泡沫



階段を上ると、大きなガラス窓から夕日が見える。

親の見栄とコネとで就職した中学校だったが、この踊り場と、窓から見える風景は嫌いではない。
親の事は好きではない。嫌悪している、と言って良い。
横暴で暴力的で外面が良くて、人を笑って傷付ける。だが金と地位があるから誰も何も言えない。
自分もそうだ。何も言えない人間の一人だ。
何も考えずに親の金に甘え、我侭に振舞っていた若い頃を思う。
馬鹿だった。愚かだった。思い出すのが辛いから、忘れた振りをして蓋をする。そして無かった事にして、聖人君子の皮を被り、良い教師の振りをする。

演じるのは誰もが理想とするだろう『教師』の姿。

そんなモノに自分は成れないと自重しながら、それでも時々自分を見上げてくる生徒達の視線に勘違いして、我に返る。
何度も何度もそんな事を繰り返し、繰り返す事にさえ慣れてしまう。
嘘をつき通せば、嘘とばれなければ。
そうすれば、何時かは、もしかしたら。

そんな事さえ考えて、考えられる位には年を取ったのだなと思う。

ふと手を見れば、あの子の手首を握り締めた時の指よりも太く育ち、これが本当に自分のものなのかと実感の無さに嘲笑う。夕暮れに被る様に硝子に映り込む自分の姿は、神経質にきっちりとネクタイを締めた何処から見ても非の打ち所のない『センセイ』の姿だ。

見も知らぬ子供を悪戯に嬲って犯し、廃屋に打ち捨てた記憶などそ知らぬ様で。

そう、まるで、あれは夢の様な出来事だった。
アレ位に興奮した事は、今まで生きてきて一度もない。
アレからの自分は生きた屍だ。
アレの記憶だけを頼りに、何度も何度も反芻する事だけで生き永らえている。

あの子の怯えた顔と涙。
殴りつけた頬に浮かぶ真っ赤な腫れと恐怖、そして蒼みがかった瞳に浮かんだ諦観と恭順。
理不尽な命令に従って服を脱ぐ動作も、寒さに粟立つ白い肌も、最後の一枚を落とす事に対する躊躇いも全て覚えている。
ぽろぽろと羞恥の涙を零しながら命令に従い、自分で膝裏を抱え上げさせて大きく白い股を開かせた。露になった小さな性器とその下に潜む窄まりに酷く興奮して、口付けた。
ずるずると音を立てて舐め、窄まりをしゃぶった。
舌先で嬲る窄まりはやがて柔らかく口を開き、ぐちゃぐちゃと抉る動作に細い腰が踊り『先』を強請った。
緊張に白く血の気を無くしていた肌に朱が浮かび、眼の前に揺れる肉茎がたらりと先端から露を滲ませ始める。
舌を根元まで突き込んで、うねる粘膜を味わう。本来触れ合わせる筈もない粘膜同士が絡み合って卑猥な音を立て、自分の唾液にぬるぬるとした腸液が絡み合いぬぷぬぷぐちゅぐちゅと水音を立てる。
恐怖に引き攣る吐息は、何時しか快感に喘ぐ声に変わっていた。
不意に伏せていた顔を上げ、組み敷いたその姿を見つめた。涙に濡れて呆けた瞳が自分を見上げてくる。
「…あ…な、え、」
「何?」
戸惑う様に言葉を捜す子供に、冷たく問いかける。
トドメを刺す為の言葉遊びなんて趣味が悪いと今でも思う。だが、それが良い。
「や、ね…あ、」
「人に何かして欲しいのなら、ちゃんとお願いしなきゃ駄目ってお母さんに言われた事無い?」
それを言うのならまず『知らない人に付いていっちゃいけません』だろうけど。
昔から絵本にあった様に、ちゃんとお母さんの言う事を聞かなかった子山羊は悪い狼に食べられてしまうと決まっているのだから。
「あ…」
惑う様に、迷う様に視線を彷徨わせて。
「もっと、して…これキモチ良いの、お尻キモチ良かったのぉ…」
てらいの無い子供の言葉が、この上なく淫らなおねだりを紡ぐ。
「続き、して欲しいの?」
こくり、と柔らかな黒髪が上下に打ち振られる。
「続きをしても良いけど、ちょっと痛いかもしれないよ?」
それでも続けて良いのかと問えば、強く頷きが返る。
焦らし過ぎたかと胸中で笑いながら、安心させるように優しく笑いかけて、その下で腰のベルトに手を掛けた。ジッパーを下ろして下着をずらせば、張り詰めた性器がぶるんと揺れた。
臍に付くぐらい反り返った性器を握りながら、綻びた窄まりに先端を擦り付ける。
舌との触れ合いに慣れ始めていた後口は素直に亀頭に吸い付いてきて、ちゅくちゅくと小さく音を立てるのが、まるで接吻の様だ。
気まぐれを起こして、その頬に口付ける。
打ち身になっている部分に触られた痛みに顔が歪み、すかさずゴメンねぇと声を掛けて今度は柔らかな唇に口付ける。
キョトンとした顔と、桃色に染まった未成熟な身体のギャップに煽られながら反応を窺う。
「お兄ちゃん、何でちゅーするの?帝人の事好きなの?」
小学生低学年位だろうか、子供の心は単純だ。
「うん、好きだよ。」
こんな心にもない真っ赤な嘘に、簡単に騙される。
「大好きだから、もっと仲良くなろうねー。」
にっこりと笑いかけて、その細い太股を握り締めてぐいっと腰を進めた。
「え…あ、ぎゃっ、ひぎっ!」
亀頭の先端はともかく、まず太く張り出したエラが入り口の肉の輪に引っかかる。
引き攣るスタッカートの掛かった悲鳴をBGMに、鼻歌まじりにぐいぐいと力任せに進める。
ぬちゅぬちゅと前後する動きに赤い色が見えるのを、処女だもんねお祝いにお赤飯炊かなきゃと嘲笑いながら囁き、一度自身を引き抜いて荷物から性交用のローションを取り出して性器全体に擦り付ける。
何も知らなかった子供を汚すと言う、背徳の色を帯びた悦楽。
最初は痛みを、コレからは快楽を刻み込む為に。

