紺色の布を重ねていったみたいな闇。ゆっくり、ゆっくり、と。濃く、なっていく。無邪気な子ども達の声と下駄の音が、私たちの傍をすり抜けた。どこからか、ソースの焼ける匂い。提灯の道しるべ。風に乗って運ばれるお囃子と人々のざわめき。ちょっとした興奮が闇に滲み出ている。胸が、なんだかざわざわして落ち着かない。シグナルが、全身を駆け巡って行動に表れる。親指と人差し指をすり合わせたり、耳にかかる髪に指を巻きつけてみたり。

(なのに、留さんは、気付かないフリしてるし)

「あー、今日、お祭りだね」

期待を込めて彼に視線を遣ると、「そうだな」と無愛想な声が投げ返された。めんどくさがっているのが、ありありと伝わってきた。そりゃ、部活で疲れてて人ごみなんか行きたくねぇ、って気持ちも分からなくはないけど、けど、たまにはこういう所に行くのも楽しいと思うし。というわけで、無視して話を続ける。

「お祭りっていえば、りんご飴に焼きとうもろこし、ラムネにイカせんべいに鈴ドラでしょ。あとは、」
「お前、それ食べてばっかじゃねーか」
「えー、いいじゃん。食べたいときに食べなきゃ。そもそも、お祭りでしか食べれないし」

留さんの呆れた声に、そう反論すると「伊作」とやけに深刻な声で名を呼ばれた。心臓がドキリと跳ねる。あまりに真剣な顔をしているから、僕の声も震えた。

「な、何?」
「太るぜ」
「…いいの。留さん、うるさい」
「じゃぁ、後で文句言うなよな。お前、文句ぶーぶー言うから嫌なんだよ」
「文句言わなきゃいいんでしょ?」

口が滑った、と顔をしかめる彼をじっと見続けると「なんだよ」という表情になったので手を出して合図する。

-------------行きませんか? と。



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