テレビ




 突然だが俺はテレビが猛烈に好きだ。
 ネットやゲームが発達したこの時代、若者のテレビ離れが深刻だなどと嘆かれてはいるが、俺としては知るかよ馬鹿、テレビ最高って感じ。ネットもゲームもうちにはねーし。
  未だに地デジ対応ではないブラウン管テレビ(しかも小さい)を使っているが、こいつは一人だけの時間を癒してくれる大切なパートナーだ。孤独で寂しくなる 暮らしの中で、欠かすことの出来ない貴重な存在。テレビがなかったら、きっと俺は寂しくて死んでしまう。最近は渦見が部屋によく遊びに来るため、つけるこ とは以前よりは減ったけど、それでも一人だけになるとついつけてしまうのだ。静かな空間が苦手だからかもしれない。
 そういえば、テレビといえばこんなこともある。


 ***


 俺の部屋に備えつけてあるテレビは、一人暮らしをする際に親父がゴミ捨て場に出されていたやつを、まだ使えるからという理由で拾ってきた物だ。
 息子が一人暮らしするんだから新しい奴買ってやれよ、とか普通の奴なら言うのだろうが、親父は極度の貧乏性だ。おまけに、うちは父子家庭で、母親がいないため、家庭的にそう楽なものではなかった。俺は辛いと感じたことはないけど、親父は大変だったんだろう。
そんな中大学にまで行かせてくれたのだから、贅沢は言えない。むしろ、大学まで行かせてくれたことに感謝している。
まあ俺の話はどうでもいいとして、件のテレビの話をする。
 その日は、大学の講義が午前中だけだったので、俺は部屋を掃除しながらBGM代わりにテレビをつけていた。特に見ているわけではなく、ただ音が鳴って、箱の中で人が騒いでいるといると思うと安心できるのだ。放送しているのは、ただのニュース。

「笠原さあ、電気代とか気にしないの?」
「それが意外にもあんまりかからないんだよな」

  掃除機をかけている俺の隣で、渦見が口を開いた。こいつはいつも暇人なのかなんなのか、よく俺の部屋に遊びに来ては何もせずに帰って行く。見える人、らし い渦見にとって、俺の部屋は住めたもんじゃないと嘆く部屋に見えるらしいのだが、そのくせ毎日のように遊びにくるのだから不思議だ。
 実は適当に言ってるだけなのかもしれない。
 しかし、テレビの音に耳を傾けながら掃除機をかけていると、突然テレビ画面がブツンと途切れ、真っ暗になった。

「あっ」
「あーあ、とうとう寿命か……?」
「……あひゃひゃ、真っ暗だ、残念笠原。ごりんじゅーだよ」
「まぁ元々捨てられてたもんだしな、仕方ないだろ」

 リモコンを操作しても、テレビは何の反応も示さない。やはりいかれてしまったようだ。
 あーあ、直すような金もなければ、今更テレビ買うような金もない。しばらくテレビ無し生活になるのか。
 また都合よくテレビが落ちてる訳でもないだろうし、大学でテレビいらない奴とかいないかな……、ほら、今地デジ移行とかでテレビリサイクルに出す人が多いじゃん。
 明日誰かに聞いてみよう。

「はぁ〜あ、……今はテレビ捨てるにも金がかかるんだよなあ、おい渦見、何見てんの?」
「ん〜〜?」

 俺がこれからこのテレビをどうするかについて頭を悩ませていると、渦見は真っ黒になった画面を、じぃっと見つめていた。その姿は、新しい玩具を見つけた子供の姿に似ている。
 さっきまでついていたテレビには見向きもなかったくせに、真っ暗になった画面には興味があるだなんて、変な奴。
 とは言え、ああも興味津々に見られると、こっちまで興味が湧いてきてしまう。持っていた掃除機を置いて、俺は渦見の後ろへ立ち画面を同じように覗き込んだ。
 しかし、やはり画面は真っ黒のまま。

「何もないぞ?」
「そうでもないよ」
「あー?」
「ほら、………………ひひ、見てみ?」
「…………?」

 何故か楽しそうに笑うと、渦見は俺を画面の前へと促した。訝しがりながらも近付く俺。
 その時、俺は学ぶべきだったのだ、渦見が楽しそうな顔をしている時には、ろくなことがないってことを。
 真っ黒く消えたはずなのに、画面の中に映っていたのは、男の顔だ。一瞬、俺の顔かと思ったけれど、すぐに違うと気づいた。
 真っ黒な画面の奥底で笑う男は、俺じゃない。それは。




「うわあぁああっ!?」

 画面に現れた男の顔。砂嵐の背景に生首だけが浮かんでいる。
 目があった瞬間、テレビの中にいた男は歯をむきだしてケタケタと笑った。俺はというと、驚きのあまり後ろにすっ飛んで、その拍子に、近くにあったテーブルへ強かに腰を打ちつけた。
 混乱の為、痛みはあまり感じない。ただ驚きが俺の脳内を占めていた。何、なんだ、今の! 誰!?

