安全保障のジレンマ 1 | ナノ





会った当初と比べて、あの人は随分人間らしくなったと思う。いや、単に俺が今まで気づいてなかっただけか。
朝が弱かったり、ゲームに夢中になったり、「宇宙人はいると思う」とか真面目な顔で言ってきたり、一度知ってみれば割と面白い人だと思う。




ただ、戦闘狂でさえなければ。




あの人、ストレスが溜まったときに周りに咬み殺す標的がいなかったら、俺で発散するんだ!
「ねぇ、遊ぼうよ」ってトンファー構えてぎらぎらした目で迫ってきて!
どう足掻いても逃げられないから、仕方なくグローブと死ぬ気丸使って相手するしかないんだけど!




一度、本気で殺されかけたことがある。
気づいたら病院にいて、二日間意識不明だったそうだ。リボーンにある程度鍛えられてなかったら、それこそ本当に死んでいたという。


で、俺は考えた。ダメダメの無いに等しい脳みそ振り絞って。
このままじゃ、俺はあの人に殺されるかもしれない。
かと言って、あの人がやめてくれるはずないし、俺はあの人から逃げられない。
死なないためには、どうするか。


答えは簡単に思いついた。
俺が、強くなればいい。
あの人と同じくらい強くなればいいんだ。


退院してすぐ、俺はリボーンに「修行をレベルアップして」と頼んだ。
リボーンは驚いた顔をしてたけど、すぐに了承してくれた。




それから何回かの修行ののち、俺はついにあの人に勝った。
空中から叩き落として、軽めのイクスバーナーをお見舞いしてやった。
動けなくて俺に背負われるあの人は、疲れただの身体中痛いだの仕事に支障をきたしたらどうしてくれるだの、さんざん文句を言った。時折、仕返しのつもりなのか俺の耳に咬みつく。
自分より年上なのに、子供みたいで可愛い。
こんな態度が見れるなら、また勝負してみるのもいいかなぁ、なんて。




思っていた俺はかなり浅はかだった。




次の勝負で、俺はこてんぱんにやられた。
あの人も強くなっていたんだ。
後から聞いた話では、ちょうど仕事で香港にきていたディーノさんを無理やり来させて相手してもらってたらしい。



次の勝負は俺の勝ち。こっちだって、強くなれないわけじゃない。
その次はあの人。わざわざディーノさん呼び出さないでください。
その次は俺。もういい加減やめませんか。
次があの人。風さん呼んだって、いつの間に連絡先知ってたっていうかそこまで仲良くなったんですか。




負けたら修行して強くなって勝つ。そしたら向こうも強くなってまた負ける。
勝っては負けて、負けては勝って――――





そんな堂々巡りが、もう十年。








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