「おい、クーラー効き過ぎだろ」

部屋に入ったとたん、射るような冷たさが肌に突き刺さった。足もとから忍び寄った冷たさに、体は凍りついて固まっていく。濡れた身にはあまりの寒く、鳥肌が立った。くしゃみが出そうになるのを堪え、ソファに放り出してあったリモコンを掴むと液晶には18度の文字。地球温暖化だのエコだの叫ぶ世間とは逆行した設定温度に加え、部屋に仙蔵の姿が見えなくて、停止ボタンを押す。と、奥の部屋から「あほ、消すな」と低い声が飛んできた。いたのか、と振り返ると、ベッドの上でベージュのケットに包まれた不機嫌そうな仙蔵とかち合った。

「あのなぁ、クーラー付けて布団かぶるか、普通」
「ふん、そんなの私の勝手だろう。暑かったんだからしかたあるまい」
「にしても下げ過ぎだろ。とにかく、一回、空気入れ換えるぞ」

文句を言われる前に「体に悪いだろ」と押し通す。ベランダに通じる窓を開けたとたん、雨上がりのせいか排気ガスが滲んだ空気が肺を満たしていく。車のエンジン音、自転車のベル、子どもの声。夕刻の賑やかさが、あちらこちらに跳ね返りこだまし、雑踏から溢れ返る。おそらく、さっきまで寝ていたのだろう。仙蔵は、まだ眠たそうに目をこすり、ずるずるとケットを引きずりながら俺の隣に並んだ。

「お前、どぶねずみのようだな」
「はぁっ?」
「間違えた。濡れねずみだった」
「おい」
「夕立でもあったのか?」

さらりと嫌味を流した仙蔵の指先が「さっきな」と答える俺の方に伸びてきた。誘うような手つきに、おっ、と思っていると、思いっきり頬をつねられた。

「床が濡れる。その靴下を脱げ。さっさと風呂に入れ。……風邪を引くだろうが」

いつの間にか雨雲を追いやって現れた夕日が、黒々と濡れた路面をきらきらと照らしだしていた。


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