暗闇と一緒@




「う〜……」

 視界が歪む。天井がぐるぐると回っている。俺の意志に逆らうように、手足が重い。アルコールを飲んだ後みたいに、酩酊とした感覚。噎せ返るような甘い香りが、部屋の中に充満していた。

「……ううう……」

 灯が部屋を出ていってすぐ、あの白装束達が入ってきて、部屋に、変なお香が焚かれた。
  目線を動かすと、部屋の隅には、お香が置いてある。消せないように、大層な入れ物に入って。それが何なのか、なんて、もちろんあいつらは答えてくれない。 けれど、その香の匂いを嗅いでいる内に、段々と意識が朦朧としてきた。窓もなく、換気口もいつの間にか閉められたこの空間の中では、俺はその香りから逃げ られない。というよいも、すでに逃げられなくなっている。
 なんというか、体に力が入らないのだ。桃の香りにも似たその香りを吸っていると、頭がぼうっとしてくる。ふわふわとした、空を飛んでいるような感覚に陥る。今はなんとか意識は保っているけれど、このままずっとここに居ると、やばい気がする。つーか、すでにやばい。
 なんなんだよこれ、非合法な薬じゃないだろうな。麻薬的な物を想像し、背筋が寒くなる。

「ううぅ……う〜……」

  なんとか匂いを嗅ぐまいと、布団を被って蹲るが、あまり効果はなかった。それというのも、体に力が入らず、布団をしっかり握れるような握力すら、なくなっ てきたから。それに、布団を被ったところで匂いは完全には遮断できない。なんだろ、これ。弛緩剤っていうの? そういうの打ったら、こんな感じになるん じゃないだろうか。
 くらくらと脳に直接入り込んでくる香りに、目を瞑っていると、すらりと戸が開かれた。入ってきたのは三人の白装束で、突っ伏している俺を確認すると、頷きあって此方に近づいてきた。
  おい、なんだ。今のは。何の確認だ。布団の上に転がっている俺の周りを取り囲むと、その内の一人が、懐から謎の錠剤を取り出した。大きさはそこまで大きく ない。白いカプセルに入った錠剤。それをこっちに向かって近づけてくるものだから、俺は思わず後ずさった。けれど、今の状態で後ずさったところで、意味が ない。なんだか、嫌な予感がする。

「な、に……」

 案の定、そいつは、俺の口の中へその薬を放り込むと、水を注いできた。
 駄目だ、これは、絶対飲んじゃいけない。飲んだらやばいことになる。飲むな、絶対に飲んだら駄目だ。俺の本能がそう告げる。けれど、力の抜けた俺の体は、あっさりとその薬を飲み込んでしまった。
 ごくり、と喉を落ちていく錠剤と、飲み干したことを確認する坊主達。俺は不安でどうにかなりそうだった。

「……なに、飲ませたん……」

 呂律が回らない。けれど、ここではきはき問いかけても、きっとこいつらは答えてくれないだろう。
 今まで答えてくれた試しがないのだから。それでも聞いてしまうのは、一抹の希望を持ってのことだ。なんとか逃げられるかも、助けてくれるかもっていう、希望?
 そんなのは、こいつらに持っても無駄な訳だけど。奴らはぐんにゃりと力の抜けた俺の体を起きあがらせ、その内の一人が、俺の目を布で覆った。目隠しされるのは、ここに来て初めてじゃない。
 風呂に連れていかれるときは、いつもこうだった。けれど、こんな状態じゃ、恐怖しか感じない。溺死でもさせられるのか、それともさっきのが実は毒薬か。ばくばくと逸る心臓を押さえながら、無駄だと知りつつも、俺は訪ねた。

「な……どこ、行くんだよ……離せ、いやだ……」

 声と同じで、全く力が入らない。案の定、返事はなかった。
 一人が俺の体を抱きかかえ、静かな音を立てて、部屋を後にした。




「なあ……、なんで、こんなことすんの……」

  浴場につくと、着ていた服はすぐに脱がされた。元々下着と浴衣の二枚だけだ。脱がせるのに何秒もかからない。脱衣所でさっさと脱がされ、今はたぶん浴場の 椅子に座らされているのだろう。目は塞がれているので、あいつらまで脱いでいるかはわからない。でも、普段は、浴場までついたら、目隠しを外されて、その 後は自分で風呂に入っていたのに、なんで今日は外されないんだろう。

