四月馬鹿【side名古屋】

 がたんと大きな音がして赤城浩太は首をすくめた。

 ここは財布が貧しく腹減りやすい学生の味方、マクドナルド。
 音がした方を見れば、予想に違わずそこには先に席に行ってもらっていた友人2人。その内の1人が、テーブルに携帯を叩き付ける様にして俯いているのが見えた。表情は長い前髪で見えない。
 今日はわざわざクラスの違う男友達同士で待ち合わせまでして集まっていた。本来なら春休みである今日は4月1日。昼間は適当に映画を見たり本屋に行ったりしていたが、メインの用はそれではない。そして多分ではあるが、今そのメインである所のモノが到着したようだった。
 歩みを進めると相手の息の荒さとぎりっとかみ締めた顎の動きが見えた。
 隣の奴に落ち着けと背中を叩かれている相手にほんの少しだけ同情しながら、それでも赤城は湧き上がる興味は抑え切れなかった。
 何故ならば。

「で、どうだったのよ?」
「…来た。今年も。」

 赤城の問いに下を向いたまま応える池沢佳主馬の声は低い。

「大好きって来たよ、ああもぉこんちくしょおぉっ!」

 普段は冷静沈着そのものと言った彼がどうやら従兄妹のお友達…年上のおねーさんに惚れている、と言うのを知ったのは中学の時だ。その時も4月1日で、同じ様に彼に届いたメールに『大好き』と言う言葉が含まれていて…常に無い形相で逆切れした相手を抑える形になったのが馴れ初めだ。
 知り合う前から『無口な池沢君』の噂は聞いていた。が、まさかそんな切欠から今に至るまで長くつるむ羽目になっていくとは思わなかったのだが。
「これで3回目だよな…そのおねーさんアホ?」
「アホ言うな、この馬鹿。」
 バニラシェイクを受け取りながら呆れた様に確認するのはもう1人の友人、田上祐。
中学が一緒だった関係で何となくつるんでいる仲だが、進級でクラスが離れたりしてもだらだらした関係が長く続いているのは、実の所このメールに原因がある様な気がする。
 一回目は偶然、二回目は必然、三度目は運命とか言って居た人も居るが、さてコレは一体どう考えるべきなのか。まぁ正直に言えばお綺麗な顔に似合わず長い長い片思いに懊悩し続ける友人が面白くて面白くて仕方が無い。仕方が無いのだが、さて面白がるにもさすがにいい加減長い気がする。
 友人を馬鹿呼ばわりしたその口でぶすっとジンジャーエールを啜る池沢ははっきり言って美形だと思う。かなりの無愛想だけれども、話せばそれなりに面白いし、口数は多くないけれども、頭の回転は良い。何より不器用に一途な所が良い。
『お買い得物件だと思うんだけどなー。』
 平日150円と言うお買い得価格なフライドポテトの山を崩しながら、ぼんやり赤城は考える。
 3回も送ってくると言うのなら、さすがにこれは社交辞令の言葉ではないだろう。1度目は偶然の言葉のチョイスだとしても、二度目はさすがにないだろう。そして3度目。
だがそうなるとやはり問題になってくるのは送られてくる日付けな訳で。 

「これで嘘です、とか言われたら俺立ち直れない…。」

 そしてまた、今年も聞く事になってしまった池沢の弱りきった言葉に二人揃って乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
 さすがにエイプリルフールに三回目ともなれば根拠の無い慰めなど言わない位の知恵は付く。人間と言うものは成長するものなのだとつくづく思う。『嘘』でなくとも『弟みたいに』大好き、とか『友人として』大好きとかそう言う類の意味なのかもしれないと言う危惧もあるそうで、とかく年下と言うのは難儀な物だ。
だが迂闊な事を言えば八つ当たりと言う地雷を踏み抜くのは目に見えているので、口を噤む。正面の田上も何か言いたい様ではあるが口を噤んでいる。
 とにかく今まで散々愚痴られている身としては、友人には何とか幸せになって欲しいだけなんだけどなぁ、と思いふと遠い目になってしまう。

「あ、そうだ。何なら今度恋の三社めぐりでもしてスタンプ集めでもしてくる?」

 ふと、さも良い事を思いついたと言う様に能天気に提案する田上に池沢の顔が一層暗くなる。

「あれはなぁ、田上。『想いを叶えるために名古屋市内の恋にまつわる次の3つの神社を参拝し、スタンプを集めて意中の人と記念授与品をGet』って企画なんだよ、知ってるか?」
 頭痛を感じながらも赤城は田上に説明をしてみた。視線でこれ以上言うな、と念を送った心算だったがどうやら届かなかったらしい。
「うん、つまり神社回ればご利益が在るんだろ?恋愛成就的な。」
 全く意味の違う言葉に更に頭が痛くなる。
「あのな田上…」
「あれは『意中の人と一緒に回れ』って企画だから俺には意味無いんだよコンチクショー!」

 ちゃぶ台返しならぬトレイ返し。
 上に乗っていたものが殆ど紙屑だけだったのが救いか。
 そのまま逆切れの勢いで立ち去った背中を、しばし呆然と見送る。丁度お客が少ないタイミングだったので幸いした。暫くこの店には来れない、と思うのだが良く考えれば1年前にも同じ事をココで考えていた様な覚えがある。

「なぁ赤城。」
「ん?」
「縁結びのお守りとかアイツにやるの、どうかな?」
「まぁそれ位が妥当だと思うよ、俺は。」

 取り合えず男二人で縁結びの神社参りというのはかなりしょっぱい気がするが、まぁ友人として出来る事はこれ位だろう。神頼みで何とか出来るなら安いモノだろう。
人事の恋愛沙汰は楽しいが、やはり友人なので心配もあるから心労にもなると言うものだ。

 思わず同じタイミングでため息を吐いてしまい、残された二人で顔を見合わせて苦笑したのだった。

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四月馬鹿、まさかの続きです。

リリカルにボケる健二さん、佳主馬の方は何やってるのかと言う事で。
ちなみにオリキャラで佳主馬の友達が二人出てきます。
中学生の時からの馴染みで、高校ではクラス違い。
健二の事を男性とは知らず、年上の女性だと思って会話しています。佳主馬は健二の事を『あの人』とか言っているので名前は知りません。

本当はニョタ健二さんで書けば良い話だったかもしれないけど、健二さんsideの時に男性の心算で書いてたのでそのまま続行で。

20100405up

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