11月11日


 パキパキと軽快な音を立てて噛み砕かれる菓子。

 互いの口に消えていくそれを見て、僕はもっと買ってきておけば良かった、などと埒も無い事を考えてしまう。
 偶然公園で静雄さんに会って、何となく話をしている内に会話も尽きて、思い出したのが今日買って荷物に入れてあったポッキー。
 平凡かつメジャーなお菓子だけれど、そもそも大人な静雄さんが甘いものなど食べるのかと言う疑問はおいて、食べますかと差し出した。
 そうしたらコレ美味いよなと、子供みたいに笑って彼は手を伸ばしてきた。
 甘いもの好きなんですか、と聞いたら結構好きだなと返されて、でも煙草吸う人ってあんまり甘いもの得意じゃないって聞きましたよと返したら好きなんだから仕方ないだろと言われて笑ってしまった。
 その後に、お前だって甘いもん好きなんだろといわれて否定出来ずに居たら、お前だって甘党じゃねぇかと笑われた。
 何となく悔しくて、一番好きなのは焼き鳥だから甘党じゃないですよと言ったら、それはメシの好みだから別だろとキョトンと言われて確かにそうかも、と納得してしまった。悔しい。
 でもそう言ったら甘党辛党って区別するのはおかしいって事になりませんか、と聞き返せばしばらく黙ってから、難しいな、とぽつりと言って首を傾げた。
 こういう風に自分でちゃんと考えて会話してくれるから、静雄さんとの会話は好きだ。天然だけど。
 誰かさんと違って、ちゃんと向かい合っている気がする。
 そんな事を思っていたら、ふと静雄さんの手が止まっているのに気が付いた。
 どうしました、と聞いたらあーとかうーとか唸ってから、まぁ良いかとため息を吐いて立ち上がった。
 眉間にちょっと皺が寄っていたので、もしかしたらあの人に意識を向けていたのが分かったのかもしれない。相変わらず凄い、と思いながら立ち上がったその姿を眼で追えば、ポケットから出した煙草に火を点けようとしていた。
 チョコレートを食べた後だと甘ったるくないかな、と思いミネラルウォーターのペットボトルを差し出す。まだ封を切っていなかったから丁度良い。
 自分で飲めよと言われて、でも口の中甘くないですか、と聞いてしまう。
 煙草を吸ったことが無いからよく分からない。けれど、少なくとも違う種類の味が混ざるのは、あまり美味しくないと思うから、どうぞと勧める。
 顔と手の中の物を何回か視線が往復して、ボトルが彼の手に移動する。蓋を開けたボトルから口へ、口の中へ消えた水が喉の奥へ消えていくのがぐびりぐびりと動く喉の骨の動きで分かる。

 何となく動きを目で追っていたら、こちらを向いた視線と目があった。
 見つめていた事が恥ずかしくて下を向けば、何だやっぱり飲みたいんじゃねぇかと半分位残っているボトルが差し出された。
 恥ずかしさを誤魔化す様に戻ってきたボトルを受け取って中身を煽る。
 結構喉が渇いていた様で、一気に全部飲み終えてため息を吐いていたら、あ、と静雄さんが声を上げた。
 何だろう、と思ったら気ぃ使ってくれてたの分かんなくて悪かった、と謝られる。
 本当に何か分からずに見返していたら、ホラ間接キスっていうのか口付けちまったし、といきなり恥ずかしい事を言い出した。
 さっき自分が気にしていたのは衛生的な事とかそう言う事で、そんな考えても居なかった事を言われてつい、何変な事言ってるんですか!と声が大きくなった。
 違うのか、と言われて違いますと言い切る。そうしないとこの恥ずかしいやり取りを続ける羽目になりそうだったし、まともに考えたらもっと恥ずかしい。だってもしそれがそう言うのだとしたら、初めてがコレだと言う事になる訳じゃないか。
 それはない、さすがにない。そう思いながら頭を振って、そんな残念な思考を追い出そうとしてみる。残念ながらあまり成功はしなかったけれど。

 さようならと頭を下げて遠ざかっていく小さな背中に、またなと声を掛けて静雄は相手を見送った。
 口の中の甘さを誤魔化す様に、吸い終わった煙草を擦り消して次の煙草に火を点ける。
 頬が薄赤くなっている事に気付かずに、声を大きくしてこちらを見る少年は可愛らしかった。
 それこそ間接などではなく、直接口を合わせても良いな、と思う位に。
 …しかしそうなるとそれはファーストキスなのか、それともセカンドキスなのか。どうでも良いけどな、と結論付けて、静雄はふぅーっと紫煙を吐き出した。
 甘いものが好きだと言うのなら、今度会った時には何か買ってやろうか。それとも食べに連れて行ってやろうか。そんな事を考えるのも何となく甘ったるい気分がするが、別に悪い気はしない。

 互いに相手の事を考えている2人には11月11日の意味など関係も無く。
 夕暮れの中互いに家路に着く二人の頬は、夕焼けだけではない朱にほんの少し色付いていた。


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