欲しい望むと書いて欲望-5

 お腹、熱い。

正確にはお腹の、奥、が熱い。
所詮はプログラムの身の上、四肢を自覚して動かして自身を知覚しているとは言え、まさか内臓の存在を感じられるなんて思いもしなかった。
そんなケンジの思考もほんの一瞬、がんがんと腹腔を抉る鈍い感覚と全身全霊を食い荒らす羞恥心に思考が振り回される。制御なんて出来る筈無い。助けてマスターとか思うけれど、それすらもまたすぐに消え失せる。
そもそも身体のコントロールは最初に放棄している。この部屋で、彼の手に自分を委ねた時から。
でもそれは身体だけで、心はまだ自分の手元にある。
だから余計に酷い。
何も考えられなくなる中で、最後に残る願いは結構単純だ。貴方が好きです。大好きです。お願いだから嫌わないで。
その中に燻る、小さな欲から目を逸らせない自分。
だから、大好きな相手に情けない姿を晒す羽目になる。
こんなグチャグチャの自分なんか、見て欲しくない。
でも、その手を拒む事も出来ない。

「…しょうがないなぁ。」

溜息交じりのカズマの言葉が胸に落ちて、諦められたのだと思った。
失望と安堵がことんと転がる。だがそれでも、これでやっと終わったのだと思ってふっと身体から力を抜けた。
だが次の瞬間、じゅるっと水っぽい音を響かせて、何かが足の付け根に吸い付いてきた。
驚愕して必死に下に顔を向ければ、金色の鬣と2本の白い耳。
喰い付かれている。べろりと尻尾の付け根から前まで蠢いているコレは多分、彼の舌だ。
ご丁寧に尻尾の付け根をぎゅっと握り締められていて、身体を動かして逃げることも出来ない。

「ーーーっっ!」

何か、が。
とにかく何なのか分からない、強い感覚に身体を串刺しにされてケンジはひたすらに硬直した。吐息だけで叫んだ。
さっきまでのお腹の熱さなんて吹っ飛んだ。いや、無くなった訳ではなく今もそこにあるから、霞んだと言うのが正しいか。
足の間の何かがカズマの舌に引っかかっている。そして彼もそれを執拗に擦って、吸っている。
舐めて、突いて、巻き付いて。
弄られる時間が経つのに比例して、其処が熱くなる。

熱が育って伸びて、ふっとお腹の熱と繋がった。

何か、が突き抜けた。強く全身を持ち上げるような、弓を引き絞りきる様な。それは初めての感覚だったけれど、多分気持ちが良いと分類出来た。
一気に身体から力が抜けて、やっと今まで自分が何をしていたのかが分かる。
我慢していたのだ。
繋がった熱が今度は身体の外へ出て行く。

ちょろちょろと、遠くで何かが音を立てていて。
それが何なのかを理解して、一気に血の気が引いた。

一気に身体を起こして、下を向くと爛々と輝く赤い目が二つ。

「キモチ良かった?」

笑う口元、顔の半分は濡れていて、それが何で濡れているのかを知っている自分はもう言葉も無い。

「…汚しちゃって、ゴメンなさい。」

真っ赤になりながら、それでも小さく謝罪するとカズマはきょとんとした顔になった。

「こっちがさせたんだし、謝る事無いよ?それよりもお漏らししてイッちゃったケンジさん、本当に可愛かっ」

囁かれる言葉の内容に、さすがに最後まで聞く事も出来なかった。
吹き上がる羞恥と共に全力で隣にあった何かを投げつけると、ごいんと重い金属音と共にカズマの頭がぶれた。
尻尾を握りこんでいた指がゆるゆると緩み、そのままぐらりと帝王は床に倒れこむ。

羞恥で茹だる頭を叱咤して、ケンジは立ち上がった。
もう赤い瞳は見えない。自分の身体のコントロール権は、自分の物だ。

◆ ◆ ◆

大きな部屋の中央にぐったりと転がる、兎型獣人アバター。
その傍らに寄り添う様に転がるのは、大型でレトロな金属製目覚まし時計。
先程まで居たもう一人が立ち去った今、立派にここは殺人未遂事件の現場の様な有様だった。

ただ一つだけ違うのは、その兎の唇に残る口付けの名残。
ちいさな前歯の傷痕と、コミュニケーション効果として空間に残る小さなハートマーク。

おでこに書かれた『肉』の一文字が黒々しいその墨痕をして、当分消えないであろう相手の怒りを堂々と主張していた。

*************

一気に終了。
R18 です。お子様はご遠慮下さい、多分予想とは別の意味で。

ちなみに下の方で兎がナニ…もといG慰とかやってたのですが、割愛しときます。
その内兎視点書くかもですが、多分ウザい。もしくはキモい。
変態紳士な兎で格好良くなくて、本当にどうもスミマセン。

20091218up

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