ごろごろ-1

 この日のOMC会場はいつもと違っていた。
満員の観客はただひたすらに黙ったまま、複雑な面持ちで眼前の状況、もとい乱入者を見つめている。
OZ全てと現実、全部が混乱に陥った8月。
その原因たる存在、ラブマシーンが『強い毒でも使いようで薬になる』『攻撃だって出来る防御システム』『24時間戦えます』と言う言い分で製作者ごとOZ の管制システムに組み込まれたのはその数ヵ月後。
とは言えOZの一般利用者にとっては不安はあるものの「そうですか」としか言えない話。勿論文句を言う者も少なからず居た様だが、目に見える形で効果を実証されてしまえば中々覆す事は難しい。

そして現在。
そのラブマシーンの姿が何故か闘技場に存在していた。
ただし生首の状態で、しかも4個ほどに分裂していた。

話は30分ほど前に遡る。
中央タワーの中、一際目立つ管理センターの中心から大きな姿がぶわっと飛び立った。仁王像の様に威風堂々と上半身を晒し、じゃらりと装身具やコードをなびかせて飛ぶ姿は管理センター関係者にとっては、既にもう見慣れたものだ。

夏の事件以降、ハッキングやウイルスなどの問題は実は増えていた。世界最高のセキュリティ環境、と謳われていたOZがあれだけ見事に引っ掻き回され、更には某国某機関まで関わる大事件にまで発展したのだ。あわや原子力発電所大爆発寸前まで言った訳だがそれは咽喉元過ぎれば何とやら。
さぞかしハッカーやクラッカーと言った犯罪者の域にまで突っ込みかけているGEEKの心を刺激したのだろう。
その辺りも踏まえてのラブマシーン導入だった訳だが、激しく効果は出ていた。
ラブマシーン自身が監視システムと防御システムに同化して、意思と学習能力を持った協力者として存在する。複雑なシステムの制御が一本化され、今まで細かな些事にまで割り振っていた人員が効率的に動かせる様になり、更に彼の飽くなき探究心はスタッフにとっては格好の受け皿になった。
何しろOZの保守管理管制などを受け持つ面々は、結局の所色々な意味でオタクなのだ。リアルでその事を理解してくれる者は稀で、だからこそ同好の士とは OZの中で会話する事が多いのだがそれだとあくまでもオタク同士の会話になってしまう。知識を教える等と言うシチュエーションは、あまり存在しないのだ。それが、ラブマシーンはその事柄に対して興味をおぼえればガツガツと食い付いて話をせがみ、砂地が水を吸い込むように吸収していく。
それこそ、どんな知識でも。
…勿論、一応システム監視の為に一定周期で蓄積データのチェックは入るし、基本性格ルーチンと倫理システムがデータによって歪むと言う事は無い。
だが、念には念を入れるという事で、外には一つの安全弁が作られる事になった。いや、再生と独立化とでも言うべきか。
彼が一番最初に取り込んだアカウント、人型アバターの『ケンジ』(これが末端の末端の末端とは言え、管理者アカウントでさえ無ければあの騒ぎもまだもう少し小さかったと思われるのだが)。
ラブマシーンの再生・再構築の際、このアバターに対しての拘りと執着と言うデータが出てきたのでついでにこっちもサルベージして独立AI兼お目付け役として使う事にしたのだ。
これが上手くいった。
数年の間個人使用のアバターとして使われてきた彼はきちんと常識と言うものを構築していた。
ラブマシーンがうっかり何かに夢中になっていれば怒って仕事に戻してくれるし、不機嫌になれば上手く持ち上げてくれる。
誰かしらの講義がちょっと行き過ぎた物になればやんわりと釘を刺すし、愛嬌もあってくるくると働き者だ。
何よりも、巨大すぎるラブマシーンより目に優しい。
そんなこんなで二人の姿は管理システムに馴染んできていたが、それ故に今度は正面からではなく搦め手で、とケンジ側に対してちょっかい(ハッキング的な意味で)を出そうとする輩もチラホラと出てきたのは自然な流れだろう。

当然の事ながらラブマシーンは怒った。
そして開発者でもある侘助に頼み込み、新たな技を開発した。

容量分割と分体リンクによる分身の術。

要するにちょっかいを出してきた不埒な輩の下に直接ご降臨と言う訳だ。よほどのシステムでない限り、まずは容量の問題で相手は破壊される。もし受け入れられたとしても、その時点でラブマシーンはシステムの操作権を飲み込んでしまうので終了。もし何らかの問題があったとしても、進入したラブマシーンそのものをトロイの木馬として利用すれば大体解決出来る。

今日もそうだったのだろう、悠々と空を飛び外界へとアクセスする鍵穴型のゲートへ身を躍らせようとする。
と、その動きが止まる。
きっと管理センターの方を睨み付け、一瞬考えた後にその姿がぽこん、と二つに分かれる。
そして片方は今度こそ外界の方へ、もう片方は来た道を物凄いスピードで引き返していった。

そして管理センター中央。
ラブマシーンの補佐として浮遊する足場に立つケンジは、目の前の個人用ディスプレイを見ながら堂々とシステムを制御するラブマシーンに見とれていた。
まさか自分が再構築されて独立AIとして運用されるなんて、夢みたいだと思いながら、ついでにOZの運営部の度胸はすごいなぁと溜息を吐く。全国放送で流されたアバターとしての自分は多分、世界で一番悪名高いアバターだろう。
だが、悪名だって宣伝効果に繋がるといってそのまま管理システムに利用するなんて、OZの信用度に差し障るのではないだろうか…と思うのは、前の主人譲りの小市民的思考か。
以前同じ様な立場の侘助にそれを相談したら、『相手が良いって言ってるんだから良いんだろうよ。』と言われて、本当に良いのかと思いつつも、結局ここに居るのは隣に居る存在の所為だ。
あの手に手を取られた時から、自分はどこかおかしくなってしまったのだろう。
と、とんとんと大きな指に肩を突付かれる。
何、と横を向くと仕事が完了したのだろう、成果を指し示す相手の姿。
何処でおぼえたのか、彼がご褒美と称してケンジに頬にキスをねだる様になったのは数日前。度重なる懇願に仕方なく折れたのが良かったのか悪かったのか、どうもこれが習慣になりつつあるのは気のせいでは無いだろう。
指し示される頬にそっと顔を寄せて口付けようとして、いきなり降って来た壁の破壊音に驚いて顔を上げる。

そこにはもう一人、ラブマシーンが仁王立ちしていた。

**************

えーと、行き当たりばったりでラブマ×初期ケンジ。
ほんのちょっとだけキング×仮ケンジも出ます。
原稿とウサリスにかまけてたので放置状態orz
そろそろ続きを…(こそこそ)

にしても初っ端から酷いw(見た目的に)

20091122up

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