数ヶ月、会わなかっただけで、息子はずいぶんと大きくなった。久しぶりに我が家に帰ってきて玄関を開けた瞬間、「とーちゃん」と私の腕にしがみついてきた息子は、元気に遊びまわっているのだろう、真黒に日焼けしていた。入学式の朝はめそめそとしていたものだから、友達ができるだろうかと心配していたが、どうやら杞憂に終わったらしい。現に、今も、クラスの子のことを話してくれる。「きり丸がね、しんべヱがね」と。どれだけ喋っても喋り足りないといった具合に、友達の話をしてくれる。息子の成長に、ほほえましくもあり、もう父ちゃんなんかいなくても大丈夫なんだろう、と少しだけ寂しさも感じた。

母ちゃんに「父ちゃんとする、ってずっと待ってたのよ」と言われて、私は虫取り網と籠を手にした。蝉取りなんて何十年振りだろうか。そういえば、昔は虫取り名人だなんて言われていたが、すっかりとコツを忘れてしまっていた。それでも、二人で追っかけ網を振りまわし一匹だけ捕まえた。なんとか父親の面目を保てただろうか。籠の中から聞こえる、振り絞るような恨み事が耳に痛い。

「こら、乱太郎。ちゃんと、帽子、被りなさい」

首から後ろにぶら下がっているだけで役目を果たしていなかった麦わら帽子に、息子に声を掛ける。たぶん、蒸れるから嫌なんだろう、「はーい」と一応返事はしたものの、しぶしぶとした様子で帽子をかぶった。「えらいなぁ」と褒めると息子は照れるように視線を落とした。息子の手を握ると汗ばんでいて、柔らかい。夕方の風は稲穂の匂いが混じっていて、ずいぶん、涼しい。そういえば、日が落ちるのも早くなってきている。見上げると、秋の空。

「ねぇ、父ちゃん。今度は、いつ帰ってくるの?」

あぁ、なんて馬鹿なのだろう。私がいなくても息子は大丈夫、などど思うなんて。私は、ぎゅ、っと息子の小さな手を握りしめた。



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