仁科くんの好き嫌い克服教室


 子供の頃、レバーが大嫌いだった。
 好き嫌いは少ない方だと自負していたけれど、初めて見た時、食べた時のあのトラウマが、未だ克服できないでいる。

 赤黒い見た目と、口の中に入れた瞬間のなんとも言えない生臭さ。肝臓だとわかっているのも駄目だったのかもしれない。
 加工されたウィンナーやタン、ホルモンなんてのは平気なのに、レバーだけは駄目なのだ。
 俺は今内臓を食べていると想像して、気持ち悪くなってしまう。けれど、親は厳しくて、食べたくないと思いながらも口に入れて咀嚼した。今思えば、そのまま水で流し込んでしまえばよかったのかもしれない。
 けれど、俺の中の僅かな希望が、もしかしたら食べてみるといけるかもしれない、食わず嫌いはよくないと囁いたのだ。実際、食わず嫌いはよくないことだ。
 しかし、現実は残酷で、もったりと舌の上に纏わりつく食感に、思わず吐き出してしまった。噛みしめた瞬間、ぼろぼろと涙が零れてきた。
 見た目も味も食感も、すべてが駄目だった。

 親に「美味しいんだから食べなさい」「勿体ないから食べなさい」と言われたけれど、どうしても食べられなかった。

 泣きながら嫌だと抵抗して、好き嫌いをする子は大きくなれないんだからね、と小言を言われたけれど、それ以来レバーはどうしても食べられない。
 次食べる時は飢え死に寸前の時だ。いや、死んだ方がましかも。なんて、そんなことを軽く考えていた。


 まさか、本当に食べるか死ぬかの事態に陥ることになるなんて、考えてもいなかったんだ。


仁科くんの好き嫌い克服訓練


 目の前に置かれた皿。
 皿の上に乗っている、赤黒い物体。

「さあ加茂くん、僕の作った料理、召し上がれ。そろそろ3日目だよ、お腹がすいたでしょ? すいたよね? 腹ペコだよね、だってほら、加茂くんのお腹がぐーぐー鳴いてるし、ずっと水しか飲んでないんだもん。ペコペコなはずだよ。僕はね加茂くん、加茂くんに美味しいって言ってもらいたいんだ。だから毎日毎日、こうして愛情をたーっぷり込めて、君に料理を作っているんだよ。料理は愛情。苦手なものでも、愛情を込めれば克服できるよ! だからさあ、ほら、お口を開けて。おっきくあーんってしてよ。僕が食べさせてあげるからね」
「う、ぅう……」

 鼻先に突き付けられた、フォークに刺さった物体。
 生臭い匂いが鼻を突く。目を瞑って顔を背けると、頬にそれが当たった。

「あーあー。行儀が悪いな加茂くん。そういうのはよくない、よくないよ。ご飯にはぁー、敬意を払って頂きますって言わなくちゃいけないって、子供の頃に習わなかった? 食べられる命に対してのいただきます、だよ。これ、最近の子は知らないらしいんだけどね、大切なことだと思うんだ」
「……っ……こっから出せよ……」

 かすれた声で呟くと、目の前の男、仁科(にしな)は楽しそうに口角をあげ、にまりと笑った。整った顔立ちが、薄暗い闇の中で、狂気的に歪んでいる。

 俺、加茂雄平(かも ゆうへい)は、数日前からこの男に監禁されている。


「はい、あーん」
「や、嫌だ……やめろ……」

 突き付けられた物体から、どろりと赤い液体が滴り落ちる。仁科はこれをレバーだという。食べさせるのは、俺の嫌いな食べ物を克服したいだけなのだとのたまう。
 大きなお世話だしやめてほしい。
 そもそも、これは本当にレバーか?
 嫌いな食べ物のことなんて詳しく知らないから、よく知らないけれど、レバーって食材が、なんかの動物の肝臓ってことは知っている。
 けれど、これは本当に動物の肝臓か? 何か違う生物の肝臓じゃないよな? 恐ろしくてとても聞くことは出来ないけど、幼いころの記憶に輪をかけたようにグロテスクな外見をしているそれを、口に含みたいと思えない。
 けれど、意識が朦朧とするくらいには、腹が減っている。最初は鳴っていた腹の音も、そろそろ静かになってきたくらいだ。空腹を通り越して満腹、それすら通り越して、吐き気を催している。
 ぐらぐらと揺らぐ視界の向こう側で、仁科が俺の唇をなぞった。ぞぞぞ、と肌が粟立つ。

