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 灯に騙され"本家"とやらに監禁されてから、二日ほど過ぎた。最初は混乱し、恐慌状態に陥ったりしたけれど、二日も経てば少し落ち着いてくる。あくまで少しだ。当然同時に恐怖感も増してくる。本当にここから出られるのかって。
 普通に考えれば、殺すような犯罪的なことはしないと思うけど、それは俺の願望だ。人を監禁するような男に常識は通じないだろう。けど、ここは冷静にならないと、どんどん追いつめられていく気がしてならない。
 だから俺は、まず自分の置かれた状況を冷静に分析する事にした。

 まず、俺の居るこの部屋。監禁されている部屋に窓はなく、家具は机と布団とテレビのみ。換気口はあるが、あそこから出るのはまず無理だろう。
 四方に壁があり、その内本当に壁しかないのは一つだけ。残りの三つは、それぞれ引き戸がつけられている。そして、その戸は三つ、すべて鍵が取り付けられていた。

「……すみません、トイレ、行きたいんですけど」

  俺は部屋の外に居る奴に、部屋の中から話しかける。常駐してるのかしてないのか知らないが、ややあってから三つのうちの一つの扉が音もなく開かれた。外に は厳つい顔をした坊主頭がいる。そいつは無言で俺を部屋の外に促した。俺の部屋の中にトイレはないので、行きたい時はこうやって声を上げれば一応出してくれる。というか、出てこなかったらもう漏らすしかない。流石にそれはやめてやるという温情か。
 部屋の外は、相変わらず畳の部屋に、扉が並んでいる。唯一俺の部屋と違うのは、そこにも個室があり、そこがトイレとなっている所だ。
 男が、さっさとしろとでも言うように、視線を飛ばす。
  俺はへらりとした愛想笑いを浮かべて、大人しくトイレに入った。といっても、別に用を足す訳ではない。2日程ここに閉じこめられてわかったことだが、どう やらこの屋敷は、扉の奥に、また扉、そしてその奥に扉がある。つまり、俺の部屋を中心とした、渦というか、輪のような、なんとも妙な構造になっているらし い。窓らしき物は一切ない。
 おまけに、その扉にはすべて鍵がかかっている。一体どういう風に管理しているのか知らないが、力ずくで正面突破はむずかしそうだ。風呂は風呂で、視界を隠されてしまうのでどこにあるかは知らないが、おそらくこの部屋のどこかが風呂なんだろう。
 だとすると、抜け出す手段はなんだろう。一度、部屋の畳をはがして、床下から抜けられないかと考えてみたが、そもそも畳が剥がれなかった。
 考え込んでいると、トイレの扉が叩かれる。早くしろということだろうか。トイレくらいゆっくり入らせろよ。

 トイレから出て、愛想笑いをすると、素早く周りを見回した。やはり、この部屋も、壁が一つだけある。

「あのー、俺、いつここから出られます?」
「…………」
「ていうか、マジで出られるんですよね?」
「…………」

 坊主頭はしゃべらない。基本、俺の言うことはすべて無視する。それは、どいつでもそうだった。喋るのは灯くらいだ。俺は諦めて部屋に戻る。部屋に入ると、すぐに外から引き戸に鍵がかかる音が聞こえて、息がつまりそうだ。
 この小さな部屋の中に四六時中いたら、気が狂いそうになる。俺は、部屋にある唯一の壁側に寄って、その壁を叩いてみた。
 ゴンゴン、ゴンゴン、トントン。

「…………」

 やっぱり、空洞音が聞こえる場所がある。ここに閉じこめられて次の朝、俺は抜け道がないか入念に調べてみた。結果、逃げられそうなところは左右上下含めなかったが、この空洞音だけは気になっている。
 後ろが本当に壁なら、周りの部屋はいわゆるコの字型の構造になっているのかもしれないが、空洞音がするということは、いけないだけで、こっち側にも部屋がある可能性が高い。ここを破れば、なんとか逃げ出せるかもしれない。
 コンコン、コンコン、と空洞音がなる箇所を重点的に叩く。ついでに、壁に耳を当てたりなんかして。

「入るでー、良介くん」
「っ」

 その時、等々に部屋の扉が開かれた。入ってきたのは、もちろん灯だ。基本、ここにはあの坊主以外は灯しか入ってこない。
 灯は手に持った盆をテーブルに置くべく近づいてきた。

「ん? 今なにしてはったん?」
「……関係ないだろ」
「あらら、釣れないない返事やなあ」

 監禁してる相手が愛想良く釣れる返事しても嫌だろ。
 俺は灯を見ないようにして、その壁から離れた。

「ご飯、持ってきたで」

 言いながら、灯が俺の部屋の机の上に飯を並べる。食欲をそそる香りが部屋に立ちこめるが、俺はそれをじっと睨みつける。大体、こいつの言うことは大部分が信用できない。

「何や食べへんの? 前にも言うたけど、別に毒とか入れてへんよ」
「お前の言うこと、ぜんぜん信用できないんだけど」
「せやな〜わかる〜」

  ケラケラと、灯が笑う。
 灯がこの部屋に来るのは毎日三回、朝昼晩の食事を持ってくる時だけだ。食器の片づけは、あの坊主頭たちの仕事だ。約束を守っているのかなんなのか知らないが、飯だけはいつも豪華で、中華から和食までなんでもござれだ。リクエストすれば多分その食事も持ってきてくれるんだろう。
  当初の話通り、確かに灯は俺が逃げようとさえしなければこちらに危害を加えるような真似はしないし、ほしい物があれば用意してくれる。まあ、凶器になり得 そうな物は却下されるけど、出られない不自由さを除けば、割と快適な場所なのかもしれない。出られないのが不自由すぎるけどな。
 それに、こいつの言うことをそのまま信じるのは、とても危険だ。今にして思えば、ここに来る前の車中。
 いくら満腹になったからといって、着替えさせられても起きないくらい眠り込むなんてあり得るだろうか?
 俺はそこまで眠ったら起きないような奴じゃない。あんだけ食ったんだ。食べ物に何か盛られたんじゃないかと、穿った見方をしてしまうのは当然だと思う。

「食べへんのは君の自由やけど、ただ体力削られていきよるで」
「…………」

 目の前には、豪華な飯。腹の虫が小さくなった。その音を聞いて、灯が笑う。すげえ腹立つけど、確かに、黙って居ても腹は減る。
 それに、殺したり、力を削ぐなら、他にも有効なやり方はあるだろう。とりあえず、一週間、と灯は言った。なら、それまでは下手な事はしない、かも。俺はため息をついて、箸に手をつけた。

「……いただきます」
「召し上がれ〜。素直な良介くんはええね、はい、チーズ」

 パシャ、とフラッシュが炊かれた。何に使っているのか知らないが、こいつは毎回、ここに来る度に俺の写真を撮っていく。なぜ写真を撮るのか、聞いても教えてくれないし、吐かれたそれが真実とは限らない。
 だって、こいつは嘘つきだ。
 もぐもぐと生湯葉の刺身を咀嚼していると、灯は気が済んだのか、立ち上がり、扉へと歩きだした。

「ほな、また後で」
「なあ」
「ん?」
「あの壁の向こう、何かあんの?」

 俺は、一応壁のことを聞いてみた。嘘でも本当でも、情報は必要だ。わからないことが多すぎる。すると、灯は顔色を変えずに、こう返した。

「ああ、ただの物置や。残念やけど、そこからは出られへんよ」

 それだけ言うと、出ていってしまった。さて、嘘か誠か。
 本当にしたって、嘘くさいんだよ。


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