言うことは半信半疑だった。
 あの子供を見たときも。

        ―――あはは

 どこかで、子供の笑う声がした。いや、気のせいだ。視界に入るカーテンが、ゆらゆらと揺れている。
 愛しそうに首を撫でてくる森を見て、俺は早くなんとかしなくちゃと、切に思った。


終わり 

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