「ほら、早く見せてよ加茂くん。君のこの唇が、僕の作った肉を咀嚼して屠るところを」

 気持ち悪い笑みを浮かべて、息を荒げながら仁科が言う。
 そもそも、仁科とは同じ会社の同僚だった。
 何社も落ちて、苦労してようやく入社した俺と、親父のコネで簡単に入社したと噂される仁科とは、あまり仲がよくなかったはずなのに、どうしてこんなことになっているんだろう。
 親の七光り、なんて噂されていた仁科と、上に行きたいと思っていた俺じゃ、そりゃあ話も合わない。

 それに、俺はもうすぐ結婚も控えていた。
 二つ上の女性、香月は料理上手で、俺にはもったいないくらいの女性だった。香月は今どうしているだろう。突然いなくなった俺の事を、心配しているだろうか。
 会社だって、連絡なしに休んでしまっている。捜索願とか、出されているんじゃないだろうか。
 ぼんやりとした頭で考える。
 仁科の笑みと、目の前に整えられた食事だけが、この空間で切り取られた様に浮いている。黒いテーブルクロスの上に置かれた白い皿。その上に並べられた赤い臓物。
 気が狂いそうだ。

「ほら、舌を出して、ちょっとだけ舐めてごらん。美味しいよ」
「な、なんで……、こんなことすんだよぉ……」

 もう泣きそうだ。
 正直、土下座して許してもらえるなら、今すぐにでも土下座をしたい。何に対しての許しかはわからないけど、この状況から開放されるなら、土下座くらい安いものだ。
 しかし、俺の両手足はしっかりと椅子に固定されており、指一本動かすことが出来ない。
 仁科はそんな俺を見て言った。

「僕はただ、加茂くんが美味しく食べる所を見たいだけだってば。……わからないかなあ?」

 何故か、仁科が苛ついたように口を尖らせる。
 その理不尽さに腹を立てるよりも、腹が減った。
 この飽食の現代日本において、俺は死にそうな程の餓えというものを経験したことがない。とりあえず働いてさえいれば、食う事には困らないし、何かしら食糧にはありつける。
 なのに、今はどうだ。この3日間、水しか飲んでいない。
 世界には水だけで何十日も生き延びたとかいうすごい人間もいるけど、そんなのよっぽど精神力と体力が強い奴じゃないと、単純に餓えて死ぬだろう。生憎俺は、そこまで強くない。
 ぐぅ、と求める様に、再び腹が鳴った。

「ほら、ご飯だよ加茂くん。ちゃんと食べられたらご褒美あげるからね」

 ああ、馴染みの店のラーメンが食べたい。白い米に納豆と卵焼きとみそ汁と焼き魚も……、こってりとした唐揚げに味が沁み込んだおでん……いや、もういっそ食べられるならなんでもいいか。
 虚ろな目で、フォークに刺さった物体を見た。全く食欲をそそらない色と形。

「ほら、食べなよ」
「…………」

 仁科が笑う。

「……毒、とか、入ってるんじゃ……」

 突然俺を監禁するような男だ。
 そういった物を入れていても、なんら不思議はない。しかし仁科は、俺のその問いに対して、心外と言わんばかりに顔を顰めた。

「そんなはずないだろぉ、僕はね加茂くん。食べ物には敬意を払っているんだ。君が今まで出しても食べなかったものも、ぜーんぶ綺麗に平らげているんだよ、だから、安心して」

