風にこすれた時とは違う、細く高い音に僕は戸口の方を振り向いた。

「あぁ、風鈴か」

影法師のように黒い衣を纏った彼の覆面の、僅かに覗く目が一瞬見開いて、すぐに苦笑で細められた。
「ある事に気付かなかったよ」と聞いてもないのに勝手に答えると(しかも嘘だ。バレバレの)、それから、雑渡さんは風が通るであろうと部屋の入口の鴨居に掛けておいた風鈴に手を伸ばした。

「粋だねぇ、こんな所に風鈴を吊るすなんて」

ちりちりちり。
断続的な金属音が耳に障る。
雑渡さんは、鐘に垂れさがる部分を指で揺らしていた。
軽く睨みつけるように目で咎めても、一向にお構いなしで、描き鳴らし続ける。

「魔除けです。もしくは、厄除け」

ちりちりちり……、ちりん。
音が途切れた。
残響は、すぐに蝉の声高な叫び声に呑まれてしまう。
こちらを見遣る雑渡さんは、おや、と眉を高く上げて目尻を緩ませていて、僕の言葉を面白がるような表情をしていた。

「意外だったなぁ」
「何がです?」
「伊作くんが、魔除けなんて、そんな迷信を信じてるなんて」
「やっかいな人が保健室に来ないように、と思って」

僕の当てこするような嫌味も効かないらしい。
「そりゃ大変だ。風鈴を四方に付けないとね」と小さく笑いを洩らすと、再び、ちりん、と鳴らした。
心もとない音が、耳にこびりつく--------------。


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