Item-2

 ふわふわひらひらと中空を猿が飛ぶ。
 どちらかと言うと飛ばされているが正しい様な、ぺらっとした薄さの平面ドットの猿型アバター、サクマはショッピングモールでの散歩にも飽きて人ごみから浮かび上がり休憩を取っていた。
 作り物の空は青く、ワールドクロックの時間は今だ午後の2時過ぎ(日本時間)。主人は今だ高校とやらで授業を受けている筈だ。
『…暇だなぁ。』
 そんな事を思いながらあくびを一つ。遠くまで見通せるので、眼下の人ごみに目を凝らしてどうせなら知人は居ないかと目を動かす。
 と、ふとモールの入り口の方で人の動きが止まっているのが目に入った。
『?』
 何だろう、と目を凝らし、ついでにモール入り口のWEBカメラに干渉して動画を起動させる。と、いきなり視界にアップになった知人に吹き出しそうになる。
『き、キング・カズマ…な、何でこんなトコに。』
 闘技場で観るいつもの姿…白く雄雄しい体躯に赤いダウンジャケット、厳ついゴーグルとナックルグローブ、切れ長の赤い眇めた瞳。
 そしてその瞳の上、ゴーグルの下には見慣れない黄色いニット帽。ゆらゆらと耳が揺れている所を見ると、穴が開けてあるのだろうか。
 と、ふと何かがサクマの脳裏で閃いた。
 自分はアレに見覚えがある。ごく最近だ。何処で?いや、誰が使っていた?
『…っっっ!』
 不意に、先まで遠くに居た筈の観察対象が目前に立っていて、息が止まる。
 あの距離から自分を視認してジャンプでやってきたと言うのか、相変わらずの凄まじいポテンシャルだ。
「どうもこんにちわ、サクマさん。ケンジさん一緒じゃないんだね。何処にいるか知ってる?」
 人に物を聞く時は丁寧にって言われませんでしたか、とか思いたくなるくらい轟然と立つ人物が腕組みのまま自分を見下ろしてくる。近くで見て確信する。あれはやはり、ケンジの物だ。
 だが、この状態の彼をケンジに会わせる訳にはいかない。
 いや、会わせても面白そうだけど、多分コレはケンジの方にダメージがデカイ。
「今日は当分数学コミュの方に居るんじゃないかな、どっかの大学の先生の発表があるとかでマスターの為に資料収集してくるって言ってたから。」
 まんざらウソでもない情報を与えると、ぴんと立っていた耳が萎れる様に垂れ下がる。
少し可哀想な気もする。が、今は時間が必要だ。
「そう言えば大通りに出来る焼き栗屋の初日販売と重なってたのをちょっとだけ愚痴ってたっけ。まぁ仕方ないよな。」
 大好きなマスターの為だもん、とか言ってましたよと言うと複雑そうな顔をするが、耳は元気に立ち上がっている。ちなみに自分がその焼き栗を買う為にモールに来ていたのは内緒だ。いや、ケンジに頼まれた訳だけど、多分もう要らなさそうだし?

 じゃ、ときびすを返してモールの方へ飛び降りていく王様を見送り、サクマは溜息を吐きながら作業ウィンドウを呼び出してメールを作り始めた。
 あて先は自分の主人。コレを読んでももらえれば、多分主人は行動を起こしてくれる筈。
「アレの正体が誰にも気付かれない内に、どうにかしなきゃ駄目だよな…。」
本人はどうでも良さそうだけれど、やっぱ駄目だろ。
そう溜息を吐きながら、サクマはまたワールドクロックに目をやった。あれだけ長く感じたのに、対して時間は経っていなかったらしい。
早く授業が終われば良いのに。
その思いと共にまた一つ溜息型の吹き出しが増えて、ひらひらと飛んでいった。

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元拍手文の更新その2です。
サクマも佐久間と似て苦労性だと良いな、とか思ったり。

20091221up

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