 安心できる要素なんて一つもねえよこのクソ野郎。
 そんな罵声の一つでも浴びせてやりたいところだったけれど、今はそれよりも空腹が勝っていた。
 腹が減った。腹が減った。腹が減った! 腹が減って死にそうだ!
 何か食べたい。もうなんでもいい、大嫌いなレバーでもいい。そんな気持ちが、徐々に脳を支配する。胃の中身がからっぽだ。レバーって、栄養的には何にいいんだろ、ああ、鉄分が豊富なんだっけ? そうだな、これ、なんか血っぽいものが滴っているし、鉄分はありそうだな。じゃあ、食ってもいいんじゃね? もう。
 ぼやけた思考の中で、小さく口を開けた。
 再び腹が鳴る。

「…………」
「ほら、あーん」
「……ん……」

 ゆっくりと口を開ける。どのみち、食わなければここで死ぬ。
 すると、口を開けた俺を確認すると、満足そうに加茂が笑った。口を閉じたまま、息を漏らすようにくすくすと笑う。嬉しくてたまらないというような笑みだった。
 俺は、その物体を見ない様に目を瞑る。
 その瞬間、口の中に生臭い物体を捻じ込まれた。

「ぐっ……、んっ……」

 カッと目を見開いた。
 昔の記憶が蘇る。血なまぐさい香りと、嫌な食感。咀嚼すると、口の中から鼻に抜けるような、生臭さ。ねっとりとした中にぷちぷちと気味の悪い食感が混ざっている。レバーって、こんなだったか?
 生理的に受け付けない涙が浮かんできた。子供の頃と、全く一緒だ。
 嗚咽と共に吐き出そうとするが、ぐいぐいと押しこまれる。

「うっ、うぅっ! うっ」
「ああっ、いいよぉ加茂くん! もっと食べて! おいしそうに!」
「うううぅぅぅううぅうぅぅぅっ!」
「ははっ、は! いいねぇ、その子も、加茂くんに食べられて、きっとちょー幸せだよ!」

 はぁはぁと、息を荒げる仁科の興奮した笑い声に、俺の嗚咽が共鳴する。ぼろぼろと涙が溢れてきた。
 気持ち悪い。吐きそうだ。
 今なら、なんでも食べられると思ったけれど、やっぱり駄目だ。食べられない物は食べられない。
 嫌いな物は、どんなに追い詰められても、嫌いなままだ。
 俺が一噛みするたびに、レバーはぐじゅぐじゅと不快な音を立て、何故かすっぱい味が俺の舌の上に広がった。いっそ飲み込んでしまおうかと思ったけれど、体が拒否しているのか、どうしても喉元を通らない。
 吐く! 吐く! そう思って口開けようとすると、仁科の手が俺の口を抑えつけた。

「んっ、んんんっ!?」
「吐いちゃだあーめ」

 うっとりとした笑みを浮かべ、仁科が俺の膝の上に座り、口を両手で抑え込んだ。

「うー! ううー!」
「沢山噛んで、しっかり飲み込んでね」

 へらへらと笑う仁科に対して、拘束されている俺は暴れようとも暴れられず、無理やりその物体を嚥下した。しかし、飲み込んだ後も、気持ち悪さだけは口の中に残り、体が吐け! と拒否反応を起こしている様だった。
 俺が飲み込んだのを確認すると、仁科は何やら頷いて、俺の口を抑え混んでいた手を離す。
 涙と涎と鼻水でぐしゃぐしゃになっているであろう俺の顔を恍惚とした表情で眺めてきた。

「はぁ〜〜……、よかったよぉ加茂くん……。ちゃんと食べられて偉いねえ」

 まるで幼子でもあやすかのように、仁科が俺の頭を撫でた。
 瞬間、俺の中で何かが崩れた。

「も……」
「ん?」
「もう、許してください……、ごめんなさ……、勘弁してください……、お、俺が、なんか気にくわない事したなら謝りますから……お願いします……許してください、すみませんでした……」
「えっ、加茂くんもしかして泣いてる!? 泣いてるの!? 職場ではあんなにしっかりしてたのに!?」
「すみません、調子にのってすみません……」