「おい、これ……とってくれよ……自分で、洗うから……」

  力の入らない腕を何とか持ち上げて、目隠しを指さした。しかし、やはり答えはない。そもそも、こんなことになっていたら、自分で洗えないけど、どうしてあ んなお香を焚いたんだ。こんなことになってまで、風呂に入らなくちゃいけない理由ってなんだ。なんで、こんな見知らぬ男達の前で目隠しされて、素っ裸にさ れなくちゃいけないんだ。どこのAVだよ。そこまで考えて、嫌な想像が頭をよぎった。

「な、なあおい、なにすんの? マジで……うわっ」

 ばしゃりと、体にお湯をかけられて、思わず体が強張る。視界が真っ暗なだけに、不安で仕方がない。周りの奴らの息遣いと、風呂桶の音だけが、浴室に反響する。

「び、びっくりさせないでくれ……ひぃっ」

 ぬっと、誰かの手が、俺の身体に伸びてきた。大きな手のひらが、俺の背中の上を滑ると同時に、別の誰かの手も伸びてきた。胸に、足に、全身に。

「わ、……な、に」

 それから、身体の上に満遍なくボディソープ? を塗られると、スポンジで丁寧に擦られる。動かない俺の身体を支えながら、首から下まで、全身を這っていくように、優しく擦られた。首も、さっき灯に甚振られた肩も、脇も、胸も、臍も、どんどん下に下がっていく。
 視界を遮られているだけで、妙に他の感覚が冴え渡るような、変な感覚だ。というか、さっきから少し体が熱い。じわじわと広がっていくような、妙な熱が体を支配していく。

「う、うぅ……」

  その内スポンジから手に変わったらしい。ぬるりとした感触と共に、手のひらが俺の全身を撫でていく。まるで愛撫するような手つきで、ぬちゅぬちゅという水 音と、俺の呻き声が浴場に反響し、妙に大きく聞こえた。他の誰かがこの図を見たら、さぞかし可笑しな図だろう。くそ、なんで、こんなことになってんだよ。 奴らの手が俺の身体を擦る度に、身体が震え、変な声がでる。なんか、おかしい。

「っ、ううっ……なあ、も、いいだろ……」

  もう、早く終わってくれ。洗うのにそんな時間かけることないだろ。ばっと洗って流して、終わりで。もう早くしてくれ。それだけを祈っていると、今度は俺の 性器の方に手が伸びてきた。ぐ、と捕まれ、喉がひきつった声を上げる。マジかよ、こいつらよく他人のチンポとか触れんな。そう思ったけど、声には出せな かった。

「あッ、あ、うぁ!?」

 代わりにでてきたのは、情けない声で、熱い手のひらが俺のを包み込むと、ボディソープの泡と一緒に上下に擦られた。先っぽから根本まで、にちゅにちゅと卑猥な音を立てて扱かれて、身体がびくびくと震える。

「ひ、ぅうっ、や、やめッ……」

 おかしい、変だ。変だというなら、この状況がすでにこれ以上ないくらいに狂っているけど、俺の身体が、なんだかおかしい。少し触られたくらいで、なんでこんなに。
 ぐらぐらと、思考が揺らぐ、興奮するような息遣いが大きくなったような気がする。なんだよもう、変態かこいつら。必死で声を押さえていると、上からぼそぼそとした話し声が聞こえたが、なにを話しているかまでは聞こえなかった。

「ふぁっ……あ、はぁッ……」

  いつの間にか、俺の身体は誰かの胸に預けられていた。どうやら、連中はちゃんと服を着ているらしく、掴んだ胸板には布の感触があった。縋るように握りしめ るが、やはり力は入らない。すると突然、身体に熱いシャワーを当てられ、身体がビクついた。出すなら出すと言ってくれ。
 シャワーによって泡が落とされ、ようやく終わったかと思えば、今度は信じられないところに手が触れた。

「ひっ!? ど、こ触って……」

 尻たぶを割るようにして、尻穴に指が充てられた。輪を描くようにして、触れられると、ぞわぞわと背中が総毛立った。自分でも直接触らない部分を、顔も見えない他人に触られるなんて真っ平ごめんだ。

「や、いやだ、やめろ……!」

 腕の中でじたばたともがくが、力の入らない身体の抵抗なんて、なんの意味もないらしく、尻穴付近に何か粘ついた物を塗り付けられた。それから、ねちゃりという粘着音と共にたぶん、指が一本、俺の中に入ってきた。

