I



「良介くん、襲われたんやって?」
「あっ、ぅあっ、ひ、っ」
「なあんてなあ、僕、本当は知っとんで。良介くん逃げようとしはったんやって」
「っ、ふぅ、う、ぐっ……」
「はあー……っ、せやからあかん、言うたやん」

  へらへらと嗤う灯の言葉に呼応するように、湿った音が部屋の中に響く。ぐちゅぐちゅと、聞きたくもない音が俺の耳を侵食していく度に、気が狂いそうにな る。せめて、声だけは上げないように、枕に噛みついても、突かれる度悲鳴にも似た息が漏れた。枕はすでに唾液と涙でべとべとだ。剥がれた服が、視界の端で丸まっている。ぼやけているのは、俺の目のせいだろうか。
 逃げ出そうとしたお仕置きと称して行われるこの行為は、焼けつくような熱さを孕んでいて、脳細胞が消滅していくような錯覚を覚えた。後ろから、肉を引き裂くように貫かれて、死んでしまいそうだ。もう、いっそ死んだ方が楽だ。

「ちなみにそいつはちゃんと処分しといたから、安心してな」
「っ……しょ、ぶんって……」
「渦見の家の規則に乗っ取ってのことやから、良介くんが気にすることやない」
「ひ、ぐっ……!」

  ずぷっと泡音を立てて、奥に挿入されてきたそれに、俺は再び枕に噛みついた。処分、ってなんだろう。何されたんだ。まさか、殺されてたりとかしないよな、 俺も、そのうち処分とかされちゃうんだろうか。もうこんな風に犯されるくらいなら、それもいいかもしれないとか、思い始めてる俺がいる。違う、死にたくな んてない。なんとかして、ここから逃げるんだ。悲鳴を押し殺して、抜き差しされる肉棒から意識を外す。こんなこと、どうってことないって、思え。犯されて る俺なんていない。こんなのは、全部夢だ。だから、目が覚めたら、また脱出方法を考えよう。そう思ってれば、少しはマシだ。

「う、ぐーっ……ふぅっ……」
「今回は声、あんまあげへんの。まあ、前使ったんは強すぎたから使ってないしなあ。けど、気持ちええやろ、こことかええやん?」
「………いっ……」
「ん?」
「……気持、ち、よく……ない……っ」
「…………ふーん……」
「あっ――うッあ、っ」

  一点を突かれ、体がびくりと震えた。ぐにぐにとそこを刺激されると、涙が零れてくる。うつ伏せでよかった。こいつの前で、泣き顔なんて晒したくない。 シーツを握り、響く卑猥な音に耳を貸さぬよう、必死に声を押し殺して、ただ時間が過ぎるのを待った。早く終われ、早く。

「っ……ぐ……うっ……」
「……ほな、良介くんがあんときみたいに、気持ちええーって言うてくれはるまで、がんばろ」
「っ……!」
「良介くん、忘れんでな。君、僕のやからね。僕から逃げるとか、許さへんよ」

 首筋に伸びてきた手は、やけに冷たかった。

「こっから、いなくならんといて」








「………………」

  これで、何日目だっけ。あれ? あいつにやられたのって、昨日だったか。一昨日? 体、痛いし、昨日かな。布団の上に横たわっていると、少ししか手を付け ていない食事の食器を下げに、白装束が入ってきた。俺の方を見ようともしない。俺も、体がだるいので起き上がらずに、片づける姿をぼんやりと見つめる。かちゃかちゃとお盆に、食事の残されあ器を乗せていく。勿体ないから、本当は全部食いたいけど、さすがに、胃が受け付けなかった。俺、このままストレスとか で死ぬかも。
 ぼんやりそいつを見つめていると、なんだかどこかで見たことあるような気がしてきた。でも、ここにいる奴、皆同じ服着て、顔とかも能面みたいに無表情だから、俺の勘違いかもしれない。けど、やっぱりどこかで見たな……。

「…………」

 しばらくじっと見つめていると、そいつが振り向いて、目があった。そこで、ようやく思い出す。ああ、こいつ、どっかで見たことあるような気がしてたけど、思い出した。あん時の運転手だ。俺を、ここに連れてくる時に車を運転してたやつ。道理で、知ってる気がしたんだ。
  そいつは俺を見ていたが、すぐに視線を外した。こいつ、罪悪感とか、そういうのないのかな、こいつが連れてこなきゃ、今頃俺はこんなことになってなかった のに。考えたけど、すぐに意味のないことだと思い直した。灯のことだ。こいつがいなければ、他の誰かに運転させてただろうし、多分俺は騙されてただろう。 でも、それでも、少しの希望を込めて、かすれた声で呟いてみる。

「なあ」
「…………」
「…………助けて」

 返事は、ない。当然だ、こいつらは、喋らないし、喋ったら灯に"処分"されてしまうかもしれない。結局無駄なんだ。俺は目を閉じて、そいつが去るのを待った。けれど、いつまでたっても、そいつはその場を去らなかった。

「……?」

  不思議に思って目を開けると、そいつが片づけている食事の箸が、机の上から落ちいくのが見えた。箸は、俺の前まで転がってくる。不自然に、俺の目の前で止 まった。俺はゆっくりと箸に手を伸ばし、それを使む。赤い箸、あいつの、虫取り網みたいな色してんなあ。ぼんやりと思っていると、白装束が手を伸ばしてき た。返せってことだろう。俺も箸を持っていても意味はないので、重い腕を上げてそいつへと返した。
 白装束は無言で箸を受け取る。

「……?」

  しかし、受け取る瞬間、手の中に何かを掴まされた。なんだろう、感触的に、紙みたいな。俺がそのことについて問う前に、そいつは部屋から出て行ってしまっ た。部屋の外から鍵がかけられたことを確認すると、布団の中に入り、手の中を開く。案の定紙の切れ端のようなものが入っていて、そこにはこうかかれてい た。

『ここから逃がしてやる
 明日まで待て』

「…………え?」


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