馬鹿みたいに暑い。ただ座っているだけなのに、額から背中から汗が噴き出してくる。
じわじわと膨れ上がったそれは、耐えきれなくなると呆気なく珠を瓦解して駆け落ちていった。
少しでも風通しが良くなるうに、と会計室の障子戸を開け放ったものの効果はなく、肌に纏わりつく熱に目の奥がくらくらと歪む。
いつもなら気にも留めない後れ毛が、ぺたりぺたりと貼りついて気持ち悪い。
朝方、整えた結わえ紐に手をかける。一点をほどき紐を抜くと、首が軽く引っ張られるような小さな衝撃。
と、同時に上から声が降ってくる。

「…田村か」

ざっ、と旋風が首筋に流した髪を撫で上げ、すん、と青い匂いが舞い散った。

「どうしたんです?」

天井から先輩が降り立ったのだとようやく認識し、そう問いかけると「会計室の扉が開いてたからな」と答えのような答えになってないような言葉が返ってきた。
それから、先輩は私の方をちらりと見遣ると、「なんだ、夜寝るみてぇに髪なんか下ろして」と訊ねてきた。
気づいてもらったことへの嬉しさと、あられもない所を見られた気恥しさにに、一瞬、言葉が詰まる。

「え、あ、えっと、後れ毛が鬱陶しかったのでもう一度結い直そうと思って。それにしても、これだけ暑いと本当に嫌になりますね。何をするにも億劫になるというか」
「ばかたれぃ。暑い寒いと言って忍が務まるか」

額を光らせ汗で色濃くなった衣を身につけ、「寒いと思えばいいんだ」と力説する先輩がなんだか可愛くて、こっそりと笑いをかみ殺していたら、「何、笑ってるんだ」と、髪をガシガシと撫で回された。
今日一番の熱が体に宿る--------。

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