 嬉しそうに仁科が笑う。
 瞬間べろりと柔らかい感触が頬を伝った。身震いするような生暖かさに俺は背中を仰け反らせる。

「ひぃっ」
「違うよ加茂くん、僕は別に君が嫌いでこんなことしてるわけじゃないんだ。ただ、君の好き嫌いを克服したいなって思ってるだけなんだよ。だから――」

 次の瞬間、仁科は、後ろに置いてあった残りのそれに、フォークを突き刺した。

「次、行ってみようか? 完食するまで、頑張ろうね!」

 輝かしい笑顔を浮かべられた瞬間、絶望が俺を襲った。


***


「んーーっ、んっ、ふぅ、ふっ……ふぅー……」
「美味しい? 加茂くん。美味しいよね?」

 それから何日経っただろう。皆、俺がいなくなったことに違和感を覚えないのか?
 どうして、誰も探しに来てくれない。
 どうして、誰も助けに来てくれない。
 俺はそんなにどうでもいい存在だったのか、香月、香月は、今何をしている。助けてくれ、誰か。このままじゃ俺は、どうにかなってしまう。
 しかし、日が経つにつれ、諦めにも似た思いが募っていく。このまま、俺はここでこいつに嬲り殺されるんじゃないだろうかという恐怖。
 いや、正確には、殴られたりという暴力は振るわれてはいない。俺は、ただ、食事をさせられているだけだ。
 それだけならば、飯を食うのが好きな俺は、幸せだったかもしれない。
 その食事が、まともだったならば。

「はぁっ、はっ、んんん……」
「かわいーなぁ〜、加茂くんのその顔、ほんっといいなあ、僕はねえ、ずっと君にこうしたかったんだよ。しっかり者で、人から慕われて、素敵な未来が約束されていそうな君に、こうしてあげたかったんだ」

 あの日から、俺はゲテモノ、と言えばいいのだろうか、そういう料理ばかり食べさせられるようになった。
 最初は、俺の嫌いなレバーばかりだった。そもそも本当にあれが食用のレバーだったのかわからないけれど、最初の数日は、レバーという名の、何の肉かわからない物ばかり食べさせられた。
 見た目だけは綺麗に取り繕ってはいたけれど、口に含むとどうしても生臭い、嫌な味がして、俺は何度も吐いた。
 胃が悲鳴を上げるくらいに。その内レバーばかりじゃ栄養が偏るからと言って、仁科が持ってきたのは虫だ。
 味だけなら食べられる物もあったけれど、食い物って、やっぱり視覚や食感も大事だと思う。
 味がフルーティーで美味しくても、見た目がモロに虫だとか、口の中で足が引っかかったりとか、舌に生えている毛が張りついたりすると、無理なもんは無理だ。俺は虫を食べている、という気持ちが先行して、全く喉を通らない。
 前は食べることが大好きだったのに、今はそうでもなくなってしまった。食事の時間が憂鬱だ。
 そして、虫食にも飽きたら、今度はこれだ。

「そう、先っぽ、舐めて」

 生臭い。硬く勃起した陰茎を口に含んでいる。
 はぁはぁと、荒い呼吸音がじっとりと室内に侵透していく。肌蹴た服が、なんの液体かわからないもので濡れていた。
 涙か、汗か、……精液ではないことだけは確かだ。
 虫食も、嫌いなレバーもなくなり、今はおかゆや、きちんとした食事を与えられている。けれど、それと同時に、これを飲ませられるのだ。
 口に含み、舌を動かすと、勃起した陰茎の血管の形が伝わってくる。血管部分はこりこりとしていて、味来には苦い味が伝わり、口の中でさらに硬さを帯びてくる。それを、俺は必死に舐めしゃぶった。味はというと、苦くて生臭くてどろどろして、単純に不味い。
 そもそも、飲んだりするものじゃないんだ。