ぬるりと液体にまみれて光るそれを、ぽかりと血を滲ませる子供の後口にあてがい、進める。
先程よりも滑らかに、潤滑を帯びてずるりぬるりと奥を目指す男根に子供の声が変わっていくのを、ゾクゾクと背筋を奔る愉悦と共に楽しむ。この為だけに、潤滑液にはたっぷり媚薬成分を含むものを厳選している。
痛みを食いしばっていた引き攣った吐息から、淫らに熱を帯びたものに変化する。

「あ、ね、キモチいーの、お尻ジンジンするのぉ、あ、んっ」

は、は、と子犬の様に弾んだ吐息を零しながら、淫らに少年は腰を振り、強請る。
柔らかな双球の奥は無残に暴かれて、自らの血と腸液と潤滑液に塗れた野太い男根に容赦なく掘削されている。
自分が何をされているのか理解しないまま、同性に強姦されていると言う悲惨な事実。
「帝人くん、気持ち良い?」
「うん、キモチいー、ぐちゅぐちゅされるのスゴいの、あんっ」
快楽を受け入れて貪る、子供の素直さが愛らしい。
優しく微笑みかけて、腰の動きを早める。会陰が引き攣り、ぎゅぅっと精液が駆け上がっていくのが分かる。
奥を求めて抉る動きに悲鳴が上がる。その腰を両手でぎゅっと引き付けて固定し、達した。
これ以上ない位の奥で吐き出された精液に悲鳴が上がり、それと同時に腰が引き攣った。ぬるりと自分の陰毛を濡らす感触に、精液を吐き出せないような幼い果実が透明な先走りだけを零して達したのだと察する。
理解した事実は凌辱者にこの上ない歓喜を与え、その衝動はそのまま柔らかな肉の中でずくりと膨らんだ。

再び始まる快楽の予感に、少年はあえかな歓喜の声を上げながら腰を持ち上げた。
お腹に力を入れるとお尻がきゅっと動く。そうするとお尻に入れられたお兄ちゃんのおちんちんがもっとよく感じ取れて、キモチいい。
可哀想な事に、これまでの短い時間の中でどうすれば欲しい物が与えられるのかを少年は悟り始めていた。それが間違っていると言う事を理解しないまま。

後にも先にも、あの少年だけだった。

実らないからこそ、一番最初に汚したい。
まっさらの無地だからこそ、淫らに染めたい。
この腕の中で、組み敷いた身体の下で、淫らに花開き、自分を受け入れて、啼いてくれた。

何度も何度も反芻する思い出、それこそが自分の、ただ一人の恋人だった。

親は多分知っていた筈だ、自分のこんな性癖を。
ふつりと途切れた行動をどう考えていたのだろうか。
少なくとも、自分が弄んだ子供達の件が表沙汰になる事はなかった。

本当は犯罪者であるべき自分は真っ当な大人になど成れないと自重しながら、それでも時々自分を見上げてくる生徒達の視線に勘違いして、我に返る。
何度も何度もそんな事を繰り返し、繰り返す事にさえ慣れてしまう。
嘘をつき通せば、嘘とばれなければ。
そうすれば、何時かは、もしかしたら。
そう思いながらも、夢に見るのはあの少年の事だけで。

ふと、足音がした。
人の気配に目を向ければ、窓際に生徒が立っていた。襟に付いた記章が示す学年は1年生で、ほっそりとした四肢を学生服に包んでいた。
紅い夕暮れを背に、黒さが際立つ。
ぞくりと背筋が寒くなった。
まさか。いや、そんな。

「どうしたんですか、先生?」

自分より大分背が低い為、この生徒の顔が良く見えない。
黒髪に顔の上半分が隠れて、その細いあごと薄い唇だけが見えた。
言い様のない不安に、一歩下がる。
カツン、と生徒の足が進む。
その動きに、思わずまた一歩下がる。
カツン、と反対の足が前に出て。
一歩下がろうとした足が空を踏み、身体が背後に投げ出された。

スローモーションの様だった。
下から見上げた生徒の顔に嵌っていたのは、記憶の中と同じ、蒼みがかった大きな瞳。
堕ちていく自分を見下しながら伸ばされた手が、さり気なく胸を突き飛ばす。

下限の三日月の様に歪む唇が綺麗だと思いながら、ボキリと言う首の骨が折れる音と共に、意識は途切れた。

ああ、まるで、全ては夢の様な出来事だったとでも言うかの様に。



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