王様のストーカー


・Hello, I am peeping & Stalking tom.
・I love king`s hip.
・flying up today!

「…なにコレ。」

あの夏の大事件から約一ヶ月。
学校も始まり日常が始まり、日差しは徐々にその熱気を落として段々と秋の訪れが感じられる。
変わらない日常がかけがえのない大事な物であると知ったのはあの大事件の所為でもあり、自分は少しだけ変われたのかもしれない。
…などと思いつつ、その事件の重要人物の一人、小磯健二は放課後の廊下を物理部の部室へ向かう。
内面的な事はともかく、学校生活が劇的に変わる訳ではなく、OZの方はと言えばまだまだ細かい復旧作業と修正が残っている。末端の末端の末端のバイトであるとは言え、それなりにやる事があるのだ。
案の定と言うか、部室には先に友人が居た。
PCに向かう佐久間に軽く声をかけ、棚の上に荷物を置く。
大体作業中であれば適当な生返事しか返ってこないので、何時もどおりそのまま健二は自分のPCに向かおうとした。
のだが、今日は違った。
「お、遅かったなケンジ!」
多分健二の事を待っていたのであろうその眼鏡越しの瞳は、何時も以上にきらきらと光っている。好奇心と喜びに満ち溢れたその眼差しには見覚えがある。
「…何、何かヘンな物でも見つけたの?」
そう言う表情で見せられる『面白い物』は大概トラブルの種やゴシップだったりして、それが芋蔓式に面倒を引っ張ってきたりするので、対するケンジの表情は盛り上がらない。
若干嫌々と言った感じで、喜色満面にソレを見る様に促す佐久間の脇に立つ。

そして、冒頭に戻る。

見慣れたOZではない、WEBブラウザーで見るシンプルなホームページの画面。
文章の下には画面の大部分を四角く区切ってあり、そこには赤と青と白い毛の塊が映っている。

…どこかで見た覚えのあるカラーリング。
ピクピクと時折動く、その毛玉。
と言うか尻尾。
つまりは、どアップになっているアバターのお尻。

「これって、もしかして…。」
「そ、キングカズマのお・し・り♪」

だーはっはと腹を抱えて笑い出す友人をよそに、健二は呆然としていた。
何だコレ。
何の意味があるんだコレ。

「画面のココ、見てみろよ。結構よく考えられてるぜー。」
ひーひーと言いながら佐久間の指が画面の下中央を指す。
「OFF LINE…?」
「キングがONの時には生の映像を流して、OFFでは撮ってある映像をループさせてるみたいだな。」
「生…って、キングのお尻なんか流して何したいんだろうね、コレ。」
時折ぴるぴるっと震える尻尾は、単品で見るなら確かに可愛らしい物、なのかもしれない。
だがその本体は世界最強の闘士だ。
キングの戦闘中なんかでもLIVE放送しているみたいだぜ、と言う言葉にケンジは首を捻りながら荷物を置き、自分のPCを立ち上げた。
「戦闘中まで撮れるって…一体そんなのどうやって?」
「超小型のカメラを飛ばしてるんじゃないかな、自動追尾機能でもあるのかねぇ。」
PCからでもスクリーンショットや動画は撮れるし、アイテムとしてカメラを購入すればアバター視点での画像も撮れる。
だが、こんな視点での撮影は難しいだろう。
角度的に無理があるし、被写体が気付かない訳がない。
何といっても相手はOMCチャンピオン、キングカズマなのだ。

そこまで考えて、ふと健二はキーボードに指を滑らせた。
ショートカットから登録してあるプログラムを呼び出す。
見慣れた『OZ』の鍵穴型のロゴが浮かび上がり、暗証番号とパスを照合する。すぐさまポンっと音を立てて、黄色いリスが画面上に飛び出てきた。