「んんっ」

 じゅるっと音を立てて、零れてきた液体を掬って啜る。
 俺の唾液の味なのか、仁科自身の味なのか、もうよくわからない。混ざり合って、ぐちゃぐちゃだ。
 あるいは、味覚なんて、とうに崩壊してしまったのかもしれない。くちゅくちゅと口の中で舌を動かすと、仁科が俺の頭を撫でてくる。

「ふふふっ、加茂くん、そんなおいしそうにして……いい子だなあ、ほら、こっち見て」
「んっ……ふ……」

 口に仁科の陰茎を咥えながら、目だけで仁科を仰ぎ見る。目が合うと、仁科が口元を歪め、俺の頭を固定した。口の中の陰茎が、一段と硬さを帯び、苦い味が口に広がると、波打つように痙攣した。

「あ、出るよ……っ! 飲んでね加茂くんっ」
「ふ、ううぅっ、ん」

 びゅくびゅくと咥内に勢いよく発射されたそれを、溢さないよう必死に口の中に収めた。溢すと、まともな食事にありつけなくなる。

「ちゃんと噛んで」
「…………」

 ぬるんと硬さを無くした陰茎から口を離すと、仁科によく見える様に咀嚼する。
 噛んで、噛んで、噛んで。
 噛むほどの食感なんてなにもない液体を噛み締める。どろどろと生臭い味が口の中いっぱいに広がり、一噛みするごとに眉間に皺が寄るのが分かった。
 しばらくその様子を眺めた後、仁科は俺に口を開けて、口内を見せることを要求してきた。

「……あーんして、加茂くんの中にこれから入るザーメンちゃんと見せてね」
「…………あ……」
「うん、よしよし、じゃ、そのままごっくんして」

 咥内に溜まった精液を確認すると、ようやく飲み干すことを許可される。喉の下を落ちていく精液が、体内にこびりついていくような感覚に、脳が痺れる。

「加茂くん?」

 ごくんと飲み干すと、仁科が笑いながら、俺の肩を叩いてきた。
 俺はまだ僅かに垂れている仁科の陰茎に舌を伸ばし、口づける様に唇をつけ、頬ずりしながら答えた。

「に、仁科くんの精液、新鮮で濃厚で……、と、とっても美味しかったです……舌の上でとろけちゃいました」
「よかった、加茂くんが美味しそうに飲んでくれるから、僕はとっても嬉しいよ」

 ちゅる、と残りわずかの精液を吸い取りながら伝えると、いいこいいこ、と頭を撫でられる。
 なんで、こんなこと言ってるんだろ、俺。本当は、そんなこと、思ってもいない癖に。
 でもこうするしかないのだ。これで、俺のまともな食事は確約される。
 変な虫や、気持ち悪い肉だか内臓を食べさせられることもない。ぺろぺろと竿から玉にかけて舌を這わせてお掃除フェラをしていると、もういいよ、と上から声がかけられた。

「今度は、僕も加茂くんのが飲みたいな」
「……こ、光栄、です……」

 俺は、職場ではこう見えてリーダーだったんだ。
 チームでもリーダーで、皆を引っ張っていく側の人間だった。部下とも割と仲がよかったし、表面上、仁科の事は気にかけてもいたのに。
 しかし仁科ははみ出し者で、俺はひょっとすると、仁科を下に見ていたのかもしれない。あれじゃあ、七光りと言われても仕方がないな、なんて、嘲笑していたのかもしれない。
 それが、今じゃこの様だ。
 抵抗する術もなく、自ら足を掴んで、大股開きで仁科に媚びている。露出した性器を、仁科が上から目線で眺めている。
 どうしてこうなったんだ、なんで、こうなった。
 俺は、料理上手で美しい妻ともうすぐ結婚して、温かい家庭を築く予定だったのに。そろそろ昇進予定だったのに。
 ベッドの背もたれにもたれかかると、内股の間に、仁科の頭が覗く。

「いただきまーす」
「んんっ……! あっ、うっ……」

 ふぅ、と息が吹きかけられたと思ったら、一気に根元まで咥えられ、そのままカリ付近までぬぽん、と引き上げられた。舌と上あごで搾り取られる様に押しつぶされながら吸われる。
 柔らかい口内に嬲られると、嬌声にも似た声が口から洩れた。

