G




「良介くん、ご飯の時間やでー、今日はパスタやでー」
「…………」

 ここに閉じこめられてから、もう何 日経っただろう。そろそろ十日、くらいは経つのか? いや、もっとかもしれない。それとも、俺の体感時間が長いからそう感じるだけで、実際はもっと短いの だろうか。わからない。こいつに聞いても、どうせ「そんなんどうでもええやん」とか言ってはぐらかされる。どうでもよくねえんだよ。部屋に入ってきた灯を 無視していると、肩を掴まれて無理矢理目線をあわせられた。

「無視せんといてー。傷つくやん」
「……俺はもっと傷ついてるよ」
「ん? もう、体調はよくなったやろ?」
「そういう事じゃない」

  確かに、体調自体は回復した。先日、お粥を無理矢理胃に流し込んだ後、本当に医者らしき奴がきて、薬やら点滴やら、いろいろ施された。今では健康状態にな んら問題はない。まあ、その来た医者とやらも、白衣ではなくあの服を着ていたし、やはり一言も喋らなかったので本当に医者だったかどうかはわからないが。 それに、論点はそこじゃない。
 健康状態に問題はなくても、俺の精神状態は多いに問題があるんだ。長い間ここに閉じこめられて、筋力は衰え始めて るし、何より、ずっとここに居ると気が狂いそうになる。時間の感覚もなくなって、朝か夜かもわからない。人間、日の光をずっと浴びてないとおかしくなるっ て本当なんだな。唯一の話し相手も灯だけだし、たまに、実は俺がおかしいんじゃないかって錯覚を覚えたりする。そんでもって、そんなこと考えてる自分に愕 然とするんだ。俺は、おかしくなんてない。おかしいのはこいつらだ。毎日そう唱える。
 もういっそ、俺が犯罪者になってもいいから、ここから出る方法とかないだろうか。殺しても、正当防衛として認められるだろ。

「ぼーっとして、何考えてはるん?」
「……お前が死ぬ事」
「あらら、怖いなあ」
「…………」

  怖いと言う割には、全く怖くなさそうに、灯は笑った。灯は、ここに来たときからまるで変わらない。いつも人を食った様な顔で笑っている。実際、食われた訳 だけど。唯一、来たときと変わったのは、いつも来たときに撮っていた写真を、あの日から全く撮らなくなったことだ。写真がトラウマになってしまった俺に とってそれは喜ばしいことだが、少しだけ理由は気になった。そもそもあの写真、なんの為に撮っていたんだ。

「おい」
「ん?」
「写真、なんでやめたんだ」
「なんや、撮ってほしいん?」
「違う」
「せやったら別にええやん」
「何でもかんでも隠してねーで、たまには教えろよ」
「あーもー、めんどいなあ。もう撮る必要がなくなったからやめただけやって。君が撮って欲しいんやったら撮ったるよ、あの時みたいに」

  後半は無視して、考える。撮る必要が無くなった? それって、どういう意味だ。今までは、撮る必要があったってことか。あいつは、あの撮った写真、何に 使っていたんだ。そもそも、ここに俺が閉じこめられていることは、本家とやらの奴は知ってるんだろうか。考え込んでいると、灯が眼前に現れた。あ、これや ばいな、と思った時にはもう遅く、口が重なっていた。これも、もう何回目だ。うんざりしながら受け入れる。あの日から、灯は執拗に俺にキスしてくる。

「ん、ぅ」

  正直気持ち悪いし、最初の内は拒否していたけど、最近はキレると何をされるかわからないので、もう諦めることにした。たかがキスだ。口がくっつくくらいど うって事はない、無理矢理体を開かれて犯されるより何百倍もマシだ。泣いて喚いてる様を殺すように嬲られるよりいい。ただ、それでも嫌悪感は拭えなかっ た。思い切り嫌悪を滲ませて、唇を話した灯に言う。

「……楽しいか?」
「うん、君のその嫌そーな顔見るの、楽しいわ」
「悪趣味だ」
「はは、ええ趣味しとるやろ?」

 カラカラと笑って、灯は立ち上がる。どうやら出ていくらしい。最近は来る頻度も少しずつ多くなってきている気がするけど、灯は何も言わないし、教えない。俺は出ていく灯の後ろ姿を黙って見送った。

「ほな、また。ご飯はちゃんと食べてな」
「…………」


- 135 -
PREV | BACK | NEXT

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -