屋上男子


「…何だこりゃ」
放課後の校内は人気がない。
だが、かといって誰かが来ないと限らないので静雄は軋む金属扉を開けて屋上に立っていた。
口元からは紫煙が一筋。誰も居ない屋上で一服と考えたのに、同じ様に誰も居ない所で昼寝と考えた輩が居たらしい。
ほっそりした小柄な体躯に短い黒髪の少年。すぅすぅと寝息を立てているその顔に見覚えはないが、それ自体は取り立てて問題では無い。何と言っても、全体の学生数は多いのだから把握する方が無理だ。
もっと重要なのは、こいつが制服を着ていないと言う事だ。
部外者、不法侵入。
そこまで考えて、だからどうしたと静雄は結論を出した。それを言ったら自分は喫煙中で、勿論校則違反だ。
何となくそいつの前に座り込み観察する。天下の雷神高校に侵入してるなんてどんな輩なのか。
一見無害そうだか油断するとろくでもない事になってきた経験上、ついつい警戒してしまう自分が悲しい。
と、びくりとその頭が震えた。
眠りが浅くなっているのかううーとかむぅとか小さく唸っている。どうするかなと考える視線の先で、瞼が開いた。
けぶる様なぼんやりした風情で上げられた顔に、静雄は息を飲んだ。
青みがかった大きな眼が自分を見ている。
カッと顔に血が上った。
思わず息を吸い込んで…思いきり噎せた。
当然だ。煙草をくわえたままだったのだから。
ひとしきりゲホガハと盛大に咳き込み、やっと治まった時に相手が口を開いた。
「…大丈夫、平和島君?」
名前を呼ばれた事にも驚いたが、さっきまで無かった白衣と眼鏡のオプション、そしてその雰囲気に愕然となる。
部外者どころの話ではない。もしかして、だがいやしかし。
「…僕もサボりだから今日は何も言わないけど、次は駄目だよ?」
足元に落ちた吸殻を軽く蹴り、彼は立ち上がった。
寝ていた時にも思ったけれど、やはり自分よりかなり小さい。
だがその雰囲気は明らかに大人の物で。
「ア…あ、名前なんですか?」
うっかりアンタと言いかけて誤魔化した語尾が上ずった。
不思議そうに振り返った顔がああ、と何か納得した風に口を開く。
「3年の物理担当の竜ヶ峰です。君2年だから知ってる筈無いけど。」
君は有名人だけどね、とその唇が屈託なく言を綴った。

自分が立ち去った後、トラブルメーカーや破壊魔として悪名高い男子学生が動悸息切れにやけ笑いと盛大に不審な状態になっていた事を教師は知らず…この夕暮れ時の出会いが静雄にとって一目惚れだったと言う更なる一大事を、後日静雄からの直球な告白と共に知る事になるのだが。

それに返された答えが何だったのかは、後日皆が知る事になる。
つまり、池袋の自働喧嘩人形の恋路を邪魔するヤツは本人に蹴られて死屍累々…と言う修羅場を以って。
大参事といっても良い眼前の状況を『凄い!』の一言と共に目をキラキラさせて少年の様に見ている教師に、色々な意味で誰も突っ込みを入れられなかったのは言うまでもない。



ツイッターの診断メーカーよりお題頂きました。
「夕方の屋上」で登場人物が「出会う」・「人形」という単語を使ったお話を考えてry
取りあえずちびっこ教師な帝人君with白衣と眼鏡。眼鏡は伊達でもガチ近眼でも良いなぁ…等と妄想しながら書いてましたー。



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