あの夏の事件で仮登録したリス型アバター。
結局色々あって、そのまま使っているわけだが二頭身のコロコロした動きは愛嬌があって、結構健二としては気に入っている。
そのまま慣れた動きでフレンドリストを呼び出し、その表情が少し綻ぶ。精悍な白兎のアイコンの脇に、オンライン状態を示す緑色の光が点いている。
『カズマくん、今ちょっと良い?』
アバターを使わないまま小さなウィンドウを呼び出し、メッセージだけ飛ばす。
飛ばすだけ飛ばして、アレ?と首を捻る。
「佐久間、そのサイトってキングカズマのお尻を撮って映しているんだよね?」
「うん、そうなんだろ。」
「今カズマくんOZに繋いでるみたいだよ。でも今そのサイトには映ってないよね?」
「キングが?…って、そりゃそうだろうよ。」
一瞬身を乗り出す様に立ち上がりかけ、そのまま椅子に座り込んで眼鏡の位置を直し、言葉を続ける。
「あのキングカズマだぜ?闘技場以外に居る姿は今まで殆ど無くて、あったとしてもそれに立ち会えるかどうか分からない。だからコレは、『バトってる状態でもずっと引っ付いて撮る』っていう前提で作られているカメラなんだろうね。」
今はオンラインな『だけ』か、プライベートスペースにいるかのどちらかじゃないかと言われて納得する。
『ケンジさん、今学校?』
その時チリン、と軽い音を立ててメッセージが届いた。同時にチャットウィンドウが開いてカズマのアバター、キングカズマが姿を見せる。
多分相手のパソコン画面でも同じ様にウィンドウが開いて、このニコニコ笑うリスの姿が映っているのだろう。
ボイスチャット用のインカムを引き寄せて、音量を調節して話しかけるとそのまま拾われた文章が画面に打ち出されるが、声もあちらに届いている筈。言葉や声音に応じてアバターが動くのは見ていてちょっと微笑ましい。
『そう、今部室。ちょっと変わったホームページ見つけたんだけど、見てもらえる?』
佐久間からURLを受け取り、それをメールに添付して画面の中のケンジに渡す。ちょろちょろっとウィンドウの外へ走っていく。
封筒を大事そうに抱え込み、ちょこちょこと短い足を動かして消えたその姿がポーンと軽い電子音とともにキングカズマの脇に現れ、手紙を渡す。嬉しそうに受け取るその姿は戦闘時の凛々しさが思い浮かばない位に穏やかで。
1と0で出来たプログラムに過ぎないその仕草、表情。
AIが組み込まれているとは言え、活きているかの様で。

『…ナニこれ。』

そして、数分の間を置いて届いた言葉はさっき自分が言った言葉と全く同じで…ワールドチャンピオンにこんな言葉を言わせるなんて、このサイトの管理者が知ったら何て思うだろうとケンジはくすっと笑った。

『…極小で飛び回る自動追尾のカメラ。しかも対象は気付けない。それって大丈夫なの?』
どうやら落ち着いたらしい。だが聞こえる声は少し固い。素で驚いた自分が少し恥かしいのだろうか、と思いつつ聞かれた質問に面食らう。
『…大丈夫って何が?』
『カメラなんでしょ?アイテム扱いだよね?』
『そうだね。カメラだもの。』
『そうなると個人IDは付いてないよね、多分。』
確かにそうかもしれない。アバターではないのだから、所有者のタグは付いているが、IDは無い。
そこまで考えて、佐久間と健二ははっとした顔で目を見合わせた。
『それってさ、もしかすると僕について来た場合、プライベートスペースでも入っちゃう可能性もあるんじゃない?』

「『…。』」

現実空間の部室と電脳空間のチャットルーム。二つの空間に無言の空白が広がる。
プライベートスペースは個人IDの判別による締め出しや、特定のパスコードとID登録を行った上での入場などの手段でその機密性を維持している。
確かに盗撮やハッキングなどの脅威は前からある為、対応策は取られている。だが、ここまでの機動性を持ったカメラなど想定されているのだろうか。

「や、やばい!」
『…大変だ!』
OZの末端の末端の末端のバイトであるとは言え、システム管理者の端くれ2人。
セキュリティ上の無視出来ない脅威に悲鳴を上げて慌てだす。

「…馬鹿みたい。」
ため息をつく様に言って圭主馬はヘッドフォンを首にかける様にずらした。イヤーパッドから聞こえる二人分の悲鳴が少し遠くなる。
「…ホント、何だよコレ。」目線はさっき開いたブラウザーから動かない。
このサイトを確認してから、試しにキングをOZにINさせてみたのだが、案の定すぐに画面が切り替わった。
全く見ることを考え付かないアングルでの動画は意表を付かれた、ただそれだけだ。
それだけの筈だった。

・KING`s Tail turns round and round.
・It is like a dog!

[LIVE]の文字に切り替わった画面。
四角い枠の中で、まるで断尾された犬の様にキングの尻尾が揺れている。
これはアバターのAIによるものなのか、それとも自分の感情を反映したアバターのアクションなのか。
威風堂々としていた心算が、背後ではこんなに感情が自己主張していたなんて。

真っ赤になって頭を抱えた友人の気持など知らぬまま、健二は佐久間とともに小さな部室で右往左往していたのだった。

**************


OZがとても便利なシステムで、多くの人々に利用されているのは映画でよく分りました。
でも既存のインターネットやWEBサイトはどうなってるんだろう?と言うのがきっかけで書き上げたSS。
初SWです。
人間らしい動作、と言うのは細かな動きが感情を伝えるから感じるらしいよ、と言うのをどっかで読んだ様な。

ちなみにキングの尻尾のイメージはコーギーで(w
でもって犬型アバターの尻尾データが一部利用されてるとかあると良い。
そうだよ、尻だけ犬だからウソつけないんだよ!
顔はツンでも尻がデレデレみたいな(w

20091116up


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