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「やー、良介くん、お仕事お疲れ」
「……本当に待ってたんだ」
「僕、待つ言うたやん」

 バイトを終えて、店を出ると、入り口前で灯が待ってましたとばかりに手を振った。
 にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべて、近づいて来る。旭さんや渦見もそうだったけど、渦見家って顔がいいやつ多いのな。いや、灯は渦見家には該当しないのか? 名字違うし。
 近くを通り過ぎた女子高生が、灯を見て、きゃっきゃとはしゃぎながら走り去っていった。おもしろくない。全然面白くない。

「……話って?」
「それより良介くん、夕飯は? 僕が誘ったんやし、その辺で食べへん? 奢るで」
「いや、賄い、貰ったからいい」

 言いながら、俺は右手の袋を掲げた。タダより安いものはない。と、いう事を俺は最近になって学んだ。主に宇都宮のせいで。
  奢るという言葉には非常に弱い俺だけど、こいつはなんか怪しい気がする。初対面の人間に対してそう思うのは失礼かもしれないけど、その張り付けたような笑顔が気に食わないし、顔がいいのも気にくわない。おまけに目的もわからない。いくら渦見の兄弟とはいえ、信用できるとは限らない。そもそも、渦見自体が胡散臭いやつだったんだから、その弟だって当然 胡散臭いに決まってる。
 つーかいつの間に下の名前で呼んでるんだ。俺は名乗ってすらいないのに。
 しかし灯は大して気にしてないようで、笑いながら眉を下げた。

「あらら、釣れへんなあ」
「話あんなら、今ここでしろよ。俺、家に帰って飯食うから」
「ほな良介くん家行こかー、僕もその方が落ち着いて話せそうやし。確かこっちやったね」
「おいっ」
「ん?」
「……なんで俺の家知ってんだよ」
「終夜から聞いてはったんよ、ストーカーとかやないで」

 答えになっているような、なっていないような。俺の個人情報が、渦見を通して駄々漏れに……。
  けれど、すでに灯は俺の家の方向に向かって歩きだしている。俺は諦めて、自転車を手で押しながら、横に並んで歩きだした。家を知られているなら、逃げても、家にくるかもしれない。なら、人通りがある所で、目的を聞いておいた方が得策だ。不本意だけど、一応友人の弟、ということだし。

「なあ、あんた、渦見の弟って言ったよな」
「せやね。けど、さっきも言うた通り腹違いやから、年は君とタメやで」
「ふうん」

  どうやら、年下ではないらしい。なら、なんで弟だなんて名乗っているんだろう。ちらりと、横目で灯を改めて観察してみる。背は、俺よりも高い。高いと言う よりも、ひょろ長いという表現の方が合っている気がした。色白で、女だったら京美人とでも称されそうな顔立ちだ。
 柔和な笑みは、旭さんを彷彿とさせる。渦見とはあまり似てないような、似てるような……じろじろと見ていると、目があった。
 俺はぎくりと体を強ばらせる。別に、びびる必要なんてないのに。その目が少しだけ、笑ってないように見えたから。

「何や、そない見つめられたら僕、照れてまうよ」
「……灯さ、俺に何の用? 言っておくけど、渦見探してんなら、俺、あいつの居場所とか知らないぞ」
「ん? ああ、ちゃうよ、終夜の場所なら僕知っとるし」
「! あいつ、今どこにいんの?」
「ああ、やっぱ気にはなってはるん?」
「まあ、……突然いなくなったから、一応。あんなでも友達だしな」

 小さく呟くと、灯はクスクスと笑った。何がおかしいんだろう。

「あいつ、今実家におるんやけど、僕が良介くんに会いにきたのはその件も含めてなあ」
「はあ、実家……」

 前に、連れていって貰った所だろうか。特にいい思い出はないけど、俺はあの馬鹿でかい屋敷を思い出す。いくつ部屋があるんだってくらいでかい割には、特に人が沢山いるわけでもない、日本旧家のようなお屋敷。あいつ、今あそこにいんのかな。

「それと、良介くんにも一度会うてみたかったっちゅーのもある」
「俺に? なんで」
「終夜、友達いてへんやんか」
「…………」

 確かに。
 けど、ここで肯定するのは流石に失礼な気もする。友達は少ないけど、信者はいるしな。宇都宮の顔を思い出しながら肯定も否定もできずに黙っていると、灯はせやから、と続け、俺を見た。別段、俺の答えを期待していたわけでもないようだった。
 ただ友達がいないと強調しただけだ。

「せやから、そんな終夜にできたお友達が、どんな奴なんか会うてみたかったんや」
「……で、会った感想は?」
「んー、警戒心強いなあ! 僕そんなに怪しい? 結構人当たりは良い方思ってんねんけど」

 けらけらと笑いながら、自らを指さした。俺は小さく頷く。

「だってお前、なんか胡散臭いし、人当たり良くても怪しい奴は怪しいだろ」
「あっひゃっひゃ、君失礼やな! 失礼な子も追加したる!」
「そりゃ悪かったよ。……ああでも、お前、笑うと渦見に結構似てるわ」
「んー、そう? 僕とあいつ、そんなに似てへんよ。やって、あいつ、頭おかしいやん」

 腹違いとは言え、実の兄弟になんてことを言うんだ。もしかしてこいつら、仲悪いんだろうか。
 そうこう言ってる間に、アパートに着いてしまった。もっといろんなことを聞き出したかったんだけど、仕方ない。とりあえず危害を加えてくる様子はなさそうだし。俺は自転車を駐車場近くに止めると、二階に上がり部屋の鍵を開けた。あける前に、一度灯を振り返る。

「言っておくけど、家来ても茶菓子はでないぞ。せいぜい水くらいだ」
「ええよええよ、それに僕も手みやげくらいはもって来てはります〜」

 鞄から取り出されたのは、ペットボトルのお茶だった。それから、続いてビニール袋に入ったお菓子がでてきた。滅多に食べない、高級そうな菓子もある。

「さっき良介くんが行ったスーパーで買っといたんよ。お菓子もあるで」
「どうぞ! お入りください!」

 さっき、笑うと渦見に似てるとは言ったけど、やっぱり似てないかもしれない。少なくとも、渦見が俺の部屋に来るとき、お茶菓子を買ってくるなんてことは一切なかった。買ってきたとしても、自分のだけだ。確かに、渦見よりは常識はあるのかもしれない。

「ほな、おじゃましまーす、うひゃあ、ぼろい部屋やね」
「うるせえ」

 いや、やっぱりないかも。

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