KK×KK【T-1】



貴方の強さを知っている。
貴方の弱さも知っている。
貴方の拳の固さを知っている。
貴方の手が優しい事も知っている。

なら貴方は、僕の何を知っているのだろう?

貴方は僕を好きだと言ってくれる。
貴方は僕を抱きしめてくれる。
貴方は僕に笑いかけてくれる。
貴方は多分、僕が貴方を好きだという事を知っている。

時折貴方が、僕を見つめていることを知っている。
その理由を聞けば後戻りが出来ない。
それでも。
衝動を抑えられない自分を知っている。
暴いて。
開いて。
取り返しが付かなくなっても、いい。
知りたいと思うのはいけないのでしょうか?

ねぇ。
だから、教えて下さい。
貴方が何を考えているのか。
何をしたいのかを教えて下さい。


 アバターのプライベートスペースには基本のルームと言う物が存在する。それのパラメータを弄ったりアクセサリなどを追加する事でカスタマイズが可能である。
例えばそれは所有者であるマスターが使いやすくなる為の物や、家具や装飾を揃えて凝ったビジュアルにする者、巨大なデータを保管する為にスペースを増築する者も要る。
 そんな中で小磯健二の所有するリス型アバター、ケンジのプライベートスペースを評価するとすれば『可愛らしい』もしくは『コンパクト』の二つの評価に分かれるだろう。
 淡いクリーム色の壁紙に、木目調の小さなテーブルと家具。天井からぶら下がるランプシェードは穏やかなオレンジ色だ。
 お茶でもどうぞ、と案内されて入った部屋の中は全て住人に合わせたサイズで統一されていて、人と兎を混ぜ合わせた獣人タイプアバターの自分では真っ直ぐ立つ事も出来ない。
 テーブルの前に正座する分には特に問題はないので天井に頭をぶつけない様に注意して移動する。そのまま何をするでもなく、ぼうっと台所で揺れる黄色い尻尾を観察する。
 リスを基本にした小型の獣タイプアバターのケンジの尻尾は触ると弾力があって柔らかくて、握り締めると手に馴染んで、とにかく気持ちが良い。ついでに言えば、触らせてくれる間にそっと相手の表情を伺えばくすぐったさに笑ったり、眠そうな感じで目を細めていたりと色々な反応を見せてくれるのがひそかな楽しみでもある。
 ああ、触りたいなぁとかお茶なんか良いから抱きしめたいなぁとか考えながらキング・カズマはOMCチャンピオンとしてはすっかりだらしない、緩みきった状態で寛いでいた。
 チャンピオンとしての立場も主人の用事も全く関係のない、カズマとしてのプライベートな時間。しかも思いを寄せている相手と一緒に居て、わざわざお茶をなんて気を使ってくれて。神様なんているのかどうか知らないけど、取り合えず言っとくよ有難う。
 かちゃっと小さな音を立ててマグカップが置かれる。正面にちょこんと座ったケンジに頂きますと声を掛けてそれを手に取る。注がれた紅茶はミルクも砂糖も無い状態で出されていて、普段の彼が甘党なだけに意外な感じがする。
 ふとあげた顔に注がれるもの言いたげなケンジの視線に顔を軽く傾ける事で言葉を促す。
 相手の意思を尊重するのは好ましいけれど、もう少しだけ遠慮し無くても良いのにと思うのは自分の我侭か。
「あのですね、カズマさん。今日はちょっと聞きたい事があるんですけれど。」
 その真剣な表情に相手の緊張を見て取って、カズマは慌てて脳内の記憶をひっくり返す。外からは無表情に見えるだろう自分の動揺を知らないだろうケンジは言葉を続ける。
「…時々、カズマさん僕の事をじっと見てますよね?何かあるのなら、話して頂けませんか?」」
 はい見てます、貴方だけを見詰めてるんですなんて言えず、その真剣な表情をまたじっと見てしまう。カップの持ち手を握る指に力が入っていて、真っ直ぐに自分を見上げてくるその瞳は真剣に見開かれている。
 さすがに正直に考えている事を話したら、普通に怒られるよなぁと考えながらどう答えを返すべきかと困る。今さっきだって尻尾触りたいとか抱きしめたいとか考えていたし、普段だって似たり寄ったりだ。近くにいれば見てしまうし、現在も真剣な表情も可愛いから頭とか背中とか撫でてあげたいなぁなんて考えてしまう。大体において、状況が許すなら持ち上げたり抱きしめたりしている。ケンジも体格差や移動速度の問題からの現状に慣れて受け入れているとは言え確かにスキンシップ過多と言えば否定出来ないし、視線に関してはさすがあからさまだったかとも自分も思う。さすがに相手にも思うところがあったのだろうか。
 こんな自分が嫌になったのだろうかと思い至り、頭上でへにょりと耳が垂れ下がる。
「ついケンジさんの事、持ち上げて運んじゃったりしてるけど…もしかして迷惑でした?」 
 僕の事嫌いになりましたかなどと聞く勇気も無く、遠回しに相手の思惑を探ってみる。
 問いかけにキョトンとした表情には嫌悪の色は無く、そっと胸の中で安堵の息を吐く。
「え、いえそんな事は…逆に僕の方が、いっつもご迷惑お掛けしちゃっててすみません。」
 逆に恐縮して頭を下げてくる位で、ならば他にはと考える。
「ついつい尻尾触っちゃうけど、もしかして嫌だった?」
 今までどれ位触り倒してきたかを考えると背筋が寒くなる質問を今度は投げてみる。
「いえ、別にそれもそんな事は…。」
 思っている事をどう伝えれば良いのか。
 その困っているリスの表情に、もうひたすらに土下座して、とにかく謝ってしまいたい気持ちを自制する。傍にいる事が出来なくなるのならこれから先の自分の人生は真っ暗だ。いや、勿論自分は人ではないけれど、とにかく絶望に満ちた物になるのは間違いない。
 ぐるぐると空回る思考の中、それでもケンジからは目が離せない。
「もし僕が何か迷惑をかけているのなら、言ってもらえませんか。」
 心当たりが多過ぎて一つ一つ挙げていくのが辛い。もどかしさに声が強くなる。
「よく分からないです、ケンジさんの聞きたい事が。」
 質問に疑問を返すという馬鹿をした自分を、困った様に瞬きをしたケンジさんが見ている。正直恥かしさに顔を伏せてしまいたい位なのだが、それでも視線を相手から逸らせないのだから自分で自分に呆れてしまう。



15000HIT記念&金ロ記念と言うことで。
2009年末の冬コミで発行したキングカズマ×仮ケンジ本より移行。
続きは9月6日にUPしますー。

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