大地の女神

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違和感を覚えて、身じろいだ。
いつもとは何かが違う、という直感。



「、う」


意識が覚醒して、ゆっくりと瞼を開けた。
視界に映ったのは、白。
上も下も横一面も、何もかも真白の空間だった。


「……ここは?」


真白というより純白。
こんなに澄んだ白は、初めて見た。
息を飲んで、何もない白の空間を見渡す。


「綺麗なところ…。」

『ここはあなたの中よ?』

「ッえ?!」



誰か、知らない女性の声がした。
周囲を見渡したが、周りには誰もいない。


「だ、誰?」


『私の名前はデメテル。
 大地と豊穣の女神。
 あなたの中の、もう一つの魂。』



声は答える。
それはここにきてからずっと言われ続けていた女神の名前。



「…あなたが、デメテルなの。
 どっか聞きおぼえのある声だね。」

『ええ、あなたに話しかけるのはこれで二度目です。』

「…あの時の、変な声。」



此処に来る前、倒れる前に聞いた声。
そういや、デメテルって名乗ってたね。



『こちらに何の説明もなしに連れてきてごめんなさい。
 だけど、時間がなかったのです。』

「…時間が?」

『我が兄が、ハーデスが目覚めようとしているのは知っていますね?』

「うん…。
 え、お兄ちゃんのなの?」

『ええ。
 ハーデスはクロノスより生まれし我らが長兄。
 私はゼウスの前に生まれたので、ハーデスは兄にあたります。』


デメテルと思わしき声が説明してくれたが、まずデメテルさんの家系図を知らないため何も言えない。
ギリシャ神話の知識は皆無な為、とりあえずデメテルの兄がハーデスということだけを頭に叩き込んだ。




『ハーデスがこの地上に降り立とうとしている…。
 それは、この大地が冥府に埋もれるという事。
 私は、それを許すことはできない。』


「・・・。」


『私は、人の営みを見るのが好きです。
 人はときには我が地を破壊したり、血や憎しみで雄大な大地を穢したりします。』



ですが、そう続けるデメテルの声は、いろんな感情が混じってるように聞こえた。



『それでも、私は、母なる大地として、これ以上の死を見ていくわけにはいきません。
 この大地を、冥府に埋もれさせるわけにはいかないのです。』

「デメテル…」



あぁ、辛いんだろうな。
もし、聖戦が起こったら色んな人の死を見てかなくちゃいけない。
多分デメテルは、もうそんな光景を何度も見
てきたんだろうな…。




「デメテル」

『何でしょうか?』


「聖戦を、終わらせるにはどうしたらいいの?」


『サナエ…』



「私も、人が死んでくなんて嫌だ。
 だから、止めて見せる。」





此処に来た以上、それが、あたしの使命だと思う。
例えそれがデメテルに強引に連れてこられたものだとしても、
ここの人たちとか変わってしまった以上はそうしたいと思った。




『あなたは、優しいのですね…。
 あなたから故郷を、家族を…友人を引き離した、私の身勝手な願いを叶えるといってくれるだなんて…。』




身勝手なんかじゃないでしょ。
その考えが、至って常識なんだよ。



「そりゃ、私はここにきて色んな人と接してきたからね。
 誰だって知人が死ぬのなんて、黙って見てくわけにはいかないっしょ。」



『えぇ、そうですわね。

 明日、とある町へいってきて下さい。
 森に大聖堂がある、街…。
 そこに、ハーデスの形代がいます。』


「ハーデスの…。」





つまり、ハーデスを体に宿してるやつがいるんだ。




『まだ完全には目覚めてはいませんが、危険であることには変わらない。
 あなたの力で、ハーデスを形代から引き離して下さい。』


「うん!」




それで聖戦が終わるなら!




『形代と離れてしまえば、止める手はずはちゃんと出てくる…。
 逆に、形代とはなれない限りとめることはできません。
 良いですか?』

「まかせといて!
 ちゃんと、絶対に引きはがして冥界に送り返してくるから!」




待ってろよ!ハーデス!!
意気込む私に、デメテルの声が遠くなる。




『サナエ…。
 よろしく、頼みます。』
 





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