ハンプティダンプティ 夜を往く



【其の一、静雄編】

豊島区、池袋、夜。
条例ではない『マナー』とやらで分煙推進されているこの町では、愛煙家が煙草を吸うのも一苦労だ。駅近くの数少ない喫煙所では紫煙を燻らす人間達が立ち並び、ゆるゆると眉を和ませて吸殻入れを囲んで居る。年齢職業性別、一切関係無しだ。
そんな喫煙者の群れの中に混じって、池袋の自動喧嘩人形こと平和島静雄も、すぱーっと景気良く煙を吐いていた。
アドレナリンに慣れ切った血管がニコチンにぎりぎりと締め上げられて悲鳴を上げている。が、それは普通の太さに戻っただけの事だ。じわりと沁みる感覚に深く溜息を吐く。
仕事も終わり後はもう家へ帰るだけ。
さて、小腹が空いているのは如何するかと思案した所で、ふと視界の端を何かが横切った。
敵は多いが友人は少なく、知人として近寄る者は更に少ない。その為、自分が人を覚える事は滅多に無い。
故に気になったと言うことは少ない知人の誰かだろうと瞬間的に判断して、その気になった『何か』を探す。
果たして対象はすぐに見付かった。
と言うか、知人でなかったとしても目を惹かれただろう。

人ごみよりも頭一つ分位は低い、短い黒髪の頭。それがふらふらと不安定な感じで動いているのだが、それを見て人が避ける様に分かれていく。だから、本来は人ごみに埋もれているだろう位置の頭が目立つ。
そして人が避ける理由はすぐに分った。
自分が気になった理由も。

白い柔らかそうな布の上下衣。揃いの布で作られたそれは、外で着る為の服ではない。
本来は寝る時に室内で着用する物で。
そう、その何となくだが見覚えのある小柄な少年は、何故かパジャマ一丁で池袋の人ごみをふらふらと歩いているのだ。
「…何だぁありゃ…。」
覚束ない様子で歩いていく様子に不安を感じながら、見るともなしにその進む先を見る。



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