「ひっ、ああっ、うぁっ、あっ」

 続いて尿道を執拗に舌先でほじくられる。指で根元付近をぐりぐりと押され、身体が跳ねた。面白そうに、仁科が同じところばかりを責めてくるので、その度に体が震える。

「ひっ、あー、あっ!!」
「きもひいいはい?」
「うぁっ、しゃ、喋っ……な……!」

 咥えられたまま喋られると、背中が引きつったように反り返った。べろ、と下から上までなぞりながら舐められ、濡れた音がぐじゅぐじゅと響く。すっかり勃起してしまった俺の陰茎を頬張りながら、仁科の指が、体内に入り込んできた。

「ひっ!」
「はもふん、ほほもふきはろ〜」
「あっ、ぅあ、や……!」

 咥えられ、中も擦られると、痺れるような快感が、俺の体を襲う。外からも内からも責められ、今にもいってしまいそうだ。

「あ〜〜……っ、あ、……っ」
「ふふふ、とろけた様な顔しちゃって、あの加茂くんが、こんなに可愛いなんて僕の前だけだよなあ、嬉しいな」

 ふー、とそそり立った俺の肉棒に、息を吹きかけて、仁科が笑う。ぐりぐりと先っぽを指でいじりながら、前立腺をノックされると、だらしない声が漏れた。
 こんなのは嘘だ。違うんだ、俺は本当はこんなことで気持ちいいなんて思うような変態じゃない。
 尻の穴ほじられて、男にフェラされて気持ちいいなんて、思うはずないだろ。それなのに、身体は痙攣して、強請る様に腰が揺れる。違う、違う違う、これは演技だ。いつか逃げる為の演技で、本当は全然気持ちよくなんて。

「ん〜〜〜」
「ひいっ、すっ……!? あーっ、も、もう出……!」
「ひもひいい?」
「あっ、あぅっ、あっ、き、気持ちいいっ気持ちいいからっ」

 中を刺激され、バキュームの様に吸われると、耐えかねたように射精した。頭が真っ白になる快楽に、体温が上昇し、そのままベッドの中に沈み込む。
 仁科は放出した俺の精液を満足げに飲み干すと、そのまま俺にキスしてきた。
 まだ仁科の口の中に残る俺の精液が、自分の口の中に流れ込んでくる。

「う……」

 生ぬるい体液が、舌と共に口の中へ移される。粘着質な音を立てながら、舌を絡めると、仁科が俺に覆いかぶさってきた。

「加茂くんのザーメン、美味しかったからおすそわけだよ。味はどう?」

 狂ったような発言をしながら、形の良い笑みを浮かべる仁科に対して、俺もまた笑った。

「あ、りがとう、ございます……でも、仁科くんのほうが、美味しいです」

 その言葉に満足したのか、仁科の手が、俺の太腿を擦り、再び指を俺の中に捻じ込んできた。
 指が中で刺激するように動くと、仁科が俺の足を掴み広げてくる。

「今度はこっちを頂くね」
「あっ、あ……!」
「今日はそうだなあ、加茂くんの好きなローストビーフにしようか? それともお寿司がいい? ああ、ラーメンもいいね、加茂くんは何が好き?」
「…………」

 ローストビーフも、お寿司も、ラーメンも、大好物だ。少なくとも、ここにくるまでは大好物だった。
 これは、ちゃんとした飯をちゃんと食べる為の行為なのだ。だから、これは仕方のないことなんだ。俺は自分をそう納得させ、笑みを作りながら口を開いた。

「に、仁科のちんぽが、い、一番おいしい!」
「……今の顔、会社のみんなに見せてあげたいよ、それじゃあ、今から味あわせてあげるね。ほーら、加茂くん、いただきますは?」
「い、いただきます!」

 ずぷ、と音を立てて侵入してきたそれに、俺は悲鳴とも嬌声とも取れる声を上げた。




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