ちかづいたそのときから



入学した興奮が冷めやらぬまま、その日、僕は床についた。まだ、心臓がドキドキしている。無事、学園に入学できた喜びと、これからやっていけるか不安で、頭の中がいっぱいで、なかなか眠気が誘われない。おまけに、あてがわれた布団がだ肌に馴染まなくて、僕はなかなか寝付けなかった。寝なきゃ、と思えば思うほど、目が冴えてくる。ごそごそと、布団の中でのたうち回っていると、

「寝れない?」

唐突に響いた声に心臓が口から飛び出るかと思った。すっかり、二人部屋だということを忘れていた。苛立ちの含む声にしまった、と後悔を募らせ謝罪する。

「あ、ごめん。えっと、」
「はちや」

本人に言われて、同室の彼がそんな名字だったことを思い出す。最初の学活で自己紹介もままならないのに、「このクラスにはちやの家柄の奴がいるんだな。なら、はちや、お前学級委員な」と担任に指名されていて覚えた彼だ。

「本当にごめんね、はちや君。なんか一人になるの初めてだからさ、ドキドキしすぎちゃって。」

寝れなくて、と慌ててまくし立てる僕にはちや君は「別にいいけど」と返してくれた。それがうれしくて、つい、「ねぇ、はちや君はどうしてこの学園に入ったの?」と聞いていた。すると、暗闇に呆れたような声が戻ってきた。

「はちやって知らないのか?」
「はちやくんの名字でしょ?」
「そうじゃなくて、はちやっての」
「知らない。あ、そうだ、はちやくんの名前、教えてよ」

しばらく静寂が続き、それから柔らかな声が僕へと届いた。

「三郎。君の名前は?」

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