葛木灯@


 月日が過ぎるのはあっという間で、めまぐるしく時間は流れていく。俺も試験やらバイトやら、就活の準備やらで、気がつけば、渦見がいなくなってから数ヶ月が過ぎていた。
  最初は、またあいつがひょっこり戻ってくるんじゃないかなんて、そんなことも考えていた。忘れた頃に「久しぶり〜」なんつって。けれど、そもそも大学を辞 めたらしい渦見が戻ってきたところで、どうしようもないし、渦見は戻ってこなかった。渦見がいない生活がだんだん当たり前になっていって、俺は次第に渦見 と過ごした日々のことを忘れかけていた。

 暑い夏の日差しが、じりじりと照りつけてくる。季節は流れ、夏になった。大学も夏休みに入り、俺は生活費を稼ぐため、毎日せっせとバイトにせいを出していた。
 茹だるような暑さと熱気が、俺の体を包み込む。あー、やばい、暑い。マジ暑い。バイトの休憩中、飲み物を買いに外にでると、むわっとした空気が全身に張り付いてきた。蝉の鳴き声がうるさい。滴る汗を拭いながら、近くのスーパーまで歩いた。
 普段は水筒に飲み物を入れてるのに、今日に限って忘れてしまった。こんな猛暑日についてない。
 自販機は近くにあるけど、できれば安くすませたい。スーパーのエアコンにも当たれれば尚いいな。そんなことを考えながら、陽炎揺らぐアスファルトの上をふらふらと歩いていた。

「なあ、君」
「はい?」

  しかし、後少しでスーパーに着くというところを、腕を掴まれ、止められた。いつの間に近くにいたのだろう。見知らぬ男が、俺の横に立っていた。この暑さだ というのに、汗一つかかず、にっこりと俺に親しげな笑みを向けてくる。年は同じ位だろうか。渦見程ではないにしろ、色素の抜けた髪と、それに比例するよう に白い肌。あとは泣き黒子が印象的だった。けれど、その顔は全く知らないものだ。
 掴まれた腕を外して、俺は問いかける。

「何……どちら様ですか」
「君、笠原くん?」

 しかし、男は俺の問いには答えず、逆に俺へ問いかけてきた。確かに俺は笠原だけど、そういうお前は何者だ。早くしないとバイトの休憩時間終わっちゃうだろ。暑さも相まって少しいらいらしながら答える。

「そうですけど、あんた誰?」
「僕なあ、葛木、って言うねん」
「はぁ……カツラギさん」

  少し京訛の入ったイントネーションで、カツラギさんとやらは答えた。しかし、名前を聞いた所で聞き覚えはない。そもそも、訛から察するに、このあたりの奴 じゃないんだろう。俺は関西の方に行った覚えはないし、知らないぞ、こんな奴。しかしカツラギはお構いなしに笑いながら話しかけてくる。

「……どっかで会いましたか?」
「なんや君、ナンパみたいやな。そうやなくて、君渦見終夜のお友達やろ?」
「え」

 渦見、って。何こいつ、渦見の知り合い?
 いや、だとしても、なんで俺に声をかけてくるんだろう。何者だこいつは。訝しんだ視線を送ると、カツラギ慌てて手を振った。

「あ、僕なあ、渦見終夜の弟。別に怪しいもんちゃうよ。ゆーても腹違いなんやけど」
「はぁ……弟」

 あいつ、弟いたんだ。まあ兄貴がいるなら、弟がいたって不思議じゃない。あいつの家族構成は知らないけど、腹違いとかまた訳ありっぽい家庭だな。で、その弟が俺に一体なんの用なんだ。

「……カツラギさんは」
「あ、僕下の名前な、灯言うんよ。灯りって書いて、ともす、な。正直、名字って呼ばれ慣れてへんから、今後はそっちで呼んで」
「…………」

 今後って、今後があんのかよ。そもそもお前はなんなんだ。渦見の弟ってのは、わかったけど、それがなんで俺に話しかけてくる。目の前でにこにこと笑みを浮かべている男に対して、俺は疑問しか持っていない。
 そもそも、渦見は大学もやめて俺とは音信不通、行方しれずと言っても過言ではないのに、俺に何の用なんだ。

「カツラギさんは」
「ともすやて」
「……灯さんは」
「さんとかええよ、灯で」
「……っあのなあ! なんなんだあんた!?」
「せやから、葛木……」
「名前じゃねーよ! 灯! これでいいんだろ、俺に何の用!? 早くしねーと休憩時間終わっちゃうだろ! あと暑いんだよ! 外! 俺は今すぐこのスーパーに入って飲み物買って涼みたいの!」

 怒鳴りつけると、葛木、いや、灯は目をぱちくりと瞬かせた。それから、からからと笑い出す。何がおかしいんだこのクソ野郎。涼しい面しやがって。照りつける暑さにイライラして、俺は目の前の男を睨みつける。

「かんにんなあ、そこまで考えてへんかった。ちょっと話したかったんやけど、なんや暑くて怒ってはるし、バイト終わりにまた来るわ」
「はあ?」
「何時までなん?」
「………………七時」

 本当は、だからなんの話があるのかとか、なんでお前と話さなきゃいけないんだとか、言いたいことはいろいろあったけど、いい加減暑かったし、喉も乾いてた。ので、早く話を済ませてしまいたい、俺は正直に答えた。
 それに、こっちも少し、聞きたいことがある。灯は俺の返答を聞くと、満足そうに笑い、去っていった。

「ほなまたー」
「…………」

 渦見の、腹違いの弟ね。
 弟ってんなら、もしかして俺より年下なんだろうか。けれど、けたたましく響く蝉の鳴き声に、俺はその考えを放棄して、足早にスーパーの中へと入っていった。額から流れてきた汗を、片手で拭った。あー、暑い。

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