KK×KK【T-2】
「カズマくん。」
困った表情のまま、ケンジはカップを卓に置く。
「もしかしたら、今から僕のする事は間違っているのかも知れません。でも出来れば、間違っていたとしても怒らないで下さいね。」
目を瞑って下さい、と促されてカズマは目を閉じた。
ととと、と足音がして気配が近づく。目を開けてしまいたいのを我慢して相手を待つ。妙に長く感じる時間をやり過ごして、ふと膝に置いていた手に重なる感触と気配にその方向へ向く。
目を閉じたままの顔に何か近づく気配がして、すぐ近くに良い匂いがした。
ふわりと空気が動いて、唇に何かが触れる。
「っ!」
焦って目を開けば、身を引こうとするケンジと視線がぶつかった。うっすらと目の周りと鼻の辺りに赤みが差していて今の感触が気のせいではないと分かる。それでもどう言葉をかければ良いのか分からず、その手を握って動きを止めて、そのまま二人とも固まってしまう。
「僕は、」
言いかけてきゅっと引き結ばれたケンジの唇が、そっとまた開く。
「僕は貴方の事が多分…好き、なんだと思います。嫌だったらすみません。」
嫌だなんてある筈もない。けれど、その前にこの事態が信じられない。ケンジさんから告白なんて夢でも見ているんじゃないかと思う。
「…もう一回。」
「は、いぃ?」
「今の、もう一回して下さい。」
言われた言葉を理解して、ケンジの尻尾の毛が逆立ってぶわわっと膨らむ。だがこちらも動揺しているのだから、目を瞑っていた時のアレが本当のことかどうか確認させてくれたってバチは当たらないだろう。
困った様に揺れる目元はさっきよりも更に赤みを増しているが、握られた手に動く事も出来ずあーとかうーとか言葉にならない声を出して煩悶している。
「ねぇ、もう一回。」
「…えー、あぅ…。」
再度の促しに、弱りきった声を出してケンジの身体がこちらに傾く。
今度は目を瞑らない。じっと見る。見続ける。
ピントが合わない位に近づいた顔、ぎゅっと引き結んで噛み締められた唇、精一杯に背伸びしているつま先。
懸命に身を寄せて来る有様とそっと触れた唇に、やっと自分の理解と衝動が追い付いた。
詰めていた息を吐いて遠ざかろうとする背中に右手をかけて留める。きょとんとした瞳に、今度は笑いかけて、また口を開く。
「もう一回。」
ケンジの顔面全体が真っ赤になる。焦ってあわあわと言葉にならないその唇に、今度はそっと自分から口付ける。
やっと分かった。
欲しいから見つめていたんだ、自分は。
理解して意識と身体が繋がる。知識が実感を伴い、意味を持つ。
ちゅ、と小さく音を立てて唇を吸い、ちろりとその合わせ目に舌を這わせれば掌の中の
背筋がぎゅっと固まる。構わずにそのまま唇を合わせて、潜り込ませた舌で中を探る。小さな歯をなぞり、上顎をぐるりと探れば苦しげな呻きが咽喉奥を震わせる。だが舌先からぞくぞくと感じる吐息の甘さと感触に眩暈がして、そのままじわじわと身体全体を痺れる様な興奮が広がってくる。
胸元に抱き寄せた状態で口付けているから、ケンジの身体全体の震えが余す所なく自分にも伝わる。ならば相手にはどうなのだろうと伺えば、その瞳は潤んで小さな掌が自分のダウンを握り締めている。
「ケンジさん、大好き。」
笑いかけて、項に舌を這わせて、軽く歯を立てる。甘咬みする様に柔らかな皮膚と肉の感触を味わい、舌を這わせてその震えを楽しむ。
「やっと分かった。ずっと好きだった。今まで見てるだけで良かったけど、」
嘗め回す動きにむずかる様に身動きするケンジの手が、きゅっとカズマの耳を掴む。明らかな意思でそのままぎゅうっと引っ張られて、さすがに痛みを覚えてその顔を覗き込む。
「大好き。」
それでも言いたい言葉を最後まで言い切って、笑う。
泣きそうな表情で見上げてくる相手も、そのまま困った様に笑って
「僕も、好きです。」
そう言ってくれた。
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