(えっと、戸じまりはよし。ガスの元栓も切った。あ、奥の部屋のクーラー、付けっぱなしだった気が…)

一つ一つ確認してたたらを踏んでる僕を急かすように、「雷蔵、早く」と玄関から三郎が呼んだ。その声に思考が寸断される。「ちょっと待って」と大声で叫ぶと、僕はもう一度、窓際によってをクレセント錠がしっかりと金具にかかっていることを確認する。

(鍵とガスはオッケー。あと、何だっけ……あ、クーラー)

奥の部屋に入ると、予想通り、埃っぽさを含んだ冷たい風が頬を撫でた。物の隈がはっきりとしない薄暗い部屋の上方に、ぽつん、と蛍光グリーンの光が灯っている。室外機が回り続けている音と振動がうっすらと響いていた。数歩近づくと、こつんと爪先が何かにぶつかった。放り出されていたものを、しゃがんで拾い上げるとタイミングよくクーラーのリモコンで。丸いボタンを押さえつけると、ピッ、とクーラーに光っていた緑色が消えた。延々と吐き出されていた涼風が途切れ、動物の唸り声のような重低音に吹き出し口が閉まっていくことを確認し、リモコンをベッドの柔らかな布団へとダイブさせる。

「雷蔵? どうした?」
「あ、ごめん。戸じまりが気になっちゃって。もう、行く」

痺れを切らしたのか三郎がこっちの部屋まで顔を出しにきた。出かける前の僕の行動を熟知している三郎は苦笑いを浮かべ、踵を返した。「早くしないと始るぞ」と先ゆく三郎の背中を追いかけ、玄関横のサイドボードに投げ出されていた鍵を手にする。そのまま、上り口に座って靴を履こうとして、思わず手を止めた。

(あ、靴、どうしよう。涼しいから、サンダルにしょうかな。でも、河原の土手だとスニーカーの方がいいか?)

迷いだしたのが分かったのか、動きを止めた僕の頭上に呆れたような三郎の声が降ってきた。

「何、履くかで迷ってるのか?」
「うん」
「じゃぁ、サンダル」

僕の足元に突き出されたそれに顔を上げると、私とお揃いだ、と三郎が笑う。頷いた瞬間、ドンと空気が大きく震えた。残響に混じって、続いて二つ三つと振動が重なる。まさか、のんびり準備しているうちにそんな時間になってしまったとは思いもよらず、「え、始まった?」とうろたえる僕の腕を三郎が掴んで引き起こす。

「ほら、行くぞ」

じわりじわりと侵食していく三郎の体温が熱い。どうやら、まだ、夏は終わらないようだ。



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