Item-1

 0と1で複雑に組み上げられた電脳擬似世界OZ。人々はアバターと呼ばれる分身を製作し、それを己の代役としてこの世界で動き、生活し、活動している。
 夜昼無く世界中から人々がアクセスするこの世界には、各ユーザーに割り振られた個人用プライベートスペースが存在する。それはユーザーに取ってはアイテムやメール等を使用する為の場所であり、アバター達にとっては自分の部屋に等しい場所だ。

 そして今、池沢圭主馬が所有するプライベートスペースの中では一人のアバターが立っており、己の手の中の物をじっと見つめていた。
 彼の姿は白兎。格闘技に特化して組み上げられたその姿はバランスの取れた長身で、その手にはナックルグローブ、足元にはその脚力を活かす為に特別に組み上げられたプレミアスニーカー。

 OMC最長チャンピオン、キング・カズマ。

 王の名前を冠されるに相応しいだけの強さを誇る孤高の彼は、今悩んでいた。
 自分の白い手の中にある、黄色い布で出来たアイテム。
 本来の用途で使う事は出来ない。これは本来の持ち主のサイズに合わせてある為に自分には小さすぎる。

 自分では使えない。かと言って、アイテム欄に戻すのはためらわれた。
 折角大好きなケンジ…黄色くて小さなリス型アバターの彼がくれた物だから、出来ればそのまま持っていたい。
 悩んで悩んで、ふと彼はそれの上下をひっくり返してみた。
 何かに似ている、かも知れない。
 鏡を見て、そのまま頭に被せてみる。上手く耳が外に出てくれるので、時々エキシビジョンで使用する帽子よりも楽かもしれない。
 まぁアレはどうせ戦闘途中で落ちるのが当然の前程で被っている物だから、楽とかキツイとかはあまり関係ないのだろうけれど。くるりと縁の部分を折り返し、位置を落ち着かせてまた鏡を見る。そこには黄色いニット帽を被った自分が映っていた。脇に開いた二つの穴から耳を飛び出していて、心なしか嬉しそうな雰囲気を漂わせている。
 いや、実際嬉しいのだが。
 ふと、中空にアイコンタクトを送るアクションでステータス画面を呼び出す。空間に3つのウィンドウが開き、数字を情報が瞬く間にスクロールして彼の望む情報を映し出す。
右横、正面、左横と展開する自分の全身図とぞれぞれのパーツに対して伸びる矢印とデータ。オプションパーツに対する説明を読もうとしてアイテムだけの画面に切り替え、そこにある情報に満足する。
 さて、今日はまだ主である圭主馬は帰って来ない。ならば外にでも行こう、今日もケンジに会えたら良いな、とふと思い彼は扉に手をかけた。
 それは探しに行くんじゃないのか?と言いたい所だが、ここには誰も突っ込むものは居なかった。

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日常系アバター噺、キング何やってんですか的な感じで。

20091220up

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