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

  隣で、渦見が楽しそうに手を叩きながら笑っている。まるで予想通りとでも言うかのように。くそ、なんで笑ってんだよお前、今のはなんだ説明しろ。誰だ。ど うして消えたはずの画面に人の顔があるんだ、俺を見て笑ってたぞ、なんて、疑問は沢山浮かび上がってくるのに、答えは一つも出てこない。

「っ…………」

 恐る恐る、もう一度画面の方へ視線を向けるが、もうそこにさっきまでの顔は浮かんでいなく、やはり真っ黒なままの画面があるだけだった。俺の見間違いだろうか?
しかし、そう片付けるにはあまりにさっきの映像はも鮮明すぎた。

「あひゃ…………驚いた? リアクションが可愛い笠原あー」
「……今の、何」
「さぁ、中の人じゃない? なーんちゃって! あひゃひゃ!」
「渦見! ふざけんなって!」
「……なあんだよ、怖かった? よしよしおいで、大丈夫大丈夫、今の奴に悪意はないよー、多分、ね」

 硬直している俺の頭を撫でながら、渦見はテレビの電源を入れる。
 すると、ブンッという起動音と共に、テレビからは昼にやっているバラエティー番組が流れ出した。
 ……あれ?
 壊れたと思っていたのに。事実、さっきまではうんともすんとも言わなかったのに。先ほどまでの出来事がまるでなかったかのように、再び明るい音声が、静かな空間に不釣合いな程響きだした。
 気づけば俺は渦見に抱きかかえられていて、膝に座りながらテレビを見つめている状況になっていたので、慌てて突き放す。
 何だこの状況、さっきと同じくらい寒い。
 何が悲しくて同い年の男に抱きかかえられなきゃいけないんだ。

「あう」
「おい、離せ」
「なんだ、もう立ち直っちゃったの? あひゃひゃ、笠原は弱いのに強いよなあーカンシンカンシン」
「ていうか、さっきのって」
「ひひ、俺はなーんも知らないよお。笠原だって俺の事なーんも知らない。でも、捨てたら今度はテレビから出てくるかもね!」

 明るい笑顔でとんでもないことを言い放つ。
 ひくりと口元を引きつらせた俺に対して、結局その後渦見は遊んだから帰る、と言って帰って行った。
 一人テレビと取り残された俺には、やはり猛烈な寂しさがこみ上げてきて、つけずにはいられなかった。
 結局その後、テレビを捨てることが出来ず(新しいテレビを買う金がなかったとも言える)俺は今もそのテレビと共に暮らしている。
 普通は不気味で捨ててしまうか、お寺とか、なんか供養してくれそうなところに持っていくものだと思うのだけど、渦見のあの一言がきっかけでどうしても捨てることが出来なかったのだ。

 『捨てたら今度はテレビから出てくるかもね』

 あれからあの男は出てこない。
 けれど、俺がこのテレビを捨てようものなら、ひょっとすると、今度はテレビから出てきて、俺にまたあの薄気味悪い笑みを向けてくるかもしれないと想像する。その時、俺はまともでいれれるだろうか。
 馬鹿らしい想像だけど、どこか現実的な感じがして、俺はその考えを忘れることが出来なかった。
 それから、俺は以前にも増してテレビをつけっぱなしにするようになった。
 消してしまうと、男の顔が浮かび上がってくる気がして、常に明るい声が聞こえる部屋にしたかったのだ。

 たまに部屋に遊びにくる友人は俺のことを相変わらずテレビ好きと認識している。
 確かに、俺はテレビが好きだ。
 だけど、今、俺がテレビをつけている理由は、テレビが好きだからじゃない。

 いつか、テレビの奥からあいつが出てきて、俺を引きずり込んでしまいそうで、怖いからだ。

- 109 -
PREV | BACK | NEXT

×
「#切ない」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -