星渡りの民


診断メーカーにて。
「タロット」「五月雨」「水たまり」に関わる、「三人称視点」のSSを8ツイート以内で書きなさい。



***



「東さん、キスしてください」

 と、化け物は言った。僕は形式上、彼を化け物と呼んでいる。
 情が移ると困るし、彼に特別な感情を抱かれても困るからだ。彼はこの地球上で最後の絶滅危惧種、「星渡り」と呼ばれる存在で、お偉いさん曰く、彼一人で全世界人口の価値に相当するらしい。彼がその気になれば宇宙を歩けるし、重力なんてなんのその、殴られても、蹴られても死ぬことはない。感電撲殺溺死圧死焼死壊死、あらゆることをしても、この化け物は死なない、いわゆる不死の存在だ。そもそも、生物なのかどうかすら危ういけれど、国は彼を「絶滅危惧種」と認定している。昔は、もっと沢山いたらしいけれど、皆死んでしまった。
 この何をしても死なない化け物が、如何にすれば死ぬのか?
 それは単純にして明快だ。

「ほら、はやくキスをしないと、僕、死んじゃいますよ。それじゃあ東さんが困りますよね?」

 そう言って化け物は笑う。死なない存在、星渡りは、人とキスをしないと死んでしまう。まるで花火の様に、燃え弾けて尽きて消えてしまうのだ。残るのは焼けた煤だけ。なんとも惨めな死に様だ。けれど、人を嫌う星渡りは、キスするくらいなら、死んだ方がマシだと、どんどん消えて行った。そうして残っているのが、彼一人だ。

「わかっている」

 僕はがぶりと、噛みつくようにキスをした。人嫌いの星渡り。国は、この化け物を生かそうと必死だった。
 彼が居れば、人類の英知はさらに広がるのだから。化け物の鋭い爪が僕の皮膚に食い込んで、眉を寄せた。こんな奴の世話係になんて、なるんじゃなかった。出世の為とはいえ、僕はこの化け物が嫌いなのだ。

「東さん」
「……なんです」
「キスしましょう」
「今しました」
「人間は、好きな人にキスするんでしょう?」
「お前は人間じゃない」
「でも、僕はしたい」
「僕はしたくありません」

 そうとも、僕は、化け物を好きになったりする気はないのだから。そんな目で見られても困るのだ。

「東さんは、どうして僕が嫌いなんですか?」

 化け物が言う。

「僕がどうして君を好きにならなくちゃいけないんだ」

 僕も言う。
 そう言うと、化け物はまるで人間みたいに悲しそうな顔をするのだ。おかしいじゃないか。地球を滅ぼせる程の力があるくせに、僕みたいな人間一人すら振り向かせることができないなんて、まったく笑えてくる。
 星渡りは、自分の体を削ると星屑の様になる。星の砂みたいに、さらさらと落ちていくのだ。それは不死の妙薬となるらしい。しかしそれも、彼が望めばの話だ。お偉いさん方が、いかに彼の体を削った所で、彼が認めなければそれはただの砂と化し、何の役にも立たない。僕の現在の役目は彼をその気にさせる事、らしいが、こればかりはどうにも苦手だった。

「東さん、キスしましょう」
「……」

 それは口へのキスではなかったかもしれない。化け物が、僕の上に覆いかぶさってきた。この仕事は、苦難が多い。


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