「ひ、うあぁぁああ!?」

  ぞわぞわぞわ、と鳥肌が立つ。なのに、力の入らない俺の身体は、拒むことなくそれを受け入れた。尻の方の筋肉まで緩んでんのか、やめてくれよ。身体が受け 入れても、俺の精神はぜんぜん受け入れられない。自由の利かない身体と俺の意志は全くの別物だ。ぐにゅぐにゅと俺の中で蠢く異物感に、涙が滲む。

「や、やめろよ……なあぁ……」

 ぐちゅぐちゅと、俺の声なんて聞こえないように、中を出入りする。視界は相変わらず遮られていて、無数の奴らに囲まれている気分だ。なんだよこれ、なんなんだよ。尻穴をぐちゅぐちゅ弄られていると、今度は別の誰かの手が、俺の乳首に、チンポに伸びてきた。

「あっ、やめ、やだって! ひッあ、ッ」

  なんなんだこいつら! なんでそんなところ触るんだよ。擦られ、摘まれ、引っ張られで、その度に声がでる。もう、いい加減にしてくれ。そんでもって、なん で触られる度に反応するんだ、俺の身体は。さっきの薬を飲んでから、やっぱりおかしい。こんなの嫌だし、気持ち悪いのに、俺の身体じゃないみたいに、触ら れると、なんというか、気持ちいい。絶対変だ。おかしい。はぁはぁと舌を出して、酸素を取り込むように息をしていると、口の中に指を入れられた。

「あぇっ、うんあ」

  何で舌なんて引っ張るんだ。そんなことして何が楽しい。必死で呼吸していると、くっと楽しんでるような、押し殺した声が頭上から降ってきた。いつの間に か、下の指が二本に増やされていて、違う方向にばらばらと動かれるたびに、上ずった声が出る。やがてぬぷぬぷと出し入れされていた指が抜かれると、今度は 何か別の物が、俺の中に入ってきた。人の指みたいに熱くない、冷たい、機械的な何か。

「な、なに……? なんだよ、それ」

  見えない恐怖に震えていると、それは無遠慮に奥まで入ってきた。それほど太くはない、むしろ、さっきの指の方が太かった。けれど、なぜかこっちの方が怖 い。なんだよ、これ。落ち着かせるためかなんなのか知らないが、頭を撫でられた。けど、そんなんで落ち着けるはずがない。俺を落ちつけたいなら、ここから 解放してくれ。

「ひ、あぅ」

 それからすぐ、俺の中に何かが注がれてくるのがわかった。冷たいような、温いような液体が俺の中に入ってくる。じわじわと中に広がっていく感覚が気持ち悪い。

「い、やだ、ァ、なんだよこれ……っ!?」

 こちらから問いかけても、答えなんてないのはわかってる。それでも、縋らずにはいられなかった。最後まで入れられたらしく、終わると、その機械のような何かは抜かれた。けれど、抜かれたと同時に、別の栓のような物を尻穴に嵌め込まれた。

「何……いれ……」

 心臓が、やばいくらいにうるさい。ハァハァと肩で息をしていると、急に腹が痛くなってきた。ぎゅううと、腸が絞られていくような感じ。腹がごろごろと鳴って、俺はさっき入れられた物の正体の見当がついてしまった。多分、下剤とか、浣腸とか、そういう系のなんかだろう。

「っ……トイレ……」

 汗がやばい。全身の毛穴という毛穴から、汗が噴き出ているようだ。こんなにシャワーで汗を流されているのに、まだ吹き出てくる。俺は奪われた視界の先にいる相手に懇願した。

「トイレ、行かせてくれ……っ」

 ぐるぐると腹が鳴る。痛い、めっちゃ腹が痛い。けれど、奴らは何も言わず、俺の腹を撫でてきた。

「っ〜〜! や、やめろ!」

 やめろといっても、俺の意見は全部無視される。もう嫌だ、なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。俺は隠された布の下で泣いた。監禁された挙句、こんな、全裸で目隠しされて、知らない奴らにこんな事されて、俺が何したってんだ。

「うっ、うぅうっ……っひ……っ」

 堪らず嗚咽を漏らすと、再び、俺の尻穴に手が伸ばされた。尻を掴まれ、中心の栓に手がかかったのがわかる。

「! や、い、今抜くな……! たの」

 頼む、という言葉は聞き届けられなかった。ずるり、という音と同時に、栓が引き抜かれた。

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