欲しい望むと書いて欲望-2

 それからの兎の行動は素早かった。
 首尾よく暫定ゲストアバターから小磯健二の使用アバターになったケンジと、自分の主人である池沢圭主馬が主人同士仲が良かった為頻繁に会う機会があった。
 世間話的な会話で『好きです』とか『大好きです』とかの言葉を誘導して言わせて、勿論その内容が憧れや感謝、憧憬や賞賛、ネガティブを演出した自分への慰めであったとしても…都合よく『愛している』と自動変換。
 最後には上げ足を取って言質を取り、なし崩しにお付き合い開始になだれ込んだのだ。

 意識がぼやけるのは継続中の行為の結果として自分が酸欠のステータスになっているからだ、とケンジはぼんやり思う。
 苦しくは無い。
 外界への感覚が狭まって、この長い二本の腕(かいな)の中だけで自分の世界が完結する。
 錯覚だと分かっていても嬉しい。ならば今だけはこの人を独占しているのだと言う事実が、自分にはとても嬉しい。
 もったりと唾液を吸い込んだ白い毛並みを舐め上げると、細かな毛先を舌先に感じ、不揃いに毛羽立ったソレを必死に整える。舐め上げる指の持ち主が丁度舌先の届く辺りで弄う様にゆるゆると指を動かす為、結局はケンジの行為は意味を成さない。逆に小さく毛並みを乱すだけなのだが、互いにそんな遊びをしたい訳ではないのは分っている。
 結局音を上げたのは相手の方だった。
 唇と唇が合わさって、舌が絡む。体格差がそのまま舌の長さにも反映して、必死に伸ばす小さな舌に赤い舌が蛇の様に絡みつく。開きっぱなしの唇の端から唾液がこぼれていく。
 座っているソファーが汚れる、なんて事も少しだけ考えたけれども、後で考える事にした。
 『愛している』と囁かれる度に胸の中にそれを信じられない気持が広がるのは、余りにも二人の価値が違い過ぎると思う所為だ。こんな小さな自分に、彼は一体何を見ているのだろうと笑い出したくなる。
 あんまり悲しいと、逆に何だか笑い出したくなるのだと初めて知った。
『好きです』
『大好きです』
 自分のその言葉は本当だったけれど。
 それは凛と立つその姿に尊敬と憧憬を抱いてしまった日から…その気持は、諦めを含んでいた。届かない高みに対する、純粋な憧れとして。

 そう、だから多分この胸を抉る痛みは、失望だ。

 自分ごときに、王が地に下りてきてはいけないのだ。
 自分があの孤高の存在を、引きずり落としてしまった。

 それなのに。
 その赤い瞳に見つめられて、その中に映る自分の姿に、喜びを感じてしまう自分は一体何なのか。ぽろり、と涙が零れるのを知りながら、ケンジは必死に相手に縋り付く。
 少しだけ、唇を笑みの形に歪めながら。

*************

取り合えずリス視点。ケンジはまだあんまりよく分ってないと思う。
まぁアレだ、その内もっと欲張りになって、最後には逆切れして、キングをお尻にひいちゃうと良いよ。
多分キング座椅子は座り心地いいよ…。

20091203up

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