「いーって、無理して笑うなよ」

べこり、と頭をはたかれたと思ったら、虎の汗臭い手でわしゃわしゃと髪をかきまぜられた。馬鹿みたいに温かくて、涙がこぼれそうだ。けど、ここで泣いたら、今までが全部水の泡になっちゃう。乱暴に撫でるその手を振り払って、「もー、虎っ、何すんのさ」と冗談ぽく抗議の声を上げる。

「三治郎がそんな顔で笑ってるから」
「……別に、いつもと変わらないと思うけど」
「いつもと違うよ」

何でこんな時だけ気づくんだろう。いつもは鈍感すぎるくらい、鈍感なのに。真っ直ぐな眼差しが痛くて、僕は虎から顔を逸らした。よく日に焼けた虎若の腕にうっすらと残る傷痕が視界に入る。

「みんなさ、向日葵みたいに笑う三治郎が好きだよ。にこにこしてるお前を見てると、あぁ、頑張ろうって思う。けど、だからさ、三治郎。お前がさ無理して作り笑いしてんのが、一番辛い」

どうして虎は、こうも簡単に入り込んでくるんだろう。笑みで塗り隠した心を、どうしてこうも簡単に。崩れそうな自分を押し堪えていると、余計なお世話だったよな、という言葉がぽつりと落ちてきた。後悔に溢れた声音に、「馬鹿」と虎の胸を両拳で叩く。

「え、」
「虎の馬鹿。馬鹿。筋肉馬鹿。ホント、鈍感。なんもわかってない」
「やっぱ、お節介だったよな。ごめん」
「謝んないでよ。なんなのさ、みんなって。虎は?」
「え」
「虎は、どう思ってるのさ?」

顔を上げると、呆けたように僕を見つめる虎の向こうで、鮮やかな黄色が太陽を追っていた。


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